CD-SEM(測長SEM)とは?仕組みと世界シェア|日立ハイテクが強い理由
半導体の回路は、設計どおりの寸法で作られているとは限りません。ほんのわずかな線幅のずれが、性能や歩留まりを左右します。
その線幅を測るための装置が、測長SEM(CD-SEM)です。半導体づくりの「ものさし」にあたる存在で、この分野では日本の日立ハイテクが世界シェアの大半を握っています。
この記事では、CD-SEMの仕組みを電子顕微鏡の原理から解説し、なぜ「測る」だけの装置がこれほど重要なのか、そして日立ハイテクが強い理由までを扱います。
CD-SEMとは
CD-SEMは、Critical Dimension Scanning Electron Microscope(臨界寸法走査型電子顕微鏡)の略です。ウェハー上に形成された回路パターンの寸法(線幅)を測定することに特化した装置です。
「CD」は Critical Dimension、つまりその製品にとって決定的に重要な寸法を意味します。トランジスタのゲート幅など、性能を直接決める箇所の寸法が対象です。
検査装置の中での位置づけについては半導体検査装置とは?種類と世界シェアで解説しています。CD-SEMは、欠陥を見つける検査ではなく、寸法を測る計測(メトロロジー)に分類されます。
なぜ光学顕微鏡ではなく電子顕微鏡なのか
物を拡大して見るなら、まず光学顕微鏡が思い浮かびます。しかし半導体の計測には使えません。理由は光の波長にあります。
光には波長があり、それより小さいものは原理的に見分けられません。可視光の波長は数百ナノメートルです。一方、最先端の半導体では20ナノメートルを切るパターンが使われます。光学顕微鏡では、そもそも見えないのです。
そこで使われるのが電子です。電子を波として見たときの波長は、光よりもはるかに短くなります。電子線を使えば、ナノメートル級の微細な構造まで観察できます。「見えないものを見る」ために、光を電子に置き換えたのが電子顕微鏡です。
CD-SEMの仕組み
CD-SEMは、走査型電子顕微鏡(SEM)の技術を、寸法計測用に特化させた装置です。測定の流れは次のようになります。
- 細く絞った電子ビームを、ウェハー表面に照射する
- ビームを少しずつ動かし、パターンの上を走査する
- 表面から放出される二次電子を検出する
- 二次電子の信号を画像化する
- パターンのエッジ(端)の位置を特定し、寸法を算出する
ポイントは、パターンのエッジ部分で二次電子の信号が強くなることです。端の部分では電子が放出されやすく、信号がピークを描きます。この信号の立ち上がりから、エッジがどこにあるかを厳密に割り出します。
また、CD-SEMは比較的低い加速電圧の電子ビームを使います。強すぎるビームを当てると、測定対象であるレジストなどを傷めてしまうためです。測るために対象を壊してしまっては意味がありません。非破壊で測れることが、量産ラインで使える条件になっています。
「測るだけ」の装置がなぜ重要なのか
CD-SEMは、加工をするわけでも、不良を弾くわけでもありません。ただ寸法を測るだけです。それでも最重要装置のひとつとされるのは、測定結果が製造条件そのものを制御しているからです。
①露光・エッチングの条件管理
線幅は、露光やエッチングの条件がわずかにずれるだけで変わります。CD-SEMで線幅を測り、目標からのずれを把握することで、装置の条件を微調整できます。測定は、工程を正しく保つためのフィードバックの起点です。この仕組みはインライン検査とAPCでくわしく解説しています。
②OPCを支える
微細化が進むと、設計したパターンどおりには露光できなくなります。光の回り込みなどで、角が丸くなったり線が細ったりするためです。
これを補正するため、あらかじめマスクのパターンを変形させておく技術がOPC(光学的近接補正)です。どれだけ変形させれば設計どおりに仕上がるか——その調整には、実際に出来上がった寸法のデータが欠かせません。CD-SEMの測定データが、この補正を支えています。
③歩留まりの安定化
寸法のばらつきは、そのまま性能のばらつきになります。狙った寸法で安定して作れているかを監視することが、歩留まりの維持に直結します。
「測る」ことは、単なる確認ではなく、製造をコントロールする行為なのです。日立ハイテクの資料でも、最終製品としての半導体が優れているかどうかは測長SEMの性能次第だと説明されています。
驚異的な精度|水素原子1個分の世界
CD-SEMに求められる精度は、想像を超えています。
単に細かく測れればよいわけではありません。複数の装置で測っても、同じ結果が出なければならないのです。工場には多数のCD-SEMが並び、どの装置で測っても判断が一致する必要があります。装置ごとに結果が違えば、条件管理そのものが成り立ちません。
この「装置間の測定差(機差)」に対する要求は、極めて厳しいものです。日立ハイテクの資料によれば、機差を0.1ナノメートルに抑えるという要求があります。これは水素原子1個分に相当する大きさです。
原子1個分のレベルで、複数の装置の測定を揃える。ここに、この装置の技術的な凄みがあります。同社は新型機で、この機差を0.1ナノメートルに抑えることに成功したとしています。
世界シェアと日立ハイテク
CD-SEMは、日本企業が圧倒的な地位を占める数少ない分野のひとつです。
