断面SEMとは?FIBとCPの使い分けと試料作製という本丸
上から見ても、斜めから見ても分からないものがあります。膜の中に埋もれた構造です。
深い穴の底、積層した膜の界面、金属の中にできた空洞——表面からの観察では、どうしても届きません。傾斜SEMにも幾何学的な限界があります。
ならば切って直接見る。それが断面SEMです。
ただしこの手法の難しさは、観察そのものにはありません。いかに狙った場所の断面を作るか——ここに技術が集中しています。
断面SEMとは|推定ではなく実測
断面SEMは、試料を切断・研磨して断面を露出させ、その面をSEMで観察する手法です。
他の測定手法との決定的な違いは、推定を挟まないことです。
| 手法 | 得られるもの | 性質 |
|---|---|---|
| 上からのSEM | 平面の像 | 高さは分からない |
| 傾斜SEM | 視差から高さを算出 | 計算による推定 |
| 光学的な測定 | 反射光から形を推定 | モデルに依存 |
| 断面SEM | 断面の形そのもの | 直接見る |
膜が何層あるのか、それぞれ何ナノメートルか、界面はどうなっているか。見れば分かります。だから最終的な判断の拠りどころになります。
代償は明確です。その試料はもう製品になりません。
難しいのは観察ではなく試料作製
断面を出す方法は、いくつもあります。
| 方法 | やり方 | 向くこと |
|---|---|---|
| 劈開(へきかい) | 結晶の面に沿って割る | 速い。おおまかな場所でよいとき |
| 機械研磨 | 切断して磨く | 広い範囲。ただし加工の傷が残る |
| CP | 幅の広いArイオンビームで削る | 広範囲をきれいに |
| FIB | 細く絞ったGaイオンビームで削る | 狙った1点を正確に |
シリコンは結晶なので、特定の方向に沿ってきれいに割れます。これが劈開です。速くて簡単ですが、「ちょうどこの欠陥のところで割る」ことはできません。
狙った場所を見たいなら、イオンビームで削る方法が必要になります。ここで2つの選択肢が現れます。
CPとFIB|数字で見る使い分け
日本電子(JEOL)は、両者の違いを次のように説明しています。
| 項目 | CP(クロスセクションポリッシャ) | FIB(集束イオンビーム) |
|---|---|---|
| イオン源 | アルゴン | ガリウム |
| 最大加工幅 | 8 mm | 数百 μm |
| 加工位置精度 | 3 μm 程度 | 10 nm 程度 |
| 得意 | 広範囲の断面、構造解析 | 特定位置の断面、欠陥解析 |
CPは幅の広いアルゴンイオンビームを照射する方式です。試料表面に遮蔽板を置き、そこから突き出た部分を削ります。数ミリメートル幅の断面が作れます。
一方FIBは、細く絞ったガリウムイオンビームで削ります。
位置精度は300倍違う
まず加工位置の精度を比べます。
3 μm ÷ 10 nm = 300倍
FIBは狙った場所を300倍細かく指定できます。特定の欠陥1個を出したいなら、FIB以外に選択肢はありません。
ところが時間は45倍違う
同社が示す加工例を比べると、逆の関係が見えてきます。
| CP | FIB | |
|---|---|---|
| 処理時間 | 約15時間 | 約20分 |
| 断面サイズ | 幅1.8mm × 深さ1.5mm | 幅60μm × 深さ20μm |
1点だけ見るなら、FIBは45倍速いことになります(15時間 ÷ 20分)。
しかし断面の面積を計算すると、話が変わります。
- CP:1.8 × 1.5 = 2.7 mm²
- FIB:0.06 × 0.02 = 0.0012 mm²
2.7 ÷ 0.0012 = 2,250倍
CPの断面は、FIBの2,000倍以上の広さがあります。時間あたりで割ってみます。
| 面積あたりの速さ | |
|---|---|
| CP | 2.7 mm² ÷ 15時間 = 約0.18 mm²/時 |
| FIB | 0.0012 mm² ÷ 0.33時間 = 約0.0036 mm²/時 |
CPはFIBの約50倍、面積を稼げる
