「日本は半導体そのものでは後退したが、製造装置では強い」とよく言われます。これは事実ですが、すべての工程で強いわけではありません。

圧倒的なシェアを持つ工程がある一方、ほぼ手が届かなくなった工程もあります。その差を理解すると、日本の装置産業の実像が見えてきます。

この記事では、日本の半導体製造装置メーカーを工程別に整理し、どの企業がどこで強いのか、なぜ強いのか、そして弱い領域はどこかまでを解説します。

工程別マップ|どの日本企業がどこを担うか

まず全体像です。製造の流れに沿って、主要な日本メーカーを配置しました。

工程 主な日本メーカー 日本勢の地位
露光 ニコン、キヤノン △ 最先端はASMLが独占
コータ・デベロッパ 東京エレクトロン ◎ 世界1位
エッチング 東京エレクトロン、日立ハイテク ○ 世界2位級
成膜 東京エレクトロン、KOKUSAI ELECTRIC、アルバック ○ バッチ成膜は世界1位
洗浄 SCREENホールディングス、東京エレクトロン ◎ 枚葉式で世界1位
熱処理 KOKUSAI ELECTRIC、東京エレクトロン ◎ 拡散炉は世界1位
イオン注入 住友重機械マテリアルソリューションズ ○ 3機種すべてを手がける少数派
CMP 荏原製作所 ◎ 世界2位級
検査・計測 日立ハイテク、レーザーテック ◎ EUVマスク検査は唯一
ダイシング・研削 ディスコ、東京精密 ◎ 世界的な大手
ボンディング 新川、キヤノンマシナリー △ 海外勢の存在感が大きい
封止(モールド) TOWA、アピックヤマダ ◎ 世界トップシェア
テスト アドバンテスト、東京精密 ◎ テスタ・プローバで世界上位

一覧すると、日本企業が関わらない工程はほとんどないことが分かります。同時に、露光とボンディングでは海外勢が優勢という偏りも見えてきます。

総合メーカー

東京エレクトロン

日本最大の半導体製造装置メーカーで、世界でも4位に位置します。コータ・デベロッパ、エッチング、成膜、洗浄、プローバと、幅広い工程に製品を持つ総合メーカーです。

同社は自社サイトで製品別の世界順位を公表しており、塗布現像、ガスケミカルエッチング、拡散炉、バッチ成膜、メタル成膜、プローバでいずれも世界1位、プラズマエッチングとボンダーで世界2位としています。

2026年3月期の売上高は2兆4,435億円で過去最高でした。一方、営業利益は前期比10.4%減の6,249億円。研究開発費を11.1%増の2,778億円に積み増したことなどが要因で、将来への投資を優先した決算といえます。

最大手の中身については東京エレクトロン(TEL)とは?で詳しく扱っています。

工程特化型の専門メーカー

日本の装置産業の厚みは、特定分野に集中する専門メーカーの存在にあります。

アドバンテスト|テスタ

半導体テスト装置の世界的大手です。2026年3月期の売上高は1兆1,286億円で前年比44.7%増、初めて1兆円を超えました。AI向け半導体の複雑化でテスト時間が伸び、需要が急拡大しています。

SCREENホールディングス|洗浄

枚葉式洗浄装置で世界シェア1位です。同社は自社サイトで42%のシェアと公表しています。半導体製造プロセスの約30%が洗浄工程とされ、地味ながら歩留まりを直接左右する領域です。

2026年3月期の売上高は6,057億円で前期比3.1%減でした。

ディスコ|ダイシング・研削

ウェハーを切る、削る、磨くという加工に特化した企業です。2026年3月期の売上高は4,368億円で前期比11.1%増、初めて4,000億円を超え、6期連続の増収増益となりました。HBM向けにチップを極薄まで削る需要が業績を牽引しています。

荏原製作所|CMP

もとはポンプメーカーですが、CMP装置で世界2位とされます。2025年12月期のCMP装置の売上は2,126億円で前期比35%超の伸びを示し、2026年12月期は2,670億円を見込んでいます。配線層が増えるほどCMPの回数も増えるため、AI向け半導体の拡大が直接追い風になる構造です。

TOWA|封止

モールディング装置で世界トップシェアを持ちます。2026年3月期は売上高543億円と過去最高を更新した一方、営業利益は22.1%減。ただし受注高は595億円と25.6%増で、先行きは強い状況です。

KOKUSAI ELECTRIC|バッチ成膜・熱処理

縦型炉によるバッチ式装置に強みを持ちます。ALD技術とバッチ処理を組み合わせた「バッチALD」により、難易度の高い薄膜形成と生産性を両立できると説明しています。2026年3月期の売上収益は2,351億円でした。

レーザーテック|マスク検査

EUV用マスクの欠陥検査装置で、世界で唯一の供給者とされます。2025年6月期の売上高は2,514億円、営業利益率は48.8%に達しました。代替のきかない技術を持つ装置メーカーが、いかに高収益になりうるかを示す例です。

東京精密|プローバ・ダイシング

計測技術を軸に、プローバとダイシング装置を展開しています。2026年3月期の半導体製造装置部門の売上高は1,278億円で前期比12.7%増でした。

その他の主要企業

  • 日立ハイテク:測長SEM(CD-SEM)などの計測・検査装置、エッチング装置
  • アルバック:真空技術を背景としたPVD(スパッタリング)装置
  • 住友重機械マテリアルソリューションズ:イオン注入装置とレーザーアニール。2026年1月1日に住友重機械イオンテクノロジーから社名変更
  • ニコン・キヤノン:露光装置。キヤノンはナノインプリントにも取り組む
  • アピックヤマダ:モールド装置、リードフレーム加工
  • 新川(ヤマハグループ)、キヤノンマシナリー:ボンディング装置

