半導体工場を思い浮かべるとき、多くの人は白い防塵服とクリーンルームを想像します。

しかし工場には、もうひとつの階があります。装置が並ぶフロアの、すぐ下です。

ここはサブファブと呼ばれ、真空ポンプ、除害装置、冷却設備、電源といった機器がぎっしりと詰まっています。クリーンルームの装置は、この階に支えられて動いています。

この記事では、なぜ工場が上下に分かれているのか、そして距離が性能を決めてしまう物理を解説します。真空をつくる仕組みは半導体用真空ポンプとは?で扱っています。

なぜ上下に分けるのか

理由は単純です。クリーンルームの面積は高価だからです。

クリーンルームは、清浄な空気を大量に循環させ続けることで成り立ちます。天井にはフィルタが並び、床は通気性のある構造になっています。建設費も運転費も、通常の工場とは桁が違います。

その空間に、清浄さを必要としない機械を置くのは無駄です。

真空ポンプは油や粒子を出します。除害装置は燃焼や薬液を扱います。どちらもクリーンルームには置きたくない設備です。

そこで工場は階層に分けられました。

階層 置かれるもの 清浄度
クリーンルーム 製造装置、搬送システム 極めて高い
サブファブ 真空ポンプ、除害装置、チラー、電源盤 通常の工場並み
ユーティリティ階 空調、純水、ガス供給の本体設備 —

装置の本体だけがクリーンルームにあり、それを動かすための機械は下に隠されているという構造です。

距離が性能を決める

ここで素朴な疑問が生まれます。どうせ別の階に置くなら、まとめて建物の隅に置けばよいのではないか。

それができない理由があります。

真空ポンプは、装置から配管を通してガスを吸い出します。この配管が長いほど、あるいは細いほど、ガスは流れにくくなります。

コンダクタンスという考え方

配管のガスの通しやすさをコンダクタンスと呼びます。高真空の領域では、円管のコンダクタンスはおおよそ次の関係になります。

コンダクタンス ∝ 管径³ ÷ 長さ

管径の3乗に比例し、長さに反比例します。この効き方が極端です。

  • 配管を2倍の太さにすると、通しやすさは8倍になる
  • 配管を2倍の長さにすると、通しやすさは半分になる

ポンプの性能は配管で頭打ちになる

さらに重要なのは、実際の排気速度が次のように決まることです。

1 ÷ 実効排気速度 = 1 ÷ ポンプ性能 + 1 ÷ コンダクタンス

具体的に計算してみます。排気速度1,000 L/sのポンプを使う場合です。

配管のコンダクタンス 実際に出る排気速度
500 L/s(細い・長い) 約333 L/s
1,000 L/s 500 L/s
5,000 L/s(太い・短い) 約833 L/s

配管が細く長ければ、ポンプ本来の性能の3分の1しか出ません。高性能なポンプを買っても、配管次第で無駄になります。

だからポンプは、できるだけ装置の近くに置く必要があります。装置の真下——それがサブファブという答えです。

仮に配管長が3倍になれば、同じ性能を得るには管径を約1.44倍にしなければなりません。太い配管は高価で、設置スペースも食います。距離を縮めるほうが合理的なのです。

除害装置|出すガスを無害にする

サブファブのもうひとつの主役が除害装置です。

エドワーズは、除害装置を「半導体の製造プロセスで排出される、環境に影響を及ぼす有毒ガスや地球温暖化ガスを除害する設備」と説明しています。

ポンプが吸い出したガスは、そのままでは大気に出せません。半導体で使うガスには次のようなものが含まれます。

  • 毒性を持つガス:吸えば人体に害がある
  • 可燃性のガス:空気に触れると発火するものもある
  • 腐食性のガス:配管や設備を傷める
  • 強い温室効果を持つガス:フッ素系のガスに多い

方式は用途で使い分ける

除害には複数の方式があり、扱うガスによって選ばれます。

方式 やり方 向くガス
燃焼 燃やして分解する 可燃性ガス、有機系
湿式 水や薬液に吸収させる 水に溶けるガス、酸・アルカリ
乾式 吸着剤に化学反応させて固定する 少量の毒性ガス
プラズマ 電気的に分解する 分解しにくいフッ素系

1つの方式ですべてを処理できるわけではありません。燃焼で分解した後に生じる酸性のガスを、続けて水で洗う——このように複数の方式を直列に組み合わせることもあります。

