EUV露光装置は、しばしば「人類が作った最も複雑な機械」と表現されます。1台の価格は数百億円規模とされ、作れるのは世界でオランダのASML1社だけです。

なぜ、そこまで難しいのか。答えは使っている光そのものが極端に扱いにくいことにあります。

この記事では、EUV露光装置の仕組みを、光源・ミラー・真空・マスクという物理的な制約から解説します。露光装置全般については露光装置とは?仕組みと世界シェアをご覧ください。

EUVとは|波長13.5nmという選択

EUVは Extreme Ultraviolet(極端紫外線)の略です。露光に使う光の波長は13.5ナノメートル。従来のArF(193nm)と比べて、実に14分の1以下です。

露光装置の解像度は「波長 ÷ 開口数」でほぼ決まります。波長が短いほど細かいパターンを描けるため、13.5nmへの移行は微細化における最大の飛躍でした。

しかし、この波長を選んだ瞬間から、装置は極端に難しくなります。理由は、EUV光が次の性質を持つためです。

  • 空気に吸収される:大気中をほとんど進めない
  • ガラスを透過しない:レンズが使えない
  • ほとんどの物質に吸収される:反射させることすら難しい

つまりEUVは、「光」でありながら、光学の常識がほぼ通用しないという代物です。装置の巨大さも価格も、すべてこの性質に由来します。

光源|毎秒5万個のスズ液滴を撃つ

最初の難関が、そもそもEUV光をどう作るかです。EUVを出す都合のよいランプは存在しません。

ASMLが採用したのはLPP(Laser Produced Plasma)方式と呼ばれる手法です。仕組みは次のようになっています。

  1. 溶かしたスズ(Sn)を、微細な液滴にして真空中へ射出する
  2. その液滴に、まずプレパルスのレーザーを当てて平たく潰す
  3. 続いて強力なCO₂レーザーを照射する
  4. スズが約30万Kという超高温プラズマになる
  5. そのプラズマが放つ光の中から、13.5nmの成分を取り出す

驚くべきは、その頻度です。毎秒およそ5万個の液滴に、それぞれ2回ずつレーザーを照射します。つまり毎秒10万回、狙いを外さずに撃ち続けるということです。

使われるCO₂レーザーの出力は25kW級。一般家庭の消費電力とは桁が違う、産業用としても極めて大出力のレーザーです。

なぜ、これほどの大出力が必要なのか。その答えが、次のミラーの話にあります。

核心|光の98%は届かない

EUVはガラスを透過しないため、レンズが使えません。そこで光学系はすべて反射(ミラー)で構成されます。

ただし、EUVは通常の鏡でも反射しません。そこで使われるのが、モリブデンとシリコンを原子レベルで交互に積層したMo/Si多層膜ミラーです。

この特殊なミラーをもってしても、反射率の理論限界は約68%とされます。1回の反射で、3割以上の光が失われる計算です。

問題は、ミラーが1枚では済まないことです。EUV露光装置では、照明光学系と投影光学系を合わせて10枚以上のミラーで光を導きます。

通過したミラーの枚数 残っている光の割合(反射率68%の場合)
4枚 約21%
6枚 約10%
10枚 約2%

光源から出たEUV光のうち、ウェハーに届くのはわずか2%程度。98%は途中で失われます。

これがEUV露光装置のすべてを説明します。ウェハー面で必要な光量を確保するには、最初に桁違いの光を作るしかない——だから25kWのレーザーで毎秒10万回スズを撃ち続ける必要があるのです。

装置が巨大で、消費電力が莫大で、価格が数百億円規模になる理由は、この「光が届かない」という物理法則に行き着きます。

真空でなければ成立しない

EUVは空気に吸収されるため、光が通る経路はすべて真空に保つ必要があります。

光源からウェハーまで、数メートルの経路すべてが真空チャンバーの中にあります。これは装置設計に大きな制約を与えます。

  • ウェハーやマスクの出し入れに、真空を保ったままの搬送機構が必要
  • 装置内部で発生した微粒子を排出しにくい
  • 可動部の潤滑や放熱が難しい

さらに厄介なのがスズの飛散です。光源では毎秒5万個のスズ液滴をプラズマ化しているため、その残骸が装置内に飛び散ります。これが集光ミラーに付着すれば、反射率が落ちて性能が低下します。デブリ(残骸)の管理は、光源の寿命を左右する重要な技術です。

マスクも「反射型」になる

従来の露光では、マスクは光を透過させるものでした。しかしEUVでは透過が使えないため、マスクも反射型になります。

マスクの表面にもMo/Si多層膜が形成され、パターン部分だけ光を吸収する材料が置かれます。光を斜めに当てて反射させ、そのパターンをウェハーへ投影する仕組みです。

ここで大きな課題となるのがペリクルです。ペリクルとは、マスク表面をゴミから守るための薄い保護膜のこと。従来の露光では標準的に使われてきました。

しかしEUVでは、ペリクル自体がEUV光を吸収してしまいます。ただでさえ光が足りないところに、さらに損失を加えることになります。かといって保護がなければ、マスクに付着した1つの異物がウェハー全面に転写されてしまいます。

EUV対応ペリクルの開発は、透過率と耐久性の両立という難題との戦いです。マスク検査については半導体検査装置とは?で解説しています。

なぜASMLだけが作れるのか

EUV露光装置を供給できるのは、世界でASML1社だけです。その理由は、単一企業の技術力というよりエコシステムを構築できたことにあります。

領域 担う企業
装置全体の設計・統合 ASML(オランダ)
光学系(多層膜ミラー) カール・ツァイス(ドイツ)
CO₂レーザー トルンプ(ドイツ)
光源システム Cymer(米国・ASMLが買収)

