SIMSを使えば、打ち込んだ不純物がどの深さにどれだけあるかが分かります。

それでも、答えられない問いが残ります。その不純物は、働いているのか。

イオン注入した原子は、結晶の格子点に収まって初めて電気的な役割を果たします。そこに「いる」ことと「働いている」ことは、別なのです。

働いているキャリアだけを見る——それがSCM(走査型容量顕微鏡)です。この記事では、原理と限界に加えて、装置を作る企業と、分析を請け負う企業という業界の見取り図までを扱います。

SCMとは|針の先にコンデンサを作る

SCM(Scanning Capacitance Microscopy)は、原子間力顕微鏡(AFM)から派生した手法です。とがった探針で試料の表面をなぞる、という骨格は共通しています。

違いは、探針が電気を通すことです。

受託分析を手がける東芝ナノアナリシスは、原理を次のように説明しています。

導電性プローブと半導体表面の酸化膜との間でキャパシタが形成され、電圧印加時にキャリア濃度に応じて静電容量が変化する。

整理すると、こういう構造です。

金属の探針 + 表面の酸化膜 + 半導体 = MOS構造

MOSとは、まさにトランジスタの基本構造です。つまりSCMは、針の先に極小のMOSコンデンサを作り、その容量を測りながら走査していることになります。

分析サービス機関のMST(材料科学技術振興財団)も、探針と半導体の接触箇所がMOS構造になると説明しています。

なぜ容量からキャリアが分かるのか

探針に高周波の交流電圧をかけると、探針直下の半導体の中でキャリアが揺さぶられます。キャリアが動けば、空乏層と呼ばれる領域が伸び縮みし、コンデンサとしての容量が変化します。

この変化の大きさは、直下のキャリア濃度に依存します。

  • キャリアが少ない場所 → 空乏層が大きく動く → 容量の変化が大きい
  • キャリアが多い場所 → 空乏層はほとんど動かない → 変化が小さい

針を走査しながらこの変化(dC/dV信号)を記録すれば、キャリアの濃淡が2次元の像になります。

p型とn型が「色分け」される

もうひとつ、この手法ならではの性質があります。

p型とn型では、多数キャリアの電荷の符号が逆です。電圧に対する応答も逆向きになるため、dC/dV信号の極性が反転します。MSTも、半導体の極性(p型/n型)の識別が可能と明記しています。

この性質が効くのが、pn接合の可視化です。信号の符号が入れ替わる場所——そこが接合の位置です。

トランジスタの拡散層がどんな形に広がっているか、接合がどこにあるか。設計図ではなく、実物の断面で確かめられます。

SIMSとの関係|原子を見るか、キャリアを見るか

ここが、この手法の位置づけを決める核心です。

東芝ナノアナリシスは、注意点として次のように述べています。

アニール処理など活性化処理を行なっていない試料では、SCM信号が検出されない場合があり、SIMS(活性に関係なく元素を検出)と結果が一致しない場合がある。

一見すると欠点の説明です。しかし裏返せば、この「一致しない」ことにこそ価値があります。

SIMS SCM
見ているもの 原子そのもの(活性に無関係) 働いているキャリア
出力 深さ方向の濃度プロファイル(1次元) 断面のキャリア分布(2次元)
定量性 標準試料があれば定量できる 定量評価は不可(MST明記)
p/nの区別 できない(元素は分かるが極性は不明) できる

