このサイトでは、半導体産業を装置・部品・材料という層で見てきました。

実は、もうひとつ層があります。「測る」ことそのものを売る会社たちです。

SIMSもSCMも断面SEMも、自社で装置を持たずに「依頼」できます。試料を送れば、測定と解釈が報告書になって返ってくる——受託分析という産業です。

この記事では、この業界がどこから生まれ、なぜ成立し、どう使われているのかを掘り下げます。

受託分析とは|分析部門を借りるという選択

受託分析は、顧客から試料を預かり、測定・解析・解釈までを請け負うサービスです。

納品物は測定データではなく、多くの場合報告書です。「何が」「どこに」「どれだけ」あり、それが「何を意味するか」まで含めて返ってきます。

半導体の文脈では、たとえばこんな依頼が飛び交います。

  • 不良品のチップを送るので、故障箇所を特定してほしい
  • ウェハー表面の異物が何なのか調べてほしい
  • イオン注入した不純物の深さ分布を測ってほしい
  • SiCデバイスのキャリア分布を可視化してほしい

自前の分析部門を持たない企業にとって、受託分析は「借りられる分析部門」として機能します。

系譜で見る業界地図|3つの水脈

この業界の面白さは、会社の生まれ方に表れています。主要な組織の設立をたどると、3つの水脈が見えてきます。

組織 設立 生まれ方
東レリサーチセンター 1978年 東レの研究開発部門から独立
コベルコ科研 1979年 神戸製鋼所の環境分析部門から独立
MST(材料科学技術振興財団) 1984年 国の審議会答申を受け、メーカー各社の支援で設立された一般財団法人
東芝ナノアナリシス 2002年 東芝グループ2社の分析事業を統合して設立

水脈①|素材メーカーの分析部門(1970年代末)

最初に生まれたのは、素材メーカー系です。

東レリサーチセンターは1978年、東レの研究開発部門から独立しました。コベルコ科研は1979年、神戸製鋼所の環境分析部門が独立してできた会社です。

なぜ素材メーカーだったのでしょうか。

素材の開発は、「作っては測る」の繰り返しです。組成を変え、条件を変え、そのたびに物性を測る。分析は開発の心臓部であり、素材メーカーの中では分析部門が自然と厚く育ちます。

その蓄積が、外の仕事も請けられる水準に達したとき、部門は会社になりました。自社のために磨いた技術が、それ自体商品になったのです。

水脈②|国策としての分析基盤(1980年代)

MSTは毛色が違います。企業の分社ではなく、一般財団法人です。

1984年、材料設計に基づく研究開発の推進を求めた国の審議会答申を受け、国内メーカー各社の支援のもと、内閣総理大臣の認可で設立されました。

材料科学を進めるには、個社の枠を超えた分析・評価の基盤が要る——そういう発想で作られた、公益型の受託分析機関です。

水脈③|デバイスメーカーの再編から(2000年代)

東芝ナノアナリシスは2002年の設立です。東芝グループの半導体分析事業と液晶・材料分析事業を統合して生まれました。従業員は302名(2024年4月時点)に達します。

2000年代は、日本の電機・半導体産業が再編を重ねた時期です。その中で分析部門は「切り離す」のではなく、まとめて外に開くという道をたどりました。故障解析、構造解析、材料分析、プロセス評価——半導体づくりの検証機能が、そのまま一社に凝縮されています。

