OCD計測の処理シーケンスを完全解説|”見ずに測る”光の指紋照合スキャトロメトリ
「装置の中のシーケンス」続編第6弾はOCD(光学式寸法計測、スキャトロメトリ)——#17のCD-SEMの最後に「光で寸法を測る方法もある」と触れた、その装置です。
CD-SEMは電子線でパターンを「見て」測りました。OCDは発想が根本から違います——パターンを一切「見ません」。光を当てて、反射の”指紋”から形を推理するのです。像を結ばずに寸法を出す、計測装置の中でも最も頭脳派の仕組みを見ていきましょう(検査・計測の全体像は検査・計測装置の記事)。
全体像 — 照らして、指紋を採って、推理する
ロード・アライメント → スクライブライン上の専用ターゲット(格子パターン)へ移動 → → 光を照射しスペクトル(反射の指紋)を取得(数秒・非破壊) → → 光学モデルと照合(逆問題を解く) → 線幅・高さ・側壁角・膜厚を同時に出力 → → 多点測定でウェハマップ → APCへフィードバック
ステップ①: 測る場所は「専用の格子」 — 実パターンは測らない
OCDが測るのは、回路パターンそのものではありません。チップとチップの間の切りしろ(スクライブライン)に、計測専用の繰り返しパターン(格子状のターゲット)があらかじめ作り込まれており、そこへ光を当てます。数十μm角の小さなパッドですが、実パターンと同じプロセスで作られるため、ターゲットの寸法は実パターンの寸法を代表する——という前提で成り立つ計測です。
ステップ②: スペクトル取得 — 反射光は形の「指紋」
規則正しく並んだ微細な格子は、光にとって回折格子として振る舞います。ここに広い波長範囲の光を当てると、反射光の強度は波長ごと・偏光ごとに複雑に変化する——そしてこの変化のパターンは、格子の線幅・高さ・側壁の傾き・下地の膜厚に極めて敏感です。つまり反射スペクトルは、構造の「指紋」。線幅が1nm変われば、指紋も目に見えて変わります。
測定自体は数秒。光を当てるだけなので完全非破壊で、CD-SEM(#17)を悩ませたシュリンクも帯電も起きません。「観測が対象を変える」問題から自由——これがOCD最大の強みのひとつです。
ステップ③: 指紋照合 — 「逆問題」を解いて形を当てる
ここがOCDの頭脳です。スペクトルから形を直接計算することはできません。できるのは逆——「この形ならこの指紋になるはず」という光学シミュレーションです。そこで装置はこう推理します。
- 格子の断面形状を、線幅・高さ・側壁角・膜厚などのパラメータで表すモデルとして定義する
- パラメータを振りながら、電磁気学の計算で理論スペクトルを大量に生成する(事前計算のライブラリ、または実時間計算)
- 実測スペクトルと最も一致する理論スペクトルを探し、そのときのパラメータを「答え」として出力する
いわば指紋データベースとの照合で犯人(形状)を特定する方式。近年はこの照合に機械学習も使われます。答えが出れば、線幅だけでなく高さ・側壁の傾き・下地膜厚まで一度に手に入る——上から見るCD-SEMには原理的に見えない「断面の情報」を、切らずに得られるのです(断面を切って見る世界は断面SEMの記事)。
ステップ④: モデルという急所 — 「仮定した形しか出てこない」
ただしこの推理には急所があります。答えは、モデルが仮定した形の範囲でしか出てこないのです。想定外の形状(モデルにない出っ張りや荒れ)が起きていても、装置は「最も近い仮定の形」を答えてしまう。だから新しい構造・新しい材料が来るたびに、モデルの作り込み(どのパラメータを動かし、どれを固定するか)という職人仕事が発生します。
FinFETやGAAのような立体トランジスタの時代、「高さ」「傾き」「埋め込み深さ」を非破壊で測れるOCDの価値は爆発的に高まりました。同時にモデルは複雑化の一途——OCDの精度は、光学系の性能と同じくらい「モデルの出来」で決まる時代です。
ステップ⑤: CD-SEMとの分業 — 疑い合って、補い合う
