電気自動車や再生可能エネルギーの普及とともに、パワー半導体の需要が拡大しています。とくに注目されているのがSiC(炭化ケイ素)です。

ここで見落とされがちなのが、SiCはシリコン用の製造装置をそのまま使えないという事実です。材料が違うだけではありません。装置に求められる性能そのものが変わります。

象徴的なのが温度です。シリコンの活性化アニールが約1,000℃なのに対し、SiCでは1,650〜1,700℃が必要とされます。同じ「熱処理装置」という名前でも、まったく別の機械です。

この記事では、パワー半導体の製造を装置視点で解説します。

パワー半導体とは

パワー半導体は、電力を制御・変換するための半導体です。CPUやメモリが「情報」を扱うのに対し、パワー半導体は「電力そのもの」を扱います。

主な役割は次のとおりです。

  • 電圧を変える(昇圧・降圧)
  • 直流と交流を変換する(インバータ・コンバータ)
  • 電流をオン・オフする(スイッチング)

電気自動車のモーター駆動、太陽光発電の系統連系、産業用モーターの制御、電車、エアコン——電気を使う機器のほぼすべてに関わります。

先端ロジックが「いかに微細に作るか」を競うのに対し、パワー半導体は「いかに大きな電力を、損失なく、壊れずに扱うか」を競います。求められる方向が根本的に違います。

なぜSiCなのか

長らくパワー半導体はシリコンで作られてきましたが、性能が限界に近づいています。そこで登場したのがSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった新材料です。

シリコン(Si) SiC GaN
耐えられる電圧 標準 高い 高い
電力損失 大きい 小さい 小さい
動作温度 制限あり 高温に強い 高温に強い
主な用途 汎用・低圧 EV、鉄道、産業 電源、充電器、高周波
材料コスト 安い 高い 高い

SiCを使えば、同じ性能でも装置を小型化でき、電力の無駄も減ります。電気自動車では航続距離の延長に、産業機器では省エネに直結します。

ただし、その代償が作りにくさです。

装置視点で見た、SiCの4つの壁

SiCが「作りにくい」理由を、工程ごとに見ていきます。

工程 シリコンの場合 SiCの場合
ドーピング 熱拡散も使える イオン注入のみ
活性化アニール 約1,000℃ 1,650〜1,700℃
エッチング 比較的容易 化学的に安定で削りにくい
研削・切断 標準的な加工 ダイヤモンドに次ぐ硬さ

壁①|熱拡散が使えない

シリコンでは、高温で不純物を染み込ませる熱拡散という手法が使えます。しかしSiCの中では不純物がほとんど動きません。

結果として、ドーピングはイオン注入に頼るしかなくなります。しかも拡散で広がってくれないため、深い位置に入れたければ、その分だけ高いエネルギーで打ち込む必要があります。

さらに、高濃度で打ち込むと結晶が壊れ、通常の温度では回復しません。そのためウェハーを加熱しながらイオン注入するという手法が採られます。装置には高温対応の機構が求められます。

壁②|1,700℃という別世界

SiCで最も特徴的なのが、活性化アニールの温度です。

打ち込んだ不純物を電気的に働かせるには熱処理が必要ですが、SiCでほぼ完全な活性化(95%以上)を得るには1,650〜1,700℃が必要とされます。シリコンの約1,000℃と比べ、桁違いの高温です。

ここで新たな問題が起きます。1,600〜1,800℃という温度では、SiC表面からシリコン原子が抜け出してしまうのです。表面が荒れ、デバイス特性が劣化します。

対策として、表面を炭素の膜で覆ってから加熱する(カーボンキャップ)といった手法が用いられます。「必要な熱を与えつつ、表面を守る」——この両立が装置とプロセスの腕の見せどころです。

当然、装置も特別なものになります。通常の熱処理装置は1,000℃前後を想定しており、1,700℃を安定して扱える炉は別物です。

壁③|削れない

SiCは化学的に極めて安定です。これはデバイスとしては長所ですが、製造では短所になります。エッチングで削りにくいのです。

エッチングは、ガスと反応させて揮発性の物質に変えることで材料を取り除きます。しかしSiCは反応しにくく、シリコンと同じ条件では歯が立ちません。専用のガスと条件が必要になります。

壁④|硬すぎる

SiCはダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ材料です。

そのため、ダイシングや裏面研削で問題が生じます。シリコンと同じ感覚でブレードを当てれば、加工に時間がかかるうえ、ブレードの摩耗が激しくなります。消耗品コストと交換頻度が跳ね上がります。

そこで有効になるのが、物理的な刃を使わないレーザー系の加工です。硬さの影響を受けにくく、加工速度と品質を両立しやすくなります。

硬い材料をいかに効率よく削り、切るか——これは装置メーカーにとって新しい競争軸になっています。

ウェハーそのものが高価

装置以前の問題として、SiCウェハーが高いという現実があります。

シリコンは溶融した液体から単結晶を引き上げて作りますが、SiCは同じ方法が使えません。昇華法という別の手法で、時間をかけて結晶を育てる必要があります。

成長速度が遅く、欠陥も生じやすいため、同じ口径ならシリコンウェハーより桁違いに高価です。口径も、シリコンが300mmを標準とするのに対し、SiCは150mm〜200mmが中心です。

