東京エレクトロンは、日本最大の半導体製造装置メーカーです。2026年3月期の売上高は2兆4,435億円、世界で4番目の規模になります。

ただ、この会社を「大きい」だけで理解すると本質を外します。

特徴的なのは強い工程の選び方です。最も注目される露光装置は作りません。それでいて露光工程には不可欠な存在になっています。

そして出発点も異色です。1963年、テレビ局の出資で生まれた会社でした。

この記事では、工程別の強さ、その配置が生まれた理由、そして企業としての構造を解説します。装置メーカー全体の順位は半導体製造装置メーカー世界ランキング2026をご覧ください。

テレビ局から始まった|1963年の出発点

東京エレクトロンの設立は1963年11月11日です。

興味深いのは、その母体です。同社は東京放送(TBS)の出資により、「株式会社東京エレクトロン研究所」として設立されました。

放送局が、後に世界4位の半導体製造装置メーカーになる会社を生んだことになります。

当初は自社で装置を作っていたわけではありません。海外製の装置を輸入し、日本の顧客へ届けることから始まりました。技術を扱う商社としての出発です。

この出自は、いまも同社の性格に影響しています。

  • 顧客が何に困っているかを、売る立場から知っていた
  • 装置を納めた後の据付や保守を、自ら担ってきた
  • だから販売とサービスの層が厚い

装置は売って終わりではありません。10年以上稼働し、その間ずっと保守が必要です。顧客との距離の近さは、商社として積み上げた資産といえます。

工程別に見る強さ

同社は自社の立ち位置を、製品ごとの世界順位として公表しています。

製品 世界順位 担う工程
塗布現像装置(コータ/デベロッパ) No.1 露光の前後
ガスケミカルエッチング装置 No.1 削る
プラズマエッチング装置 No.2 削る
拡散炉・バッチ成膜装置 — 熱処理・積む
メタル成膜装置 — 積む
プローバ — テスト

並べてみると、前工程の主要な工程を広く押さえていることが分かります。エッチング、成膜、熱処理、洗浄——さらに後工程のプローバまで手がけています。

そして、この一覧に露光装置がありません。

露光機を作らないのに、露光工程で不可欠

ここが、この企業を理解する鍵です。

露光装置は半導体製造で最も高額かつ注目される装置です。しかし東京エレクトロンは作っていません。

代わりに押さえているのが、その前後の工程です。

塗布現像装置とは何をするのか

露光の工程は、実際には3つの動作で成り立っています。

  1. 塗布:ウェハーにフォトレジストを均一に塗る
  2. 露光:光を当てて回路パターンを転写する(露光装置の仕事)
  3. 現像:光が当たった部分を溶かし、パターンを浮き上がらせる

このうち1と3を担うのが塗布現像装置です。露光装置は真ん中だけを受け持ちます。

2台は物理的につながっている

重要なのは、塗布現像装置と露光装置が直結して使われることです。

レジストを塗ったウェハーは、時間が経つと状態が変わります。塗ってから露光までの間隔は、短く、かつ一定でなければなりません。だから両者は接続され、ウェハーが自動で受け渡されます。

つまり露光装置が売れれば、塗布現像装置も必要になります。露光機を作らずとも、露光工程の拡大はそのまま需要になる構造です。

しかも接続する以上、露光装置メーカーとの綿密なすり合わせが要ります。いったん組み合わせが確立すれば、他社が割って入るのは容易ではありません。

最も派手な装置は作らない。その代わり、隣を確実に押さえる——結果として見れば、これは有効な配置でした。

なぜ複数の工程を押さえられるのか

装置メーカーの多くは、特定の工程に特化しています。そのなかで同社が幅広く展開できている理由を整理します。

①工程どうしは無関係ではない

エッチングと成膜は、対になる技術です。積む技術が進めば削る技術も進む必要があります。隣接する工程を持つことは、開発上の相乗効果を生みます。

②顧客が同じ

顧客は世界の半導体メーカーです。すでに取引があれば、別の工程の装置も提案できます。販売とサービスの網を、複数の製品で共有できるのは大きな利点です。

③規模が開発を支える

装置開発には巨額の資金が要ります。売上規模があるからこそ、複数分野に同時投資できます。

実際、同社は減益となる期でも研究開発費を増やしてきました。装置業界では、開発を止めた時点で次の世代に乗り遅れます。一時的な利益より、次の技術に投じる判断です。

数字で見る企業の姿

規模と構造を数字で確認します。

項目 数値(2026年3月期)
半導体製造装置売上高 2兆4,435億円
世界順位 4位
従業員数 単独2,436人/連結20,812人
資本金 549億6,119万円
開発拠点 14か所(日本4、韓国、台湾、シンガポール、米国、アイルランド)
展開地域 18の国と地域

