2025年は、半導体製造装置メーカーにとって記録的な年でした。アドバンテストは売上1兆円を超え、Lam Researchは前期比26%増。AI向け投資が装置需要を押し上げた1年です。

ところが、そのすべての装置が加工する対象——シリコンウェハーを作っている会社は、同じ年に赤字でした。

SUMCOの2025年12月期は、売上高4,096億円に対して当期純損失117億円。装置が好況でもウェハーは別、という構図がはっきり出た決算です。

この記事では、シリコンウェハーメーカーを一覧で整理し、なぜ5社しかないのか、なぜ装置と景気がずれるのかを解説します。

※本記事は2026年10月時点で各社が公表している情報に基づきます。シェアの数値は調査機関によって幅があるため、企業自身の公表値を優先し、幅がある場合は「約」と表記しました。

シリコンウェハーメーカー一覧|世界5社

シリコンウェハーは、半導体のすべてが乗る土台です。そしてこれを量産できる企業は、世界に5社しかありません。

企業 国 位置づけ
信越化学工業 日本 世界最大手。塩化ビニルなど化学全般を手がける総合化学メーカーの一部門
SUMCO 日本 ウェハー専業。住友金属工業・三菱マテリアル・三菱商事の事業統合で誕生
GlobalWafers(環球晶圓) 台湾 買収を重ねて規模を拡大。旧SunEdison Semiconductor、旧Topsilなどを傘下に
Siltronic ドイツ 化学大手ワッカーケミー傘下。欧州唯一の大手
SK siltron 韓国 旧LG Siltron。SKグループがSKハイニックス向けを含めて展開

この5社で世界市場の9割以上を占めます。そして日本の2社(信越化学・SUMCO)だけで約6割とされています。装置では露光をASMLに握られている日本勢が、土台のウェハーでは半分以上を供給しているという構図です。

日本が材料で強い理由は半導体材料メーカー一覧、装置側の勢力図は日本の半導体製造装置メーカー一覧と工程別・世界シェアまとめで解説しています。

なぜ5社しかないのか

半導体の製造装置も寡占的ですが、ウェハーの寡占はさらに極端です。理由は3つあります。

①不良が許されない

ウェハーは、その上に数百工程を積み上げる土台です。出発点に欠陥があれば、以降の加工がすべて無駄になります。そのため求められる品質は、金属不純物の濃度がppb(10億分の1)以下という水準です。この純度と結晶の完全性を安定して出せるようになるまでに、数十年の蓄積が要ります。

②認定に時間がかかる

半導体メーカーは、ウェハーを簡単には切り替えません。ウェハーが変われば、その上の製造条件もやり直しになるからです。新規参入者が品質で追いついたとしても、顧客の認定を取るまでに長い時間がかかります。装置の乗り換えコストが高いのと同じ構造が、ウェハーではさらに強く働きます。

③統合すら政治に阻まれる

5社という数字は、放っておいて決まったものではありません。実際に4社へ減りかけたことがあります。

台湾のGlobalWafersは、ドイツのSiltronicを43.5億ユーロで買収することで合意していました。しかしこの案件は2022年1月31日の期限までにドイツ政府の審査が終わらず、不成立となりました。世界各国の当局の承認はすでに得ていて、最後に残っていたのがドイツ政府の判断でした。審査には14か月が費やされています。

半導体不足が各国の経済安全保障の問題になった時期と重なり、ウェハーという土台を国外企業に渡すことへの警戒が働いた格好です。輸出規制が装置の勢力図を動かしているのと同じ力が、ウェハーでも働いています(半導体製造装置の輸出規制とは?)。

シリコンウェハーはどう作られるか

SUMCOが公開している工程をもとに、流れを追います。大きく単結晶引上 → ウェーハ加工 → 特殊加工の3段階です。

①単結晶引上(CZ法)

金属不純物の濃度がppb以下まで高純度化された多結晶シリコンを、ホウ素(B)やリン(P)とともに石英ルツボに入れ、約1,420℃で融解させます。そこへ種結晶を入れ、回転させながらゆっくり引き上げると、円柱状の単結晶インゴットができます。これがCZ法(チョクラルスキー法)です。

