EUVの波長13.5nmは、当面これ以上短くできません。ならばどうするか——その答えがHigh-NA EUVです。開口数を0.33から0.55へ引き上げ、さらなる微細化を狙います。

しかし、この装置にはほとんど語られていない重大な代償があります。一度に露光できる面積が、従来のちょうど半分になるのです。

そして、その代償は思わぬ結果を招きます。微細化を推し進めるはずの装置が、チップを分割する動きを加速させるという逆説です。

この記事では、High-NA EUVを装置の構造から解説します。EUVの基礎はEUV露光装置とは?仕組み・価格とASMLだけが作れる理由をご覧ください。

High-NA EUVとは

High-NA EUVは、投影光学系の開口数(NA:Numerical Aperture)を0.55へ高めたEUV露光装置です。ASMLの製品名では EXE:5000、EXE:5200 といった型式で呼ばれます。

従来のEUV High-NA EUV
波長 13.5nm 13.5nm(同じ)
開口数(NA) 0.33 0.55
縮小率 4倍(縦横とも) 4倍×8倍(非対称)
露光フィールド 26mm×33mm 26mm×16.5mm
1ショットの面積 858mm² 429mm²

解像度は「波長 ÷ 開口数」でほぼ決まります。波長を変えられない以上、開口数を上げるのが唯一の道でした。

注目すべきは表の下2行です。縮小率が縦横で異なり、露光フィールドが半分になっています。なぜこうなったのか、そこにHigh-NAの本質があります。

なぜ「非対称」な光学系になったのか

ここがHigh-NA EUVで最も重要な論点です。

開口数を上げるとは、より広い角度の光を集めるということです。これで解像度は上がります。しかしEUVでは、この「広い角度」が新たな問題を生みます。

反射型マスクという足かせ

EUVはガラスを透過しないため、マスクも反射型です。光を斜めに当てて跳ね返し、そのパターンを投影します。

ここで開口数を上げると、光がマスクに当たる角度がさらに大きくなります。すると次の問題が起きます。

  • 多層膜ミラーの反射率が落ちる:Mo/Si多層膜は、光が斜めに入るほど反射しにくくなる
  • シャドーイングが起きる:マスク上のパターンには厚みがあり、斜めから照らすと影ができて形が崩れる

ただでさえEUVは光が足りません。反射率がさらに落ちれば、装置として成立しなくなります。

解決策|片方向だけ8倍に縮小する

ASMLとカール・ツァイスが採った解決策がアナモルフィック光学系(非等方光学系)です。

従来は縦横とも4倍に縮小してウェハーへ投影していました。High-NAでは片方向だけ8倍に変えます。

8倍に縮小するということは、マスク上のパターンをその分だけ大きく描けるということです。パターンが大きければ、斜めから光を当てても影の影響は相対的に小さくなります。マスクの規格を変えずに、入射角の問題を回避できるわけです。

光学系の困難を、マスク側の余裕で吸収した——これがアナモルフィックの発想です。

代償|露光フィールドが半分になる

しかし、この解決策には避けられない代償がありました。

マスクの大きさは業界標準で決まっています。その同じマスクを片方向だけ8倍に縮小すれば、ウェハー上に投影される像は、その方向で半分の長さになります。

従来のEUV High-NA EUV
1ショットの範囲 26mm × 33mm 26mm × 16.5mm
面積 858mm² 429mm²(50%)

一度に描ける面積が、ちょうど半分になります。

これは装置の使い方に直接影響します。

  • 同じウェハーを露光するのに、ショット数が倍必要になる
  • 結果としてスループット(処理枚数)が下がる
  • 429mm²を超えるチップは、1ショットで描けない

そして起きる逆説|微細化装置がチップ分割を促す

ここが、この記事で最も伝えたい点です。

従来のEUVでは、1ショットの上限は858mm²でした。AI向けGPUのような巨大なチップも、ぎりぎり1枚のダイとして作れたのです。

ところがHigh-NAでは、上限が429mm²まで下がります。大きなチップは、もはや1回の露光では描けません。

対応する方法は2つです。

方法 内容 課題
スティッチング 複数回の露光をつなぎ合わせて1つの大きなダイにする 継ぎ目の精度がナノ単位で要求される。歩留まりも落ちる
チップレット化 そもそも小さなダイに分割し、後で組み合わせる 高度なパッケージ技術が必要になる

ここに逆説があります。より微細に描くための装置を導入すると、大きなチップが作りにくくなる。その結果、チップを分割して組み合わせるほうが合理的になる——つまりチップレット化への圧力がさらに強まるのです。

前工程の進化が、後工程の重要性を高める。この構図は、これまでも繰り返し現れてきました。High-NA EUVは、その最新かつ最も鮮明な例といえます。

チップ分割の経済性についてはチップレットとは?装置の限界と歩留まりから読み解く分割の必然、大面積の実装についてはCoWoSとは?2.5D実装とインターポーザ製造で解説しています。

装置そのものの巨大化

High-NA EUVは、装置としても一段と大きくなります。

開口数を上げるには、光を集めるミラーを大型化しなければなりません。カール・ツァイスが手がける投影光学系のミラーは、従来より格段に大きく、その加工精度は原子レベルで管理されます。

