半導体製造装置のランキングを見ると、上位は東京エレクトロンやアプライドマテリアルズといった「装置専業」が並びます。そこにポンプメーカーが食い込んでいます。荏原製作所(東証プライム: 6361)です。

同社のCMP装置は世界シェア2位。水をくみ上げる会社が、なぜウェハーを磨く装置で世界の一角を占めているのか。本記事では、1912年のポンプ理論から始まった会社がCMPにたどり着いた経緯と、いまAI需要でどう伸びているのかを整理します。

荏原製作所とはどんな会社?

項目 内容
社名 株式会社荏原製作所
証券コード 6361(東証プライム)
創業 1912年(「ゐのくち式機械事務所」として)
主な事業 建築・産業ポンプ、精密・電子(半導体製造装置)、環境プラント
半導体向け製品 CMP装置・ドライ真空ポンプ・パッケージ向けめっき装置
CMP装置の世界シェア 2位
精密・電子事業
(2025年12月期)
受注高3,034億円/売上収益3,422億円/営業利益577億円
全社に占める比率 精密・電子カンパニーが売上の30%超

ポンプの会社という印象が強いかもしれませんが、売上の3割超がすでに半導体関連です。しかも営業利益では前期比39%増と、全社の成長を牽引する立場になっています。

ポンプから半導体へ — 出発点は1912年の渦巻き理論

創業者の畠山一清は、恩師である東京帝国大学の井口在屋(いのくち ありや)博士が確立した渦巻きポンプの理論を製品化するため、1912年に「ゐのくち式機械事務所」を設立しました。社名の由来もここにあります。

そこから半導体に至る道筋は、意外なほど「顧客起点」です。

年 出来事
1912年 ゐのくち式機械事務所 創立。渦巻きポンプの理論を製品化
1987年 ドライ真空ポンプに参入。流体機械の技術を半導体プロセスへ
1992年 顧客の求めでCMP装置を手がけ、1号機を出荷して市場参入
現在 CMP装置で世界シェア2位。パッケージ向けめっき装置も展開

注目したいのは1992年のCMP参入が「顧客に求められて」始まっている点です。自社で市場を狙って参入したのではなく、ポンプで培った流体制御と回転機械の技術が、たまたまCMPに必要なものと重なっていた——そこを顧客が見抜いた形です。

CMPとは何か — なぜ「平らにする」必要があるのか

CMP(Chemical Mechanical Polishing/化学機械研磨)は、ウェハー表面を化学的に溶かしながら、機械的に磨いて平らにする工程です。

なぜ平らにするのか。半導体は配線を何層も積み重ねて作られますが、下の層に凹凸があると、その上に回路を描く露光でピントが合わなくなります。層を1つ積むたびに平坦に戻さないと、そもそも微細化が成立しません。

つまりCMPは「多層化を可能にしている工程」です。配線層が増えるほど、CMPの回数も増えます。

装置としてのCMPは、研磨パッドとスラリー(研磨液)でウェハーを磨きます。ここで効いてくるのが——

  • スラリーを均一に流す——流体の制御
  • ウェハーを一定の圧力と速度で回す——回転機械の精度
  • 削り終わりを見極める——終点検出

最初の2つは、まさにポンプメーカーが100年やってきたことです。「水をどう流すか」と「回転体をどう安定させるか」が、そのままCMPの核心と重なりました。工程全体の中での位置づけはCMP装置の記事で解説しています。

CMP装置で世界2位 — 実質的な二強構造

CMP装置の市場は、米アプライドマテリアルズと荏原の2社でほぼ占められています。

順位 企業 世界シェア
1位 アプライドマテリアルズ(米) 52.6%
2位 荏原製作所(日) 37.0%

※シェアは調査により幅があります。「荏原が世界2位」という位置づけは各種報道で一致しています。

2社で約9割。他の工程と比べても寡占の度合いが強い領域です。そして荏原は2030年までにCMP装置で世界シェアNo.1を掲げています。

工程ごとにどの企業が強いかは工程別・世界シェアまとめ、売上規模での順位は装置メーカー世界ランキングで整理しています。

もう一つの柱、ドライ真空ポンプ

荏原の半導体事業はCMPだけではありません。1987年に参入したドライ真空ポンプも、世界で上位の位置にあります。

ドライ真空ポンプは、成膜やエッチングのチャンバーを真空に引くための装置です。油を使わない(ドライ)ため、ウェハーを油分で汚さないことが必須条件になります。

ここも流体機械そのものです。CMPが「回転と流れ」なら、真空ポンプは「気体をどう排気するか」。荏原の半導体事業は、どちらも本業の延長線上にあります。真空ポンプ全般については真空ポンプの記事をご覧ください。

