半導体のクリーンルームとは?清浄度クラス・FFU・気流の仕組みを解説
半導体工場の写真といえば、白い防塵服の作業者が並ぶクリーンルームの光景が思い浮かびます。しかしあの部屋がどれほど清浄で、どうやってその状態を保っているのかは、あまり知られていません。
半導体のクリーンルームは、一般的な手術室よりもはるかに厳しい清浄度で管理されています。そして、その環境を維持するために工場で使う電力の3割前後が空調に費やされるとも言われます。
この記事では、クリーンルームの清浄度クラス、FFUと気流の仕組み、そして現代の主流であるミニエンバイロンメントまでを解説します。
クリーンルームとは
クリーンルームは、空気中の微粒子(パーティクル)を極限まで減らし、温度・湿度・気圧まで管理した部屋です。
半導体でこれが必要な理由は単純です。回路の寸法より大きなゴミが1つ乗れば、そのチップは不良になるからです。最先端の回路は数ナノメートルの世界にあり、目に見えないレベルの微粒子でも致命傷になります。
管理されるのは、粒子だけではありません。
- 微粒子:チップに付着して不良を起こす
- 温度・湿度:レジストの特性や寸法精度に影響する
- 気圧:外部より高く保ち、汚れた空気の侵入を防ぐ
- 振動:露光装置はナノメートル単位で位置決めするため床の揺れを嫌う
- 化学汚染:アンモニアなど微量のガスもレジストに影響する
つまりクリーンルームは「きれいな部屋」ではなく、装置が性能を発揮できる環境そのものです。
清浄度クラス|数字が小さいほど清浄
クリーンルームの清浄度は、国際規格ISO 14644-1によってクラス分けされています。基準は1立方メートルの空気に、どれだけの粒子が含まれるかです。
| ISOクラス | 0.5μm粒子の上限(個/m³) | 旧規格(連邦規格209E) | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| ISOクラス1 | ごく微量 | ― | 最先端半導体 |
| ISOクラス3 | 35 | クラス1 | 先端半導体 |
| ISOクラス4 | 352 | クラス10 | 半導体前工程 |
| ISOクラス5 | 3,520 | クラス100 | 半導体前工程 |
| ISOクラス6 | 35,200 | クラス1,000 | 半導体後工程など |
| ISOクラス7〜8 | 352,000〜3,520,000 | クラス1万〜10万 | 医薬品、食品、電子部品 |
読み方のポイントは3つです。
- 数字が小さいほど清浄(ISOクラス1が最も厳しい)
- 1つ違うと10倍違う(対数スケール)
- 旧規格の「クラス100」はISOクラス5に相当
古い資料や現場では、今も「クラス100」「クラス1000」という旧規格(米連邦規格209E)の呼び方が使われます。両方の対応を知っておくと、資料を読むときに混乱しません。
半導体の前工程は、おおむねISOクラス1〜5という最も厳しい水準で運用されます。参考までに、一般的な手術室はISOクラス7程度です。半導体工場は、手術室より100倍以上清浄ということになります。
どうやって清浄さを保つのか
これだけの清浄度は、掃除では実現できません。空気を絶えず入れ替え、ろ過し続けることで維持されます。
HEPAとULPA|微粒子を捕らえるフィルター
空気の清浄化を担うのが高性能フィルターです。半導体では主に2種類が使われます。
| 種類 | 捕集性能の目安 | 用途 |
|---|---|---|
| HEPAフィルター | 0.3μmの粒子を99.97%以上捕集 | 一般的なクリーンルーム |
| ULPAフィルター | 0.15μmの粒子を99.9995%以上捕集 | 半導体など高清浄度が必要な場所 |
ULPAはHEPAより高性能ですが、その分だけ空気が通りにくく、送風に大きな電力を要します。清浄度と消費電力は、常にトレードオフの関係にあります。
FFU|天井一面がフィルターになる
半導体工場で主流なのがFFU(ファンフィルタユニット)です。名前のとおり、ファンとフィルターが一体になった箱で、これを天井に敷き詰めます。
