エッチング装置のチャンバーを開けると、ウェハーを載せる台の外周に、ドーナツ型の部品がはめ込まれています。直径はウェハーよりひと回り大きく、それ自体は回路を作りません。

名前はフォーカスリング。プラズマに削られることを前提に置かれた部品で、すり減ったら交換されます。

地味な消耗品ですが、この部品の世界には1社が世界シェア約8割(2020年の自社公表)を持つ素材があります。東海カーボングループのソリッドSiC製リングです。ここでは、フォーカスリングが何を守っているのか、なぜ素材がシリコンからSiCへ移ったのか、そして誰が作っているのかを、装置の視点で整理します。エッチング装置そのものの仕組みはエッチング装置とはで扱っています。

※2026年10月時点で公開されている各社資料・報道に基づきます。シェアは各社の公表値で、年次が異なるものを含みます。

フォーカスリングはどこにある部品か

ドライエッチングでは、真空のチャンバー内でガスをプラズマにし、イオンを加速させて薄膜を削ります。ウェハーは静電チャックの上に吸着され、その外周を囲むように置かれるのがフォーカスリングです。

東海カーボンは、この部品の目的を次の2つと説明しています。

目的 中身
プラズマをウェハーに集中させる ウェハーの端まで、中心と同じ条件で加工できるようにする
装置を守る プラズマによる消耗を、チャンバー側ではなくリングが引き受ける

つまりフォーカスリングは、ウェハーの代わりに外周で削られる役を担っています。台座そのものの役割は静電チャックとは?で解説しています。

なぜウェハーの「端」に専用の部品が要るのか

理由は、プラズマとウェハーの境目にできる「シース」と呼ばれる層の形にあります。

イオンはシースを通る間に加速され、ウェハー面に対して垂直に飛び込みます。ところがウェハーの端では段差があるため、シースが曲がります。TSMCの特許は、この曲がりによって端ではイオンが斜めに入り、エッチングが斜めに進むと説明しています。斜めに掘られた穴は下の層にきちんと届かず、その位置から切り出したチップは動かなくなるおそれがあります。

フォーカスリングは、ウェハーの外側に「続きの面」を作ってシースを平らに保つための部品です。端まで同じ角度でイオンが届けば、ウェハー1枚から取れる良品の数が増えます。

ウェハーの縁そのものの処理はウエハー端面(ベベル)の処理とは?で扱っています。

すり減ることが、そのまま性能の劣化になる

フォーカスリング自身も、プラズマに晒され続けて削られます。

同じTSMCの特許には、シリコン製リングの厚みが約400時間で約0.2mm減る例が書かれています。わずかな減り方ですが、リングの上面が下がればシースの形がまた崩れ、端のエッチングに悪影響が出ます。

ここに、この部品の難しさがあります。

  • 形が変わると加工が変わる:寸法が性能そのものなので、削れ具合を管理しなければならない
  • 削れた分はゴミになる:東海カーボンの1996年出願の特許は、プラズマ耐性が足りないリングは寿命が短く、消耗に伴ってパーティクルを出すと指摘している
  • 電気的な性質も合わせる:韓国の電子新聞は、装置メーカーごとに異なる比抵抗の規格に合わせることが核心技術だという業界関係者の声を伝えている

削られる前提の部品でありながら、削られ方まで設計しなければならない。単なる「外周の飾り」ではない理由がここにあります。

素材はカーボン、シリコン、そしてSiCへ

東海カーボンの2020年の統合報告書は、フォーカスリングの素材の移り変わりを次のように示しています。

時期 主な素材 背景
1990年代 グラッシーカーボン アモルファスカーボンの耐プラズマ性の不足を補う
2000年代 シリコン、石英 報告書が「従来の主な素材」と位置づける世代
2010年代〜 ソリッドSiC エッチング回数とプラズマ出力の増加に耐える

転機は3D NANDのような積層構造です。深い穴を何度も掘るため、エッチングの回数が増え、プラズマの出力も上がりました。シリコンや石英では消耗が早すぎるようになり、耐プラズマ性に優れるSiCへの切り替えが進みました。

ソリッドSiCとは、CVD法で作った超高純度の多結晶SiCです。通常、部材の表面に付けるSiCコーティングは約100µm(0.1mm)ですが、東海カーボンはこれを厚く積み上げ、部品全体をSiCにしています。黒鉛の部材にSiCを薄く被せたものとは別物で、削られても中から別の材料が出てきません。

寿命の差について、電子新聞の2017年の記事は、SiCリングの寿命はシリコンリングの約1.5倍で、交換周期はSiCが約2週間、シリコンが約10日だと伝えています。使用条件で変わる数字ですが、交換のたびに装置を止めてチャンバーを清掃し直すことを考えると、この差は小さくありません。石英やシリコンとSiCの性質の違いは石英・セラミック部材とは?でも比べています。

