半導体工場のウェハー搬送システム(AMHS)は、日本の2社が世界を二分しています。ひとつがダイフク、もうひとつが村田機械(ムラテック)です。

ダイフクがマテリアルハンドリングの世界最大手として知られる一方、村田機械はもともと繊維機械のメーカーという異色の経歴を持ちます。しかも非上場企業のため、その実態は意外と知られていません。

この記事では、村田機械とはどんな企業か、なぜ繊維機械の会社が半導体搬送で世界トップ級なのか、そして「ダイフクとの違い」までを解説します。搬送システムの仕組みそのものは半導体工場の搬送システム(AMHS)とは?をあわせてご覧ください。

村田機械(ムラテック)とは

村田機械は、1935年に創業した京都市の機械メーカーです。ブランド名の「ムラテック(Muratec)」で知られています。

まず押さえておきたいのが、非上場企業だという点です。売上規模は連結で5,000億円前後(2023年3月期は4,661億円)にのぼりますが、株式を公開していないため、上場企業のような詳細な業績開示は行われていません。名前は聞いたことがなくても、その製品は世界中の工場で動いている——そんな「隠れた実力企業」のひとつです。

事業は多角的で、次のように幅広い分野を手がけています。

  • クリーンFA:半導体・液晶工場向けの搬送システム
  • ロジスティクス&FA:自動倉庫、物流システム
  • 工作機械:旋盤など
  • シートメタル:板金加工機
  • 繊維機械:創業以来の源流事業
  • 情報機器:通信・セキュリティ機器

このうち、半導体搬送を担うのがクリーンFA事業です。近年は半導体工場の新設ラッシュを背景に、この分野の伸びが著しく、会社の成長を牽引する主力に育っています。

村田機械と村田製作所は別会社です|名前が似ている理由

本題に入る前に、最も多い誤解を解いておきます。村田機械と村田製作所は、資本関係のないまったく別の会社です。どちらも京都に本社を置き、社名に「村田」が入るため混同されますが、経営も事業も独立しています。

村田機械(ムラテック) 村田製作所(ムラタ)
事業 機械メーカー。半導体搬送システム、繊維機械、工作機械、情報機器 電子部品メーカー。積層セラミックコンデンサ(MLCC)などで世界的な地位
本社 京都 京都
上場 非上場 上場企業
半導体との関わり 工場内の搬送を担う装置を供給 電子機器に組み込まれる部品を供給

「ムラテック」は村田機械のブランド名で、村田機械そのものを指します。したがって「ムラテックと村田機械の違い」を探している場合、答えは同じ会社ということになります。

半導体業界で「ムラタ」と言えば村田製作所の電子部品を指すことが多く、「ムラテック」と言えば村田機械の搬送装置を指します。同じ工場に両社の製品が入っていても、供給しているものはまったく別という関係です。

なぜ繊維機械の会社が半導体搬送で強いのか

村田機械のルーツは繊維機械です。糸を巻き取る自動ワインダーという機械で、同社は世界トップブランドの地位を長く保っています。一見すると、半導体とは無関係に思えます。

しかし、両者には共通する技術的な核心があります。「モノを、傷つけず、正確に、高速で動かし続ける」という精密な機械制御です。

糸は繊細で、強く扱えば切れてしまいます。それを高速で巻き取り続けるには、微妙な力加減と正確な制御が欠かせません。この「繊細なものを止めずに動かす」技術の蓄積が、ウェハーという繊細で高価なものを24時間搬送し続ける半導体分野へと応用されました。

異なる産業に見えて、根っこの技術はつながっている——村田機械は、機械制御という一本の幹から多くの事業を広げてきた企業なのです。同じことは、ポンプから半導体のCMP装置へ広げた荏原製作所などにも見られる、日本の機械メーカーに共通するパターンです。

村田機械の半導体搬送技術

村田機械のクリーンFAの中核も、やはりOHT(天井搬送車)です。クリーンルームの天井に敷いたレールを走り、FOUP(ウェハーの密閉容器)を吊り下げて工程間を運びます。広大な工場では、レールが複数のフロアや建物にまたがることもあります。

「横出し機構」という独自技術

村田機械のOHTを語るうえで知られるのが、横出し機構です。

従来のOHTは、装置の真上でFOUPを昇降させて受け渡していました。しかし村田機械は、搬送車が天井レールの側方(横)にもFOUPを置ける仕組みを開発しました。これにより、これまで使われていなかった天井付近のスペースを一時保管場所として活用できるようになります。

効果は搬送効率の向上です。ウェハーを近くに一時的に置けるため、装置のそばで素早く受け渡しができ、工場全体の流れがスムーズになります。「デッドスペースを価値に変える」という発想で、限られたクリーンルーム空間を最大限に使い切る工夫といえます。

搬送システムの優劣は、こうした「いかに効率よく、渋滞なく運ぶか」の工夫で決まります。OHTやAMHSの基本的な仕組みは半導体工場の搬送システム(AMHS)とは?で解説しています。

搬送車の「渋滞」をどうさばくか

OHTの性能は、1台1台の速さだけでは決まりません。何百台もの搬送車を、いかに渋滞させずに走らせるかという制御が、工場全体の生産性を大きく左右します。

天井のレールは、道路と同じように分岐や合流があります。多数の搬送車が同じ経路に集中すれば、そこで渋滞が起き、ウェハーの到着が遅れます。すると装置が待機し、工場の効率が落ちます。

そのため搬送システムには、経路をどう割り振り、どの車を優先するかをリアルタイムで判断する高度な制御が組み込まれています。急ぎのロットを先に通す、混雑した経路を避けて迂回させる、といった判断を、無数の搬送車について同時に行います。まさに都市の交通管制そのものです。

