イオン注入装置は、狙った深さに狙った量の不純物を打ち込みます。設計どおりの分布を作り込める——それがこの装置の価値です。

ですが、ひとつ問いが残ります。本当に設計どおりに入っているのか、どうやって確かめるのか。

打ち込まれた原子は、シリコンの中に埋もれています。表面から見ても分かりません。しかも濃度は、シリコン原子10億個に対して数個という世界です。

これを測る手法がSIMSです。この記事では、その原理、2種類のSIMSの違い、そして「測ること自体が試料を乱す」という難しさを解説します。

SIMSとは|削りながら質量を測る

SIMS(二次イオン質量分析法)の原理は、次の3段階です。

  1. 試料にイオンビームを当てる
  2. 叩き出された原子の一部がイオンになって飛び出す(二次イオン)
  3. そのイオンの質量を分析し、何の元素かを特定する

削りながら測るので、深さ方向の濃度分布が得られます。アルバック・ファイも、スパッタと測定を交互に繰り返すことで深さ方向プロファイルが得られると説明しています。

横軸に深さ、縦軸に濃度をとったグラフ——これがSIMSの代表的な出力です。イオン注入したドーパントが、どの深さに、どれだけの濃度で存在するかが一目で分かります。

入口と出口、両方に質量分析がある

ここで面白い対称性に気づきます。

イオン注入装置 SIMS
質量分析の役目 打ち込むイオンを選ぶ 出てきたイオンを識別する
方向 入れる 取り出す
目的 不純物を狙って入れる 不純物がどこにあるか知る

イオン注入装置は、装置内で発生させた様々なイオンから目的のものだけを質量で選び分けて打ち込みます。SIMSは、叩き出されたイオンを質量で識別して正体を知ります。

同じ原理を、入口と出口で使っているわけです。

2種類のSIMS

SIMSと一口に言っても、性格の違う2つの装置があります。ここを混同すると理解が濁ります。

TOF-SIMS(飛行時間型) ダイナミックSIMS(四重極型など)
得意なこと 表面に何があるか どの深さにどれだけあるか
情報深さ 1nm以下 深さ方向に掘り進む
半導体での用途 痕跡金属汚染の検出・同定 極浅打ち込みの深さ分析
質量分解能 高い(分子情報も得られる) 定量性を重視

アルバック・ファイは用途を明確に分けて説明しています。

  • TOF-SIMS:低いバックグラウンドノイズと高い質量分解能を持ち、痕跡金属汚染に対して市販装置で最高の感度を持つ
  • Q-pole-SIMS:極浅打ち込みに対して安定した自動分析を行い、極浅打ち込みプロセス管理に役立つ

つまり「汚れを見つける」ならTOF-SIMS、「分布を測る」ならダイナミックSIMSという住み分けです。

なぜ痕跡金属汚染が問題なのか

同社は「痕跡程度の微量な金属汚染が、半導体デバイスの特性に致命的な影響を与えることがある」と述べています。

金属原子はシリコン中で、電子の動きを乱す準位を作ります。ごく微量でも素子の特性を壊すため、洗浄や超純水の管理が徹底されるわけです。

ただし「汚染がある」と分かっても、何の金属かが分からなければ対策できません。鉄なのか銅なのかで、疑うべき発生源が変わります。元素を特定できることに意味があります。

一次イオンを使い分ける

削るために当てるイオンには、いくつかの種類があります。

アルバック・ファイによれば、金属や半導体などの無機材料の深さ方向分析には酸素(O₂)やセシウム(Cs)イオンが、有機材料にはフラーレン(C₆₀)やアルゴンガスクラスターイオンが用いられ、材料や目的に応じて使い分けられます。

なぜ使い分けるのでしょうか。飛び出す原子がイオンになりやすいかどうかが、当てるイオンによって変わるからです。

SIMSが検出できるのは、あくまでイオンになったものだけです。中性の原子として飛び出したものは、質量分析器で曲げられず、検出されません。

そこで、目的の元素がイオンになりやすい条件を作ります。当てるイオンを変えることは、感度そのものを変える操作なのです。

なぜ500eVまで下げるのか

ここがSIMSの核心的な難しさです。

アルバック・ファイは半導体向けの分析例として、500eVで打ち込まれた硼素の濃度分布を、500eVの酸素イオンビームでスパッターしながら求めたものを挙げています。

注目したいのは、測定に使うイオンのエネルギーも500eVである点です。

測ることが試料を乱す

一次イオンを当てると、表面の原子が叩き出されます。しかし同時に、別のことも起きています。

  • 一次イオンが試料内部へ潜り込む
  • その勢いで、表面付近の原子がより深くへ押し込まれる(ノックオン)
  • 層と層の境目が混ざり合う(ミキシング)

結果として、本来は急峻な濃度分布が、なだらかに見えてしまいます。実際より深くまで不純物が入っているように測れるのです。

この擾乱の深さは、一次イオンのエネルギーが大きいほど深くなります。だからエネルギーを下げる必要があります。

浅く打つほど、浅く測らねばならない

微細化が進むと、注入は浅くなります。500eVという低エネルギーで打ち込めば、ドーパントはごく表層にとどまります。

ここで測定側が数keVのイオンを使えば、測定による擾乱のほうが、測りたい分布より大きくなりかねません。何を測っているのか分からなくなります。

だから測定側も500eVまで下げる。対象が浅くなれば、測る道具も浅くしなければならない——この対応関係が、SIMSの技術開発を駆動しています。

ただし代償があります。エネルギーを下げれば削る速度が落ち、分析に時間がかかります。分解能と時間は、ここでも引き換えです。

定量には基準が要る

もうひとつ、SIMSには構造的な弱点があります。信号の強さから、そのまま濃度を計算できないことです。

二次イオンがどれだけ生成されるかは、周囲の材料によって大きく変わります。同じ濃度のホウ素でも、シリコン中にある場合と酸化膜中にある場合では、得られる信号の強さが違ってきます。

