レーザーマーカーの処理シーケンスを完全解説|ウェハに”名前”を刻み、パッケージに履歴を書く
「装置の中のシーケンス」続編第8弾はレーザーマーカーです。#21のウェハソーターでは、ウェハ1枚1枚に刻まれたIDを「読む」側を見ました。今回はその「名前を刻む」側——そしてもうひとつ、#5のモールドで軽く触れた、封止後のパッケージに型番を書き込む仕事も、この装置の領分です。
レーザーマーカーは、半導体の一生の「最初」と「最後」に立ち会う装置です。生まれたてのウェハに戸籍を与え、旅立つパッケージに履歴を書く——数ヶ月・1,000工程のトレーサビリティは、この装置が書いた「消えない字」の上に成り立っています。
全体像 — 書く仕事は2つの現場にある
【現場①: ウェハID刻印(製造の最初)】 裸ウェハ搬入 → ノッチアライメント → 規格位置にID刻印(ドットを打つ) → → 即座に読取検証 → 投入へ 【現場②: パッケージ印字(製造の最後)】 モールド後の基板/個片 → 位置認識 → 型番・ロット・2Dコード印字 → 文字検査(OCV)
前提: なぜインクではなくレーザーか
答えは3つ。消えないこと、汚さないこと、触れないことです。インクは薬液や熱で消え、成分がプロセスを汚染し、印刷は接触を伴う。レーザーなら、材料そのものを局所的に溶かし・変質させて「彫る」ため、洗っても焼いても消えず、異物を持ち込まず、非接触。クリーンで恒久的な筆記具として、レーザーはほぼ唯一の選択肢なのです。
現場①: ウェハID刻印 — 戸籍を与える儀式
ステップ1: 位置決め — 刻む場所は規格で決まっている
投入前のウェハはノッチの向きを揃えられ、刻印位置に運ばれます。刻印場所は自由ではなく、ノッチ近くの決められた領域に、決められた書式(人が読める英数字+機械が読む2次元コード)で刻むことが国際規格(SEMI規格)で定められています。工場が変わっても、装置が変わっても読める——IDが業界共通の「戸籍」であるための約束事です。
ステップ2: 刻印 — ドットを1粒ずつ、深さを選んで打つ
レーザーがパルスで表面を撃つと、シリコンが局所的に溶けて微小なドット(くぼみ)ができます。文字もコードも、このドットの集合で描かれます。そして核心が深さの匙加減です。
- 浅すぎると: この後の数百工程で膜が何層も積もり、研磨(CMP)もかかる。浅い刻印は埋もれて読めなくなる
- 深すぎると: 溶融飛散物(デブリ)やマイクロクラックが増え、パーティクル源・強度低下の火種になる
「最後まで読めて、かつ汚さない」——数μmオーダーの深さ設計は、ダイシングの切込み(#3)やCD-SEMの照射量(#17)と同じ、相反する要求の間の綱渡りです。用途によって、浅く滑らかなドットのソフトマークと、深く確実なハードマークが使い分けられます。
ステップ3: 即読検証 — 書いたら、その場で読む
刻印を終えた装置は、その場でIDを読み取り、「書いたはずの文字が読めること」を確認してからウェハを送り出します。読めない戸籍は無いのと同じ——#21で見た「動いた後も見て確かめる」の型が、戸籍の発行元でも徹底されています。以後このIDは、ソーターや各装置に読み継がれ、全工程の履歴の背骨になります。
現場②: パッケージ印字 — 旅立ちの荷札
時は流れて製造の最終盤。モールド(#5)で黒い樹脂に封じられたパッケージの表面に、レーザーマーカーが型番・ロット番号・製造情報・メーカーロゴ、そして近年は2次元コードを書き込みます。エポキシ樹脂の表面をレーザーで変質させると色調が変わり、黒地に読みやすい文字が浮かぶ——樹脂の「日焼け」を利用した筆記です。
印字後は文字検査(OCV)がセットで走ります。カメラが印字を読み、かすれ・欠け・誤植を判定。読めないマーキングは、誤実装や追跡不能につながる立派な不良です。基板ごと印字して後で個片化する流れ(#5参照)でも、パッケージ1個ずつ印字する流れでも、「書く→読んで確かめる」のペアは変わりません。
