ディスコとは?砥石から始まった「切る・削る・磨く」専業の構造
DISCOという社名の由来を知ると、この会社の性格が一度に分かります。
Dai-Ichi Seitosho CO.——第一製砥所の英語略称です。
製砥所、つまり砥石の会社。半導体の後工程で世界をリードする装置メーカーの正体は、1937年に広島県呉市で生まれた砥石屋でした。
この記事では、砥石がどうやって半導体の刃になったのか、そして「切る・削る・磨く」しかやらないという一点集中の構造を、沿革と数字から読み解きます。
砥石から始まった|1937年・呉
ディスコの社史をたどります。
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1937年5月 | 広島県呉市阿賀町で砥石メーカー「第一製砥所」として創業(1940年3月に会社設立) |
| — | 軍需では既存メーカーとの競争に苦しみ、民需を求めて本社を東京へ移す |
| 1968年 | 厚さ40ミクロンの極薄砥石「ミクロンカット」を開発 |
| 1977年 | 社名をディスコ(DISCO)に変更 |
転機は1968年の「ミクロンカット」です。厚さ40ミクロン——髪の毛より薄い砥石を作れるようになったことが、のちに半導体への扉を開きます。
ウェハーからチップを切り出すには、切り代(カーフ幅)を極限まで細くする必要があります。細く切るには、薄い刃が要る。砥石を薄く作る技術が、そのまま半導体産業への参入資格になったのです。
普通の装置メーカーとは順序が逆
ここに、この会社の面白さがあります。
多くの装置メーカーは、装置を売り、その消耗品も供給します。ディスコは逆です。先に刃(消耗品)があり、その刃の性能を引き出すために装置を作りました。
ダイシングブレード、グラインディングホイール——同社が「精密加工ツール」と呼ぶ消耗品は、いまも事業の土台です。刃と装置を同じ会社が設計するから、組み合わせで性能を出せる。1977年の社名変更後も、社名の中に「製砥所」が残り続けているのは象徴的です。
Kiru・Kezuru・Migaku|三つしかやらない
ディスコは自社の事業を「切る」「削る」「磨く」の3つの加工に特化していると説明しています。
| 加工 | 装置 | 公表されている水準 |
|---|---|---|
| 切る(ダイシング) | ダイシングソー、レーザソー | µmレベルの寸法制御で、割れ・欠けを抑えて切り分ける |
| 削る(グラインディング) | グラインダ | 5µmレベルまで薄く削る |
| 磨く(ポリッシング) | ポリッシャ | 鏡のように磨き上げる |
5µmという薄さは、ウェハー厚(775µm)の155分の1です。HBMのようにチップを何段も積む製品では、1枚1枚を薄く削れることが積層数を決めます。「削る」の限界が、メモリの容量を左右する時代になりました。
露光にもエッチングにも手を出さず、加工の三領域だけを90年近く掘り続ける。東京エレクトロンが複数工程へ広がる型だとすれば、ディスコは徹底した一点集中の型です。
三つの加工の、周りまで固める
製品の一覧を見ると、主役の3装置だけではないことに気づきます。ウェーハマウンタ、ダイセパレータ、サーフェースプレーナ、ウォータージェットソー、インスペクションシステム——切る前の準備から、切った後の分離、確認までが並んでいます。
ダイシングはテープに貼るところから始まり、切った後のチップを取り出すところまでが一つながりの工程です。工程の前後を自社製品で固めれば、加工品質を工程全体として保証できます。「三つしかやらない」は、「三つの周辺はすべてやる」と裏表なのです。
刃は材料ごとに別物である
消耗品ビジネスの中身を、もう一段だけ掘ります。
ダイシングブレードは、どれも同じではありません。切る対象——シリコン、化合物半導体、樹脂と金属が混ざったパッケージ基板——によって、適したダイヤモンド砥粒の大きさも、結合材も変わります。
ここで効いてくるのが、砥石屋としての90年です。
- 新しい材料が登場するたびに、その材料に合う刃を作る仕事が生まれる
- 刃が変われば、最適な回転数も送り速度も変わる。装置側の条件と刃を同時に設計できる会社が有利になる
- 顧客から見れば、刃と装置と加工条件をひとまとめに相談できる相手になる
SiCのような硬い材料の普及は、加工の難易度を押し上げると同時に、刃を知り尽くした会社の出番を増やしています。材料の世代交代が起きるたびに、参入障壁がむしろ厚くなる構造です。
数字で見る現在地
2026年3月期の実績です。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 売上高 | 4,368億円(前期比11.1%増・初の4,000億円超え) |
| 営業利益 | 1,850億円(6期連続の増収増益) |
| 従業員 | 単独5,492人/連結7,379人(2026年3月末、嘱託含む) |
営業利益率42%
