半導体製造装置を語るとき、装置だけを見ていると実像を見誤ります。装置は、材料とセットでなければ何も作れないからです。

そして材料の分野では、日本企業が世界を圧倒しています。シリコンウェハーで信越化学が約42%、フォトレジストは国内5社で約9割。味の素にいたっては、ある材料で事実上の独占を築いています。

この記事では、半導体材料を工程ごとにどの装置とセットで使われるかという視点から整理します。装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説をご覧ください。

なぜ装置と材料は切り離せないのか

同じ装置を導入しても、メーカーによって歩留まりに差が出ます。理由のひとつが材料です。

装置は「条件を与える箱」にすぎません。実際にウェハー上で反応を起こすのは、薬液であり、ガスであり、樹脂です。

  • CMP装置は、スラリーがなければただ回転するだけの機械
  • 洗浄装置は、薬液の選択で落とせる汚れが変わる
  • 露光装置は、レジストがなければ光を当てるだけで終わる

装置・材料・条件(レシピ)の三つが揃って、初めて性能が出ます。装置メーカーが材料メーカーと共同開発を行うのは、このためです。

工程別|どの装置に何の材料が要るか

工程 装置 必要な材料
基板 — シリコンウェハー
露光 露光装置、コータ・デベロッパ フォトレジスト、現像液、マスクブランクス
成膜 CVD/ALD/PVD装置 プロセスガス、前駆体、スパッタターゲット
エッチング ドライエッチング装置 エッチングガス
洗浄 洗浄装置 薬液(硫酸・フッ酸等)、超純水
CMP CMP装置 スラリー、研磨パッド
熱処理 拡散炉 石英部材(消耗品)
実装 ボンダー ボンディングワイヤ、ダイアタッチ材
封止 モールド装置 封止材(エポキシ樹脂)
パッケージ基板 — ABF(ビルドアップフィルム)

この表が示すのは、ほぼすべての工程に専用材料が存在するという事実です。装置を並べただけでは工場は動きません。

シリコンウェハー|すべての土台

半導体はシリコンの円板から始まります。このシリコンウェハーこそ、最も基礎的な材料です。

求められるのは、常識外れの品質です。

  • 純度99.999999999%(イレブンナイン)という超高純度
  • 結晶の向きが揃った単結晶であること
  • 表面が原子レベルで平坦なこと
  • 直径300mmの全面で厚みが均一であること

この分野は日本2社の寡占です。2024年のシェアで信越化学工業が約42%と首位、SUMCOが2位につけ、両社で世界市場の約6割を占めるとされます。

ウェハーの品質が悪ければ、その上でどれだけ精密な加工をしても意味がありません。土台の品質が、最終製品の上限を決めます。

世界5社という寡占の構造、新規参入がない理由、CZ法から鏡面研磨までの製造工程はシリコンウェハメーカー一覧で詳しく解説しています。

味の素の意外な独占|ABF

半導体材料で最も意外性のある事例が、味の素です。

同社が製造するABF(Ajinomoto Build-up Film)は、CPUなどのパッケージ基板で使われる絶縁フィルムです。チップと基板をつなぐ配線層を、何層にも積み上げるために使われます。

驚くべきは、そのシェアです。この分野で味の素は事実上100%に近い独占状態にあるとされます。世界中のパソコンやサーバーのCPUに、日本の食品会社が作ったフィルムが入っている計算になります。

なぜ食品会社が半導体材料を作れたのか。もともとアミノ酸製造で培った有機合成技術を応用したことが出発点でした。異分野の技術が、まったく違う産業の中核を握る——素材産業ならではの現象です。

AI向け半導体ではパッケージが大型化・多層化しており、ABFの重要性はさらに高まっています。パッケージについてはCoWoSとは?2.5D実装とインターポーザ製造をご覧ください。

装置とセットで使われる主要材料

フォトレジスト|国内5社で約9割

光を受けてパターンを形成する感光材です。JSR、東京応化工業、信越化学工業、住友化学、富士フイルムの国内5社で世界シェア約9割とされます。EUV世代では新材料の開発競争が続いています。くわしくはフォトレジストとは?仕組みとEUV時代の課題をご覧ください。

CMPスラリー|削る性能を決める液体

CMPで使う研磨剤入りの薬液です。装置が同じでも、スラリーが違えば削れ方が変わります。粒子の大きさや薬液成分によって、対象材料ごとに専用品が使い分けられます。くわしくはCMPスラリーと研磨パッドをご覧ください。

封止材|チップを守る樹脂

モールド工程でチップを覆うエポキシ樹脂です。フィラー(充填材)の配合で熱膨張率や放熱性を調整します。住友ベークライトなどが主要メーカーです。封止材の熱膨張特性が、パッケージの反りを左右します。

高純度ガス・薬液

成膜やエッチングで使うプロセスガス、洗浄で使う薬液です。微量の不純物が製品を汚染するため、極限の純度管理が要求されます。大陽日酸、関東電化工業などが供給しています。

石英部材|消耗する治具

拡散炉のチューブやボートに使われます。高温で使い続けると失透して劣化する消耗品です。信越石英、東ソー・クォーツなどが手がけます。

材料ビジネスの3つの特徴

装置と材料では、ビジネスの性質が大きく異なります。

装置 材料
売り方 数億〜数百億円の設備投資 継続的な消耗品
収益 導入時に大きく、以降は保守 工場が動く限り発生し続ける
景気の影響 設備投資に連動し変動が大きい 稼働率に連動し比較的安定

