TEMとは?原子が見える顕微鏡の原理と「約180原子層まで削る」代償
このサイトでは、レビューSEMや断面SEMなど、電子で「見る」装置を追いかけてきました。
その行き着く先が、TEM(透過型電子顕微鏡)です。原子の並びを、直接見ることができます。
ただし、この頂点には大きな代償があります。試料を、電子が突き抜けるほど薄く削らなければならないのです。
この記事では、なぜ原子が見えるのかを波長の数字から確かめ、薄片づくりという本当の難所、そして半導体解析での位置づけまでを解説します。
TEMとは|跳ね返りではなく、突き抜けを見る
SEMとTEMは、同じ電子顕微鏡でも見ているものが根本的に違います。
| SEM(走査型) | TEM(透過型) | |
|---|---|---|
| 検出する電子 | 表面から跳ね返ってきた電子 | 試料を突き抜けた電子 |
| 見えるもの | 表面の凹凸 | 内部の構造・原子の並び |
| 試料 | そのまま置ける | 極薄に加工が必要 |
| イメージ | 懐中電灯で照らす | 影絵・レントゲン |
日本電子(JEOL)の解説によれば、電子銃で加速した電子を試料に当てると、電子は試料を透過あるいは散乱します。それを電磁石でできた電子レンズで集め、蛍光面に拡大像を結ばせる——これがTEMの基本構造です。
光学顕微鏡のレンズがガラスなのに対し、TEMのレンズは磁界です。電流を変えるだけで倍率を自在に変えられます。
なぜ原子が見えるのか|波長が10万倍短い
顕微鏡の分解能は、突き詰めれば使う波の波長で決まります。波長より細かいものは、原理的にぼやけます。
JEOLが示す数字を並べてみます。
| 使う波 | 波長 |
|---|---|
| 可視光 | 400〜800 nm |
| 電子(加速電圧100〜200kV) | 0.0037〜0.0025 nm |
比を取ってみます。
400 nm ÷ 0.0037 nm = 約11万倍
電子の波長は、可視光より10万倍以上短いのです。光学顕微鏡では原理的に届かない原子の世界(1個あたり約0.1〜0.2nm)が、電子なら射程に入ります。JEOLもこの波長を「原子の並びまで識別するのに十分」と説明しています。
どこまで見えているのか
実際の装置の分解能は、JEOLの製品情報で0.1〜0.3nmとされています。原子1個の大きさに届く水準です。
さらに最先端では、同社の原子分解能電子顕微鏡JEM-ARM300Fが63pm(0.063nm)の分解能を保証し、実験的にはサブ50pmも達成したとされています。
原子と原子の間隔よりも細かく見分けられる——「原子が見える」は、もはや比喩ではありません。
代償①|約180原子層まで薄くする
ここからが、TEMの本当の話です。
電子を突き抜けさせるには、試料が極薄でなければなりません。厚ければ電子は散乱しきって、像になりません。TEM観察用の薄片は、一般に100nm程度以下まで薄くするとされます。
この薄さがどれほどか、計算してみます。300mmウェハーの厚さは一般に775μmです。
775,000 nm ÷ 100 nm = 7,750分の1
ウェハーの厚さの、8千分の1近くまで削り込む計算です。
シリコンの結晶の単位(格子定数 約0.543nm)で数えると——
100 nm ÷ 0.543 nm = 約184層
原子の並びにして200層足らず。それだけを残して、あとはすべて削り落とします。断面SEMは「切って見る」手法でしたが、TEMは「ほぼ消して、残ったわずかを見る」手法なのです。
※100nmは目安としての仮定です。観察したい内容や材料によって、求められる厚さは変わります。
薄片はFIBで切り出す
半導体の解析では、この薄片づくりにFIB(集束イオンビーム)が使われます。JEOLもFIBの用途として、TEM用薄膜試料の作製を挙げています。
FIBの加工位置精度は10nm程度。「この配線のこの断面」をピンポイントで狙い、壁のように薄い一枚を削り出して、TEMへ持ち込みます。
つまりTEM観察の成否は、観察の前——どこを、どれだけきれいに薄くできたか——でほぼ決まっています。この構図は、SCMや断面SEMで見た「試料作製が本丸」の極致といえます。
代償②|見えるのは、切り出したその場所だけ
もうひとつの代償は、視野の狭さです。
FIBで切り出す薄片は、幅数μm〜数十μmの世界です。300mmウェハー全体から見れば、砂浜の砂一粒を選んで眺めているようなものです。
だからTEMは、単独では使われません。実務では絞り込みの漏斗(ろうと)の最後に置かれます。
広く粗く探す装置から、狭く深く見る装置へ。TEMは半導体解析の「最終審級」として機能します。
「透過像」を読むときの注意
TEM像は、薄片を突き抜けた電子の投影です。厚み方向の情報は、すべて一枚の像に重なります。
影絵で、前後に並んだ2つの物が重なって見えるのと同じです。100nmの薄片といえども約180原子層——見えている「1個の点」は、奥行き方向に並んだ原子の列かもしれません。像の解釈には、この性質を頭に入れておく必要があります。
STEMと元素分析|原子の地図に色を塗る
現在の主力は、TEMにSEMの発想を持ち込んだSTEM(走査透過電子顕微鏡)です。細く絞った電子ビームで薄片を走査しながら、透過電子を検出します。