「母体のための部門」が主客逆転する

この業界の成長を、一つの数字が物語っています。

コベルコ科研は、売上のうち神戸製鋼所向けが約30%、外販が約70%と説明しています。

母体の仕事 3 : 外の仕事 7

親会社のために生まれた部門が、いまや外の顧客が主戦場になっている。輸送機、エネルギー、エレクトロニクス、ケミカルと、対象業界も母体の枠をはるかに越えています。

「社内向けのコスト部門」から「外貨を稼ぐ事業」へ——分析の腕は、それだけで商売になることの証明といえます。

なぜ外注が成立するのか|装置経済学

SCMの記事でも触れましたが、ここではもう一段掘り下げます。受託分析が産業として成立する理由は、突き詰めると3つです。

①全部は持てない

このサイトで見てきた分析手法を思い出してください。FIB、SIMS、EDX、SCM——それぞれが独立した高額装置であり、担当できる熟練者も別です。

問題を一つ特定するのに、複数の手法を渡り歩くことは珍しくありません。形を見て、元素を調べ、深さ分布を測る。フルラインナップを自前で揃えられる企業は、ごく一部です。

受託分析会社は、この「全部」を持っています。1社に送れば手法を横断して調べてもらえる——いわば分析のデパートです。

②毎日は使わない

製造ラインのインライン検査は毎日全数を測ります。しかし故障解析や条件出しの分析は、問題が起きたとき、開発が動いたときに集中します。

高額な装置と専任の熟練者を、断続的な仕事のために常時抱える——これは稼働率の観点で苦しい選択です。

受託分析会社は、多数の顧客の依頼を束ねることで装置と人を回し続けます。個社では成立しない稼働率が、業界全体でなら成立する。ここに外注の経済合理性があります。

③腕は買えない

そして最大の理由がこれです。装置は買えても、腕は買えません。

SCMのためにnmレベルの平坦な断面を研磨する。SIMSで測定条件と標準試料を選び抜く。EDXの信号が下地由来かどうかを見切る——どれも装置のカタログには書かれていない熟練です。

受託分析会社には、毎日さまざまな試料を測り続けることでしか育たない経験が蓄積しています。多様な依頼を受けること自体が、腕を磨く仕組みになっているのです。

何を頼めるのか|半導体での主な依頼先マップ

このサイトで扱ってきた分析手法は、いずれも受託メニューに並んでいます。

知りたいこと 使われる手法 解説記事
埋もれた構造・膜の断面 FIB加工+SEM観察 断面SEM
異物・欠陥の正体 SEM観察+元素分析 レビューSEM・EDX
不純物の深さ分布・微量汚染 SIMS SIMS
キャリア分布・pn接合 SCM・SNDM SCM
原子レベルの構造・界面 TEM・STEM TEM
寿命・故障の再現 信頼性試験 信頼性試験

東芝ナノアナリシスの事業内容には、故障解析、構造解析、材料分析、プロセス評価、清浄化評価と並びます。半導体の「確かめる」仕事は、ほぼ全域が外注可能になっていることが分かります。

信頼の商売|機密保持が生命線

受託分析には、技術と同じくらい重いものがあります。秘密です。

預かる試料を考えてみてください。発売前の試作品、原因不明の不良品、開発中の材料——顧客の機密そのものです。分析すれば、組成も構造もプロセスも見えてしまいます。

東レリサーチセンターは、自社のモットーとして「信頼性の高い技術を提供すること」と並べて「機密保持を厳守すること」を掲げています。技術と機密保持が同格で並ぶ——この業界の性格をよく表しています。

競合他社の試料が、同じ建物に持ち込まれることもありうる商売です。漏らさないという実績の積み重ねだけが、次の依頼を連れてきます。一度の事故で終わる商売でもあります。

「測る会社」が「作る会社」になる

最後に、この業界の意外な広がりを紹介します。

コベルコ科研は受託試験にとどまらず、シリコンウェーハの検査装置を自社で設計開発・製造し、ウェーハメーカーの製造ラインに納めています。さらに、薄膜の原料となるスパッタリングターゲットの設計・製造まで手がけています。

整理すると、こうなります。

  • 測る技術を突き詰めた → 検査装置そのものを作れるようになった(装置の層へ)
  • 材料を分析し尽くした → 材料そのものを作れるようになった(材料の層へ)