ここに使い分けの本質があります。
- どこを見ればいいか分かっている → FIB(1点を正確に、速く)
- どこを見ればいいか分からない → CP(広く削って探す)
欠陥の座標が検査装置から得られているならFIBが有効です。逆に「どこかおかしいが場所が特定できない」ときは、広い断面を作って探すほうが早い場合があります。
FIBの仕組み
FIBがどうやってナノメートル単位の加工をするのか、原理を見ておきます。
JEOLの説明によれば、液体金属イオン源(LMIS)から電界蒸発によってGa⁺イオンビームを発生させ、電界で加速し、静電レンズで試料上に集束させます。
この装置には3つの機能があります。
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| 観察 | 二次電子によるSIM像。最高分解能は5nm以下 |
| 加工 | イオンのスパッタリング効果で削る。精度は約0.1μm |
| 成膜 | 有機金属ガス(W(CO)₆など)を導入して膜を成長させる |
注目したいのは、削るだけでなく「付ける」こともできる点です。この成膜機能が、次に述べる保護膜で重要な役割を果たします。
ビーム電流を4桁変える
同社によれば、ビーム電流は数pA以下から数十nAまで可変です。
この幅がどれほどかを確認します。仮に5pAと50nAとすると——
50 nA ÷ 5 pA = 10,000倍
なぜこれほど変える必要があるのでしょうか。削る段階によって求められるものが違うからです。
- 粗加工:大電流で一気に掘る。速さが優先
- 仕上げ:小電流で丁寧に整える。面の質が優先
大電流のまま仕上げれば、断面はガタガタになります。逆に小電流だけで掘れば、いつまでも終わりません。途中で切り替えることが前提の装置なのです。
なぜ保護膜を付けるのか
FIBで断面を作るとき、削る前に表面へ膜を付けます。
JEOLも、有機金属ガス雰囲気中でイオンビームを走査してカーボンの保護膜を成膜し、試料表面を保護しながら加工すると説明しています。
なぜわざわざ膜を付けるのでしょうか。理由は削り方の性質にあります。
凹凸があると縞ができる
イオンビームで削るとき、表面が平らでないと削れ方が不均一になります。
出っ張った部分と凹んだ部分では、イオンの当たり方が変わります。すると削り進むにつれて差が広がり、断面に縦方向の縞が現れます。カーテンのように見えることから、この現象はカーテニングと呼ばれます。
縞が出ると、本来の構造なのか加工の痕なのか区別がつきません。観察したい情報が加工によって汚されるわけです。
そこで先に平らな膜をかぶせ、イオンビームから見て表面を均一にします。削り始めが揃えば、その下も揃って削れます。
膜は断面の縁を保護する役目も果たします。むき出しの角は削れて丸まりやすく、最表面の膜厚が正しく測れなくなるためです。
なお、FIBで壁のように薄い一枚を切り出せば、透過型電子顕微鏡で原子レベルの観察もできます。TEMとは?で解説しています。
スライス&ビュー|断面から立体へ
FIBとSEMを組み合わせると、さらに踏み込んだことができます。
JEOLのデュアルビーム装置は、断面加工をしながら一定間隔で自動的にSEM像を取得する3D解析機能を標準で備えていると説明されています。
手順は単純です。
- 少し削る
- 断面を撮る
- また少し削る
- また撮る
これを繰り返し、得られた断面像を積み重ねれば立体構造が再現できます。
どれくらい時間がかかるか
深さ10マイクロメートルの範囲を、10ナノメートル刻みで再構成する場合を考えます。
10 μm ÷ 10 nm = 1,000回
1回の「削って撮る」に1分かかるとすると——
1,000分 = 約16.7時間
試料1点の立体化に、丸一日近くかかる計算です。得られる情報は圧倒的ですが、日常的に回せる手法ではありません。
だからこそ、この手法は「どうしても分からない」場面のために取っておかれます。
加工が試料を変えてしまう
もうひとつ、断面SEMには避けがたい性質があります。見るために加工すると、加工が試料を変えることです。
- Ga⁺イオンは試料に打ち込まれ、表層に残る