ホウ素やリンを最初から混ぜるのは、この時点で導電型(p型・n型)を決めているからです。ウェハーは「ただのシリコンの板」ではなく、すでに電気的な性質を与えられた状態で出荷されます。

②ウェーハ加工

工程 内容
切断(スライス) 内周刃切断機またはワイヤーソーで、厚さ1mm程度にスライスしてウェーハ状にする
粗研磨(ラッピング) アルミナ研磨材で粗く研磨し、厚さと平坦度を整える
エッチング 化学的に溶かし、機械加工で入ったダメージ層を取り除く
研磨(ポリッシング) コロイダルシリカ液を用いたメカノケミカル研磨で鏡面に仕上げる
洗浄・検査 厳しい検査を経て、ポリッシュト・ウェーハが完成する

ポリッシング工程で使われるメカノケミカル研磨は、機械的な作用と化学的な作用を組み合わせる方式です。これは前工程で銅配線を平坦化するCMP装置と同じ原理で、スラリーと研磨パッドの組み合わせが性能を決める点も共通しています。

仕上がったウェハーの端面は、欠けを防ぐために専用の加工を受けます(ウエハー端面(ベベル)の処理とは?)。洗浄には超純水が大量に使われます。

③特殊加工

ポリッシュト・ウェーハの上に、用途に応じた加工を加えたものが出荷されます。代表的なのがエピタキシャル成長で、表面に結晶方位をそろえた薄い単結晶層を成長させます。欠陥の少ない層を表面に作ることで、素子の特性を安定させる目的です。

【本題】AIが好況でも、ウェハーが赤字になる理由

ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。

SUMCOの2025年12月期は、次のような決算でした。

項目 2025年12月期
売上高 4,096億円
当期純利益 ▲117億円(損失)
EBITDAマージン 27.4%
純資産 6,477億円

EBITDAマージン27.4%という数字が示すとおり、事業そのものが回っていないわけではありません。それでも最終赤字になっています。

装置メーカーとの違いは、何に連動して売れるかにあります。

製造装置 シリコンウェハー
売れる単位 工場への設備投資 実際に流れるウェハーの枚数
AI需要の効き方 最先端工場の新設・増設で直接効く 先端品は枚数が多くない
景気との関係 投資判断に連動(先行する) 工場の稼働率に連動(遅れる)
足を引っ張る要因 投資の停止 汎用品の在庫調整

AI向けの最先端ロジックやHBMは、価格は高いものの投入されるウェハーの枚数としては多くありません。一方で枚数を支えているのは、自動車やスマートフォンに使われる汎用的な半導体です。この領域で在庫調整が続くと、ウェハーの出荷枚数は伸びません。

つまり「AI半導体が売れている」ことと「ウェハーが売れている」ことは、同じではないということです。装置メーカーの好況を見てウェハーメーカーも好調だろうと推測すると、実態を外します。

装置側の市場動向は半導体製造装置の市場規模と今後の予測、AI需要がどの工程に効いているかはAI・HBM需要で伸びる半導体製造装置で検証しています。

300mmと200mmは別の市場

ウェハーは直径で分かれ、市場としてもほぼ別物です。

直径 主な用途 特徴
300mm 先端ロジック、DRAM、NAND 1枚から取れるチップ数が多く、量産の主力。設備も300mm専用
200mm パワー半導体、アナログ、マイコン、センサー 微細化を追わない品種が中心。償却済みの旧世代ラインが現役
150mm以下 一部のパワー半導体、化合物半導体 SiCなどは現在もこのサイズが残る

300mmと200mmでは装置も別で、同じ工場では混在させられません。パワー半導体で使われるSiCウェハーは、シリコンとは結晶の作り方も硬さもまったく違うため、専用の装置が要ります(パワー半導体の製造装置|SiCでシリコン用が使えない4つの理由)。

