半導体製造装置の世界シェアは、「1位はどこか」と一言で答えられるものではありません。工程ごとに強い企業がまったく異なるからです。

露光ではオランダの1社が独占し、洗浄やダイシングでは日本企業が首位に立つ。同じ「装置業界」でも、工程が違えば勢力図はまるで別物です。

この記事では、主要な工程ごとの世界シェアと首位企業を一覧で整理します。数値の出どころと読み方の注意点もあわせてまとめました。個別の装置については、それぞれの詳細記事へのリンクをたどってください。

工程別・世界シェア一覧【前工程】

まず、ウェハーに回路を作り込む前工程です。

工程・装置 首位企業 シェアの目安
露光(EUV) ASML(蘭) 実質100%(EUVは独占)
コータ・デベロッパ 東京エレクトロン(日) 世界1位(同社公表)
エッチング Lam Research(米) 最大手(TELはプラズマで2位)
成膜(バッチ) 東京エレクトロン(日) 世界1位(同社公表)
洗浄(枚葉式) SCREEN(日) 約42%(同社公表)
熱処理・拡散炉 東京エレクトロン(日) 世界1位(同社公表)
CMP Applied Materials(米) 荏原は世界2位とされる

前工程は、露光を除けば日本企業と米国企業が競り合う構図です。とくに東京エレクトロンは複数の工程で首位を占めています。

工程別・世界シェア一覧【後工程】

次に、チップを切り出して製品に仕上げる後工程です。

工程・装置 首位企業 特徴
ダイシング ディスコ(日) 研削とあわせ世界的大手
封止(モールド) TOWA(日) 世界トップシェア
ボンディング ASMPT、Besi、K&S(海外) 海外勢が優勢

後工程は、切る・削る・封止するといった精密加工で日本企業が強い一方、ボンディングだけは海外勢が優勢という特徴があります。次世代のハイブリッドボンディングでも、オランダのBesiなどが先行しています。

後工程を担う企業の売上規模や得意領域は、後工程装置メーカー一覧で詳しく扱っています。

工程別・世界シェア一覧【検査・計測】

各段階で使われる検査・計測装置です。

工程・装置 首位企業 特徴
欠陥検査・計測 KLA(米) この分野の圧倒的大手
測長SEM(CD-SEM) 日立ハイテク(日) 世界トップシェア
EUVマスク検査 レーザーテック(日) 世界唯一の供給者
テスタ アドバンテスト(日) Teradyneと二強
プローバ 東京エレクトロン(日) 世界1位(同社公表)

検査・計測は、欠陥検査のKLAを除けば日本企業が数多く首位を占める領域です。とくにレーザーテックのEUVマスク検査は、代替のいない独占的な地位にあります。

複数の工程で上位に入る企業の背景は東京エレクトロン(TEL)とは?で解説しています。

一覧から見えてくる3つの構図

①「1位」は工程ごとにばらばら

ここまでの表を通して見ると、首位企業が工程ごとに入れ替わることが分かります。ASML、東京エレクトロン、Lam Research、SCREEN、ディスコ、TOWA、KLA、レーザーテック、アドバンテスト——どの1社も、すべての工程を制してはいません。

これは、工程ごとに求められる技術がまったく異なるためです。露光の光学技術と、洗浄の薬液技術と、ダイシングの機械加工技術は、別物です。1社がすべてを極めることは現実的ではありません。

②日本は「面」で強い

売上規模の世界ランキングでは、日本企業は東京エレクトロンが4位に入るだけです。しかし工程別に見ると、日本企業が首位を占める領域は洗浄、熱処理、ダイシング、封止、テスタ、プローバ、測長SEM、マスク検査と多岐にわたります。

突出した1社ではなく、多くの工程に強い企業が分散して存在するのが日本の特徴です。売上の順位だけでは、この厚みは見えてきません。

③弱点も明確

強みだけでなく、日本勢が苦戦する領域もはっきりしています。露光とボンディングです。露光は最先端をASMLに独占され、ボンディングは海外勢が優勢です。次世代技術の主戦場となるハイブリッドボンディングで海外が先行している点は、注視すべき課題といえます。

日本企業の全体像は日本の半導体製造装置メーカー一覧で、売上規模の順位は半導体製造装置メーカー世界ランキング2026で解説しています。

シェアの数字を読むときの注意点

この記事に限らず、装置のシェアを扱う際には注意が必要です。数字が資料によって食い違うことがよくあるからです。理由は主に3つあります。

①集計範囲が違う

「エッチング装置のシェア」といっても、絶縁膜向けと導体向けを合算するか分けるかで数字は変わります。「洗浄装置」も、枚葉式だけを見るか全体を見るかで首位や比率が動きます。何を母数にした数字なのかを確認する必要があります。

