エッチングも成膜も、多くはプラズマを使います。そのプラズマを生み出しているのが高周波(RF)電源です。

装置の主役はチャンバーやガスだと思われがちですが、電気の供給が乱れればプラズマは安定しません。加工の結果は、電源の性能に直結します。

この記事では、RF電源の役割、13.56MHzという周波数が使われる理由、そして電力が届かないという厄介な問題を解説します。装置を支える部品の全体像は静電チャックとは?で扱っています。

RF電源とは|プラズマをつくる電気

プラズマは、気体に強いエネルギーを加えて電子とイオンに分かれた状態です。エッチングではこのイオンや反応種を使って材料を削り、成膜では膜を作ります。

プラズマを起こし、維持し続けるには電気を送り込む必要があります。その供給源がRF電源です。

装置の中では、次のような構成になっています。

RF電源 → 整合器 → チャンバー内の電極 → プラズマ

間に挟まる整合器が、この分野の難所です。理由は後ほど説明します。

なぜ高周波なのか

直流でもプラズマは作れます。しかし半導体の製造では高周波が使われます。

最大の理由は、絶縁物を扱えることです。

直流の場合、電極が絶縁膜で覆われていると電流が流れず、放電が止まります。半導体製造では酸化膜など絶縁材料を扱う場面が多いため、これは致命的です。

高周波なら、絶縁物を挟んでいてもコンデンサのように電力を伝えられます。絶縁膜の上でもプラズマを維持できる——ここが高周波を選ぶ決定的な理由です。

13.56MHzという数字の由来

RF電源のカタログを見ると、13.56MHzという半端な数字が並んでいます。ダイヘンの製品にも13.56MHz、27.12MHzといった周波数があります。

この数字は、物理的に最適だから選ばれたわけではありません。

制度で決められた周波数

高周波を扱う装置からは、電波が漏れます。漏れた電波が通信に混信すれば大問題です。

日本では電波法により、10kHz以上の高周波電流を通じる設備は原則として個別の設置許可が必要とされています。総務省もこれを高周波利用設備として規制の対象に位置づけています。

そこで国際的に、産業・科学・医療用に使ってよい周波数帯があらかじめ決められました。13.56MHzはその代表です。

興味深いのは、その周辺の数字です。

周波数 13.56MHzとの関係
13.56MHz 基本
27.12MHz 2倍
40.68MHz 3倍

いずれも13.56MHzの整数倍です。高調波が同じ枠に収まるよう設計された配置になっています。

装置の設計は、物理法則だけでなく制度にも規定されている。この周波数は、その一例といえます。

周波数で役割が変わる|イオンは重すぎる

ここが技術的な核心です。

ダイヘンの製品ラインナップを見ると、周波数の幅広さに気づきます。

周波数 シリーズ 出力
400kHz MGA 500W〜20kW
2MHz WGA 500W〜20kW
13.56MHz RGA 500W〜30kW
27.12MHz NGA 500W〜5kW
2.45GHz SGP(マイクロ波) 1kW〜3kW

なぜこれほど多くの周波数が必要なのでしょうか。周波数によって、プラズマの中で起きることが変わるからです。

質量差が生む違い

プラズマの中には電子とイオンがあります。両者の重さを比べてみます。

  • アルゴンイオン:約6.6×10⁻²⁶ kg
  • 電子:約9.1×10⁻³¹ kg

6.6×10⁻²⁶ ÷ 9.1×10⁻³¹ = 約7万倍

イオンは電子のおよそ7万倍も重いのです。

この差が、周波数への応答を分けます。

  • 高い周波数:電界の向きが目まぐるしく反転する。軽い電子は追従できるが、重いイオンは動き出す前に向きが変わってしまう
  • 低い周波数:反転がゆっくりなので、イオンも電界に追従して加速される

つまり高周波は電子を揺さぶってプラズマを濃くし、低周波はイオンを加速してウェハーへ打ち込む力を強めます。

2周波制御|密度とエネルギーを分ける

ここから重要な発想が生まれます。周波数の違う電源を2つ使えばよいのです。

  • 高い周波数 → プラズマの密度(反応種の量)を決める
  • 低い周波数 → イオンのエネルギー(削る強さ)を決める

ひとつの電源では、密度を上げようとするとイオンエネルギーも変わってしまいます。しかし2つに分ければ、「たくさん反応させるが、強くは叩かない」といった調整が可能になります。

