半導体製造装置の多くは、内部を真空にして動きます。エッチングも、成膜も、EUV露光も、空気があっては成立しません。

その真空を作り出すのが真空ポンプです。装置本体の陰に隠れがちですが、ポンプが止まれば装置は1台も動きません。

しかも半導体工場のポンプは、腐食性のガスを吸い、内部に固形物が溜まるという過酷な条件で使われます。この記事では、真空ポンプを装置を支えるインフラとして解説します。

なぜ半導体製造に真空が必要なのか

理由は工程によって異なりますが、大きく3つあります。

①空気が邪魔になる

最も分かりやすいのがEUV露光装置です。EUV光は空気にほぼ完全に吸収されるため、光が通る経路すべてを真空にしなければ、そもそも光が届きません。

イオン注入装置も同様です。加速したイオンが空気の分子とぶつかれば、軌道もエネルギーも乱れてしまいます。

②プラズマを作るため

エッチング装置や成膜装置では、ガスをプラズマ状態にして反応させます。

大気圧のままではプラズマは安定しません。圧力を下げることで、はじめて制御可能なプラズマが生まれます。また、分子どうしの衝突が減ることで、イオンをウェハーへまっすぐ届けられるようにもなります。

③汚染を避けるため

空気には酸素や水分が含まれています。これらがウェハー表面と反応すれば、意図しない酸化膜ができたり、汚染が生じたりします。真空にすることは、余計なものを排除することでもあります。

真空にも「段階」がある

ひとくちに真空といっても、その深さには大きな幅があります。

領域 圧力の目安 主な用途
大気圧 約100,000 Pa —
低真空 100,000〜100 Pa 搬送、粗引き
中真空 100〜0.1 Pa 一部のCVDなど
高真空 0.1〜0.00001 Pa エッチング、スパッタ
超高真空 0.00001 Pa 以下 EUV、分子線エピタキシー

注目すべきは桁の差です。大気圧から超高真空までは、実に10桁以上の開きがあります。

核心|1台のポンプでは真空にできない

ここが真空システムを理解する要点です。

大気圧から超高真空までを、1台のポンプで実現することはできません。圧力の領域によって、有効に働く原理がまったく違うためです。

そのため、性質の異なるポンプを直列につないで使います。

段階 ポンプ 役割
1段目 ドライポンプ 大気圧から粗く引く。気体をまとめて押し出す
2段目 ターボ分子ポンプ さらに深い真空へ。分子を1個ずつ叩き出す

この構成には理由があります。ターボ分子ポンプは単体では動作できません。ある程度まで圧力が下がっていないと機能しないため、必ずドライポンプが下支えします。

粗く引く役と、深く引く役の分業——これが真空システムの基本形です。

ドライポンプ|なぜ「ドライ」なのか

ドライポンプは、油を使わない真空ポンプです。名前の「ドライ」は、この点を指します。

かつては油で密封する油回転ポンプが主流でした。しかし半導体では、これが問題になります。油の蒸気がポンプから逆流し、装置内部やウェハーを汚染するおそれがあるためです。

数ナノメートルの世界では、油分の付着は致命的です。そこで、油を使わずに気体を送り出す構造のポンプが求められました。これがドライポンプです。

回転する2つのローターが噛み合い、気体を閉じ込めながら押し出していく——といった機構で、吸い込む気体と潤滑油が接触しない設計になっています。

クリーンな環境を保つという思想は、クリーンルームや超純水と共通します。半導体工場では、あらゆる設備が「汚さないこと」を前提に設計されています。

ターボ分子ポンプ|分子を叩き出す

ターボ分子ポンプは、より深い真空を作るためのポンプです。仕組みは独特です。

内部には、ジェットエンジンのようなタービン翼が何段も重ねられています。これを毎分数万回転という高速で回転させ、羽根に当たった気体分子を物理的に叩き出します。

高真空領域では、気体は「流れ」として振る舞いません。分子どうしがほとんど衝突せず、それぞれがバラバラに飛び回る状態になります。だから「押し出す」のではなく「1個ずつ弾き飛ばす」——この発想の転換が必要でした。

高速回転する精密機械であるため、わずかな異物や振動も故障につながります。取り扱いには繊細さが求められる装置です。

原理|どうやって空気を追い出すのか

2つのポンプは、気体を動かす原理そのものが違います。だからこそ担当する圧力帯も分かれます。

ドライポンプ|容積を変えて押し出す

ドライポンプは、内部の空間の大きさを機械的に変化させて気体を押し出します。自転車の空気入れを逆向きに使うようなもので、吸い込んだ気体を閉じ込め、容積を縮めて出口から吐き出す——この繰り返しです。