結果として、装置全体の規模も膨らみます。

  • 重量とサイズ:従来のEUVをさらに上回り、輸送には大型輸送機や多数のトレーラーを要する
  • 設置スペース:クリーンルーム内で大きな面積と高さが必要
  • 据付期間:現地での組立と調整に長期間かかる
  • 価格:従来のEUVを大きく上回る

1台の装置を導入するために、建屋の設計から見直す必要すら生じます。クリーンルームの制約については半導体のクリーンルームとは?をご覧ください。

スティッチングという新たな技術課題

フィールドが半分になったことで、装置側には新しい要求が突きつけられました。継ぎ合わせの精度です。

スティッチングでは、2回の露光でできたパターンを境界で接続します。ここで求められる精度は極めて厳しいものです。

  • 位置合わせ:継ぎ目でのズレはナノメートル単位で管理しなければならない。わずかな狂いで配線がつながらない
  • 露光量の均一性:2つのショットで明るさが違えば、境界で線幅が変わってしまう
  • ステージ精度:ウェハーを移動させる機構に、これまで以上の再現性が要る

加えて、継ぎ目そのものが弱点になるという問題があります。境界部分には設計上の余裕を持たせる必要があり、その分だけ有効に使える面積が減ります。継ぎ目が増えるほど、不良の発生確率も上がります。

これは、大面積のインターポーザを作る際にも同じ課題が生じています。「レチクルより大きなものをどう作るか」は、先端半導体に共通する構造的な問題になりつつあります。CoWoSでも触れたとおりです。

導入の判断が分かれている

High-NA EUVは、すべての半導体メーカーが飛びついている技術ではありません。導入の姿勢は分かれています。

判断を難しくしているのが、次のトレードオフです。

High-NAを使う 従来EUVで粘る
1回の露光で微細なパターンを描ける マルチパターニングで同等の微細化を狙う
装置は非常に高価 装置は既存のものを使える
フィールドが半分でスループットが落ちる 工程数が増えてコストと期間が膨らむ

つまり「高価な装置で工程を減らす」か「既存装置で工程を増やす」かという選択です。どちらが安いかは、製品の種類や生産量によって変わります。

Intelは早期導入に積極的な姿勢を示す一方、他社はより慎重に見極める構えを取っており、企業ごとに戦略が分かれているのが現状です。

残された課題

High-NA EUVが本格普及するには、装置以外の要素も揃う必要があります。

  • レジスト:より微細なパターンを、少ない光量で正確に形成できる材料が要る
  • マスク:アナモルフィックに対応した設計と、高精度な製造・検査
  • スティッチング技術:継ぎ目で配線を確実につなぐ精度
  • コスト:装置価格とスループット低下を、微細化の利益が上回るか

装置単体では完結せず、材料・マスク・プロセス・設計が同時に進化して初めて成立する——これはEUV導入時にも見られた構図です。

✍️ ひとこと

微細化のための装置が、結果としてチップを分割する方向を後押しする。この逆説が面白いところです。

技術は一直線には進みません。何かを得れば、必ず何かを手放すことになります。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

High-NAで波長は変わりますか?

変わりません。波長は従来と同じ13.5nmです。変えたのは開口数(0.33→0.55)で、解像度は「波長÷開口数」で決まるため、波長を変えずに微細化を進められます。

なぜ縦横で縮小率が違うのですか?

開口数を上げると光がマスクに斜めに入り、反射率低下やシャドーイングが起きます。これを避けるため、片方向だけ8倍に縮小してマスク上のパターンに余裕を持たせました。その代償として露光フィールドが半分になっています。

フィールドが半分だと何が困るのですか?

429mm²を超えるチップを1ショットで描けなくなります。大きなチップにはスティッチング(複数露光の継ぎ合わせ)が必要になり、精度と歩留まりの課題が生じます。これがチップレット化を後押しする要因にもなっています。

従来のEUVは不要になりますか?

なりません。すべての層に最先端の解像度が必要なわけではなく、High-NAは特に微細な層に限定して使われると見られています。装置の使い分けは、これまでの世代交代でも同様でした。

まとめ

  • High-NA EUVは開口数を0.33から0.55へ引き上げたEUV露光装置(EXE:5000/5200)
  • 波長は13.5nmのまま、開口数を上げることで解像度を高める
  • 開口数を上げると反射型マスクで反射率低下とシャドーイングが起きる
  • その回避策がアナモルフィック光学系で、片方向だけ8倍縮小する
  • 代償として露光フィールドは26×33mmから26×16.5mmへ、面積は半分になった
  • 1ショットの上限が858mm²から429mm²へ下がり、大きなチップは描けない
  • 結果として微細化装置がチップレット化を促すという逆説が生まれている
  • 導入は「高価な装置で工程を減らす」か「既存装置で工程を増やす」かの判断になる

EUVの基礎はEUV露光装置とは?、露光装置全般は露光装置とは?仕組みと世界シェア、分割の経済性はチップレットとは?をご覧ください。

参考・出典