誰が作っているのか

フォーカスリングを含むエッチング用の消耗部品は、素材ごとに顔ぶれが分かれます。

企業 拠点 主な素材 特徴
東海カーボン(韓国東海カーボン) 日本・韓国 ソリッドSiC 2013年に商用化。2020年の統合報告書で世界シェア約80%と公表
Hana Materials 韓国 シリコン、SiC 主要顧客は東京エレクトロン。同社が第2位株主(2021年の報道)
Silfex 米国ほか シリコン ラムリサーチの子会社。精密シリコン部品を供給
フェローテック、クアーズテック、KNJ 日本・米国・韓国 SiC 2017年時点でSiCリングの生産設備を新設・増設

東海カーボンは、2002年に韓国東海カーボンにCVD炉を導入し、2006年に開発を始め、2013年に商用化しました。先行者として装置メーカーとデバイスメーカーの両方に認められたことが、いまのシェアにつながっています。

装置メーカーとの距離が近いのも、この業界の特徴です。Hana MaterialsはTELが大株主で、Silfexはラムリサーチの子会社です。リングは装置ごとに形と電気特性が決まるため、装置の設計と部品の供給が切り離せないからだと考えられます。TELの事業全体は東京エレクトロン(TEL)とは?で扱っています。

交換をどう減らし、どう速くするか

消耗品である以上、交換はなくなりません。装置メーカーが取り組んでいるのは、交換の回数と、止まる時間を減らすことです。

  • 長寿命の素材を使う:SiC化はその代表で、東海カーボンは交換時のダウンタイムやロスが減ると説明している
  • 真空を破らずに交換する:アプライドマテリアルズの特許には、処理システムの真空を保ったままエッジリングを入れ替える方式が書かれている
  • 減った分を補正する:TSMCの特許のように、端のシースを調整して均一性を保つ方式も提案されている

チャンバーを大気に開ければ、真空を引き直し、状態を確認するまで生産は止まります。リングの交換は、装置の稼働率を左右する作業でもあります。

消耗品ビジネスとしての強さと弱さ

フォーカスリングは装置が1台売れて終わりではなく、装置が動くかぎり買い続けられる部品です。需要は装置の新規導入よりも、エッチングの回数と稼働の度合いに連動します。

東海カーボンのファインカーボン事業の売上は、2012年の138億円から、2023年には520億円を見込むまでに伸びました(2023年7月時点の資料)。同社は「メモリ用半導体の製造装置部材Solid SiC製フォーカスリングでは圧倒的な地位を築き」と説明し、中期経営計画では日本と韓国でCVD炉の増強を進めています。

一方で、強みは偏りでもあります。主な用途がメモリ向けのエッチングであるため、メモリメーカーの稼働が落ちれば需要も落ちます。韓国勢の参入や、シリコンとSiCの使い分けの変化も、シェアを揺らす要因になります。

✍️ ひとこと

調べていて印象に残ったのは、フォーカスリングが「削られるために置かれ、削られ方まで設計される」部品だということです。ウェハーの端を守るために、自分の形を少しずつ差し出している。消耗品という言葉の印象より、ずっと手の込んだ役回りでした。

回路を作らない部品が、回路の歩留まりを支えている。装置の中には、こうした脇役の工夫がいくつも隠れています。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

フォーカスリングとエッジリングは違うものですか?

ほぼ同じ部品を指して使われることが多い呼び名です。ウェハーの外周に置かれ、端のプラズマの状態を整えるリングを、装置メーカーや文献によってフォーカスリング、エッジリングと呼び分けています。

なぜウェハーと同じシリコンから、別の素材のSiCに変わったのですか?

3D NANDなどでエッチングの回数とプラズマの出力が増え、シリコンや石英では消耗が早くなったためです。SiCは耐プラズマ性に優れ、交換の回数を減らせます。

どれくらいの頻度で交換するのですか?

装置と工程の条件で大きく変わります。2017年の韓国の報道では、SiCリングで約2週間、シリコンリングで約10日という目安が紹介されています。

ソリッドSiCとSiCコートは何が違うのですか?

SiCコートは黒鉛などの部材の表面に約0.1mmのSiC膜を付けたものです。ソリッドSiCはCVD法でSiCを厚く積み上げ、部品全体をSiCにしたもので、削られても中から別の材料が出てきません。

まとめ

  • フォーカスリングは、エッチング装置でウェハーの外周を囲むドーナツ型の消耗部品
  • 役割はプラズマをウェハーに集中させることと、消耗から装置を守ること
  • ウェハーの端ではシースが曲がり、イオンが斜めに入る。リングは外側に面を作ってそれを防ぐ
  • リング自身も削られ、シリコン製では約400時間で約0.2mm減る例がある。寸法の変化がそのまま加工の変化になる
  • 素材はグラッシーカーボン、シリコン・石英を経て、3D NANDの時代にソリッドSiCへ移った
  • ソリッドSiCの世界シェアは東海カーボングループが約80%(2020年の自社公表)
  • Hana MaterialsはTEL、Silfexはラムリサーチと結びつきが強く、装置と部品の供給が切り離せない
  • 需要は装置の新規導入より稼働に連動する。メモリ向けへの偏りは強みであり弱みでもある

エッチングの工程全体の流れはエッチング工程の流れを完全解説、装置の内側の動きはドライエッチャーの処理シーケンスで解説しています。

参考・出典