- 結晶が乱され、変質した層ができる
- 削られた材料が、周囲に再付着することがある
つまり見ている断面は、加工前とまったく同じ状態ではありません。そのため仕上げでは電流を絞り、影響を最小限に抑える操作が行われます。
「壊して見る」手法である以上、見えたものが本当にもとの姿かを常に意識する必要があります。
形ではなく元素の分布を知りたい場合は、別の破壊分析が使われます。SIMSとは?で解説しています。
いつ切るのかという判断
最後に、運用面の話をします。
断面SEMは破壊検査です。1枚のウェハーを断面用に使えば、その分の製品は失われます。
しかし考え方を変えると、1枚を犠牲にして原因が分かれば、残りを救えます。25枚のロットで1枚を使えば損失は4%ですが、原因不明のまま作り続ければ全数が無駄になりかねません。
そのため実務では、次のような流れになります。
断面SEMは最後の手段であり、だからこそ確実でなければなりません。
こうした解析は、専門の分析機関へ依頼することもできます。受託分析とは?をご覧ください。
数字を並べていて面白かったのは、FIBは1点なら45倍速いのに、面積あたりではCPが50倍稼げるという逆転でした。速い遅いは、何を基準にするかで裏返ります。
そして「見るために削ると、削った跡が見えてしまう」ので先に膜をかぶせる。観察という行為が対象を変えてしまうことを、技術者はちゃんと織り込んでいる——そこに誠実さを感じました。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
断面SEMと通常のSEM観察は何が違いますか?
通常は表面を上や斜めから見ますが、断面SEMは試料を切って断面を露出させ、その面を見ます。埋もれた構造や膜の積層状態を、推定ではなく直接確認できます。
CPとFIBはどう使い分けますか?
見る場所が特定できているならFIB、分からないならCPです。FIBは加工位置精度10nm程度で狙えますが加工幅は数百μm、CPは精度3μm程度ながら最大8mm幅の断面を作れます。
なぜ削る前に保護膜を付けるのですか?
表面に凹凸があると削れ方が不均一になり、断面に縦縞(カーテニング)が生じるためです。平らな膜をかぶせて表面を揃えることで、その下も均一に削れます。断面の角が丸まるのを防ぐ役目もあります。
3D再構成にはどのくらい時間がかかりますか?
条件によりますが、深さ10μmを10nm刻みで見るなら1,000回の「削って撮る」が必要です。1回1分なら約16.7時間かかる計算になり、日常的に多数へ適用できる手法ではありません。
断面SEMで見た形は正確ですか?
加工によってイオンが打ち込まれ、表層に変質した層ができるため、加工前と完全に同じ状態ではありません。仕上げで電流を絞るなど、影響を抑える操作が行われます。
まとめ
- 断面SEMは試料を切って断面を直接見る手法で、推定を挟まない点が他と決定的に違う
- 難所は観察ではなく試料作製。劈開・機械研磨・CP・FIBという手段がある
- JEOLによれば、CPはArイオンで最大8mm幅・位置精度3μm、FIBはGaイオンで数百μm幅・位置精度10nm
- 位置精度は300倍FIBが上。しかし断面積はCPが2,250倍広く、面積あたりではCPが約50倍速い
- 1点を狙うならFIB(約20分)、広く探すならCP(約15時間で2.7mm²)という使い分けになる
- FIBはLMISからGa⁺を発生させ、観察・加工・成膜の3機能を持つ。ビーム電流は数pA〜数十nAと約1万倍の幅で、粗加工と仕上げを切り替える
- 削る前の保護膜は、カーテニング(縦縞)を防ぎ断面の角を守るために必要
- スライス&ビューで立体化できるが、深さ10μmを10nm刻みなら約16.7時間を要する
- Ga⁺の打ち込みで変質層ができるため、見えた姿は加工前と完全に同一ではない
表面からの観察は傾斜SEMとは?、欠陥の特定はレビューSEMとは?で解説しています。
参考・出典
※処理時間や3D再構成の所要時間は、公表されている加工例と記載の条件にもとづく計算です。実際の値は試料や設定によって変わります。