静電チャックとは?装置を支える部品層と「冷やすために吸着する」仕組み
半導体製造装置は、10万点規模の部品で構成されるといわれます。
装置メーカーは、そのすべてを自社で作っているわけではありません。装置の性能を左右する重要な部品ほど、専門のメーカーが供給しています。
なかでも象徴的なのが静電チャックです。ウェハーを固定する部品——そう説明されることが多いのですが、実際の役割は少し違います。本質は、冷やすことにあります。
この記事では、装置を支える部品層を整理し、静電チャックを軸にその難しさを解説します。材料の層については半導体材料メーカー一覧をご覧ください。
装置を支える部品層とは
半導体製造装置の周辺には、三つの層があります。
| 層 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 装置 | 工程を実行する機械 | エッチング装置、成膜装置 |
| 部品 | 装置を構成する要素 | 静電チャック、バルブ、電源 |
| 材料 | 装置に投入して消費するもの | ガス、薬液、レジスト |
部品層の企業は、半導体メーカーではなく装置メーカーを顧客とします。表舞台には出てきませんが、装置の性能はこの層に強く依存しています。
主な部品を機能別に並べると、次のようになります。
| 機能 | 部品 | 主なメーカー |
|---|---|---|
| ウェハーの保持と温度制御 | 静電チャック | 新光電気工業、TOTO、住友大阪セメント |
| ガスの流量制御 | マスフローコントローラ | 堀場製作所(堀場エステック) |
| 真空の生成 | 真空ポンプ | エドワーズ、荏原製作所など |
| ウェハーの搬送 | 搬送ロボット | シンフォニア、ローツェ |
| 高温部の構造材 | 石英・セラミック部材 | 石英ガラスメーカー各社 |
静電チャック|固定する部品ではない
静電チャックは、エッチング装置やCVD装置の中で、ウェハーを載せる台にあたる部品です。英語の頭文字からESCとも呼ばれます。
まず素朴な疑問から始めます。なぜ機械的に挟まないのでしょうか。
クランプが使えない理由
ウェハーの縁を爪で押さえれば、確実に固定できます。しかしこの方法には決定的な欠点があります。
- 爪が乗った部分は加工できない(面積の無駄になる)
- 接触部から粒子が出る
- ウェハー全体を平らに保てない(中央が反る)
そこで、ウェハーの裏面全体を静電気の力で吸い付ける方法が使われます。爪がないので面積を無駄にせず、全面が均一に密着します。
2つの吸着方式
吸着の仕組みには、大きく2種類あります。
| 方式 | 原理 | 特徴 |
|---|---|---|
| クーロン型 | 絶縁体を挟んだ静電気力 | 応答が速く、残留吸着が少ない。高い電圧が要る |
| ジョンセン・ラーベック型 | わずかに電気を通す材料を使う | 低い電圧で強く吸着できる。切った後に残りやすい |
新光電気工業も、アルミナセラミックスを用いたクーロンタイプとジョンソンラーベックタイプの両方を製品として展開しています。使用温度範囲は−20℃から+200℃とされ、ドライエッチング装置、プラズマアッシャ装置、CVD装置、スパッタ装置などに用いられます。
電源を切ってもウェハーが離れない——ジョンセン・ラーベック型で問題になる残留吸着は、実務上やっかいな現象です。無理に剥がせば割れるため、逆電圧をかけて中和するなどの処理が必要になります。
本当の主役は温度制御
ここからが、この部品の核心です。
プラズマを使う工程では、ウェハーがイオンの衝突によって加熱されます。温度が上がりすぎれば、加工の結果が変わり、レジストも傷みます。ウェハーを冷やし続けなければなりません。
そこで静電チャックの内部には冷媒の流路が設けられ、台そのものが冷やされます。ここまでは自然な設計です。
問題は、その先にあります。
真空では熱が伝わらない
チャンバーの中は真空です。真空中では対流が存在しないため、気体が熱を運んでくれません。
では接触させればよいのでしょうか。ところがウェハーの裏面も静電チャックの表面も、微視的に見れば凹凸があります。ぴったり密着しているように見えて、実際には無数の微小な隙間が残ります。
その隙間が真空であれば、熱はほとんど伝わりません。冷たい台の上に載っているのに、ウェハーは冷えないという事態になります。
だから裏面にガスを流す
この問題への回答が、直感に反するものです。
真空チャンバーの中で、ウェハーの裏面だけにガスを送り込みます。使われるのはヘリウムです。
ヘリウムが選ばれる理由は、熱の伝わりやすさにあります。
| 気体 | 熱伝導率(W/m・K) |
|---|---|
| ヘリウム | 約0.15 |
| 空気 | 約0.026 |
0.15 ÷ 0.026 = 約5.8倍
ヘリウムは空気のおよそ6倍、熱を伝えます。加えて化学的に不活性なので、プロセスに干渉しません。
ここで吸着力の意味が変わる
裏面にガスを入れるということは、ウェハーを押し上げる力が生じるということです。
チャンバー本体が高真空である一方、ウェハーの裏面は数Torr程度に保たれます。仮にチャンバーを0.001Pa、裏面を10Torr(約1,330Pa)とすると、その差は次のようになります。
1,330 Pa ÷ 0.001 Pa = 約130万倍
ウェハーは、いわば圧力を封じ込めるフタの役割を果たしています。押さえがなければ、ガスの圧力で浮き上がってしまいます。
つまり静電チャックの吸着力は、単にウェハーがずれないためのものではありません。冷却用ガスの圧力に打ち勝ち、ガスを閉じ込め続けるために必要な力なのです。
固定するために吸着しているのではなく、冷やすために吸着している。この部品の設計思想は、そこにあります。
静電チャックは消耗する