「測る」を極めた会社が、装置・部品・材料の層へ染み出していく。層の境界は、思っているより柔らかいのです。

使う側の視点|どう選ぶか

受託分析を使う立場から見た、実務的な観点も挙げておきます。

  • 手法で選ぶ:まず「何を知りたいか」を決め、対応する手法(上の表)を持つ機関を探す。同じSIMSでも、得意な材料や濃度域は機関ごとに違う
  • 相談から始める:知りたいことに対して手法の選定から提案してくれるかどうかは、機関の力量が最も出る部分
  • 解釈まで求める:データだけでなく「これが何を意味するか」まで書かれた報告書が返るか
  • 納期と機密:不良解析は時間との勝負。標準納期と機密管理の体制は最初に確認する

そして依頼の質は、渡す情報の質で決まります。試料の履歴(どの工程まで進んだか、いつから異常か)を添えるほど、分析は的を絞れます。丸投げより、対話です。

✍️ ひとこと

系譜を並べて感じたのは、この業界が「余り物」ではなく「蓄積の結晶」から生まれたことです。素材メーカーが開発のために磨いた分析の腕が、そのまま商品になった。

コベルコ科研の外販7割という数字には、少し感動しました。親会社のための部門が、いつのまにか世の中の困りごとを引き受ける側に回っている。技術は、磨き続ければ独り立ちする——そういう話だと思います。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

受託分析とは何ですか?

顧客から試料を預かり、測定・解析・解釈までを請け負うサービスです。測定データだけでなく、結果の意味づけまで含めた報告書として納品されるのが一般的です。

どんな会社が受託分析をしているのですか?

大きく分けて、素材メーカーの分析部門が独立した会社(東レリサーチセンター、コベルコ科研など)、公益型の財団(MST)、デバイスメーカー系の分析会社(東芝ナノアナリシス)があります。生まれ方は違っても、いずれも母体で蓄積した分析技術が土台です。

自社で装置を買うのと、どちらが得ですか?

使用頻度によります。毎日使うなら自前が合理的ですが、故障解析や条件出しのような断続的な用途では、高額装置と熟練者を常時抱えるより外注が合理的な場合が多くなります。装置を買っても試料作製や解釈の腕はすぐには育たない点も考慮が必要です。

機密は守られますか?

機密保持はこの業界の生命線であり、たとえば東レリサーチセンターは技術力と並べて機密保持の厳守をモットーに掲げています。契約面・体制面の確認は依頼前に行うのが通例です。

依頼するとき、何を伝えればいいですか?

知りたいこと(目的)と、試料の履歴です。どの工程まで進んだ試料か、いつから異常が出たかといった情報があるほど、手法の選定と解釈の精度が上がります。

まとめ

  • 受託分析は、試料を預かり測定から解釈までを報告書で返す産業。装置を持たない企業の「借りられる分析部門」になっている
  • 業界には3つの水脈がある。素材メーカー系(東レリサーチセンター1978年、コベルコ科研1979年)、国策財団(MST 1984年)、デバイスメーカー系(東芝ナノアナリシス2002年)
  • 素材メーカーから生まれたのは、素材開発が「作っては測る」の繰り返しで、分析部門が自然と厚く育つから
  • コベルコ科研は外販が約70%。母体のための部門が、外の仕事を主戦場にするまでに育った
  • 外注が成立する理由は3つ——全部は持てない、毎日は使わない、腕は買えない
  • FIB断面、SIMS、EDX、SCM、信頼性試験まで、半導体の「確かめる」仕事はほぼ全域が外注できる
  • 預かるのは顧客の機密そのもの。技術と機密保持が同格で並ぶ商売である
  • コベルコ科研はウェーハ検査装置やスパッタリングターゲットの製造まで展開。「測る」を極めた会社は、作る層へ染み出していく

個々の分析手法はSIMS・SCM・EDX・断面SEMの各記事で、産業の層構造は装置を支える部品層で解説しています。

参考・出典