1人あたりの売上高

連結の従業員数で売上を割ってみます。

2兆4,435億円 ÷ 20,812人 = 約1億1,700万円

従業員1人あたり1億円を超える売上です。装置1台が数億円という単価の高さが、この数字に表れています。

本体は全体の12%

もう一つ目を引くのが、単独と連結の差です。

2,436人 ÷ 20,812人 = 約12%

本社単体に在籍するのは、グループ全体の1割強にすぎません。製造や顧客対応の多くは、国内外のグループ会社が担っています。

この構造は、搬送機器のローツェ(単独362名/連結4,551名)とも共通します。日本の装置メーカーは、本社を小さく保ちながらグループで展開する形が多いといえます。

売った後に続く事業

装置メーカーの収益を語るとき、見落とされやすいのが納入後の事業です。

半導体製造装置は、納入後10年以上にわたって稼働します。その間、定期的な保守、部品の交換、性能を引き上げる改造が必要になります。

ここに構造的な違いが生まれます。

  • 新規の装置販売:半導体メーカーの設備投資に左右され、年ごとの振れが大きい
  • 納入後の保守・部品:すでに動いている装置の台数に比例して積み上がる

つまり過去に売った装置が多いほど、安定した収益源になります。装置業界で「累計の納入台数」が重視されるのは、このためです。

装置を輸入して届け、据え付け、面倒を見るところから始まった同社にとって、この領域は出発点そのものといえます。

顧客の隣で開発する

開発拠点の配置にも、同じ考え方が表れています。

同社の開発拠点は14か所。日本の4拠点に加え、韓国、台湾、シンガポール、米国、アイルランドにも置かれています。

装置は、納めればそのまま動くものではありません。顧客ごとに作るものが違い、求める条件も違います。顧客のプロセスに合わせ込む作業が必ず発生します。

そのため、主要な顧客がいる地域に開発機能を置く意味が出てきます。近くにいれば、課題を聞いてから手を動かすまでが速くなります。

海外勢との得意領域の違い

上位メーカーは、それぞれ異なる工程に強みを持っています。

企業 国 特に強い領域
アプライドマテリアルズ 米国 成膜を中心に総合的
ASML オランダ 露光(EUVを独占)
ラムリサーチ 米国 エッチング、成膜
東京エレクトロン 日本 塗布現像、エッチング、成膜、熱処理、洗浄

この配置を見ると、装置業界が正面からの全面競争ではないことが分かります。各社が譲れない領域を持ち、そこを軸に周辺へ広げています。

工程ごとの詳しいシェアは工程別・世界シェアまとめで解説しています。

✍️ ひとこと

いちばん意外だったのは、テレビ局の出資で生まれた会社だったことです。放送と半導体装置は、どう考えても遠い。

けれど輸入商社として顧客の困りごとを聞くところから始まり、やがて自分で作るようになった。「売る側にいたからこそ、何を作るべきかが見えた」——そう考えると、遠回りに見える出発点にも意味があったのだと感じます。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

東京エレクトロンは世界何位ですか?

同社は2026年3月期時点で半導体製造装置の売上高が世界4位と公表しています。日本企業としては最大です。ただし為替の影響を受けるため、ドル換算の順位は円相場によって変動します。

なぜ露光装置を作っていないのですか?

公表された理由はありませんが、結果として同社は露光の前後にあたる塗布現像装置で世界首位を占めています。両装置は接続して使われるため、露光工程の拡大はそのまま需要につながる構造です。

塗布現像装置とは何ですか?

ウェハーにフォトレジストを塗り、露光後に現像する装置です。露光装置と直結して使われ、レジストを塗ってから露光するまでの時間を一定に保つ役割も担っています。

アプライドマテリアルズとは何が違いますか?

得意な工程が異なります。アプライドマテリアルズは成膜を中心に幅広く展開し、東京エレクトロンは塗布現像で首位、エッチングや熱処理、洗浄にも強みを持ちます。

まとめ

  • 東京エレクトロンは1963年設立。東京放送の出資で「東京エレクトロン研究所」として生まれた異色の出自を持つ
  • 出発点は海外装置の輸入販売。顧客に近い販売・サービスの層の厚さは、その時代の資産
  • 塗布現像装置とガスケミカルエッチング装置で世界No.1、プラズマエッチングでNo.2
  • 露光装置は作らないが、直結する塗布現像装置を押さえている。露光工程の拡大がそのまま需要になる
  • 複数工程を持てるのは、工程間の技術的な近さ、顧客の共通性、開発を支える規模による
  • 2026年3月期の売上高は2兆4,435億円で世界4位。1人あたり売上は約1億1,700万円
  • 単独2,436人に対し連結20,812人。本体はグループ全体の約12%にとどまる

日本勢全体の配置は日本の半導体製造装置メーカー一覧、装置の全体像は半導体製造装置とは?をご覧ください。

参考・出典