イオン注入の記事で書いたとおり、打ち込んだ直後の不純物は格子点に収まっておらず、電気的な役割を果たしません。アニールを経て、はじめて活性化します。

ここで2つの手法を並べると——

  • SIMSには見える、SCMには見えない → 原子はいるが、活性化していない
  • 両方に見える → 活性化している

2つの測定の「差」が、活性化という情報になる。どちらか一方では、この診断はできません。競合ではなく、対になる手法です。

数字で見る性能

東芝ナノアナリシスは、SCMの性能を次のように示しています。

項目 値
分解能 20 nm
検出できる濃度 10¹⁵〜10¹⁹ atoms/cm³

10¹⁵という感度の意味

10¹⁵ /cm³ という数字がどれほどのものか、シリコンの原子密度(約5×10²² 個/cm³)と比べてみます。

5×10²² ÷ 10¹⁵ = 5×10⁷

シリコン原子およそ5,000万個に対して1個のキャリアを、容量の変化として捉えている計算になります。

それを20nmという細かさで、2次元の地図にする。EDXが数%オーダーの組成を見る手法だとすれば、SCMはまったく別の桁で戦う手法です。

難所は試料作製にある

ここまで読むと万能に見えますが、実務の壁は測定の前にあります。

MSTは、通常は機械研磨で半導体素子の断面を露出して測定するとし、nmレベルの平坦面が必要だと説明しています。

思い出してください。SCMは針の先のMOS容量を測る手法です。ということは——

  • 断面が荒れていれば、探針と表面の接触状態が場所ごとに変わり、容量の変化がキャリアのせいか凹凸のせいか区別できなくなる
  • 研磨でダメージが入れば、そこのキャリアの振る舞いが変わる
  • 表面の酸化膜の状態も、MOS構造の一部として信号に効く

デバイスの断面を、ナノメートルの平坦さで、ダメージを抑えて出す。測定装置を買えば済む話ではなく、試料を作る腕がそのまま結果を左右します。

断面を出す技術については断面SEMの記事でも扱いましたが、SCMの要求はさらに厳しい部類に入ります。

SNDM|感度で一桁上をいく兄弟

MSTはSCMと並べて、SNDM(走査型非線形誘電率顕微鏡法)という手法も提供しています。同財団が示す感度範囲を比べると——

手法 検出できるキャリア濃度
SCM 10¹⁵〜10²⁰ /cm³
SNDM 10¹⁴〜10²⁰ /cm³

SNDMは低濃度側に一桁広い感度を持ちます。低濃度領域が特性を左右するパワー半導体では、この一桁が効く場面があります。

実際、SiCパワーデバイスはSCM系手法の主要な適用先です。東芝ナノアナリシスも適用例として、Si半導体の拡散形状観察、SiCパワーデバイス、太陽電池、不具合箇所の解析を挙げています。

業界の見取り図|作る企業と、測る企業

ここからが、この分野のもうひとつの顔です。

SCMをめぐる業界は、2つの層でできています。

層 役割 企業の例
装置を作る層 AFMとSCMモジュールを開発・販売 Bruker など
分析を請け負う層 試料を預かり、測定と解釈まで提供 東レリサーチセンター、東芝ナノアナリシス、MST など

装置の層

SCMは独立した装置ではなく、AFMに搭載される測定モードのひとつとして提供されるのが一般的です。

AFM大手のBrukerは、ナノスケールの電気特性評価モードの一つとしてSCMを位置づけ、キャリア分布の観察用途を挙げています。土台となるAFMがあり、その上に導電性探針や信号検出系を組み合わせる構成です。

受託分析という産業

注目したいのは2つ目の層です。分析そのものを商売にする企業群が存在します。

  • 東レリサーチセンター:東レ系の分析会社。パワー半導体のキャリア分布・pn接合解析(SCM等)の技術資料を公開している
  • 東芝ナノアナリシス:東芝系。SCMによるキャリア分布観察を受託分析サービスとして明示的に提供
  • MST(材料科学技術振興財団):分析サービス機関。SCM・SNDMの両方をメニューに持つ

東レ系、東芝系——母体企業の解析部門が、外部の仕事も請け負う分析会社として育ったという系譜が見てとれます。自社製品のために磨いた分析技術が、それ自体商品になったわけです。

