半導体用バルブ・継手とは?1億回の開閉に耐える理由とデッドスペース
半導体製造装置には、無数の配管が通っています。ガスを運び、薬液を送り、真空を引く経路です。
配管そのものは地味な存在に見えます。ところがこの分野のバルブには、1億回の開閉に耐えることが求められます。
1日1回開け閉めしても、27万年かかる回数です。なぜそこまでの耐久性が必要なのでしょうか。
この記事では、半導体用のバルブと継手に求められる条件と、その背景にある事情を解説します。装置を支える部品の全体像は静電チャックとは?で扱っています。
普通の配管では成立しない
工場の配管であれば、漏れなければ十分です。半導体では要求がまったく違います。
| 求められること | 理由 |
|---|---|
| 不純物を出さない | 配管由来の金属や粒子がウェハーを汚染する |
| ガスを残さない | 前のガスが残ると次の工程に混ざる |
| 腐食に耐える | 塩素やフッ素を含む強い腐食性ガスを扱う |
| 膨大な回数動く | ガスの切り替えが極めて頻繁 |
とくに最後の項目が、近年の要求を押し上げています。
なぜ1億回の開閉が要るのか
フジキンは、従来のダイレクトダイヤフラムバルブの耐久性が実績400万回程度にとどまっていたと説明しています。そのうえで次世代品では、耐久実績値1億回以上を実現したとしています。
1億回 ÷ 400万回 = 25倍
なぜこれほどの向上が必要になったのでしょうか。背景にあるのは、ガスの使い方の変化です。
ALDがバルブの寿命を縮めた
ALD(原子層堆積)は、原子1層ずつ膜を積む手法です。手順は次の繰り返しになります。
- ガスAを流す
- パージ(不要な分を追い出す)
- ガスBを流す
- パージ
この1サイクルで、膜はわずか1層分しか積まれません。必要な厚さにするには、数百回の繰り返しが必要です。
そのたびにバルブが開閉します。仮に1サイクルあたり2回の開閉、300サイクルで1枚を処理し、1日に25枚を流すとします。
2回 × 300サイクル × 25枚 = 15,000回/日
この条件で耐久回数を割ってみます。
| 耐久性 | もつ期間の目安 |
|---|---|
| 400万回 | 約267日(1年弱) |
| 1億回 | 約6,600日(18年以上) |
400万回では、1年たたずに交換が必要になる計算です。交換のたびに装置を止め、配管を開けることになります。
1億回であれば、装置の寿命を超えて使い続けられます。耐久性の向上は、単に長持ちするという話ではなく、装置を止めないという価値につながっています。
※開閉回数の条件は説明のための仮定です。実際の値はプロセスや装置によって大きく変わります。
金属ダイヤフラムという解
では、どうやって開閉するのでしょうか。
フジキンのダイヤフラムバルブは、バルブボディに固定したフッ素樹脂系のバルブシートに、皿型の金属ダイヤフラムを押し下げてガスを止める構造です。
ここで金属が使われている点が重要です。
樹脂だけでは足りない理由
- 透過する:樹脂は完全な壁ではありません。小さな分子は時間をかけて通り抜けます
- 劣化する:腐食性ガスにさらされ続ければ変質します
- 放出する:樹脂に吸着した水分やガスが、後から出てきます
金属の薄い膜を弾性体として使えば、これらを避けられます。金属は透過せず、腐食性ガスにも耐え、余計なものを出しません。
ただし金属を曲げ続ければ、いずれ疲労で割れます。だからこそ、材質と形状、押し下げ方の設計が耐久回数を決めることになります。フジキンが「ダイヤフラムの材質、保持・押下する周辺部品の形状材料と設計、製法を新たにした」と説明しているのは、この難所への回答です。
デッドスペース|ガスが残る場所
もうひとつ、この分野に固有の概念があります。
配管の中には、流れがよどむ場所ができます。バルブの隅、継手の内側、分岐の付け根——こうした空間をデッドスペースと呼びます。
普通の配管なら問題になりません。しかしALDのようにガスを交互に切り替える工程では致命的です。
ガスAを止めてガスBに切り替えても、デッドスペースにAが残っていれば、じわじわと出てきます。AとBが混ざれば、意図しない場所で反応が起きます。
パージ時間がスループットを決める
残ったガスを追い出すのがパージです。この時間は、おおまかに残る空間の体積に比例します。
先ほどの例で言えば、1サイクルは数秒です。仮にパージを0.1秒短縮できれば、300サイクルで30秒。1日25枚なら12分以上の差になります。
わずかな体積の差が、工場の生産量に効いてくる——だからバルブは弁座のすぐ近くまで流路を詰め、部品を集積化して余計な空間をなくす方向へ進んできました。
材料との戦い
半導体で使うガスには、塩素やフッ素を含むものが多くあります。ステンレスであっても、条件によっては侵されます。
フジキンは、ステンレスのほかにハステロイ、チタン、モネル、セラミックスなど様々な材料での製作実績があるとしています。用途に応じて材質を選び分ける必要があるということです。
不純物は材料の中にもある
興味深いのは、表面だけの問題ではないという点です。
同社は半導体製造プロセス用にダブルメルト材(二重溶解材)を使い、材質内の不純物の発生を除いていると説明しています。