ASMLは自社ですべてを作っているわけではありません。各分野で世界最高の企業を束ね、統合する立場にあります。装置は10万点規模の部品で構成され、サプライヤーは世界中に広がります。

さらに重要なのが、開発期間と資金です。EUVの実用化までには20年以上の歳月がかかりました。この間、ASMLは顧客であるIntel、Samsung、TSMCから出資を受けながら開発を継続しました。「顧客が開発費を出す」という異例の構造が、長期開発を可能にしたのです。

技術だけでなく、それを支える体制と時間——これがASML独占の本質です。

日本メーカーはなぜ作れなかったのか

1980〜90年代、露光装置で世界を主導していたのはニコンとキヤノンでした。しかしEUVへの移行で逆転されます。

EUVの開発には、光源・ミラー・レーザーを横断する巨額かつ長期の投資が必要でした。日本勢はこの領域で同等の投資を継続できず、結果として最先端市場から後退します。

現在、ニコンは成熟世代のArF装置に軸足を置き、キヤノンはナノインプリントという別方式を追求しています。詳細は露光装置とは?仕組みと世界シェアをご覧ください。

価格と保有の実態

EUV露光装置の価格は、1台あたり数百億円規模とされます。次世代のHigh-NA機はさらに高額です。

これは単なる機械の値段ではありません。

  • 輸送:分解して大型輸送機や多数のトレーラーで運ぶ規模
  • 設置:現地での組み立てと調整に数か月を要する
  • 保守:稼働後も継続的なサービスが必要
  • 消費電力:1台で相当量の電力を消費し続ける

導入できるのは、TSMC、Samsung、Intel、SK hynixなど、世界でもごく限られた企業です。1台の装置が、その国の半導体産業の水準を左右する——EUVはそうした特殊な存在になっています。

輸出規制の焦点

この特殊性ゆえに、EUV露光装置は輸出規制の中心に置かれています。中国はEUV露光装置を入手できず、これが先端半導体の製造能力を制約する最大の要因となっています。

「装置1つで産業の未来が決まる」という状況が、経済安全保障の議論を呼んでいます。くわしくは半導体製造装置の輸出規制とは?をご覧ください。

次の一手|High-NA EUV

EUVの波長13.5nmは、当面これ以上短くできません。そこで次に手を付けるのが開口数(NA)です。

従来のEUVは開口数0.33、次世代のHigh-NA EUVでは0.55へ引き上げられます。解像度は「波長÷開口数」で決まるため、開口数を上げれば波長を変えずに微細化を進められます。

ただし、代償もあります。光学系が大型化し、装置はさらに巨大で高価になります。加えて、一度に露光できる面積が狭くなるという制約も生じます。

「波長を短くする」手が尽きた後、再び「開口数を上げる」方向へ戻ってきた——微細化の歴史が、ひとつの円環を描いているようにも見えます。

✍️ ひとこと

光の98%が届かない。それでも成立させてしまうところに、この技術の凄みがあります。

一社しか作れない装置が、世界中の半導体を支えている。その危うさと、そこへ到達した執念の両方を感じる分野です。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

EUV露光装置の価格はいくらですか?

公表価格はありませんが、1台あたり数百億円規模とされます。High-NA機はさらに高額です。加えて輸送・設置・保守にも多額の費用がかかるため、総額はさらに大きくなります。

なぜ日本はEUV露光装置を作れないのですか?

技術力の問題というより、開発体制と投資規模の差です。EUVには20年以上の開発期間と、光源・光学・レーザーを横断する巨額投資が必要でした。ASMLは顧客からの出資を受けてこれを継続しましたが、日本勢は同等の投資を維持できませんでした。

中国はEUVを入手できないのですか?

輸出規制により、EUV露光装置は中国へ輸出できません。このため中国は既存のDUV装置とマルチパターニングで対応していますが、工程数が増えコストと歩留まりの面で不利になります。

EUVがあれば他の露光装置は不要ですか?

不要にはなりません。すべての層を最先端の解像度で描く必要はなく、粗いパターンには安価で高速な装置が使われます。1つの製品を作るのに、複数世代の露光装置が使い分けられています。

まとめ

  • EUVの波長13.5nmはArFの14分の1以下で、微細化における最大の飛躍だった
  • 光源はスズ液滴にレーザーを2回照射する方式で、毎秒約5万個を撃ち続ける
  • ガラスを透過しないためレンズが使えず、Mo/Si多層膜ミラーで反射させる
  • ミラーの反射率は理論限界で約68%、10枚以上通ると光は約2%しか残らない
  • この損失を補うため25kW級のレーザーが必要で、装置の巨大さと高価さの原因になっている
  • 空気に吸収されるため経路全体が真空、スズのデブリ管理も課題
  • ASML独占の本質は、ツァイス・トルンプらを束ねたエコシステムと20年の開発継続
  • 次世代のHigh-NAでは開口数を0.33から0.55へ引き上げる

露光装置全般は露光装置とは?仕組みと世界シェア、装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説をご覧ください。

参考・出典

EUVに参入しなかったキヤノンが何をしているかはキヤノンとは?で、ナノインプリントを含めて解説しています。