なぜ「外注」が成立するのか

半導体メーカーなら自前で測ればよさそうなものです。それでも受託分析業が成り立つのには、構造的な理由があります。

①装置より腕が要る
ここまで見たとおり、SCMの難所は試料作製です。nmレベルの断面研磨と結果の解釈には熟練が要ります。装置を買っても、すぐには同じ品質で測れません。

②毎日は使わない
SCMのような解析は、条件出しや不具合解析の場面で登場します。インライン検査のように毎日全数を測るものではありません。稼働率の低い装置と専門人材を抱えるより、必要なときに頼むほうが合理的な場合があります。

③装置を持てない企業がある
材料メーカー、ファブレス、装置の部品メーカー——半導体に関わっていても、高度な分析設備を持たない企業は多くあります。そうした企業にとって、受託分析は「借りられる分析部門」です。

このサイトでは装置・部品・材料という層を繰り返し見てきましたが、「測る」の世界にも同じ構造があります。装置を作る層と、測る技術を売る層。後者は目立ちませんが、業界全体の歩留まりと開発速度を下支えしています。

この受託分析という産業の系譜と構造は、受託分析とは?で深掘りしています。

✍️ ひとこと

心に残ったのは、「原子がいること」と「働いていること」は違うという一点でした。SIMSで数えても、SCMで見なければ働きぶりは分からない。2つの測定の差が、そのまま答えになる。

そして、この難しい測定を「請け負います」という会社が何社もある。測る技術そのものが商品として流通している——半導体産業の分業の深さを、また一つ知った気がします。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

SCMとは何の略ですか?

Scanning Capacitance Microscopy(走査型容量顕微鏡)の略です。導電性の探針と半導体表面の間にMOS構造を作り、静電容量の変化からキャリアの分布を2次元で可視化します。

SIMSとSCMはどちらを使うべきですか?

目的が違います。SIMSは活性に関係なく原子の総量と深さ分布を測り、SCMは電気的に働いているキャリアだけを見ます。活性化の確認には、両方の結果を突き合わせることに意味があります。

SCMで濃度の数値は分かりますか?

定量評価はできないとされています(MST)。得られるのはキャリアの濃淡とp型/n型の分布であり、濃度の絶対値が必要な場合はSIMSなど他の手法と組み合わせます。

なぜ試料作製が難しいのですか?

針の先のMOS容量を測る手法のため、断面にnmレベルの平坦さが求められるからです。表面の凹凸や研磨ダメージ、酸化膜の状態がそのまま信号に影響します。

受託分析はどんなときに使われますか?

不具合解析や条件出しなど、日常の全数検査ではない場面が中心です。装置と熟練者を常時抱えるより、必要なときに専門機関へ依頼するほうが合理的な場合に使われます。

まとめ

  • SCMは導電性探針・表面酸化膜・半導体でMOS構造を作り、容量変化からキャリア分布を2次元で可視化する手法
  • dC/dV信号の極性からp型とn型を識別でき、pn接合の位置が見える
  • SIMSが活性に関係なく原子を検出するのに対し、SCMは働いているキャリアだけを見る。両者の差が活性化の情報になる
  • 分解能20nm、検出濃度10¹⁵〜10¹⁹ /cm³(東芝ナノアナリシス)。シリコン原子5,000万個に1個の水準を捉える計算
  • ただし定量評価は不可で、難所は測定よりnmレベルの断面試料作製にある
  • 兄弟手法のSNDMは低濃度側に一桁広く(10¹⁴〜)、パワー半導体で効く場面がある
  • 業界は装置を作る層(BrukerなどのAFMメーカー)と分析を請け負う層(東レリサーチセンター、東芝ナノアナリシス、MSTなど)の二層構造
  • 受託分析が成立するのは、装置より腕が要り、毎日は使わず、持てない企業が多いから。「借りられる分析部門」として業界を下支えしている

原子の分布を測る手法はSIMSとは?、活性化の工程は熱処理装置とは?で解説しています。

参考・出典