各ユニットが独立して空気を送り出すため、次の利点があります。
- 場所ごとに風量を調整できる:装置の周りだけ強めるといった制御が可能
- 部分的な増設・更新がしやすい:レイアウト変更に対応できる
- 故障時の影響が限定的:1台止まっても全体は維持される
天井全面がフィルターに覆われ、そこから清浄な空気が絶え間なく降り注ぐ——これが現代の半導体クリーンルームの標準的な姿です。
層流|空気を「一方向に流す」
フィルターを通した空気を、どう流すかも重要です。方式は大きく2つあります。
| 層流方式(一方向流) | 乱流方式(非一方向流) | |
|---|---|---|
| 空気の流れ | 天井から床へまっすぐ降ろす | 部屋全体をかき混ぜて希釈する |
| 清浄度 | 非常に高い | 中程度 |
| コスト | 高い(大風量が必要) | 比較的安い |
| 用途 | 半導体の前工程 | 一般的な清浄環境 |
層流方式では、空気が天井から床へ一方向にゆっくり降りていきます。床は網状(グレーチング)になっており、空気はそこから床下へ抜けて循環します。
この「上から下へ」という流れが決定的に重要です。発生した微粒子が横に拡散する前に、床方向へ押し流されるからです。逆に空気が渦を巻いていれば、微粒子は部屋中を漂い続けることになります。
最大の汚染源は「人」である
ここが、クリーンルーム設計の根本にある事実です。
どれだけ空気をろ過しても、部屋の中で最も多く微粒子を出すのは人間です。皮膚のかけら、髪の毛、衣類の繊維、化粧品——人が動くだけで大量の粒子が舞います。
そのため、次のような対策が取られます。
- 防塵服:人体から出る粒子を閉じ込める。化粧や装飾品も制限される
- エアシャワー:入室前に強い風で付着物を吹き飛ばす
- 動作の制限:急な動きは気流を乱し、粒子を舞い上げる
- 入室人数の管理:人が少ないほど清浄度は保たれる
そして最も効果的な対策が、そもそも人を近づけないことです。搬送の自動化が徹底されているのは、生産性のためだけではありません。人の介在を減らすこと自体が、歩留まりを守る手段なのです。搬送の自動化については半導体工場の搬送システム(AMHS)とは?で解説しています。
発想の転換|ミニエンバイロンメント
ここまで読むと、ひとつの疑問が浮かびます。部屋全体を最高清浄度に保つのは、あまりに効率が悪いのではないかと。
実際そのとおりです。人が歩き、装置が並ぶ広大な空間すべてをISOクラス1に保つには、莫大な電力とコストがかかります。
そこで生まれたのがミニエンバイロンメントという考え方です。
発想はこうです。本当に清浄でなければならないのは、ウェハーの周囲だけ。ならば、ウェハーを密閉容器(FOUP)に入れて運び、装置と接続するときだけ開ければよい。
- FOUP内部:極めて高い清浄度を維持する小さな空間
- 装置内部:同様に高清浄度に保つ
- 部屋全体:清浄度を1〜2ランク緩めてよい
この方式により、清浄度と省エネルギーを両立できるようになりました。現在の半導体工場では、この考え方が標準になっています。
「部屋をきれいにする」から「ウェハーの周りだけをきれいにする」への転換——クリーンルーム技術における最も重要な発想の切り替えです。FOUPと搬送の関係は搬送システムの記事でも触れています。
FOUPを開けてウェハーを装置へ渡す仕組みについてはEFEMとは?で解説しています。
コストとエネルギー|見えない競争軸
クリーンルームは、建設にも運用にも巨額の費用がかかります。
とくに大きいのが空調の電力です。空気を絶えず送り、ろ過し、温度と湿度を一定に保ち続けるため、半導体工場の消費電力のうち3割前後が空調関連とされます。24時間365日、止めることはできません。
そのため、クリーンルームの設計では次の点が問われます。
- 必要な場所にだけ必要な清浄度を割り当てているか
- 気流の無駄はないか
- 排熱を回収して再利用できないか