分解しにくいガスという難題

とくに厄介なのが、エッチングやチャンバー洗浄で使われるフッ素系のガスです。

これらのガスは化学的に極めて安定です。安定だからこそ工程で扱いやすいのですが、同じ理由で分解しにくく、大気に出れば長く残り続けます。

そして多くが二酸化炭素とは桁違いに強い温室効果を持ちます。半導体産業が環境負荷を語るとき、この排ガス処理は避けて通れない論点になっています。

装置の生産性を上げれば、処理すべきガスも増えます。作る能力と、始末する能力は釣り合っていなければなりません。

熱と電気の場所でもある

サブファブを語るとき、見落とされやすい要素があります。熱です。

真空ポンプは、気体を圧縮して押し出す機械です。圧縮すれば発熱します。しかも工場が動いている限り、止まることなく回り続けます。

除害装置も同様です。燃焼方式であれば、その名のとおり火を使います。

つまりサブファブには、発熱する機械が密集しています。放置すれば温度が上がり、機器の寿命を縮めます。だからこの階にも冷却水を回す設備と空調が必要になります。

電力の面でも無視できません。多数のポンプが24時間動き続けるため、工場全体の消費電力のうち、相応の割合がこの階で使われます。半導体工場の省エネを考えるとき、サブファブは重要な対象になります。

人が入って作業する場所

もうひとつ、クリーンルームとの違いがあります。サブファブは、人が機械に触れて作業する場所だという点です。

ポンプは消耗品を含み、定期的な整備が必要です。除害装置は薬剤や吸着剤を交換します。配管の点検もあります。

問題は、これらの作業を工場を止めずに行わなければならないことです。1台のポンプを整備する間、その装置だけを止めて他は動かし続ける——そうした運用ができる配置と余裕が求められます。

整然と並んでいるように見える設備の配置には、保守の動線という設計思想が織り込まれています。

サブファブが工場の設計を決める

サブファブは、単なる機械置き場ではありません。工場の構造そのものを規定します。

  • 階高:ポンプや除害装置が入る高さが必要になる
  • 床の強度:クリーンルームの床は、下階の設備と配管を通す構造になる
  • 増設の余地:装置を増やせば、下の設備も増える

装置を1台導入するということは、上の階に装置を置き、下の階にポンプと除害装置を置き、その間を配管でつなぐということです。

工場の建設費を語るとき、クリーンルームの面積だけでは足りません。その下にもう一つの工場があると考えるほうが実態に近いといえます。

誰が担っているのか

サブファブの設備は、装置メーカーとは別の企業が供給しています。

エドワーズは真空製品と除害装置の両方を手がけ、自社を「低真空から超高真空まで、すべての種類のポンプを取りそろえる業界唯一のメーカー」と説明しています。同社の日本法人は、磁気軸受式ターボ分子ポンプを世界で初めて量産化したとしています。

ポンプと除害をまとめて引き受けられることは、この分野では強みになります。両者は配管でつながり、片方だけでは成立しないためです。

工場インフラを支える企業は、ほかにも超純水や搬送システムなど、それぞれの領域に存在します。

✍️ ひとこと

計算していて印象的だったのは、高性能なポンプを買っても、配管が細く長ければ3分の1の力しか出ないということでした。

だから装置の真下にポンプを置く。工場が二階建てになっている理由が、単純な物理から説明できてしまう。建物の形にも、ちゃんと理屈がある——そう思うと、工場の見え方が少し変わりました。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

サブファブとは何ですか?

クリーンルームの直下にある階で、真空ポンプ、除害装置、冷却設備、電源などが設置されています。清浄さを必要としない設備をここに集約することで、高価なクリーンルームの面積を有効に使います。

なぜポンプを装置の近くに置くのですか?

配管が長く細いほどガスが流れにくくなり、ポンプ本来の性能が出ないためです。高真空領域では、配管の通しやすさは管径の3乗に比例し、長さに反比例します。

除害装置は何をしているのですか?

製造プロセスから排出される有毒ガスや温室効果の強いガスを、燃焼・湿式・乾式・プラズマなどの方式で無害化してから大気へ放出します。ガスの種類によって方式が使い分けられます。

フッ素系ガスが問題になるのはなぜですか?

化学的に安定で分解しにくく、大気中に長く残るためです。多くが二酸化炭素と比べて桁違いに強い温室効果を持つため、確実な分解処理が求められます。

まとめ

  • サブファブはクリーンルームの直下の階で、真空ポンプ・除害装置・冷却設備・電源が置かれる
  • 上下に分ける理由は、クリーンルームの面積が高価であり、油や燃焼を伴う設備を清浄空間に置きたくないため
  • 高真空では配管の通しやすさが管径の3乗に比例し長さに反比例する。太さ2倍で8倍、長さ2倍で半分になる
  • 実効排気速度はポンプ性能と配管で決まる。配管が細く長ければポンプの3分の1の性能しか出ない
  • だからポンプは装置の真下に置かれる。工場が階層構造になっている理由がここにある
  • 除害装置は燃焼・湿式・乾式・プラズマを使い分け、複数方式を直列に組むこともある
  • フッ素系ガスは安定ゆえに分解しにくく、強い温室効果を持つため処理が難題になっている
  • サブファブは階高・床構造・増設余地を規定し、工場の設計そのものを左右する

真空を作る仕組みは半導体用真空ポンプとは?、清浄空間の設計は半導体のクリーンルームとは?で解説しています。

参考・出典