数億円する装置を導入しても、動いていなければ1枚も生産できません。装置産業の利益は「どれだけ動かせたか」で決まります。

ところが現場では、同じ装置について「稼働率は90%です」「いや70%だ」と数字が食い違うことがあります。嘘をついているわけではなく、分母が違うのです。この記事では、半導体装置の稼働率をどう測るのか、そして止まる時間をどう減らすのかを解説します。

半導体には専用の規格がある|SEMI E10

製造業一般ではOEE(設備総合効率)がよく使われますが、半導体にはSEMI E10という専用の規格があります。正式には「半導体製造装置の信頼性・有用性・整備性(RAM)と利用性の定義と測定のための仕様」です。

なぜ専用規格が要るのか。半導体装置は「動いていないが、故障でもない」時間が非常に多いからです。条件出し、チャンバークリーニング、材料待ち——これらを一括りに「停止」と扱うと、改善すべき対象が見えなくなります。

装置は6つの状態のどれかにいる

状態 内容
Productive(生産中) 本来の機能を果たしている=製品を処理している
Standby(待機) いつでも処理できるが、流すウェーハが来ていない
Engineering(エンジニアリング) 条件出しや評価など、生産以外の目的で使っている
Scheduled Down(計画停止) 予定された保全。定期点検、部品交換、クリーニング
Unscheduled Down(非計画停止) 故障。予定外に止まった状態
Non-Scheduled Time(非スケジュール時間) そもそも動かす予定がない時間(休止、未設置など)

この6分類が出発点です。「止まっている」を一語で片付けず、待機なのか、保全中なのか、壊れているのかを区別する。打つべき手がまったく違うからです。

  • 待機が多い→ 装置の問題ではない。生産計画や前工程の滞りが原因
  • 計画停止が多い→ 保全の頻度や手順を見直す
  • 非計画停止が多い→ 故障の原因を潰す。ここが最も損失が大きい

「稼働率90%」は何を指しているのか

ここが実務で最も混乱する点です。稼働率は、分子(生産していた時間)は同じでも、分母の取り方で数字が変わります。

指標 分母 何を測っているか
Total Utilization 全時間 買った装置を、時間全体でどれだけ使えたか
Operational Utilization 運用可能な時間 動かす予定だった時間を、どれだけ使えたか
Equipment Uptime Utilization 装置が使える状態だった時間 使える状態のとき、実際に流せていたか

たとえば「装置が使える時間」を分母にすれば数字は高く出ますが、それは故障や保全で止まっていた時間を分母から外しているからです。一方全時間を分母にすれば、装置への投資がどれだけ回収できているかが見えます。

会議で稼働率の数字が食い違うとき、多くは定義の違いです。「どの分母か」を最初に揃えるだけで、議論は噛み合います。

OEE|3つの掛け算で見る

製造業共通の指標であるOEE(設備総合効率)は、次の3つの積です。

OEE = 時間稼働率 × 性能稼働率 × 良品率

要素 意味 下がる原因
時間稼働率 予定した時間のうち、実際に動いた割合 故障、段取り替え、保全
性能稼働率 本来の速度で動けているか 処理時間の延び、微小な停止の繰り返し
良品率 処理したもののうち良品の割合 不良の発生、やり直し

掛け算である点が重要です。それぞれが90%でも、積は約73%にしかなりません。3つのうちどれか1つを完璧にしても、全体は大きく改善しません。低いものから順に潰すのが定石になります。

なお半導体では、良品率=歩留まりが桁違いに重いという特徴があります。数百工程を経た完成間近のウェーハを不良にすれば、そこまでの全工程が無駄になるためです。インライン検査で工程内の異常を早期に捕まえるのは、この損失を抑えるためでもあります。

保全の3つの考え方

方式 いつ直すか 長所と短所
事後保全(BM) 壊れてから 部品を使い切れるが、止まる時期を選べない
予防保全(PM) 決めた周期で 計画的に止められるが、まだ使える部品も交換する
状態基準保全(CBM) 状態が悪化したら 無駄が少ないが、状態を測る仕組みが要る

半導体ではPMが基本です。理由は単純で、非計画停止の損害が大きすぎるからです。処理途中のウェーハが失われ、後工程の予定も崩れます。「まだ使える部品を捨てる損」より、「予定外に止まる損」のほうがはるかに大きいという判断です。