なお、次の世代として450mmへの移行がかつて検討されましたが、装置の開発負担が重すぎて事実上止まっています。ウェハーの大口径化による生産性向上は、300mmで一度区切りがついた格好です。

✍️ ひとこと

装置メーカーが記録的な年を迎えた2025年に、その装置が加工するウェハーの会社は赤字だった。調べていて印象に残ったのは、設備投資と流れる枚数という連動先の違いで、同じ好況でも景色が変わることです。

わずか5社が世界のウェハーを支えている。目立たない素材の会社に目を向けると、業界の見え方が少し立体的になります。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

シリコンウェハーメーカーは世界に何社ありますか?

量産できる大手は5社です。信越化学工業、SUMCO(以上日本)、GlobalWafers(台湾)、Siltronic(ドイツ)、SK siltron(韓国)。この5社で世界市場の9割以上を占め、日本の2社だけで約6割とされています。

なぜ新規参入がないのですか?

①金属不純物がppb以下という品質を安定して出すまでに数十年の蓄積が要ること、②半導体メーカーがウェハーを替えると製造条件をやり直すことになるため認定に長い時間がかかること、③巨額の設備投資が必要なこと——の3つが重なるためです。品質で追いついただけでは顧客が切り替えません。

ウェハーメーカーの統合は進まないのですか?

試みはありました。台湾のGlobalWafersがドイツのSiltronicを43.5億ユーロで買収する計画が合意されていましたが、2022年1月31日の期限までにドイツ政府の審査が完了せず、不成立になりました。他国の当局の承認はすべて得ており、最後に残ったのがドイツ政府の判断でした。経済安全保障の観点から、ウェハー供給は各国が手放したがらない領域になっています。

シリコンウェハーはどうやって作るのですか?

高純度の多結晶シリコンをホウ素やリンとともに石英ルツボに入れ、約1,420℃で融解させてから種結晶を回転させながら引き上げ、単結晶インゴットを作ります(CZ法)。これを厚さ1mm程度にスライスし、アルミナでのラッピング、化学エッチング、コロイダルシリカによるメカノケミカル研磨、洗浄・検査を経てポリッシュト・ウェーハになります。用途に応じてエピタキシャル層などを追加します。

AI需要でウェハーメーカーも儲かっているのですか?

そうとは限りません。SUMCOの2025年12月期は売上高4,096億円に対して当期純損失117億円でした。装置は「工場への設備投資」に連動しますが、ウェハーは実際に流れる枚数に連動します。AI向けの先端品は単価は高くても枚数が多くなく、枚数を支える汎用品の在庫調整が効くと業績は伸びません。

300mmウェハーの次は450mmになるのですか?

検討はされましたが、装置の開発負担が重く、事実上止まっています。現在は300mmが量産の主力で、パワー半導体やアナログ向けには200mm以下が現役で使われ続けています。

まとめ

  • シリコンウェハーを量産できるのは世界5社(信越化学・SUMCO・GlobalWafers・Siltronic・SK siltron)
  • この5社で世界の9割以上、日本の2社で約6割とされています
  • 新規参入がないのはppb以下の純度・顧客認定の時間・巨額の設備投資という3つの壁があるため
  • GlobalWafersによるSiltronic買収(43.5億ユーロ)は、2022年1月31日の期限までにドイツ政府の審査が終わらず不成立。統合すら経済安全保障に阻まれます
  • 製造はCZ法で約1,420℃から引き上げ → 厚さ1mm程度にスライス → ラッピング → エッチング → メカノケミカル研磨 → 洗浄・検査
  • ホウ素やリンは引き上げの時点で添加され、ウェハーは導電型が決まった状態で出荷されます
  • SUMCOの2025年12月期は売上高4,096億円・当期純損失117億円。装置メーカーが記録的な年を迎えた一方での赤字です
  • 理由は連動先の違い。装置は設備投資、ウェハーは流れる枚数に連動します
  • 300mmと200mmは別の市場で、装置も混在できません。450mmへの移行は事実上止まっています

参考・出典