フォトレジストとは?仕組みとEUV時代の課題・日本勢が9割を握る理由
どれだけ高性能な露光装置があっても、それだけでは回路は描けません。光を受け止めて形に変える材料が必要です。それがフォトレジストです。
そしてこの材料は、世界シェアの約9割を日本企業が握っています。露光装置ではASMLに独占された日本が、レジストでは圧倒的な地位を保っている——この対比自体が興味深い事実です。
この記事では、フォトレジストを装置との関係から解説します。塗布と現像を担う装置、EUV時代に生じた新たな壁、そして30年ぶりの材料刷新まで。露光装置については露光装置とは?仕組みと世界シェアをご覧ください。
フォトレジストとは
フォトレジストは、光が当たると性質が変わる感光性の樹脂です。日本語では感光材、単にレジストとも呼ばれます。
役割はこうです。ウェハーの表面にレジストを薄く塗り、露光装置でマスクのパターンを転写します。光が当たった部分と当たらなかった部分で溶けやすさが変わるため、現像液で洗うとパターンが浮かび上がります。
このレジストのパターンをマスク代わりにして、下の膜をエッチングで削る。これが回路形成の基本サイクルです。レジストは、光という情報を「形」に変換する媒体といえます。
ポジ型とネガ型
| ポジ型 | ネガ型 | |
|---|---|---|
| 光が当たった部分 | 溶けやすくなる → 除去される | 硬化する → 残る |
| できるパターン | マスクの明部が穴になる | マスクの明部が残る |
| 特徴 | 解像度が高く、微細加工の主流 | 密着性に優れる用途がある |
先端の微細加工では、解像度に優れるポジ型が主流です。ただしEUV世代では、後述するメタルレジストのようにネガ型的な挙動を示すものも登場しています。
塗布と現像は「装置」が担う
レジストは材料ですが、それを扱うのは装置です。ここが装置産業とのつながりになります。
担当するのはコータ・デベロッパ(塗布現像装置)です。次の工程を一貫して行います。
- 塗布:ウェハーを高速回転させ、遠心力でレジストを薄く均一に広げる(スピンコート)
- プリベーク:加熱して溶剤を飛ばす
- (露光装置へ受け渡し)
- 露光後ベーク:化学反応を進める
- 現像:現像液で溶ける部分を洗い流す
重要なのは、コータ・デベロッパは露光装置と直結して設置されることです。塗ってから露光までの時間が変われば仕上がりも変わるため、両者は一体のシステムとして動きます。
この分野では東京エレクトロンが世界1位(同社公表)です。露光装置本体はASMLの独占ですが、その前後を日本企業が押さえているという構図になっています。
塗布現像装置で世界首位を占める企業については東京エレクトロン(TEL)とは?で解説しています。
レジスト開発の根本課題|RLSトレードオフ
レジストの性能は、単純に「細かく描ければ良い」というものではありません。3つの要素が互いに衝突します。
| 要素 | 意味 | 求められること |
|---|---|---|
| Resolution(解像度) | どれだけ細かいパターンを描けるか | 高いほど良い |
| LER(ラフネス) | 線の縁のガタつき | 小さいほど良い |
| Sensitivity(感度) | 少ない光量で反応するか | 高いほど良い(生産性が上がる) |
この3つは同時に改善できません。頭文字を取ってRLSトレードオフと呼ばれる、レジスト開発の根本的な壁です。
たとえば感度を上げれば、少ない光で反応するため露光時間が短くて済み、生産性が上がります。しかし反応が敏感になる分、わずかなばらつきが線の縁のガタつきとして現れます。逆にラフネスを抑えようとすれば、感度を犠牲にせざるを得ません。
業界では、この3要素のバランスをZファクターという指標で評価します。値が小さいほどトレードオフをうまく克服した優れたレジストとされます。
「どれか1つを良くすると、他が悪くなる」——レジスト開発とは、この三すくみの中で最適点を探す作業です。
EUVが生んだ新たな壁|光子が足りない
EUV世代に入り、レジストにはこれまでにない課題が突きつけられました。ショットノイズ(確率的効果)です。
原因は、EUV光の性質にあります。光子1個が持つエネルギーは、波長が短いほど大きくなります。
| 光源 | 波長 | 光子1個のエネルギー |
|---|---|---|
| ArF | 193nm | 約6.4 eV |
| EUV | 13.5nm | 約91.9 eV(ArFの約14倍) |
ここから、直感に反する結論が導かれます。1個あたりのエネルギーが14倍大きいということは、同じエネルギーを与えるのに必要な光子の数は、ArFの約14分の1で済むということです。
一見すると効率が良さそうですが、これが問題を生みます。光子の数が少なくなると、統計的なばらつきが無視できなくなるのです。
サイコロを6回振っても各目が1回ずつ出るとは限りませんが、6,000回振れば比率は理論値に近づきます。これと同じで、光子が少ないと「たまたま光子が届かなかった場所」「たまたま多く届いた場所」が生じます。
その結果、次のような不良が起こります。
- 穴が開かない(光子が足りなかった箇所)
- 橋がかかる(隣の線とつながってしまう)
- 線の縁がガタつく(ラフネスの悪化)
厄介なのは、これらが確率的に、ランダムに発生することです。設計や条件を完璧にしても、統計的なゆらぎとして一定の割合で現れます。
しかもEUV露光装置では、そもそも光源から出た光の98%が失われ、ウェハーに届く光量は限られています。「光が足りない装置」と「光子不足に弱い材料」——この組み合わせが、EUV時代の最大の難所になっています。