方式にはいくつかあり、繭型のローターを噛み合わせるルーツ式(多段化することが多い)や、ねじ状のローターで気体を送るスクリュー式などがあります。いずれも大気圧から引き始められるのが特徴で、半導体では排気側の主力として使われます。

ターボ分子ポンプ|翼で分子を叩き出す

圧力が下がると、気体は「流れ」ではなく個々の分子が飛び回る状態になります。こうなると押し出す方式は効きません。

ターボ分子ポンプは、斜めに傾けた翼を毎分数万回転で回し、飛んできた分子を出口方向へ弾き飛ばします。翼が動く速さが分子の速さに匹敵するため、当たった分子は特定の向きへ跳ね返される——この確率の偏りが圧力差を生みます。

構造は、回転する動翼と、逆向きに傾いた固定の静翼を交互に数十段重ねた形です。1段ごとのわずかな偏りを積み上げることで、高い圧縮比を得ています。

ただし、この方式は大気圧では動きません。分子どうしがぶつかり合う密度では翼が効かず、負荷にも耐えられないためです。だからあらかじめドライポンプで粗く引いておく必要があります。2種類が必要な理由は、ここにあります。

性能の見方|到達圧力と排気速度

ポンプの性能は、主に2つの指標で語られます。混同されやすいので、意味を分けて押さえておくと選定の議論が読めるようになります。

指標 意味 効いてくる場面
到達圧力 どこまで低い圧力にできるか(性能の限界) 要求される真空度を満たせるか
排気速度 単位時間にどれだけの気体を運べるか(引く速さ) 目標圧力に到達するまでの時間、生産性

ターボ分子ポンプの到達圧力は10-7Pa台に達するものもあり、排気速度は機種によって大きく幅があります。

「到達圧力が低い=良いポンプ」ではありません。チャンバーを目標圧力まで引くのに時間がかかれば、その分だけ装置は生産できません。どこまで引けるか(到達圧力)と、どれだけ速く引けるか(排気速度)の両方を、装置の要求に合わせて選ぶことになります。

半導体特有の過酷さ|ポンプは消耗する

一般的な工業用途と比べ、半導体のポンプは極めて過酷な条件で使われます。

腐食性ガスを吸い込む

エッチングや成膜では、フッ素系や塩素系のガスが使われます。これらは反応性が高く、ポンプ内部の金属を腐食させます。そのため、耐食性の材料や表面処理が施されます。

内部に固形物が溜まる

より深刻なのがこちらです。プロセスで生じた反応生成物が、ポンプ内部で冷えて固まり、堆積します。

堆積が進むと、回転部が引っかかり、最悪の場合はポンプが停止します。装置が止まれば生産も止まります。

対策として、ポンプ本体を加熱して生成物が固まらないようにする、窒素ガスを流し込んで希釈・排出するといった工夫が施されます。それでも堆積は避けられず、定期的な分解洗浄やオーバーホールが必要になります。

つまり真空ポンプは、売って終わりの製品ではなく、保守とセットのビジネスです。CMPの消耗材と同じく、工場が稼働する限り継続的な需要が生まれます。

24時間止められない

半導体工場は連続稼働です。ポンプも24時間動き続けるため、電力消費も無視できません。装置1台に複数のポンプが付き、工場全体では膨大な台数になります。

そのため近年は、必要な排気量に応じて回転数を落とす省エネ運転が重視されています。クリーンルームの空調と並び、工場の消費電力を左右する要素です。

ロードロックという緩衝室

真空を使う装置には、避けられない矛盾があります。ウェハーは大気側から入れなければならないのに、処理室は真空を保ちたいという点です。

処理室の扉を直接開ければ、一気に空気が入り込み、せっかくの真空が失われます。再び真空に戻すには長い時間がかかり、生産性は大きく落ちます。

この問題を解決するのがロードロック室です。処理室と大気の間に設けられた、小さな緩衝空間を指します。

  1. ロードロック室の大気側の扉を開け、ウェハーを入れる
  2. 扉を閉じ、この小部屋だけを真空に引く
  3. 真空になったら、処理室側の扉を開けてウェハーを送り込む