村田機械のように長年この分野で実績を積んだ企業は、こうした制御のノウハウを膨大に蓄積しています。ハードウェアである搬送車と、それを動かすソフトウェアの制御が一体となって、初めて高い搬送性能が実現します。後発企業が容易に追いつけないのは、この制御の蓄積があるためです。

ダイフクとの違い

「村田機械とダイフクは何が違うのか」——これは、この二強を語るうえで最もよくある疑問です。両社は競合しつつ、性格の異なる企業でもあります。

比較項目 村田機械(ムラテック) ダイフク
上場 非上場 上場(東証プライム)
源流 繊維機械 物流・マテリアルハンドリング
事業の幅 繊維・工作機械・情報機器まで多角 マテハン専業に近い総合
半導体搬送 クリーンFA事業 クリーンルーム向け(クリーンウェイ)
強みの傾向 OHTなど搬送車の機構技術 搬送から保管まで一貫したシステム

最も分かりやすい違いは、上場しているかどうかです。ダイフクは上場企業で、決算をはじめとする情報を詳しく開示しています。一方の村田機械は非上場のため、業績や事業の詳細が表に出にくく、その分だけ「知る人ぞ知る」存在になっています。

成り立ちも異なります。ダイフクは空港や自動車工場など、あらゆる「モノを運ぶ」分野を束ねるマテリアルハンドリングの総合企業です。村田機械は繊維機械を源流に、機械制御技術を軸として工作機械や情報機器まで広げた多角経営が特徴です。

ただし、半導体搬送という土俵では、両社は真正面から競合しています。OHT、ストッカー、FOUP搬送といった製品領域は重なっており、世界中の半導体工場が、この2社のどちらか(あるいは両方)のシステムを採用しています。「甲乙つけがたい二強」というのが実態に近い表現です。

ここで扱っているのは工場内の搬送です。装置の入口を担う搬送機器では、また別の企業が世界首位に立っています。EFEMとは?で解説しています。

世界シェアと二強構造

半導体搬送システム(AMHS)の世界市場は、村田機械とダイフクの2社で大部分を占めるとされています。露光装置がオランダのASMLに独占され、ボンディング装置でも海外勢が優勢な一方で、搬送というインフラ領域は日本の二強が世界を主導しています。

なぜ日本勢が強いのか。理由は、精密な機械制御技術の蓄積に加え、「工場を止めない」信頼性にあります。搬送システムが止まれば、数百億円の装置群が一斉に待機状態になります。そのため半導体メーカーは、実績があり信頼できるシステムを選び続けます。この「乗り換えにくさ」が、二強の地位を長期にわたって支えています。

装置分野ごとの日本企業の強み・弱みは日本の半導体製造装置メーカー一覧、工程別の世界シェアは半導体製造装置の工程別・世界シェアまとめで解説しています。

本業の技術を半導体搬送へ広げた例としては、広島のローツェとは?も挙げられます。

これからの村田機械

半導体搬送の需要は、当面拡大が続くと見られています。米国、日本、台湾、中国で工場の新設が進んでおり、そのすべてに搬送システムが必要になるためです。

さらに、これまで搬送の中心は前工程でしたが、チップを積み重ねる先端パッケージの普及により、後工程でも高度な搬送・自動化が求められるようになっています。二強はいずれもこの領域を新たな成長機会と位置づけており、村田機械にとっても重要なテーマです。後工程の変化については半導体の後工程装置とは?をご覧ください。

非上場ゆえに表に出る情報は限られますが、村田機械は半導体工場を影で支える不可欠な企業として、その存在感を増しています。

✍️ ひとこと

繊維機械の会社が、半導体搬送で世界の一角を占めている。この飛び方が面白いところです。

培った技術は、思わぬ場所で生きることがあります。企業の歴史をたどると、いまの強さの理由が腑に落ちます。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

村田機械と村田製作所は同じ会社ですか?

いいえ、別の会社です。村田機械(ムラテック)は京都の機械メーカーで、半導体搬送や繊維機械を手がけます。一方、村田製作所(ムラタ)は積層セラミックコンデンサなどで知られる電子部品メーカーです。名前が似ていますが、資本関係のない別企業です。

村田機械は上場していますか?

していません。非上場企業のため、株式は市場で取引されておらず、業績開示も上場企業に比べて限定的です。これは、上場企業であるダイフクとの大きな違いです。

OHTは村田機械とダイフクでどう違うのですか?

基本的な仕組み(天井レールを走りFOUPを運ぶ)は共通ですが、各社が独自の機構や制御技術で差別化しています。村田機械の「横出し機構」のように、限られた空間を活用する工夫が競争力の源泉になっています。どちらが優れているかは、工場の要件によって評価が変わります。

就職先として村田機械はどんな会社ですか?

半導体搬送を含む多角的な機械メーカーです。搬送システムは機械・電気・制御・ソフトウェアが融合した領域で、幅広い技術者が関わります。装置メーカーの職種については半導体製造装置メーカーの仕事内容と年収で解説しています。

まとめ

  • 村田機械(ムラテック)は京都の非上場機械メーカーで、半導体搬送の世界二強の一角
  • 源流は繊維機械で、「繊細なものを止めず正確に動かす」制御技術が半導体搬送に活きた
  • OHTの「横出し機構」など、空間を活用する独自技術が強み
  • ダイフクとの主な違いは、非上場であることと、繊維機械を源流とする多角経営
  • 半導体搬送では両社が真正面から競合し、世界市場の大部分を二分している
  • 工場新設と後工程自動化を背景に、搬送需要は当面拡大が見込まれる

搬送システムの仕組みは半導体工場の搬送システム(AMHS)とは?、装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説をご覧ください。

参考・出典