1個まで遡れる時代 — 印字が支える現代のトレーサビリティ
かつてパッケージ印字は「型番の表示」でした。いまは違います。車載半導体の不具合解析では、市場で回収された1個のチップから、ウェハID・ウェハ上の座標・製造日・装置履歴まで遡ることが求められる。パッケージの2次元コードとウェハIDを紐づけるユニークID管理が広がり、印字は「1個単位の履歴書の表紙」になりました。偽造品の判別という安全保障的な役割も担い始めています。ウェハ刻印は専業メーカー、パッケージ印字はモールドと同じTOWAらが手がける領域です。
調べていて印象に残ったのは、刻印の深さの悩みです。「数百工程を経ても読める深さ」と「汚さない浅さ」の間——生まれた瞬間に彫る一文字が、数ヶ月後の読みやすさまで見越して設計されている。
最初に名前を与え、最後に履歴を書く。派手な装置たちの物語は、この小さな筆記具の書いた文字で、あとから読み返せるようになっています。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
Q. 刻印は何文字くらい書けるのですか?
A. ウェハIDは規格上、英数字十数文字+2次元コードが標準的な構成です。パッケージ印字は表面積次第で、型番・ロット・日付コード・ロゴに加え、近年は個体識別の2次元コードを載せる設計が増えています。小型パッケージでは「何を削って何を残すか」が悩みどころです。
Q. 数百工程を経ても本当に読めるのですか?
A. 読めるように深さと読取技術の両面で設計されています。それでも膜の堆積やCMPで読みにくくなることはあり、読取装置側も照明や画像処理を工夫して「埋もれかけたID」を復元します。読めなくなったウェハは所在管理が崩れるため、読取率は工場の重要管理指標です。
Q. レーザーでウェハが割れたりしないのですか?
A. 刻印は表面の微小領域の溶融にとどめ、熱影響やマイクロクラックを最小化する条件(パルス幅・出力・ドット配置)で行われます。とはいえ刻印部は構造的な弱点になり得るため、位置は応力の集中しにくい規格位置に限定されています。
Q. インクジェット印字は使われないのですか?
A. 一部の基板・外装用途にはありますが、半導体パッケージの本体印字では耐薬品性・耐熱性・恒久性の要求からレーザーが標準です。リフロー(実装時の高温)や洗浄を経ても消えないことが、印字の最低条件になるためです。
まとめ
- レーザーマーカーは半導体の最初(ウェハID刻印)と最後(パッケージ印字)に立ち会う「消えない筆記具」
- ウェハ刻印は規格位置にドットで戸籍を刻み、その場で読んで検証する。深さは「埋もれない」と「汚さない」の綱渡り
- パッケージ印字は樹脂の変色を利用した筆記で、文字検査(OCV)とペアで運用される
- 2次元コードとユニークID管理により、印字は「1個単位の履歴書の表紙」へ進化。車載トレーサビリティと偽造対策の要
- 書く/読むの分業——#22が書き、#21のソーターと各装置が読み継ぐことで、工場の記憶は保たれる
装置の中のシーケンス: #1 ウェハテスト(プローバ)/#2 コータデベロッパ/#3 ダイシング/#4 ワイヤボンダ/#5 モールド/#6 枚葉洗浄/#7 CMP/#8 イオン注入機/#9 スパッタ/#10 縦型炉/#11 ダイボンダ/#12 アッシング/#13 露光装置/#14 ドライエッチャー/#15 バッチ洗浄機/#16 ウェハ検査機/#17 CD-SEM/#18 搬送系/#19 めっき装置/#20 OCD/#21 ウェハソーター/#22 レーザーマーカー(本記事) — まとめ読みは全集ガイドへ
関連記事: ウェハソーターの処理シーケンス/モールド装置の処理シーケンス/後工程の流れを完全解説/参考: 各社公開資料・技術文献