ではCD-SEMとOCD、どちらが優れているのか。答えは「役割が違う」です。
- OCD: 高速・非破壊・3D情報。ただし専用ターゲット限定で、モデル依存。量産の常時監視向き
- CD-SEM: 実パターンの任意の場所を直接測れる。ただし遅く、シュリンクの問題。基準づくりと個別確認向き
実際の工場では、CD-SEMや断面解析でOCDのモデルを校正し、量産の大量測定はOCDが引き受けるハイブリッド運用が標準です。#17で見た「ものさし自身の校正」が、ここでは装置間の相互校正として現れます。
ステップ⑥: データの行き先 — 装置に組み込まれる計測へ
OCDの測定値も、CD-SEM(#17)と同じくAPC(先進プロセス制御)に流れ込みます。むしろ高速なOCDはAPCの主力データ源で、エッチング後の形状ズレを次ロットの条件補正に返す、成膜の膜厚トレンドを監視するといったループが常時回ります。さらに進んで、エッチャーや成膜装置の中に計測ユニットごと組み込む「統合計測」も広がっています——処理したその場で測り、その場で補正する。計測装置が独立した装置であることをやめ、プロセス装置の「感覚器」になっていく流れです。この分野はKLA、Nova、Onto Innovationといった海外勢が主要プレイヤーです。
調べていて印象に残ったのは、「答えは仮定の範囲でしか出ない」という割り切りです。見ずに測る代償として、モデルにない現実は写らない——それでも速さと非破壊が量産では正義になる。計測にも設計思想の選択があるのでした。
電子線で見て測るCD-SEM、光の指紋で推理するOCD。ナノの寸法管理は、性格の違う2人の探偵の共同捜査で成り立っています。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
Q. なぜ「見る」ことができないのに寸法がわかるのですか?
A. 規則正しい格子パターンの反射スペクトルが、構造の寸法に極めて敏感に依存するためです。形を仮定した光学シミュレーションと実測スペクトルを照合する「逆問題」を解くことで、像を結ばずにnm精度の寸法を推定できます。
Q. 専用ターゲットの寸法は、本当に実パターンを代表できるのですか?
A. 同じプロセスで同時に作られるため強い相関がありますが、パターン密度の違いによる仕上がり差(疎密差)は存在します。そのため実パターンとの対応はCD-SEMや断面解析で定期的に確認し、補正して運用されます。近年は実パターンに近い密度のターゲット設計も進んでいます。
Q. エリプソメトリ(膜厚計)とは何が違うのですか?
A. 原理は親戚です。エリプソメトリは平坦な膜の厚さ・光学定数を偏光の変化から求める計測で、OCDはそれを立体格子パターンに拡張し、電磁界シミュレーションと組み合わせて断面形状まで推定します。「膜を測る」の発展形が「形を測る」になったと考えると分かりやすいです。
Q. 統合計測(インテグレーテッドメトロロジー)のメリットは何ですか?
A. 処理直後にその場で測れるため、搬送や待ち時間なしに異常を検知し、ウェハ単位・チャンバー単位での即時補正が可能になる点です。独立計測機への搬送が減ることでサイクルタイムも短縮されます。一方で装置内スペースや校正管理の難しさとのトレードオフがあります。
まとめ
- OCDは専用格子ターゲットの反射スペクトル=「光の指紋」から形を推理する、見ずに測る計測
- 照合は逆問題——形を仮定した理論スペクトルとの一致探索。線幅に加え高さ・側壁角・膜厚まで同時に得られる
- 強みは高速・非破壊・シュリンクフリー・3D。急所はモデル依存——仮定にない現実は写らない
- CD-SEMと相互校正し合うハイブリッド運用が標準。量産監視はOCD、基準づくりはCD-SEM
- APCの主力データ源として、さらにプロセス装置内蔵の統合計測へ。計測は装置の「感覚器」になりつつある
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