SEMで欠陥を見つけたとき、次に知りたいのは「これは何でできているのか」です。

鉄なら金属部品、フッ素ならプロセスガスの残り——材質が分かれば発生源が絞れます。

その役目を担うのがEDXです。SEMに付属していて、見ているその場で元素が分かります。

ただし、ここに落とし穴があります。画面で見えている範囲と、実際に測っている範囲は同じではありません。この記事では、その理由と限界を数字で解説します。

EDXとは|特性X線から元素を知る

EDX(エネルギー分散型X線分光法)は、電子線を当てたときに出るX線を測り、元素を特定する手法です。EDSとも呼ばれます。

日本電子(JEOL)は、この装置を電子顕微鏡にアタッチメントとして装着し、電子線照射により試料から発生した特性X線を検出して元素分析を行う装置と説明しています。

なぜ元素が分かるのか

特性X線が生まれる仕組みは、次のように説明されています。

内殻電子の1つが励起して生じた空孔に、より高いエネルギー準位にある外殻電子が落ちる際、そのエネルギー差に対応するX線が放出される。これが特性X線であり、そのエネルギーは元素に固有である。

ポイントは最後の一文です。エネルギーが元素ごとに決まっている——だからエネルギーを測れば、何の元素かが分かります。

原子の構造そのものが指紋の役割を果たしているわけです。

SEMに付いているという強み

EDXの実用上の価値は、性能そのものよりどこに付いているかにあります。

EDX SIMS
装置 SEMの付属機能 専用装置
使い方 見ながらその場で測る 試料を持ち込んで測る
試料 基本的に壊さない 削るので壊れる
感度 低い 極めて高い

レビューSEMで欠陥を拡大観察し、そのまま元素を調べる——この流れが1台で完結します。

別の装置へ持っていく必要がない。量産ラインの現場では、この手軽さが決定的な意味を持ちます。

分析領域はビーム径の1,000倍

ここがEDXを使ううえで最も重要な性質です。

SEMの電子ビームは、非常に細く絞られています。ナノメートル単位の細さです。ならばEDXも同じ細かさで元素を測れそうに思えます。

実際は違います。

JEOLは分析領域について、次のように説明しています。

分析領域は、水平方向、深さ方向ともに数100 nm~数 μm程度である。入射電子のプローブ径に比べて分析領域が大きいのは、入射電子が試料内で拡散するためである。

桁で比べてみる

プローブ径を1ナノメートル、分析領域を1マイクロメートルとして比べます。

1 μm ÷ 1 nm = 1,000倍

分析領域が数マイクロメートルに広がれば、その差は数千倍になります。

見えている像は1ナノメートルの細かさなのに、元素の情報は1マイクロメートルの範囲から集まっている。この食い違いが、EDXを読むときの最大の注意点です。

なぜ広がるのか

電子は試料に入ると、原子とぶつかりながら方向を変えます。まっすぐ進み続けるわけではありません。

結果として、電子は表面から入った点を中心に洋ナシのような形に広がります。X線は、この広がった領域のどこからでも発生します。

つまりビームをいくら細く絞っても、試料の中で広がってしまえば意味がありません。分解能を決めているのは装置ではなく、電子と物質の相互作用です。

実務での意味

この性質は、具体的な問題を引き起こします。

  • 小さな異物を測ると、周囲の材料も一緒に測ってしまう——100nmの粒子を測れば、下地のシリコンの信号が混ざる
  • 薄い膜の組成が正しく出ない——膜より深くまで電子が届き、下の層の信号が入る
  • 隣接する構造の信号が混入する——狙った場所だけを測れない

「シリコンが検出された」という結果が、異物の成分なのか下地なのか——区別できないことがあります。

加速電圧のジレンマ

電子の広がりは、加速電圧を下げれば小さくできます。エネルギーが低ければ、そこまで深く入り込めないからです。

ならば低い電圧で測ればよい、と考えたくなります。ところがそう単純ではありません。

加速電圧 分析領域 検出できる元素
低い 狭い(良い) 限られる(悪い)
高い 広い(悪い) 幅広い(良い)

特性X線を出させるには、内殻電子を叩き出すだけのエネルギーが必要です。重い元素ほど内殻電子は強く束縛されており、低い電圧では励起できません。

つまり狭く測りたいなら低電圧、重元素を見たいなら高電圧という、両立しない要求が生まれます。

何を優先するかは目的次第です。微小な異物の位置を絞りたいのか、含まれる元素をもれなく知りたいのか——測定条件は、その判断の結果として決まります。

エネルギー分解能130eVの意味

もうひとつの制約が、エネルギーをどれだけ細かく区別できるかです。

JEOLによれば、EDSのエネルギー分解能は130〜140 eV(MnのKα 5.9 keVに対して)とされています。

これがどの程度の精度か、比率で見てみます。

130 eV ÷ 5,900 eV = 約2.2%

測定するエネルギーの2%強の幅で、ピークがぼやけることになります。

問題は、元素によって特性X線のエネルギーが近接する場合があることです。130eVより近い位置にピークがある元素同士は、山が重なって分離できません。

半導体では、シリコンや金属配線など複数の元素が同じ場所に存在します。ピークが重なれば、そこに何があるのか判断できなくなります。

EDXとWDX|使い分けの根拠

ピークの重なりが問題になる場合、別の方式があります。WDX(波長分散型)です。

JEOLは両者を次のように比較しています。

EDX(エネルギー分散型) WDX(波長分散型)
エネルギー分解能 130〜140 eV 約20 eV
検出限界 WDXより約2桁劣る 高い
測定 全元素を同時に 1元素ずつ
速さ 速い 遅い

