石英・セラミック部材とは?熱膨張31分の1という選択と材料の使い分け
半導体製造装置の中で、ウェハーが置かれる空間そのものも特殊な材料でできています。炉の管、ウェハーを載せる治具、チャンバーの内壁——これらは金属では務まりません。
使われるのは石英ガラスやセラミックスです。
なかでも石英が選ばれる理由は、ひとつの数字に集約されます。熱膨張係数が、ステンレスのおよそ31分の1。
この記事では、石英とセラミック部材が持つ性質、材料の使い分け、そして消耗品としての側面を解説します。拡散炉での役割は縦型拡散炉と横型拡散炉の違いでも扱っています。
石英ガラスの数字を見る
クアーズテックが公表している石英ガラスの物性は次のとおりです。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 熱膨張係数 | 0.5〜0.65×10⁻⁶/℃ |
| 熱伝導率 | 1.4〜1.5 W/m・K |
| 曲げ強度 | 105 MPa(20℃) |
| 最大使用温度 | 1,000〜1,100℃ |
| 体積抵抗率 | 10¹⁸ Ω・cm(25℃) |
同社はこの材料を「極めて低い熱膨張率により優れた耐熱衝撃性を示し、さらに高純度」と説明しています。
熱膨張が31分の1という意味
熱膨張係数の小ささが、どれほどの違いを生むのか計算してみます。
長さ1メートルの部材が、1,000℃の温度変化を受けた場合を考えます。
| 材料 | 熱膨張係数 | 1,000℃での伸び |
|---|---|---|
| 石英ガラス | 約0.55×10⁻⁶/℃ | 約0.55 mm |
| ステンレス | 約17×10⁻⁶/℃ | 約17 mm |
17 ÷ 0.55 = 約31倍
ステンレスなら17ミリ伸びるところを、石英は0.55ミリしか動きません。
炉の中は室温から1,000℃以上まで昇温し、また冷やされます。この繰り返しに耐えるには、そもそも伸び縮みしない材料を選ぶしかありません。
金属で作れば、熱サイクルのたびに部材が動き、接続部に力がかかり、やがて壊れます。熱処理装置が石英で構成されているのは、この物性によるところが大きいといえます。
熱を伝えないのに割れない
もうひとつ注目したいのが、熱伝導率の低さです。
石英の熱伝導率は1.4〜1.5 W/m・K。ステンレスの10分の1以下、銅と比べれば200分の1以下という水準です。石英は熱をほとんど伝えません。
普通なら、これは割れる原因になります。急に加熱すれば、表面は熱いのに内部は冷たいまま。温度差があれば、伸びの差から応力が生じ、材料は割れます。
ところが石英は割れにくい。そもそも温度が変わっても伸びないからです。
温度差があっても、伸びの差が生まれない。だから応力も生じない。熱を伝えにくいという弱点を、膨張しないという性質が打ち消しています。
赤熱した石英を水に入れても割れない、と言われるのはこのためです。
石英の限界
万能に見える石英にも、明確な限界があります。
公表されている最大使用温度は1,000〜1,100℃。これを超える領域では使えません。
さらに、高温で長時間使い続けると失透という現象が起きます。非晶質だったガラスが結晶化し、白く濁る変化です。失透した部分は割れやすく、粒子の発生源にもなります。
この現象については拡散炉の記事で詳しく扱っています。要するに石英部材は消耗品であり、いずれ交換が必要ということです。
だから炭化ケイ素が使われる
石英が届かない領域を埋めるのが、SiC(炭化ケイ素)のセラミックスです。
クアーズテックの常圧焼結SiCは、次のように説明されています。
- 1,400℃以上でも強度劣化がなく安定して使用できる
- 高温での耐クリープ性に優れ、変形がほとんど起こらない
- 熱伝導率が高く熱容量が低いため、昇降温の応答が良く、均一な表面温度分布を実現
- 高温雰囲気での耐食性に優れる
ここで気づくのは、石英とは正反対の性質を持っていることです。
| 石英ガラス | SiCセラミックス | |
|---|---|---|
| 使用温度 | 1,000〜1,100℃まで | 1,400℃以上でも安定 |
| 熱伝導 | 低い(熱を伝えない) | 高い(熱を伝える) |
| 熱膨張 | 極めて小さい | 石英より大きい |
| 得意なこと | 急な温度変化に耐える | 高温で変形しない、温度を揃える |
使い分けの論理
この違いが、そのまま用途を分けます。
- 急に温めたり冷やしたりする → 石英(膨張しないので割れない)
- 1,100℃を超える → SiC(石英では持たない)
- ウェハー面内の温度を揃えたい → SiC(熱伝導が高く温度差が消える)
- 長時間の高温で形を保ちたい → SiC(耐クリープ性)
どちらが優れているという話ではありません。求める条件によって、選ぶ材料が変わります。
混同しやすい点
ひとつ注意があります。ここでいうSiCは装置の構造材としてのセラミックスです。
パワー半導体の材料としてのSiCとは、同じ物質でも役割がまったく異なります。前者は装置の部品、後者はチップそのものになる材料です。
プラズマという別の過酷さ
熱とは別に、部材を痛める要因があります。プラズマです。