感度を上げれば光子不足は緩和されますが、RLSトレードオフによりラフネスが悪化する。ここでも三すくみが立ちはだかります。
30年ぶりの刷新|メタルレジスト
この壁を越えるために登場したのがメタルレジスト(金属酸化物レジスト/MOR)です。
従来のレジストは、炭素を骨格とする有機材料でした。1980年代に確立された化学増幅型レジストが、30年以上にわたり主役を務めてきました。
メタルレジストは、スズなどの金属を含む無機材料です。金属はEUV光を吸収しやすいため、同じ光量でも効率よく反応できます。光子不足という根本問題に、材料側から答えを出したわけです。
この分野で先行するのが米国のInpria社で、JSRが2021年に同社を買収し、事業化を進めています。日本の化学メーカーが、次世代材料の主導権を握りにいった動きといえます。
ただし課題も残ります。金属を扱うため、装置内部の金属汚染という懸念があり、前工程では通常なら持ち込みを避けたい物質です。材料と装置の両面での対応が求められています。
世界シェア|日本企業が約9割
フォトレジストは、日本企業が世界を圧倒している分野です。
| 順位 | 企業 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1 | JSR | 先端レジストの最大手。Inpria買収でメタルレジストも |
| 2 | 東京応化工業(TOK) | レジスト専業の老舗。EUV対応を展開 |
| 3 | 信越化学工業 | シリコンウェハーでも世界首位 |
| 4 | 住友化学 | 総合化学からの展開 |
| 5 | 富士フイルム | 写真フィルムの感光材技術を応用 |
報道によれば、この国内化学5社で世界シェアの約9割を占めるとされます。EUV用レジストという最先端領域でも、5社が新材料の開発を競っています。
なぜ日本が強いのか
理由はいくつか考えられます。
- 写真フィルムの技術蓄積:感光材料の扱いは、日本の化学産業が長年培ってきた領域です
- 超高純度の実現力:ごく微量の金属不純物も許されない世界で、精製技術が生きています
- 顧客との共同開発:レジストは装置とプロセスに合わせて作り込む必要があり、長期の関係が参入障壁になります
- 実績への信頼:材料を変えると歩留まりが変わるため、簡単には乗り換えられません
装置が「替えにくい」のと同じ構造が、材料にも働いているわけです。日本企業全体の強みは日本の半導体製造装置メーカー一覧で解説しています。
装置・材料・部品という三層
フォトレジストは、半導体産業の構造を考えるうえで象徴的な存在です。
露光装置では、日本はASMLに逆転されました。しかしその装置に流し込む材料では、世界の9割を握っています。
同様の構図は他の工程にも見られます。材料全体の見取り図は半導体材料メーカー一覧をご覧ください。
| 工程 | 装置 | 不可欠な材料 |
|---|---|---|
| 露光 | 露光装置 | フォトレジスト |
| CMP | CMP装置 | スラリー、研磨パッド |
| 封止 | モールド装置 | 封止材(エポキシ樹脂) |
| 熱処理 | 拡散炉 | 石英部材 |
| 洗浄 | 洗浄装置 | 薬液、超純水 |
装置は材料とセットでなければ機能しません。「日本は半導体で負けた」と語られる一方、装置と材料という土台では今も強い地位を保っています。この構造を理解しないと、産業の実像を見誤ります。
装置ばかりが注目されますが、そこに流し込む材料がなければ何も始まりません。
日本企業が9割を握っているという事実は、もっと知られていいと思います。目立たない場所での積み重ねが、静かに世界を支えています。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
フォトレジストは英語で何と言いますか?
photoresist です。単に resist とも呼ばれます。塗布はcoating、現像はdevelopment、塗布現像装置はcoater/developerです。
レジストはなぜ薄く塗る必要があるのですか?
厚いと、光が下まで届かず、パターンの断面が垂直になりません。また現像後に自立できず倒れてしまいます。微細化が進むほど薄膜化が求められますが、薄すぎるとエッチングに耐えられないため、両立が課題です。
中国はフォトレジストを作れないのですか?
成熟世代向けは国産化が進んでいますが、EUV用など最先端領域では日本企業が優位です。材料は装置と同様に輸出管理の対象となる場合があり、供給の安定性が経済安全保障の論点になっています。輸出規制の記事もご覧ください。
レジストは装置メーカーが作っているのですか?
いいえ、化学メーカーが作ります。装置メーカーと材料メーカーは別ですが、両者が協力してプロセスを作り込みます。装置だけ、材料だけでは性能は決まりません。
まとめ
- フォトレジストは光を受けて性質が変わる感光性樹脂で、光を「形」に変える媒体
- 塗布と現像はコータ・デベロッパが担い、この装置は東京エレクトロンが世界1位
- 解像度・ラフネス・感度は同時に改善できない(RLSトレードオフ)
- EUVの光子は約14倍のエネルギーを持つため必要な光子数が少なく、統計的ばらつき(ショットノイズ)が顕在化した
- 「光が足りない装置」と「光子不足に弱い材料」の組み合わせがEUV時代の難所
- 解決策として金属を含むメタルレジストが登場、JSRはInpriaを買収して参入
- JSR・東京応化・信越化学・住友化学・富士フイルムの5社で世界シェア約9割
露光装置については露光装置とは?、EUVの光量問題はEUV露光装置とは?、装置全体は半導体製造装置とは?をご覧ください。