1,850億円 ÷ 4,368億円 = 約42.4%
前回見たアドバンテストの約44%に並ぶ水準です。装置と消耗品を一体で握る事業構造が、この利益率を支えています。刃は使えば減り、装置が動く限り需要が生まれ続けます。
単独が74%という逆張り
企業記事シリーズで続けてきた計算を、ここでもやってみます。
単独5,492人 ÷ 連結7,379人 = 約74%
これまで見てきた企業と並べると、構造の違いが際立ちます。
| 企業 | 本体(単独)の比率 |
|---|---|
| ローツェ | 約8%(人員の大半が海外) |
| 東京エレクトロン | 約12% |
| アドバンテスト | 約31%(海外が7割) |
| ディスコ | 約74% |
他社が「日本で設計し、世界で作り支える」型なのに対し、ディスコは本体に人が集中しています。刃と装置のすり合わせ——ミクロン単位の砥石づくりは、分散させるより磨き込む対象なのでしょう。グローバル化の形は一つではないことを示す好例です。
※単独・連結とも嘱託を含む公表値で、比率は概算です。
AI需要の受け皿として
直近の成長を牽引しているのは、GPUやHBMといったAI関連の需要です。
理由は構造的です。AI・HBM需要の記事で見たとおり、チップを積む時代は「切る・削る」の負荷を押し上げます。
- HBMは薄く削ったDRAMを何段も積む。積層数が増えるほど、グラインダの仕事が増える
- チップレットは1パッケージあたりの切断回数を増やす
- 薄いウェハーほど割れやすく、ステルスダイシングやDBGのような高度な工程が要る
「積む時代」の恩恵が、テストのアドバンテストと加工のディスコに同時に届いている——後工程メーカーの中でこの2社が節目(1兆円と4,000億円)を同時期に迎えたのは、偶然ではありません。
競合はどこか
ダイシング・グラインディングの領域では、東京精密が国内のもう一方の雄です。同社はプローバも手がける「切断と検査の両足」型で、ディスコの一点集中型とは戦い方が異なります。
またSiCのような硬い材料の加工では、レーザー方式の競争も活発です。ディスコ自身もレーザソーを製品に持ち、「刃で切る」から「光で切る」への広がりに対応しています。砥石の会社が、砥石を使わない切断まで守備範囲にしている——ここにも一点集中の徹底が見えます。
社名の由来——第一製砥所の英語略——を知ったとき、静かに唸りました。この会社は今も名前の中に砥石を抱えている。
1968年の「厚さ40ミクロンの砥石」が、半導体への扉でした。目の前の砥石をひたすら薄く磨いていたら、その先に半導体産業が待っていた。遠くを狙うより、手元を極めることが一番遠くへ連れて行く——そういう物語に読めました。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
ディスコは何の会社ですか?
半導体の「切る・削る・磨く」に特化した精密加工装置と、ブレードなど精密加工ツールのメーカーです。1937年に広島県呉市で砥石メーカー「第一製砥所」として創業し、1977年に現社名へ変更しました。
社名の由来は何ですか?
旧社名「第一製砥所」の英語表記 Dai-Ichi Seitosho CO. の略称です。円盤(disc)状のブレードを想起させますが、由来は旧社名にあります。
なぜ利益率が高いのですか?
2026年3月期の営業利益率は約42%です。装置本体に加え、ダイシングブレードやグラインディングホイールといった消耗品を自社で供給しており、装置の稼働に応じた収益が積み上がる構造を持っています。
なぜ広島の会社が東京に本社を置いているのですか?
創業地は広島県呉市ですが、社史によれば軍需では既存メーカーとの競争に苦しみ、民需の販路を求めて本社を東京へ移しました。軍港の街で生まれた砥石屋が民需へ舵を切ったことが、のちの半導体との出会いにつながっています。
競合はどこですか?
ダイシング・グラインディングでは東京精密が国内の主要な競合です。硬い材料向けにはレーザー方式の競争もあり、ディスコ自身もレーザソーを展開しています。
まとめ
- ディスコは1937年、広島県呉市の砥石メーカー「第一製砥所」として創業。社名DISCOはその英語略称に由来する
- 1968年の厚さ40ミクロンの極薄砥石が転機となり、細く切る刃の技術が半導体への参入資格になった
- 刃(消耗品)が先、装置が後という生い立ちで、両者を一体で設計できることが強み
- 事業は「切る・削る・磨く」の3加工に一点集中。削る領域では5µmレベルの薄化を公表している
- 2026年3月期は売上4,368億円・営業利益1,850億円で営業利益率約42%、6期連続増収増益
- 単独人員が連結の約74%と本体集中型。海外分散型のTELやローツェとは逆の構造で世界をリードする
- HBMの積層とチップレットの分割が「切る・削る」の需要を構造的に押し上げている
装置の技術はダイシング装置とは?、業界内の位置づけは後工程装置メーカー一覧で解説しています。