金属を二度溶かし直して純度を高める——配管材料そのものの中身にまで踏み込むわけです。表面をいくら磨いても、素材に不純物が含まれていれば、削れた瞬間に出てきます。
材料の純度が求められる構図は、半導体材料の世界とも共通します。
つなぎ方|継手とシール
配管は、つなぎ目からも問題が生じます。
一般的な配管ではゴムや樹脂のパッキンを挟みます。しかし半導体では、金属どうしを押し当てて密封する方式が使われます。
- 樹脂のように分子が透過しない
- 腐食性ガスで劣化しない
- 吸着した水分を放出しない
柔らかい金属のガスケットを、面で潰して密着させる。この考え方が超高純度の配管を支えています。
継ぎ目そのものを減らすため、溶接で直接つなぐ方法も広く使われます。ねじ込みは隙間とデッドスペースを生みやすいためです。
フジキンがバルブだけでなく継手やシステムまで手がけているのは、配管全体を一体で設計しなければ性能が出ないという事情によります。
集積化という解
デッドスペースを減らす方法として、もうひとつ有力な考え方があります。部品をつながず、一体で作ることです。
従来は、バルブ、フィルタ、圧力計、流量制御機器を個別に配管でつないでいました。しかしつなぐたびに継ぎ目が生まれ、そこに空間ができます。
そこで、これらをひとつのブロックに集約する形が広がりました。流路をブロック内部に彫り込めば、継ぎ目そのものが減ります。
- デッドスペースが小さくなる
- 漏れる箇所が減る
- 設置面積も小さくなる
フジキンがバルブ単体ではなくガス供給システムとして提供しているのは、この流れに沿ったものです。部品を売る事業から、経路をまとめて引き受ける事業へ移っているといえます。
水素を扱う工程では、確実に止められることが安全そのものになります。実例はトーチ酸化(パイロジェニック酸化)とは?をご覧ください。
漏れは安全に直結する
見落としてはならない点があります。半導体で使うガスには、毒性や可燃性を持つものが少なくありません。
配管から漏れれば、装置が止まるだけでは済みません。工場で働く人の安全にかかわります。
バルブに求められる信頼性は、性能の問題であると同時に安全の問題でもあります。地味な部品が、静かにその一線を守っています。
主要メーカー
超高純度の流体制御は、限られた企業が担っています。
| 企業 | 国 | 特徴 |
|---|---|---|
| フジキン | 日本 | バルブ、継手、ガス供給システムを一体で展開 |
| キッツエスシーティー | 日本 | 半導体向けバルブ |
| Swagelok | 米国 | 継手・バルブの大手 |
| Parker Hannifin | 米国 | 流体制御機器を幅広く展開 |
フジキンの製品は、有機金属などのプロセスガスを用いる成膜装置やエッチング装置のガス供給システムを構成する主要部品と位置づけられています。
日本勢の広がりは日本の半導体製造装置メーカー一覧で解説しています。
「バルブの耐久性が400万回から1億回へ」という数字を見たとき、最初はぴんと来ませんでした。けれど1日1万回以上開け閉めしていると知って、意味が変わりました。
1年もたない部品が、18年もつようになる。それは装置を止めずに済むということです。地味な改良に見えて、工場の動き方そのものを変える話でした。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
なぜ半導体用のバルブは特殊なのですか?
配管由来の不純物や粒子がウェハーを汚染するため、材料と内部構造に厳しい要求があります。加えて腐食性ガスに耐え、ガスが残らない構造であることも求められます。
デッドスペースとは何ですか?
配管内で流れがよどみ、ガスが残ってしまう空間のことです。ガスを交互に切り替える工程では、残ったガスが次のガスと混ざるため、体積を極力減らす設計が求められます。
なぜ金属のダイヤフラムを使うのですか?
樹脂は分子を透過させ、腐食性ガスで劣化し、吸着した水分を後から放出します。金属であればこれらを避けられますが、曲げ続けると疲労するため、材質と形状の設計が重要になります。
継手に金属シールを使うのはなぜですか?
ゴムや樹脂のパッキンは透過や劣化、水分の放出が問題になるためです。柔らかい金属のガスケットを潰して密着させることで、超高純度の環境を保ちます。
まとめ
- 半導体用の配管には、不純物を出さない、ガスを残さない、腐食に耐える、頻繁に動くという4つの要求がある
- フジキンは従来品の耐久性が実績400万回程度だったのに対し、次世代品で1億回以上を実現したと説明している
- ALDのようにガスを交互に切り替える工程では開閉が膨大になり、耐久性の差が装置を止めるかどうかを分ける
- フッ素樹脂系のシートに皿型の金属ダイヤフラムを押し下げる構造。金属は透過せず腐食にも耐えるが、疲労との戦いになる
- デッドスペースに残ったガスは次の工程に混ざる。体積はパージ時間、ひいてはスループットに直結する
- 材料はハステロイ、チタン、モネルなどを使い分ける。ダブルメルト材で素材内部の不純物にも対処する
- 継手は金属どうしを潰して密封し、継ぎ目自体を減らすため溶接も使われる
ガスの流量制御は静電チャックとは?、真空側の仕組みは半導体用真空ポンプとは?で解説しています。