この方式の強みは、EDX(EDS)などの分析と組み合わせられることです。JEOLは受託分析のメニューとして、TEM/STEM観察に加えてEDS分析・EELS分析を挙げ、組み合わせによってナノオーダーの元素分析が実現できるとしています。
思い出してください。EDXの記事では、バルク試料では電子が内部で広がり、分析領域が数百nm〜数μmに膨らむと書きました。
ところが試料が100nmしかなければ、電子は広がる前に突き抜けます。薄くすることは、透過の条件であると同時に、分析の分解能を桁違いに引き上げる仕掛けでもあるのです。
形の像に元素の色を重ねる——界面のどちら側に何の原子がいるかまで見える地図ができます。
半導体で何を見るのか
原子レベルの観察が要る場面は、半導体では日常的にあります。
| 見たいもの | なぜTEMか |
|---|---|
| ゲート絶縁膜の厚さ | 数原子層の膜厚は、原子を数えて確かめるしかない |
| 界面の状態 | 成膜した層と下地の境目が、原子レベルでどう繋がっているか |
| 結晶欠陥 | 格子の乱れは、格子が見えて初めて分かる |
| 接合界面 | ハイブリッドボンディングのような直接接合の出来栄え |
JEOLのTEMラインナップには半導体専用機も含まれています。研究の道具にとどまらず、産業の検証インフラとして組み込まれていることの表れです。
誰が担っているのか
TEMは、担い手の顔ぶれも特徴的です。
JEOLは1949年5月に電子顕微鏡の開発会社として発足し、世界で初めてTEMを市販した企業です。現在も120kVから300kV、クライオ専用、半導体専用まで幅広いモデルを供給しています。電子顕微鏡は、日本企業が草創期から世界の先頭にいる数少ない分野のひとつです。
そして興味深いことに、JEOLは装置の販売だけでなく、自社でTEMの受託分析サービスも提供しています。装置を作る層と、測る技術を売る層——前回見た二層構造の、両方に立っているわけです。
TEM解析は高額な装置と深い熟練を要するため、受託分析の代表メニューでもあります。自前で持たず、必要なときに頼むという使い方が広く成立しています。
計算していて手が止まったのは、約180原子層まで削り込むというところでした。原子を見るために、原子200層分だけ残して、あとは全部削り落とす。
いちばん強力な「見る道具」が、いちばん大掛かりな準備を要求する。そして薄くしたことが、そのまま元素分析の分解能まで引き上げている。犠牲の大きさと、得られるものの深さが釣り合っている——道具の頂点とは、そういうものかもしれません。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
TEMとSEMはどう違いますか?
SEMは表面で跳ね返った電子から凹凸を見る装置、TEMは試料を突き抜けた電子から内部の構造を見る装置です。TEMは原子の並びまで見える一方、試料を極薄に加工する必要があります。
なぜTEMでは原子が見えるのですか?
分解能は使う波の波長で決まるためです。JEOLによれば加速電圧100〜200kVの電子の波長は0.0037〜0.0025nmで、可視光(400〜800nm)より10万倍以上短く、原子の並びを識別するのに十分とされています。
試料はどのくらい薄くするのですか?
電子が透過できる厚さ、一般に100nm程度以下が目安とされます。シリコンの格子定数で数えるとおよそ180層分です。半導体の解析ではFIBで狙った場所を薄片に切り出します。
STEMとは何ですか?
細く絞った電子ビームで薄片を走査しながら透過電子を検出する方式です。EDSやEELSと組み合わせることで、ナノオーダーの元素分析ができます。
TEM解析は外注できますか?
できます。受託分析の代表的なメニューのひとつで、装置メーカーであるJEOL自身もTEM/STEM観察やEDS・EELS分析を受託サービスとして提供しています。
まとめ
- TEMは試料を突き抜けた電子で内部を見る顕微鏡。表面を見るSEMとは根本的に異なる
- 電子の波長(0.0037〜0.0025nm)は可視光より10万倍以上短く、原子の並びが射程に入る
- 装置の分解能は0.1〜0.3nm、最先端のJEM-ARM300Fは63pmを保証している
- 代償は試料の薄さ。100nm目安=ウェハー厚の約8千分の1、シリコン約180原子層まで削り込む
- 薄片はFIBでピンポイントに切り出す。観察の成否は試料作製でほぼ決まる
- 見えるのは切り出した数μm〜数十μmだけ。検査→レビュー→FIB→TEMという絞り込みの漏斗の最後に置かれる
- TEM像は投影であり、厚み方向の情報は重なる
- STEM+EDS/EELSでナノオーダーの元素分析ができる。薄いことが分析分解能まで引き上げている
- JEOLは1949年発足・世界初のTEM市販。装置販売と受託分析の両方を手がけ、半導体専用機も供給している
薄片を切り出す技術は断面SEMとは?、元素分析の原理はEDXとは?、分析を頼む側の話は受託分析とは?で解説しています。
参考・出典
- JEOL 日本電子「透過電子顕微鏡(TEM)|JEOL 装置入門」
- JEOL 日本電子「透過電子顕微鏡(TEM)製品情報」
- JEOL 日本電子「透過電子顕微鏡(TEM)受託分析」
- JEOL 日本電子「超高分解能を実現した”原子分解能電子顕微鏡JEM-ARM300F”の開発」
- SEAJ「半導体製造装置分類表」