もう一つ、事業として重要な性質があります。
静電チャックはプラズマにさらされ続けます。表面は少しずつ削られ、性能が落ちていきます。
- 表面が荒れると、ウェハーとの接触状態が変わり、温度分布が乱れる
- 削れた材料そのものが粒子の発生源になる
- 絶縁性能が落ちれば、吸着力が不安定になる
そのため定期的な交換や再生が必要です。装置が動き続ける限り、需要が生まれ続けるという構造は、CMPのスラリーやパッドとも共通します。
プラズマを生成する高周波電源も、この層を代表する部品です。RF電源とは?で詳しく扱っています。
ガスの流量を測る|マスフローコントローラ
部品層のもう一つの代表が、マスフローコントローラ(MFC)です。
成膜やエッチングでは、複数のガスを決められた比率で流します。この配合が変われば、加工の結果も変わります。「どれだけ流したか」を正確に測り、制御する部品が不可欠です。
この分野では堀場製作所(堀場エステック)が世界シェアの約60%を占めるとされています。日本企業が圧倒的な地位を持つ領域のひとつです。
同社は流量制御に加え、プロセス制御向けのレーザー計測やチャンバー内のセンシング技術も展開しています。「測る」という機能が、装置の中で独立した価値を持っていることが分かります。
ガスを通す配管そのものにも高い要求があります。半導体用バルブ・継手とは?で解説しています。
なぜ日本企業が多いのか
部品層を見渡すと、日本企業の名前が並びます。理由はいくつか考えられます。
①素材と加工の蓄積がある
静電チャックはセラミック、石英部材はガラス——いずれも素材そのものの技術が土台になります。長年の蓄積が、そのまま参入障壁になります。
②本業から横に広がった企業が多い
興味深いのは、出発点が半導体でない企業が目立つことです。
TOTOは衛生陶器で知られる企業ですが、そこで培ったセラミックの技術を半導体製造装置向けに展開しています。2018年には、需要増を見据えてTOTOファインセラミックスの工場内に新しい生産棟を建設すると発表しました。
焼き物の技術が、半導体装置の中核部品につながっている。装置業界では、こうした転用が珍しくありません。
③品質の要求に応える文化
部品は、壊れないことが前提です。装置が止まれば工場全体の損失になります。地味でも確実に作り続けることが評価される領域といえます。
チャンバーや炉を構成する石英・セラミックの部材については石英・セラミック部材とは?で解説しています。
部品ビジネスの構造
この層に共通する事業の性格を整理します。
①顧客は装置メーカー
半導体メーカーではなく、その一段手前が顧客です。したがって装置メーカーの受注動向に業績が連動します。
②消耗品としての側面がある
静電チャックのように、稼働に伴って交換が必要な部品は、装置の稼働台数に応じた需要を生みます。
③代替が難しい
装置に組み込まれ、プロセスの結果に直結する部品は、簡単には置き換えられません。いったん採用されれば、長く使われ続けます。
日本の装置産業を支えるこの層の広がりは、日本の半導体製造装置メーカー一覧でも触れています。
いちばん面白かったのは、静電チャックが「固定する部品」ではなく「冷やすための部品」だったことです。名前からは、まず想像がつきません。
真空の中でわざわざガスを入れ、そのガスが逃げないようウェハーを吸い付ける。矛盾に見える設計の裏に、ちゃんと理由がある。順を追って分かったとき、少し嬉しくなりました。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
静電チャックとは何ですか?
エッチング装置やCVD装置の中でウェハーを載せ、静電気の力で吸着する部品です。固定するだけでなく、裏面に流したヘリウムを閉じ込めてウェハーを冷却する役割を担います。
なぜヘリウムを使うのですか?
熱伝導率が空気の約6倍と高く、化学的に不活性でプロセスに影響しないためです。真空中で熱を伝える手段として適しています。
クーロン型とジョンセン・ラーベック型の違いは?
クーロン型は絶縁体を用い、応答が速く残留吸着が少ない一方で高い電圧を要します。ジョンセン・ラーベック型はわずかに導電性のある材料を使い、低電圧で強く吸着できますが、電源を切った後も吸着が残りやすい性質があります。
部品メーカーと材料メーカーは何が違いますか?
部品は装置を構成する要素(静電チャック、バルブ、電源など)、材料は装置に投入して消費されるもの(ガス、薬液、レジストなど)です。ただし静電チャックのように消耗する部品もあり、境界は連続的です。
まとめ
- 半導体製造装置は10万点規模の部品でできており、重要な部品ほど専門メーカーが供給している
- 部品層の顧客は半導体メーカーではなく装置メーカー。表には出ないが装置の性能を左右する
- 静電チャックは爪を使わずウェハー全面を吸着する。クーロン型とジョンセン・ラーベック型がある
- 本質的な役割は温度制御。真空では熱が伝わらないため、裏面にヘリウムを流して冷やす
- ヘリウムの熱伝導率は空気の約6倍。不活性でプロセスに干渉しない
- 吸着力は、裏面ガスの圧力に打ち勝ってガスを閉じ込めるために必要。固定のためではない
- プラズマで削られるため交換・再生が必要。装置の稼働に応じた需要が生まれる
- マスフローコントローラでは堀場製作所が世界シェア約60%を占める
- TOTOのように本業のセラミック技術から参入した企業が多く、素材と加工の蓄積が障壁になっている
装置そのものの分類は半導体製造装置とは?、投入される材料は半導体材料メーカー一覧で解説しています。
参考・出典
- 新光電気工業「セラミック静電チャック」
- TOTO「TOTOファインセラミックス本社・中津工場内にセラミックス製品の新生産工場棟を建設」
- 堀場製作所「堀場エステック」グループ会社紹介
- SEAJ「半導体製造装置分類表」