①止まらない需要

装置は一度売れば数年は次がありません。しかし材料はウェハーが1枚流れるたびに消費されます。工場が稼働している限り、需要は途切れません。

半導体不況で装置投資が止まっても、既存工場が動いていれば材料は売れ続けます。装置より業績の振れ幅が小さいのはこのためです。

②切り替えられない

材料を変えると、歩留まりが変わるリスクがあります。同じ規格の製品でも、微妙な違いが結果に影響するためです。

安いからといって簡単に乗り換えられません。一度採用された材料は、長期にわたって使われ続けます。装置の「乗り換えコストの高さ」と同じ構造が、材料にも働いています。

③少量多品種・超高純度

材料は大量生産品ではありません。顧客ごと、工程ごとに調整された品種を、極限の純度で作り分けます。この作り込みが参入障壁になっています。

材料を運ぶ配管側にも同じ純度の要求があります。半導体用バルブ・継手とは?で解説しています。

なぜ日本が材料で強いのか

装置では露光でASMLに敗れた日本が、材料では優位を保っています。理由は複合的です。

  • 基礎化学の蓄積:高分子、無機合成、精製など長年の技術基盤がある
  • 不純物管理の徹底:ppb(10億分の1)レベルの管理を日常的に行える製造文化
  • 顧客との共同開発:装置メーカー・デバイスメーカーと組んで作り込む関係
  • 異分野からの参入:写真フィルム(富士フイルム)、アミノ酸(味の素)など、他産業の技術が転用された
  • 地味さゆえの継続:目立たないが不可欠な領域に、長期間投資を続けられた

日本企業の全体像は日本の半導体製造装置メーカー一覧をご覧ください。

このうち部品の層については静電チャックとは?で詳しく扱っています。

装置・部品・材料という三層構造

半導体産業を正しく捉えるには、三層で見る必要があります。

層 内容 日本の位置
装置 露光、成膜、エッチング、検査など 露光以外は強い
部品 真空ポンプ、バルブ、石英、静電チャックなど 広範に供給
材料 ウェハー、レジスト、ガス、スラリー、封止材 圧倒的に強い

「日本は半導体で負けた」と語られます。デバイス(製品)のシェアで見ればそのとおりです。

しかしその半導体を作るための装置・部品・材料という土台では、今も世界的な地位を保っています。海外メーカーの装置であっても、内部には日本製の部品が使われ、流し込まれる材料も日本製である——これが実態です。

リスクと今後

安泰というわけではありません。

  • 中国の国産化:政策的な支援を受け、成熟世代向け材料から置き換えが進んでいます
  • 輸出管理の対象:材料も規制の対象となる場合があり、輸出規制の影響を受けます
  • 供給の集中:シェアが高いことは、有事の際に世界の供給が止まるリスクでもあります
  • 技術の転換:EUV用メタルレジストのように、材料が刷新される局面では順位が入れ替わりえます

強みが大きいほど、その供給責任も重くなる——材料産業は、そうした立場にあります。

✍️ ひとこと

装置・部品・材料。この三層がそろって、はじめて半導体は作れます。

味の素がパッケージ材料で独占的な地位にある、というような話が転がっているのがこの業界の面白さです。強みは、意外な場所から生まれます。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

半導体材料は英語で何と言いますか?

semiconductor materials です。装置は semiconductor equipment、消耗品は consumables と呼ばれ、市場統計でも別々に集計されます。

材料メーカーと装置メーカーはどう違いますか?

装置メーカーは機械を、材料メーカーは薬液・樹脂・ウェハーなどを供給します。多くは別企業ですが、共同で条件を作り込む関係にあります。装置だけ、材料だけでは性能は決まりません。

なぜ味の素が半導体材料を作っているのですか?

アミノ酸製造で培った有機合成技術を応用したためです。ABFはCPUのパッケージ基板で使われ、この分野で同社は圧倒的なシェアを持ちます。素材産業では、異分野の技術が転用される例が少なくありません。

材料の市場規模はどのくらいですか?

装置市場より小さいものの、工場が稼働する限り継続的に発生するのが特徴です。装置需要が設備投資の波で大きく振れるのに対し、材料は生産量に連動するため比較的安定しています。市場動向は半導体製造装置の市場規模と今後の予測をご覧ください。

まとめ

  • 装置は「条件を与える箱」であり、実際に反応を起こすのは材料
  • ほぼすべての工程に専用材料が存在し、装置とセットで性能が決まる
  • シリコンウェハーは信越化学が約42%で首位、SUMCOと合わせ日本2社で約6割
  • 味の素のABFはパッケージ基板で事実上の独占、アミノ酸技術の応用から生まれた
  • フォトレジストは国内5社で約9割
  • 材料は消耗品ゆえに需要が途切れず、装置より業績が安定しやすい
  • 切り替えると歩留まりが変わるため、一度採用されると長く使われる
  • 装置・部品・材料の三層で見ると、日本は今も土台を握っている

個別の材料はフォトレジスト、超純水で解説しています。装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?をご覧ください。

参考・出典