エッチング装置の内部では、加速されたイオンが飛び交っています。狙いはウェハーを削ることですが、チャンバーの内壁や周辺部材も同時に削られます。
ここで問題が二重になります。
- 部材が削れて寸法が変わると、電界の分布が変わり、加工の結果に影響する
- 削れた材料が粒子となってウェハーに落ちる
つまり部材の消耗は、単なる交換コストではありません。加工結果そのものが、部材の状態に左右されます。
その代表例が、エッチング装置でウェハーの外周を囲むリングです。素材がシリコンからSiCへ移った経緯と供給企業はフォーカスリングとは?で整理しています。
そのため耐プラズマ性の高い材料や、表面にセラミックスを溶射した部材が使われます。クアーズテックのプラズマ溶射セラミックスも、緻密な膜組織により耐摩耗性・耐剥離性を高めた製品と説明されています。
消耗品としての部材
ここまで見てきたとおり、装置内部の部材は使えば減ります。
- 石英は失透し、いずれ交換される
- プラズマに晒される部材は削られる
- 付着した堆積物を落とすため、定期的に洗浄される
そのため、部材を洗浄・再生して再び使うという事業も成り立っています。新品に交換するより安く、供給の制約も緩和できるためです。
装置ビジネスが本体だけで完結しない構造は、静電チャックやバルブとも共通します。
作るのが難しいという事情
もうひとつ、この分野を理解するうえで欠かせない要素があります。石英は、作るのも加工するのも簡単ではありません。
石英ガラスは、金属のように型に流し込んで量産する、という作り方が通用しません。軟化する温度が非常に高く、扱える温度域が狭いためです。
結果として、溶かしながら形にしていく工程が残ります。大きな管、複雑な形の治具、細かい寸法精度——いずれも簡単には自動化できません。
そして装置が大型化するほど、部材も大きくなります。大きいものほど、均一な品質で作るのが難しくなるという関係があります。
クアーズテックが自社の強みとして、高純度化技術に加えて大型化・精密化・モジュール化といった加工技術を挙げているのは、この難しさの裏返しといえます。
最先端のチップを作る装置が、溶かして形にしたガラスに支えられている。製造技術の頂点が、古くからある素材加工の技に依存しているという構図がここにあります。
削れた部材が粒子として検出されたとき、その材質を特定する手法はEDXとは?をご覧ください。
主要メーカー
石英・セラミック部材は、素材技術を持つ企業が担っています。
| 企業 | 手がける材料 |
|---|---|
| クアーズテック | 石英ガラス、SiC、アルミナ、溶射 |
| 信越石英 | 石英ガラス(信越化学グループ) |
| フェローテック | 石英、セラミックス |
| 京セラ、Niterra など | ファインセラミックス |
いずれも素材そのものの技術を土台にしている点が共通します。高純度の原料を扱い、狙った形に加工する——この蓄積が参入障壁になります。日本勢の広がりは日本の半導体製造装置メーカー一覧をご覧ください。
面白かったのは、石英が「熱を伝えないのに割れない」という点でした。普通なら温度差ができて割れるはずなのに、そもそも伸びないから応力が生まれない。
弱点に見える性質が、別の性質に打ち消されている。材料を選ぶというのは、こういう釣り合いを見ることなのだと感じました。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
なぜ金属ではなく石英を使うのですか?
熱膨張係数がステンレスの約31分の1と極めて小さく、繰り返しの加熱・冷却に耐えるためです。加えて高純度でウェハーを汚染しにくい点も理由になります。
石英とSiCはどう使い分けるのですか?
急激な温度変化に耐えたい場合や高純度が最優先なら石英、1,100℃を超える高温や、ウェハー面内の温度を均一にしたい場合はSiCが向きます。性質が正反対なので、条件に応じて選ばれます。
装置部材のSiCとパワー半導体のSiCは同じですか?
物質としては同じ炭化ケイ素ですが、役割が異なります。前者は装置の構造材、後者はチップそのものになる半導体材料です。
石英部材はなぜ交換が必要なのですか?
高温で長時間使うと結晶化して白く濁る失透が起き、割れやすくなり粒子の発生源にもなるためです。プラズマに晒される部材は削られて寸法が変わります。
まとめ
- 石英ガラスの熱膨張係数は0.5〜0.65×10⁻⁶/℃で、ステンレスの約31分の1
- 1mの部材が1,000℃の温度変化を受けたとき、ステンレスは約17mm伸びるが石英は約0.55mmにとどまる
- 熱伝導率は1.4〜1.5 W/m・Kと低いが、膨張しないため温度差があっても割れない
- 最大使用温度は1,000〜1,100℃。これを超える領域や失透の問題があるため万能ではない
- SiCセラミックスは1,400℃以上でも安定し、熱伝導が高く温度を均一化しやすい。石英とは正反対の性質を持つ
- 装置部材のSiCと、パワー半導体の材料としてのSiCは役割が異なる
- プラズマに晒される部材は削られ、寸法変化が加工結果に影響する。粒子の発生源にもなる
- 部材は消耗品であり、洗浄・再生して再利用する事業も成立している
拡散炉での使われ方は縦型拡散炉と横型拡散炉の違い、部品層の全体像は静電チャックとは?で解説しています。