そのため実務では、濃度が既知の標準試料を同じ条件で測り、比較して濃度を求めます。

つまりSIMSは、単独では絶対値を出せません。基準があってはじめて数字になる手法です。この性質は、測定結果を読むときに意識しておく必要があります。

なお、SIMSは活性化の有無に関係なく原子を検出します。電気的に働いているキャリアだけを見る手法はSCMとは?で解説しています。

他の表面分析との使い分け

アルバック・ファイは、半導体分野で複数の手法を用途別に挙げています。

手法 公式に挙げられている用途
TOF-SIMS 痕跡金属汚染の検出
AES(オージェ電子分光) ナノサイズの欠陥の元素分析
XPS(X線光電子分光) ボンディングパッド表面の組成と化学状態の監視

ここから性格の違いが読み取れます。

  • SIMS:極めて高い感度。微量なものを見つけるのが得意
  • AES:微小な領域を狙える。欠陥1個の元素を調べる用途
  • XPS:化学状態が分かる。酸化しているのか、金属のままかを区別できる

感度が要るならSIMS、場所を絞るならAES、化学状態を知りたいならXPS。目的によって使い分けられます。

SEMに付属して手軽に元素を調べる手法についてはEDXとは?で扱っています。

破壊分析であるということ

SIMSは削りながら測るため、試料は元に戻りません。この点は断面SEMと同じです。

そのため量産ラインでは、次のような運用になります。

  1. 工程内では、壊さない測定で日常的に監視する
  2. 条件を新しく決めるとき、SIMSで分布を確認する
  3. 異常が出たとき、原因を特定するために使う

とくに熱処理の前後で分布がどう変わったかは、SIMSでしか確認できません。打ち込んだ位置と、熱を加えた後の位置は違うためです。

アルバック・ファイが極浅打ち込みの「プロセス管理」に触れているのは、こうした使われ方を指しています。

なお、SIMSは受託分析サービスとしても広く提供されています。この業界の全体像は受託分析とは?で扱っています。

✍️ ひとこと

いちばん引っかかったのは、測るための500eVが、打ち込んだ500eVと同じだったことです。測定の乱暴さが、測りたい対象と同じ規模になっている。

だからエネルギーを下げる。すると時間がかかる。そっと触れようとするほど、時間を払うことになる——測るという行為の難しさが、この数字に凝縮されているように思いました。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

SIMSは何を測る装置ですか?

イオンビームで試料を削り、飛び出した二次イオンの質量を分析することで、含まれる元素とその深さ方向の濃度分布を調べます。イオン注入したドーパントの分布確認や、微量な金属汚染の検出に使われます。

TOF-SIMSとダイナミックSIMSはどう違いますか?

TOF-SIMSは情報深さ1nm以下で表面の汚染検出に、ダイナミックSIMSは削り進みながら深さ方向の濃度分布を測るのに使われます。アルバック・ファイも前者を痕跡金属汚染の検出、後者を極浅打ち込みの深さ分析と位置づけています。

なぜ一次イオンの種類を変えるのですか?

飛び出した原子がイオンになりやすいかどうかが、当てるイオンによって変わるためです。SIMSはイオンになったものしか検出できないため、一次イオンの選択は感度に直結します。無機材料では酸素やセシウムが用いられます。

なぜ低いエネルギーで測るのですか?

一次イオンが試料内部の原子を深くへ押し込み、濃度分布をなだらかに見せてしまうためです。注入が浅くなるほど、測定側もエネルギーを下げる必要があります。ただし削る速度が落ちるため、分析時間は長くなります。

SIMSだけで濃度が分かりますか?

いいえ。二次イオンの生成率は周囲の材料によって変わるため、濃度が既知の標準試料と比較して求めます。SIMSは単独では絶対値を出せない手法です。

まとめ

  • SIMSはイオンビームで削りながら二次イオンの質量を測り、深さ方向の濃度分布を得る手法
  • イオン注入装置が質量分析で打ち込むイオンを選ぶのに対し、SIMSは出てきたイオンを識別する。同じ原理が入口と出口で使われている
  • TOF-SIMSは情報深さ1nm以下で痕跡金属汚染の検出、ダイナミックSIMSは極浅打ち込みの深さ分析と用途が分かれる
  • 無機材料の深さ方向分析には酸素やセシウムの一次イオンが使われる。イオンになったものしか検出できないため、選択が感度を左右する
  • 公式の分析例では500eVで打ち込んだ硼素を、500eVの酸素イオンで測っている
  • 一次イオンは原子を深部へ押し込むため、急峻な分布がなだらかに見える。浅く打つほど、浅く測る必要がある
  • エネルギーを下げれば擾乱は減るが、削る速度が落ちて時間がかかる
  • 二次イオンの生成率は母材で変わるため、標準試料との比較なしに定量できない
  • 感度ならSIMS、微小領域ならAES、化学状態ならXPSという使い分けになる

不純物を打ち込む工程はイオン注入装置とは?、その後の熱処理は熱処理装置とは?で解説しています。

参考・出典