処理室の真空は、一度も破られません。小さな部屋だけを引き直すため、排気にかかる時間も短くて済みます。

ここでもポンプが働いています。ロードロック専用のポンプが、扉が開くたびに素早く排気を繰り返します。1台の装置に複数のポンプが搭載されるのは、こうした役割分担があるためです。

大気と真空を行き来させながら、清浄さと生産性を両立する——この設計思想は、ウェハーを密閉容器で運ぶ搬送システムとも共通しています。

ロードロックの手前、大気側の搬送を担うのがEFEMです。EFEMとは?で扱っています。

真空を保ったままウェハーを運ぶ仕組みは真空搬送ロボットとは?で扱っています。

排ガス処理とセットで考える

ポンプが吸い出したガスは、そのまま大気へ放出できません。有害物質や温暖化係数の高いガスが含まれるためです。

そこでポンプの後段には除害装置(アブェイトメント)が設置されます。燃焼、薬液吸収、プラズマ分解といった方式で、排ガスを無害化してから排出します。

とくにエッチングで使われるフッ素系ガスは、極めて強い温室効果を持つものがあります。半導体産業の環境負荷対策として、除害装置の性能は年々重要度を増しています。

真空システムは、「引く」だけでなく「処理して出す」までが一体です。

これらの設備が置かれる場所についてはサブファブとは?で解説しています。

ガスを送る側の配管については半導体用バルブ・継手とは?で扱っています。

主要メーカー

企業 国 特徴
Edwards(エドワーズ) 英国 半導体向け真空ポンプの世界的大手。除害装置も
荏原製作所 日本 ドライ真空ポンプ。CMP・めっきと並ぶ半導体事業の柱
アルバック 日本 真空技術の総合メーカー。ポンプから成膜装置まで
Pfeiffer Vacuum ドイツ ターボ分子ポンプに強み
樫山工業 日本 ドライ真空ポンプ

注目したいのが荏原製作所です。同社はCMP装置で世界2位とされ、TSV形成に使うめっき装置も手がけ、さらにドライ真空ポンプも供給しています。

ポンプメーカーとしての出自が、半導体の複数分野へ広がった——日本の機械メーカーによくある展開です。同様の例は村田機械(繊維機械から搬送へ)にも見られます。

✍️ ひとこと

1台では真空にできない。だから2種類のポンプを組み合わせる。

装置の性能を語るとき、こうした縁の下の存在はあまり話題になりません。でも、ポンプが止まれば工程も止まります。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

真空ポンプは英語で何と言いますか?

vacuum pump です。ドライポンプは dry pump、ターボ分子ポンプは turbomolecular pump(TMP)、除害装置は abatement system と呼ばれます。

なぜ2種類のポンプが必要なのですか?

圧力の領域によって有効な原理が違うためです。大気圧付近では気体をまとめて押し出せますが、高真空では分子がバラバラに飛ぶため、羽根で叩き出す方式が必要になります。ターボ分子ポンプは単体では動作できず、必ずドライポンプと組み合わせます。

ポンプはどのくらいで交換しますか?

使用条件によります。堆積物が溜まりやすい工程では保守間隔が短くなり、定期的な分解洗浄やオーバーホールが行われます。装置と同様、納入後の保守が長期の収益源になっています。

真空ポンプは装置メーカーが作っているのですか?

多くは専門メーカーが供給し、装置メーカーがそれを組み込みます。ただしアルバックのように、ポンプと装置の両方を手がける企業もあります。

まとめ

  • 真空が必要な理由は「空気が邪魔」「プラズマを作る」「汚染を避ける」の3つ
  • 大気圧から超高真空までは10桁以上の差があり、1台のポンプでは実現できない
  • ドライポンプで粗く引き、ターボ分子ポンプで深く引くという分業構成をとる
  • 「ドライ」とは油を使わないこと。油の逆流が汚染源になるため半導体では必須
  • ターボ分子ポンプは毎分数万回転で気体分子を物理的に叩き出す
  • 腐食性ガスと堆積物により消耗するため、保守とセットのビジネスになっている
  • 排ガスは除害装置で無害化してから排出され、環境対策の重要性が増している
  • 荏原製作所はCMP・めっき・ポンプと、半導体の複数分野を手がける

工場を支える他のインフラはクリーンルーム、超純水、搬送システムで解説しています。

参考・出典

ドライ真空ポンプで上位にある荏原製作所については荏原製作所とは?で、CMP装置とあわせて解説しています。