日立ハイテクは、この測長SEMで世界トップシェアを維持しています。同社は1984年に最初の測長SEMを市場に投入して以来、この分野を主導してきました。前身が1972年に開発した電界放出型SEMの技術を応用し、低加速電圧での計測を実現したことが基盤になっています。
なぜ日立ハイテクは強いのか
①40年の技術蓄積
1984年からの積み重ねは、簡単に追いつけるものではありません。電子ビームの制御、二次電子の検出、エッジ判定のアルゴリズムなど、あらゆる要素に長年のノウハウが詰まっています。
②微細化とともに歩んだ
半導体の微細化が進むたびに、より高い精度が求められてきました。日立ハイテクは顧客の最先端開発に寄り添いながら装置を進化させ、その過程で技術と信頼を蓄積しました。
③「ものさし」だからこそ替えにくい
計測装置は、基準そのものです。装置を替えれば測定値が変わりかねず、これまでの管理データとの連続性が失われます。基準を提供する装置は、いったん採用されると替えにくい——この構造が地位を支えています。
各社の売上規模は半導体製造装置メーカー世界ランキング2026で比較しています。日立ハイテクは、測長SEMのほか、エッチング装置や欠陥検査装置も手がけています。
欠陥の正体を確認するSEMについてはレビューSEMとは?をご覧ください。
SEM系の装置は役割で使い分けられている
半導体の現場では、SEM(走査型電子顕微鏡)の技術を使った装置が複数登場します。混同されやすいので、役割の違いを整理しておきます。
| 装置 | 主な目的 | 何を出力するか |
|---|---|---|
| CD-SEM(測長SEM) | パターンの寸法を測る | 線幅などの数値 |
| レビューSEM | 欠陥の正体を拡大確認する | 欠陥の画像・分類 |
| 電子ビーム検査装置 | 微細な欠陥を検出する | 欠陥の位置 |
| 汎用SEM(研究用) | 試料を観察する | 拡大画像 |
いずれも「電子ビームを当てて二次電子を見る」という原理は共通しています。違いは、何のために使い、何を出力するかです。CD-SEMは「測る」ことに、レビューSEMは「正体を確かめる」ことに、それぞれ最適化されています。
同じSEM技術でも、量産ラインで自動的に大量のウェハーを測るCD-SEMと、じっくり観察する研究用のSEMでは、求められる性質がまったく異なります。速く、正確に、繰り返し、人手をかけずに測る——量産用の計測装置には、こうした条件が課されます。
高さや側壁の形を捉える手法については傾斜SEM(Tilt SEM)とは?で解説しています。
CD-SEMの今後
微細化と構造の複雑化により、計測の難易度は上がり続けています。
とくに課題となっているのが、立体構造の計測です。従来のトランジスタは平面的でしたが、現在はGAA(ゲートオールアラウンド)のように立体化しています。3D NANDのように深い穴を持つ構造も一般的です。
上から電子ビームを当てるCD-SEMにとって、「高さ」や「深さ」、そして表面から見えない内部の寸法をどう測るかは大きな課題です。斜めから観察する手法や、他の計測技術と組み合わせるアプローチが進められています。「測る」技術もまた、微細化とともに進化を続けています。
機差0.1nm。水素原子1個分という表現を書きながら、実感が追いつきませんでした。
「測るだけ」の装置がこれほど作り込まれているのは、測れないものは作れないからです。ものづくりの基本が、極端な形で現れている分野だと思います。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
CD-SEMと普通の電子顕微鏡は何が違うのですか?
基本原理は同じですが、CD-SEMは寸法を正確に測ることに特化しています。量産ラインでの使用を前提に、非破壊性、測定の再現性、装置間の一致、自動化などが徹底的に作り込まれている点が異なります。
測長SEMとレビューSEMは同じですか?
どちらもSEM技術を使いますが、目的が違います。測長SEM(CD-SEM)は寸法を測る装置、レビューSEMは欠陥検査で見つかった箇所を拡大して正体を確認する装置です。役割が分かれています。
なぜ日本企業が強いのですか?
電子顕微鏡技術の長い蓄積があり、微細化の各段階で顧客と技術を磨いてきたためです。計測は基準を提供する領域であり、信頼と実績がそのまま競争力になります。
CD-SEMは1台どのくらいの価格ですか?
装置の世代や仕様によりますが、先端向けの計測装置は高額です。高い精度と再現性を実現するために、電子光学系や制御系に高度な技術が投入されているためです。
まとめ
- CD-SEM(測長SEM)は、回路パターンの線幅を測る半導体の「ものさし」
- 光の波長より小さいパターンを見るため、光ではなく電子線を使う
- 二次電子の信号からパターンのエッジを特定し、寸法を算出する
- 測定データは露光・エッチングの条件管理やOPCに使われ、製造を制御する
- 装置間の機差を0.1ナノメートル(水素原子1個分)に抑える精度が求められる
- 日立ハイテクが1984年以来、世界トップシェアを維持している
装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説、欠陥を見つける検査についてはウェハー欠陥検査装置の仕組みとは?をご覧ください。
参考・出典
- 日立製作所 研究開発「世界トップシェアの測長SEMで最先端半導体の開発を下支えする」
- 半導体歴史館「測長SEM(CD-SEM)」
- 一般社団法人日本半導体製造装置協会(SEAJ)「半導体製造装置分類表」