分解能の差を計算します。

130 eV ÷ 20 eV = 6.5倍

WDXは6倍以上細かくエネルギーを分けられます。さらに検出限界は約2桁(100倍)の差があるとされています。

ではなぜEDXが広く使われるのか

性能で劣るなら、WDXを使えばよさそうです。それでもEDXが標準的に使われるのは、速さと同時性のためです。

EDXは発生したX線をエネルギー別に一度に振り分けます。何が入っているか分からない試料でも、1回の測定で全体像がつかめます。

一方WDXは、特定の波長に合わせて1元素ずつ測ります。精密ですが、あらかじめ何を探すか決めておく必要があります。

まずEDXで全体を見て、必要ならWDXで詰める。これが自然な流れになります。

なお、試料を極薄の薄片にすると、電子は広がる前に突き抜けます。分析領域の問題を根本から変えるこの方法はTEMとは?で扱っています。

軽い元素は苦手

EDXにはもうひとつ弱点があります。軽元素の検出が難しいことです。

理由は2つあります。

  • 軽元素の特性X線はエネルギーが低く、検出器へ届く前に吸収されやすい
  • そもそもX線が発生しにくい(別の過程でエネルギーが失われる割合が高い)

水素とヘリウムに至っては、原理的に検出できません。内殻電子と外殻電子の区別がないため、特性X線が発生しないからです。

半導体では、水素が特性に影響することがあります。しかしEDXでは見えません。こうした場合はSIMSなど別の手法が必要になります。

元素ではなく、電気的に働くキャリアの分布を見る手法もあります。SCMとは?で解説しています。

感度で見た位置づけ

元素分析の手法は、感度と手軽さが反比例します。

手法 感度 手軽さ 向く場面
EDX 低い 高い(SEMに付属) 異物の材質をその場で知る
WDX EDXより2桁高い 中 ピークが重なるとき、微量を測るとき
SIMS 極めて高い 低い(専用装置・破壊) 痕跡汚染、深さ方向の分布

EDXは「まず調べる」ための手法です。感度は高くありませんが、SEMで見ている対象をそのまま分析できます。

そこで見当がつかなければ、より高感度な手法へ進む。欠陥解析の現場では、この段階的な流れが取られます。

✍️ ひとこと

いちばん驚いたのは、ビームを1nmに絞っても、測っている範囲は1μm前後だったことです。像はくっきり見えているのに、元素の情報はもっと広い範囲から集まっている。

装置を良くしても、この差は縮まりません。電子が物質の中で広がるという性質そのものが、限界を決めている。見えることと分かることは別なのだと、あらためて感じました。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

EDXとEDSは違うものですか?

同じものを指します。エネルギー分散型X線分光法の略で、EDXとEDSはいずれも使われる表記です。

なぜビーム径より分析領域が広いのですか?

電子が試料内部で原子とぶつかりながら拡散するためです。JEOLも、分析領域が水平・深さ方向とも数100nm〜数μm程度になるのは入射電子が試料内で拡散するためだと説明しています。

加速電圧はどう決めますか?

目的によります。低くすれば分析領域は狭くなりますが、内殻電子を励起できず重元素が検出できません。高くすれば幅広い元素を検出できますが、分析領域は広がります。

EDXとWDXはどちらが優れていますか?

目的が違います。WDXはエネルギー分解能が約20eVとEDXの6倍以上細かく、検出限界も約2桁高い一方、1元素ずつの測定で時間がかかります。EDXは全元素を同時に、素早く把握できます。

水素は検出できますか?

できません。水素やヘリウムは内殻と外殻の区別がなく、特性X線が発生しないためです。これらを調べるにはSIMSなど別の手法が必要になります。

まとめ

  • EDXは電子線で生じる特性X線を測り、元素を特定する手法。エネルギーが元素固有であることが原理の土台
  • SEMのアタッチメントとして使えるため、見ているその場で元素が分かるのが最大の利点
  • JEOLによれば分析領域は水平・深さとも数100nm〜数μm。入射電子が試料内で拡散するため
  • プローブ径1nmに対し分析領域1μmなら1,000倍の差。見えている範囲と測っている範囲は一致しない
  • 小さな異物では下地の信号が混ざり、検出された元素が対象のものか判断できないことがある
  • 加速電圧を下げれば領域は狭まるが重元素が励起できない。両立しない要求がある
  • エネルギー分解能は130〜140eV(Mn Kα 5.9keVに対し約2.2%)。近接するピークは分離できない
  • WDXは分解能約20eV(6.5倍細かい)で検出限界も約2桁高いが、1元素ずつで遅い
  • 軽元素は苦手で、水素とヘリウムは原理的に検出できない

欠陥の観察はレビューSEMとは?、より高感度な元素分析はSIMSとは?で解説しています。

参考・出典