近年は振動・電流・圧力などを常時監視し、劣化の兆候をつかんでから交換するCBMが広がりつつあります。予防保全の無駄を減らしつつ、突発停止も避けるという考え方です。

半導体の保全が難しい理由

ここが他業種との決定的な違いです。半導体では「直したら終わり」ではありません。

①元の性能に戻ったことを証明しなければならない

部品を交換すれば、装置はわずかに違う個体になります。テストウェーハを流し、膜厚や寸法を測り、規格内であることを確認して初めて生産に戻せます。この検証時間も停止時間に含まれます。

この構造は災害からの復旧とまったく同じです。装置を入れ替えただけでは生産は再開できません。

②開けた瞬間に汚染される

真空チャンバーを開ければ大気が入り、クリーンルームの空気であっても内部は汚染されます。作業後は排気とベーキングで元の真空度まで戻す必要があり、これに時間がかかります。

③装置は使うほど汚れる

エッチングや成膜では、狙った場所以外にも膜が付きます。放置すれば剥がれてパーティクルになるため、定期的なチャンバークリーニングが欠かせません。これは装置が正常でも必ず発生する停止時間です。

④止められない時間帯がある

前後の工程とつながっているため、装置単体の都合で保全時期を決められません。ラインの流れを見ながら、影響の小さいタイミングを選ぶ調整が必要になります。

稼働率を上げる現実的な手順

  1. 状態を分けて記録する——SEMI E10の6状態で時間を分類する。これをしないと原因が特定できない
  2. 最も大きい損失から手をつける——非計画停止が多いのか、待機が多いのかで対策はまったく違う
  3. 非計画停止を計画停止に変える——故障で止まるのを、予定された保全に置き換える
  4. 計画停止そのものを短くする——手順の標準化、部品の事前準備、複数人での並行作業
  5. 検証時間を短くする——保全後の確認手順を絞り込む。ただし品質を犠牲にしない範囲で

「装置を止めない」ことが目的ではありません。止まる時間を予定できる形に変え、短くする——これが実務上の到達点です。突発停止をゼロにはできませんが、予測できる停止に置き換えることはできます。

✍️ ひとこと

調べていて印象に残ったのは、「稼働率90%」と「70%」が、どちらも嘘ではないという話です。分母が違うだけで数字は変わる。議論の前に定義を揃えるという当たり前が、いちばん効く改善でした。

直して終わりではなく、元の性能に戻ったことを確かめて保全は終わる。数字の裏には、その確認を積み重ねる仕事があります。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

Q. 稼働率とOEEはどう違うのですか?

稼働率は主に「動いていた時間の割合」を見ます。OEEはそこに速度(性能稼働率)と品質(良品率)を掛け合わせた総合指標です。動いていても遅ければ、あるいは不良を作っていれば、OEEは下がります。

Q. なぜ半導体はSEMI E10を使うのですか?

半導体装置は「故障ではないが生産していない」時間が多いためです。条件出し、クリーニング、材料待ちを区別しないと、改善すべき対象を取り違えます。

Q. 予防保全と状態基準保全はどちらが良いのですか?

優劣ではなく使い分けです。状態を測れる対象(回転機器など)はCBMが有効ですが、測りにくい部分は周期で交換するPMが現実的です。

Q. 保全は装置メーカーがやるのですか?

分担はさまざまです。日常の点検や部品交換は工場側、大がかりな作業や難しい故障は装置メーカーのフィールドエンジニアが対応するのが一般的です(装置エンジニアの職種)。

Q. 装置の稼働率は何%あればよいのですか?

装置の種類と工程によって大きく異なります。高価でボトルネックになりやすい装置ほど高い稼働率が求められる一方、余力を持たせて配置される装置もあります。数字そのものより、同じ定義で経時変化を追うことが実務では重要です。

まとめ

  • 半導体にはSEMI E10という装置の信頼性・稼働状態を定義する専用規格がある
  • 装置は生産中・待機・エンジニアリング・計画停止・非計画停止・非スケジュールの6状態で管理する
  • 「稼働率」は分母で数字が変わる。議論の前に定義を揃えることが先決
  • OEE=時間稼働率×性能稼働率×良品率。掛け算なので、低いものから潰す
  • 半導体では非計画停止の損害が大きいためPMが基本。近年はCBMも広がる
  • 保全が難しいのは元の性能に戻ったことを証明する必要があるから。直して終わりではない

装置の全体像は半導体製造装置とは、停止が生む損害の大きさは停電・瞬低の記事でも扱っています。

参考・出典