後工程に絞った企業の顔ぶれは、後工程装置メーカー一覧で海外勢を含めて解説しています。

なぜ日本は装置で強いのか

構造的な理由が3つあります。

①精密加工と素材の蓄積

切る、削る、磨く、真空を作る、精密に位置決めする——これらは一朝一夕には身につかない技術です。日本の製造業が長年培ってきた領域と、装置に求められる能力が重なっています。

②装置は乗り換えコストが極めて高い

半導体メーカーは、実績のある装置を簡単には変えられません。装置を替えれば製造条件を一から作り直す必要があり、歩留まりが安定するまで時間とコストがかかります。一度採用された装置は使われ続ける——この構造が、既存メーカーの地位を守っています。

③かつての半導体産業が土壌になった

1980年代、日本は半導体の生産で世界首位でした。その工場に装置を納める過程で、装置メーカーは顧客と密に技術を磨きました。半導体本体では競争力を失った後も、装置と材料の技術は残ったというのが現在の姿です。

日本勢が弱い領域

強みだけを語るのは実像を見誤ります。苦戦している分野も明確です。

露光装置

最大の空白がここです。1980年代から1990年代にかけて、ニコンとキヤノンは露光装置で世界を主導していました。しかしEUVへの移行で、ASMLに逆転されます。

EUVの開発には、光源、ミラー、レーザーなど各分野の企業を束ねた長期の巨額投資が必要でした。現在、EUV露光装置を供給できるのはASML1社のみです。

ニコンの2026年3月期の精機事業は、売上収益1,672億円で前期比17.2%減、45億円の営業赤字でした。同社は最先端での正面対決を避け、成熟世代に軸足を置く方針を示しています。くわしくは露光装置とは?仕組みと世界シェアをご覧ください。

ボンディング装置

ダイシングや封止では日本勢が強い一方、ボンディング装置ではASMPT、Besi、Kulicke & Soffaといった海外勢の存在感が大きい分野です。次世代のハイブリッドボンディングをめぐる競争でも、これらの企業が先行しています。

装置の中で使われる搬送機器のメーカーとしてはローツェとは?があります。

部品側の顔ぶれと技術的な難しさは静電チャックとは?で解説しています。

装置を支える「部品・材料」の層

装置メーカーだけを見ると、日本の強さを過小評価することになります。

装置は、単体で完結する製品ではありません。真空ポンプ、バルブ、石英部材、静電チャック、光学部品、精密ステージ、シール材といった膨大な部品の集合体です。1台の装置が10万点規模の部品で構成されることもあります。

この部品やサブシステムの領域にも、日本企業が数多く存在します。海外メーカーの装置であっても、内部には日本製の部品が多数組み込まれているのが実情です。

同様に、シリコンウェハー、フォトレジスト、封止材、CMP用スラリー、高純度ガスといった材料分野でも日本企業は高いシェアを持ちます。さらに、ウェハーを工場内で運ぶ搬送システム(AMHS)でも、ダイフクや村田機械が世界を主導しています。「装置」「部品」「材料」の三層で捉えることで、日本の実際の位置づけが見えてきます。

✍️ ひとこと

これだけの企業が、それぞれ違う工程で世界と戦っている。並べてみて、改めて層の厚さに驚きました。

一社では完結しないからこそ、全体として強い。日本の装置産業の形が、この一覧から少しだけ見えてくると思います。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

日本の装置メーカーは何社くらいありますか?

上場している主要企業だけでも十数社、部品やサブシステムを含めると非常に多数にのぼります。業界団体である日本半導体製造装置協会(SEAJ)には、装置メーカーだけでなく関連企業も多く加盟しています。

世界ランキングでは日本企業は何位ですか?

売上規模では東京エレクトロンが世界4位です。ただし工程別に見れば、日本企業が1位を占める領域は複数あります。全体の売上と個別分野のシェアは別の指標です。世界ランキングは半導体製造装置メーカー世界ランキング2026、工程別のシェアは工程別・世界シェアまとめで解説しています。

装置メーカーへの就職・転職を考えています

企業を選ぶ際は、規模だけでなくどの工程を手がけているかを確認することをおすすめします。前工程は化学・材料系、後工程は機械系、検査は光学・データ系と、必要な知識が異なります。仕事内容や年収については半導体製造装置メーカーの仕事内容と年収で解説しています。

中国メーカーの台頭は脅威になりますか?

領域によります。成熟世代向けの装置では競争が激しくなっていますが、最先端領域では技術的な差が残っています。ただし成長は速く、注視が必要な状況です。

まとめ

  • 日本企業は、露光とボンディングを除くほぼすべての工程に存在感を持つ
  • 洗浄、熱処理、CMP、ダイシング、封止、テスト、マスク検査では世界トップクラス
  • 東京エレクトロンが総合メーカー、他は工程特化型の専門メーカーが多い
  • 強さの理由は精密加工の蓄積、乗り換えコストの高さ、かつての半導体産業という土壌
  • 露光装置ではASMLに逆転され、ニコンの精機事業は赤字となっている
  • 装置だけでなく、部品・材料の層まで含めて見ると日本の位置づけがより明確になる

各装置の仕組みについては半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説をご覧ください。

参考・出典