ウェハーが高いということは、1枚あたりの損失も大きいということです。歩留まりを守る重要性が、シリコン以上に高くなります。

シリコンウェハー側の供給構造(世界5社の寡占と、300mm・200mm・150mmで市場が分かれること)はシリコンウェハメーカー一覧にまとめています。

GaNは事情が異なる

もうひとつの新材料GaN(窒化ガリウム)は、SiCとは違う特徴を持ちます。

  • シリコン基板の上に作れる(GaN-on-Si)ため、既存の設備を活かしやすい
  • 高周波特性に優れ、電源アダプタや充電器で普及が進む
  • SiCほどの高温プロセスを必要としない

SiCが高耐圧・大電力の領域(EV、鉄道、産業機器)を担うのに対し、GaNは中低圧・高周波の領域で強みを持ちます。両者は競合というより住み分けの関係にあります。

SiCデバイスのキャリア分布やpn接合の評価には、専用の分析手法が使われます。SCMとは?で扱っています。

主要メーカー

パワー半導体向けの装置は、先端ロジック向けとは顔ぶれが変わります。

工程 主な装置メーカー
イオン注入 Axcelis、住友重機械マテリアルソリューションズ、アルバック
高温アニール ジェイテクトサーモシステム など
エッチング サムコ、東京エレクトロン、Lam Research
研削・ダイシング ディスコ、東京精密
成膜(エピタキシャル) ニューフレアテクノロジー、アイクストロン

注目すべきはAxcelisです。同社の2025年12月期は、システム出荷額の55%をパワーデバイス向けが占めました。AI向け半導体が話題を集める一方で、イオン注入装置の需要はパワー半導体に支えられているという構図が見えます。

AI関連装置の動向はAI・HBM需要で伸びる半導体製造装置で解説しています。

先端ロジックとは別の論理で動く市場

パワー半導体は、AI半導体とは異なる価値基準で動きます。

先端ロジック パワー半導体
競争軸 微細化・集積度 耐圧・損失・信頼性
必要な露光 EUV、最先端 成熟世代で十分
ウェハー口径 300mm 150〜200mmが中心
需要の源 AI、データセンター EV、再エネ、産業機器
求められること 性能の限界を押し上げる 10年20年壊れない

とくに重要なのが信頼性です。車載用途では、高温・振動・長期使用に耐えなければなりません。「速さ」ではなく「壊れないこと」が価値になります。

そのため検査も、電気特性だけでなく長期信頼性の確認が重視されます。パッケージ検査で触れた気密性試験やバーンインが重要になるのは、こうした用途です。

市場としても、AI需要とは異なる周期で動きます。EVの販売動向や各国の環境政策に左右されるため、AI相場が過熱していても、パワー半導体向け装置は別の局面にあることがあります。

✍️ ひとこと

同じ半導体でも、SiCになると装置がまるごと通用しなくなる。硬い、高温が要る、うまく削れない。

先端ロジックとは別の論理で動いている市場だと知ると、半導体という言葉のひろがりが見えてきます。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

SiCは英語で何と言いますか?

silicon carbide(炭化ケイ素)です。GaNは gallium nitride(窒化ガリウム)。両者を含めてワイドバンドギャップ半導体(wide bandgap semiconductor)と総称されます。

なぜSiCは高温アニールが必要なのですか?

結合が強く、打ち込んだ不純物を結晶の正しい位置へ収めるために大きなエネルギーが要るためです。1,650〜1,700℃で95%以上の活性化率が得られるとされます。ただし高温すぎると表面からシリコン原子が抜け、荒れが生じます。

シリコン用の工場でSiCは作れますか?

そのままでは作れません。高温アニール炉、高温対応のイオン注入装置、SiC用エッチング、硬い材料の加工装置など、専用設備が必要です。既存ラインの一部は流用できても、中核工程は入れ替えが要ります。

パワー半導体に微細化は必要ないのですか?

先端ロジックほどの微細化は必要ありません。数十〜数百ナノメートル程度で十分な用途が多く、EUVは使われません。そのぶん成熟世代の装置に継続的な需要が生まれます。

まとめ

  • パワー半導体は電力を制御する半導体で、競争軸は微細化ではなく耐圧・損失・信頼性
  • SiCは高耐圧・低損失だが、シリコン用装置がそのまま使えない
  • SiCでは不純物が拡散しないため、ドーピングはイオン注入に限られる
  • 活性化アニールは1,650〜1,700℃が必要で、シリコンの約1,000℃とは別世界
  • 高温では表面からシリコン原子が抜けるため、炭素膜で保護するなどの対策が要る
  • 化学的に安定でエッチングしにくく、ダイヤモンドに次ぐ硬さで加工も難しい
  • SiCウェハー自体が高価で、歩留まりを守る重要性が高い
  • Axcelisは出荷額の55%がパワーデバイス向けで、AI相場とは別の需要が存在する

関連する装置はイオン注入装置、熱処理装置、ダイシング装置で解説しています。

参考・出典