②対象年が違う

シェアは毎年変動します。ある年の数字と別の年の数字を並べても、正しい比較にはなりません。とくに近年は市場の変動が大きく、いつ時点のシェアかが重要です。

③調査機関が違う

シェアを算出する調査機関は複数あり、集計方法も一様ではありません。同じ工程でも、機関によって数値が異なることは珍しくありません。この記事では、企業自身が公表している数値を優先して掲載しています。数値に幅がある場合は「約」や「とされる」と表記しました。

シェアが「動く」ときはどんなときか

各工程の勢力図は安定していますが、まったく動かないわけではありません。シェアが変わるのは、次のような転換点です。

①技術の世代が変わるとき

最も大きな変化は、技術の世代交代で起こります。露光がその典型です。かつてニコンとキヤノンが主導していた露光装置は、EUVという新世代への移行でASMLに逆転されました。既存技術での順位が、次世代では通用しなかった例です。

同じことは他の工程でも起こりえます。新しい方式が主流になるとき、既存の強者が必ずしも勝ち続けるとは限りません。ハイブリッドボンディングのような次世代技術で誰が主導権を握るかは、今後のシェアを左右します。

②新しい需要が生まれるとき

これまでにない用途が立ち上がると、それに対応した企業のシェアが伸びます。AI向け半導体の登場で、テスタや研削・切断、平坦化の装置需要が急増しました。アドバンテストやディスコが業績を大きく伸ばしたのは、この新需要を捉えたためです。

③政策が介入するとき

市場原理だけでなく、政策もシェアを動かします。輸出規制で先端装置を入手できなくなった国では、国産装置への置き換えが進みます。中国メーカーの成長は、この政策要因が大きく働いた例です。技術や価格だけでは説明できない動きが起こります。

なぜ寡占が崩れにくいのか

各工程の首位企業は、長年その座を守り続けています。新規参入で勢力図が一変することは、めったに起こりません。理由は装置産業に共通する構造にあります。

  • 乗り換えコストが高い:装置を替えると製造条件を作り直す必要があり、歩留まりが安定するまで時間がかかる
  • 技術の蓄積が壁になる:長年のノウハウは短期間で追いつけない
  • 継続的な投資が必要:微細化のたびに装置も進化させる必要があり、規模が物を言う

一度築かれた地位が守られやすいこの構造が、工程ごとの寡占を生んでいます。ただし例外もあります。中国メーカーの台頭です。輸出規制を背景とした国産化により、成膜や熱処理といった領域で中国勢が成長しています。市場全体の動きは半導体製造装置の市場規模と今後の予測、規制の影響は半導体製造装置の輸出規制とは?で解説しています。

✍️ ひとこと

工程ごとに顔ぶれが入れ替わるのが、この一覧の面白いところです。

どの工程にも「ここは譲らない」という企業がいます。総合力で勝つ会社と、一点で勝つ会社。どちらの戦い方もあると分かるのは、励みになる話だと感じます。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

結局、世界シェア1位の装置メーカーはどこですか?

「装置全体」で最も売上が大きいのはASML、Applied Materials、Lam Research、東京エレクトロン、KLAといった企業です。ただし工程別のシェアは別問題で、洗浄ならSCREEN、封止ならTOWAというように首位が変わります。「売上の順位」と「工程別のシェア」は分けて考える必要があります。

日本のシェアは低下しているのですか?

工程によります。長く維持している分野がある一方、露光のように大きくシェアを失った分野もあります。また、円安の影響でドル換算の数字が小さく見える点にも注意が必要です。

シェアの最新データはどこで見られますか?

各企業のIR資料や統合報告書、調査機関のレポートで確認できます。企業が自ら公表する製品別シェアは、比較的信頼性の高い情報源です。

ハイブリッドボンディングのシェアはどうなりますか?

まだ市場が本格的に立ち上がる前の段階です。現時点ではBesiなどが先行していますが、各社が開発を競っており、今後の勢力図は流動的です。

まとめ

  • 装置のシェアは工程ごとに首位が異なり、全工程を制する企業は存在しない
  • 前工程は露光をASMLが独占、他は日米が競合
  • 後工程は日本勢が強いが、ボンディングは海外が優勢
  • 検査・計測は欠陥検査のKLAを除き、日本企業が数多く首位を占める
  • 日本は突出した1社ではなく、多くの工程に強い企業が分散する「面」の強さ
  • シェアの数字は集計範囲・対象年・調査機関で変わるため、出どころの確認が重要

装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説をご覧ください。

参考・出典