削りたい膜だけを選んで削る——エッチングで求められる選択性は、こうした制御によって実現されています。

整合器|電力が届かないという問題

RF電源をめぐるもうひとつの難所が、整合(マッチング)です。

高周波の世界では、送り出した電力がそのまま届くとは限りません。送る側と受ける側のインピーダンスが合っていないと、電力は反射して戻ってきます。

どれだけ戻るのか

反射の割合は計算できます。電源側を50Ω、負荷側を5Ωと仮定します。

Γ =(5 − 50)÷(5 + 50)= −0.82

反射する電力の割合は、この値の2乗です。

0.82² = 約0.67

約67%が反射して戻り、届くのは3割ほどという計算になります。

戻ってきた電力は熱となり、電源そのものを傷めます。放置すれば装置は壊れます。

プラズマは動く負荷

厄介なのは、プラズマのインピーダンスが一定ではないことです。

  • 点火する前と後で、まったく違う値になる
  • ガスの種類や圧力を変えれば変わる
  • 加工が進み、削れる材料が変われば変わる

つまり相手が動き続けます。だから整合器には可変コンデンサなどが組み込まれ、状態を見ながら自動で追い込む仕組みが備わっています。

ダイヘンが電源と自動整合器をセットで供給しているのは、この2つが切り離せないためです。

反射波はプラズマの鏡でもある

反射は困った現象ですが、見方を変えると情報でもあります。

プラズマの状態が変われば、インピーダンスが変わります。インピーダンスが変われば、反射の量と整合器の動きが変わります。

つまり電気的な振る舞いを見れば、チャンバーの中で何が起きているか推し量れます。覗き窓を作らなくても、電源側から状態が読み取れるわけです。

加工の終点を検知したり、異常を早期に見つけたりする用途にも使われます。工程内のデータで装置を制御するという考え方は、こうした信号にも支えられています。

パルス化という進化

近年の高周波電源には、パルス出力の機能が備わるようになりました。電力を連続で流すのではなく、細かくオンオフします。

利点は複数あります。

  • ウェハー表面にたまる電荷を、オフの間に逃がせる
  • 反応種の生成と、加工の進行を分けて制御できる
  • 局所的な過熱を抑えられる

ダイヘンも、パルス出力機能を標準搭載した13.56MHz電源を製品化しています。ただ電力を送るのではなく、時間軸で細かく操る方向へ進んでいることが分かります。

主要メーカー

プラズマ用高周波電源は、限られた企業が担っています。

企業 国 位置づけ
MKS Instruments 米国 電源・計測・真空部品を幅広く展開
Advanced Energy 米国 プロセス電源の大手
ダイヘン 日本 400kHz〜2.45GHzを網羅。電源と自動整合器をセットで供給

ダイヘンは溶接機や変圧器で知られる企業です。電気を制御する技術が、半導体装置の中核部品につながっているという構図は、セラミックから参入したTOTOとも共通します。

装置メーカーがこの部分を自社で作らないのは、高周波が独立した技術領域だからです。数十キロワットの電力を、乱れなく、決まった周波数で送り続ける——扱う物理が装置本体とは異なります。そのぶん専門メーカーの蓄積が効きます。

日本勢の広がりは日本の半導体製造装置メーカー一覧で解説しています。

✍️ ひとこと

意外だったのは、13.56MHzという数字が物理ではなく制度で決まっていたことでした。技術の世界にも、話し合いで決めたルールが土台にある。

そしてイオンが電子の7万倍重いという一点から、電源を2つ使う発想が生まれている。重さの違いが、装置の構成そのものを決めている——そのつながりが見えたとき、少し感動しました。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

なぜ13.56MHzが使われるのですか?

産業・科学・医療用として国際的に割り当てられた周波数だからです。高周波を扱う設備は電波法の規制対象で、漏れた電波が通信に混信するおそれがあります。決められた枠内の周波数を使うことで、この問題を避けています。

なぜ複数の周波数が必要なのですか?

周波数によってプラズマ中で起きることが変わるためです。高い周波数はプラズマの密度を高め、低い周波数はイオンを加速します。両方を組み合わせることで、反応種の量と削る強さを別々に制御できます。

整合器は何をしているのですか?

電源とプラズマのインピーダンスを合わせています。合っていないと電力が反射して戻り、電源を傷めます。プラズマの状態は変動し続けるため、自動で追従する仕組みが必要になります。

RF電源は装置メーカーが自社で作らないのですか?

専門メーカーから調達するのが一般的です。高周波の設計は独自の技術領域であり、装置メーカーはチャンバーやプロセスの開発に資源を集中しています。

まとめ

  • RF電源はプラズマを生成・維持する部品で、エッチングや成膜の結果を左右する
  • 直流ではなく高周波を使うのは、絶縁膜の上でも放電を維持できるため
  • 13.56MHzは物理的な最適値ではなく、産業・科学・医療用として割り当てられた周波数。27.12MHzや40.68MHzはその整数倍
  • イオンは電子の約7万倍重い。この差により、高周波では電子だけが追従し、低周波ではイオンも加速される
  • そのため高周波でプラズマ密度、低周波でイオンエネルギーを制御する2周波制御が使われる
  • インピーダンスが合わないと電力は反射する。50Ωに対し5Ωなら約67%が戻り、届くのは3割ほど
  • プラズマは点火前後や条件で状態が変わるため、整合器が自動で追従する
  • パルス出力により、電荷の蓄積を抑え、時間軸での制御が可能になった

プラズマを使う工程はエッチング装置と成膜装置、装置を支える部品の全体像は静電チャックとは?で解説しています。

参考・出典