ドライ真空ポンプは装置1台あたり複数台が必要で、装置が増えれば比例して数が出ます。CMPのような「装置本体」とは違う、数量で効くビジネスです。

なぜいま荏原が伸びているのか

2025年12月期の精密・電子事業は営業利益が前期比39%増。理由は大きく2つです。

① AI半導体は配線層が多い

前述のとおり、CMPの回数は配線層の数に比例します。AI向けの先端ロジックやHBM周辺のプロセスは層が多く、微細化も進むため、1枚のウェハーを流すのにCMPを通る回数が増えます。

「ウェハー枚数が同じでも、CMPの需要は増える」——これが構造的な追い風です。

② 装置が増えればポンプも増える

ドライ真空ポンプは装置に付随します。世界中で工場が建ち、装置が搬入されるたびに需要が生まれます。CMP(装置本体)とポンプ(付随部材)の両輪で、投資局面と稼働局面の双方を取れる構造です。

生産能力の拡大 — 熊本・藤沢・台湾

需要に合わせて、生産拠点の増強が同時進行しています。

拠点 内容
熊本 CMP装置等の生産拠点として株式会社荏原九州が操業。新生産棟の竣工で生産能力は従来比1.5倍
藤沢 事業所内に新開発棟。開発機能の強化
台湾 ドライ真空ポンプの生産工場を建設中

熊本はTSMC(JASM)の進出で半導体クラスタが形成された地域です。装置メーカーが顧客の近くに生産と保守の拠点を置くという、いま世界中で起きている動きがここにも表れています。

✍️ ひとこと

調べていて印象に残ったのは、ポンプとCMPが「流体機械」という一本の線でつながっていたことです。ドライ真空ポンプもCMP装置も、本業から離れた多角化ではなく、その延長にありました。

1912年の渦巻き理論が、いまAI半導体の配線を磨いている。得意なことを深く掘り続けた会社の強さを感じる話でした。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

Q. 荏原製作所はポンプの会社ではないのですか?

A. ポンプは今も主力事業です。ただし精密・電子(半導体)カンパニーが売上の30%超を占めており、利益面では成長の牽引役になっています。「ポンプもやる半導体装置メーカー」と見たほうが実態に近い規模です。

Q. なぜポンプの会社がCMP装置を作れたのですか?

A. CMPに必要なスラリー(研磨液)の流体制御と回転体を一定の圧力・速度で安定させる技術が、渦巻きポンプで培った技術と重なっていたためです。1992年の参入は顧客からの求めで始まったとされています。

Q. CMP装置の競合はどこですか?

A. 米アプライドマテリアルズです。2社でほぼ市場を分け合う寡占構造で、荏原は2位。同社は2030年までにシェアNo.1を目標に掲げています。

Q. CMPはなぜAIで需要が増えるのですか?

A. CMPを通る回数は配線層の数で決まるからです。AI向けの先端プロセスは層数が多く、ウェハーの枚数が同じでもCMP工程の総数が増えます。

Q. ドライ真空ポンプはどこで使われますか?

A. 成膜・エッチングなど真空を要するチャンバーの排気に使われます。油を使わないため、ウェハーを汚さずに高真空を作れることが半導体向けの必須条件です。

まとめ

  • 荏原製作所は1912年創業のポンプメーカー。渦巻きポンプの理論を製品化するところから始まった
  • 1987年にドライ真空ポンプ、1992年に顧客の求めでCMP装置に参入。どちらも流体機械という本業の延長にある
  • CMP装置は世界シェア2位。首位のアプライドマテリアルズと2社で約9割の寡占市場で、2030年にNo.1を目標
  • 精密・電子事業は2025年12月期で売上収益3,422億円・営業利益577億円(前期比39%増)。全社売上の30%超
  • CMPの回数は配線層の数に比例するため、AI向けの多層プロセスがそのまま需要増につながる
  • 生産能力は熊本(荏原九州・1.5倍)・藤沢(新開発棟)・台湾(ドライ真空ポンプ工場)で同時拡張中

同じ「専業から世界上位へ」という構造は、ディスコ(切る・削る・磨く)、アドバンテスト(測る)、ローツェ(運ぶ)にも共通します。日本勢の全体像は日本の半導体製造装置メーカー一覧でご覧いただけます。

出典: 荏原製作所「荏原について(沿革)」/荏原製作所「半導体製造装置 市場」/ニュースイッチ「世界シェア2位『CMP』など高受注…荏原、半導体装置が好調な要因」/ログミーファイナンス「荏原製作所、受注・売上・利益が1Qとして過去最高を更新」/荏原製作所 決算資料