装置の性能競争の陰で、「同じ清浄度をどれだけ少ない電力で保てるか」という競争が進んでいます。日本では高砂熱学工業などがこの領域を担い、クリーンルームの設計・施工で高い技術を持っています。
また、床面積そのものが高価であることも忘れてはなりません。クリーンルーム1平方メートルあたりの価値は極めて高く、装置の設置面積が小さいことが評価されるのはこのためです。縦型炉が横型を置き換えた理由のひとつでもあります。縦型拡散炉と横型拡散炉の違いで解説しています。
清浄さを必要としない設備は、直下の階にまとめて置かれます。サブファブとは?をご覧ください。
工程によって清浄度は違う
工場内が一律の清浄度というわけではありません。工程ごとに必要な水準が異なるためです。
| 領域 | 清浄度の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 露光エリア | 最も厳しい | 微細なパターンを扱い、レジストが化学汚染に敏感 |
| 前工程一般 | 非常に厳しい | 回路が露出した状態で加工する |
| 後工程 | やや緩い | チップが封止され保護されている |
| 付帯設備エリア | 一般環境 | ウェハーが存在しない |
とくに露光エリアは特別です。微粒子だけでなく、特定波長の光を遮る黄色い照明(イエロールーム)が使われます。レジストが室内の光で感光してしまうのを防ぐためです。前工程と後工程の違いは半導体の前工程と後工程の違いをご覧ください。
最大の汚染源は人である——これを知ってから、クリーンルームの見え方が変わりました。
だからこそ、人を減らす方向へ進化してきた。技術の進む向きには、たいてい理由があります。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
クリーンルームは英語で何と言いますか?
cleanroom です。清浄度クラスは cleanliness class、規格はISO 14644-1が国際標準です。FFUは Fan Filter Unit、層流方式は unidirectional airflow と表記されます。
クラス1とクラス100はどちらが清浄ですか?
クラス1のほうが清浄です。数字は「1立方フィートあたりに許容される粒子数」に由来するため、小さいほど厳しくなります。ISO規格でも同様に、ISOクラス1が最も清浄です。
クリーンルームの中は苦しくないのですか?
防塵服の着用と動作の制限があるため、慣れるまでは窮屈に感じる人が多い環境です。飲食も自由にできません。装置メーカーの仕事内容については半導体製造装置メーカーの仕事内容と年収で解説しています。
なぜ床が網目状になっているのですか?
天井から降りてきた空気を、床下へ抜けさせるためです。層流方式では空気が一方向に流れ続ける必要があり、床がグレーチング(網状)になっていることで、微粒子を含んだ空気が滞留せず循環します。
まとめ
- クリーンルームは微粒子だけでなく、温度・湿度・気圧・振動・化学汚染まで管理する環境
- 清浄度はISO 14644-1で規定され、数字が小さいほど清浄。1つ違うと10倍差
- ISOクラス5=旧規格のクラス100。半導体前工程はISOクラス1〜5で運用される
- HEPA/ULPAフィルターとFFUで空気をろ過し、層流方式で天井から床へ一方向に流す
- 最大の汚染源は人であり、防塵服・エアシャワー・搬送自動化で介在を減らす
- ミニエンバイロンメントにより「部屋全体」から「ウェハー周辺だけ」へ発想が転換した
- 工場電力の3割前後が空調に使われ、省エネが重要な競争軸になっている
工場を支える他のインフラは搬送システム(AMHS)や超純水(UPW)、装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説をご覧ください。
参考・出典
- クリーンルームの清浄度クラス(ISO 14644-1と連邦規格209Eの対応表)
- 高砂熱学工業(クリーンルーム設計・施工)
- 一般社団法人日本半導体製造装置協会(SEAJ)「半導体製造装置分類表」
- SEAJ「半導体製造工程とは」