チップを積み重ねるとき、上下のチップをどうつなぐか。その答えがTSV(シリコン貫通電極)です。チップそのものに穴を開け、金属を詰めて垂直に配線を通す——HBMや3D積層を支える中核技術です。

この記事は、TSVを装置の視点から解説します。1本の穴を作るために、どの工程でどの装置が使われ、どこに難所があるのか。

結論から言えば、TSVは前工程の装置をほぼ総動員して作られます。後工程の技術でありながら、エッチング、成膜、めっき、CMP、研削が順に登場する——ここに、この技術の本質があります。

TSVとは

TSVは Through-Silicon Via の略で、日本語ではシリコン貫通電極と呼ばれます。シリコンチップを垂直に貫通する、金属で満たされた微細な穴です。

従来、チップ同士は外周から金属線を引き回して接続していました。しかしこの方法では、接続本数にも、信号の速度にも限界があります。

TSVは、チップの中を通して上下を直結します。これにより次のことが可能になりました。

  • 配線が劇的に短くなる:外周を回り込まず最短距離でつながる
  • 接続本数を大幅に増やせる:チップの面全体に穴を配置できる
  • 高速・低消費電力になる:配線が短いほど信号は速く、電力損失も減る

HBM(広帯域メモリ)がDRAMを何段も積み重ねて広大な帯域を確保できるのは、このTSVがあるからです。HBMの製造工程はHBMはどう作られる?で解説しています。AI向け半導体の性能を支える土台といえます。関連する接合技術はハイブリッドボンディングとは?をご覧ください。

TSV形成の6工程と使う装置

TSVは1台の装置で作れるものではありません。複数の装置を順に通して、ようやく1本の電極が完成します。

順序 工程 やること 使う装置
① 深掘りエッチング シリコンに細く深い穴を開ける DRIE装置
② 絶縁膜形成 穴の内壁を絶縁膜で覆う CVD/ALD装置
③ バリア・シード形成 銅の拡散を防ぎ、めっきの下地を作る PVD(スパッタ)装置
④ 銅充填 穴を銅で埋める 電解めっき装置
⑤ 余剰銅の除去 表面にあふれた銅を削り取る CMP装置
⑥ 薄化・露出 裏面を削って電極を露出させる グラインダ

見てのとおり、①〜⑤はすべて前工程で使われる装置です。TSVが「後工程の技術」と一言で片づけられないのは、このためです。

①深掘りエッチング|DRIEとボッシュプロセス

最初の関門が、穴を掘る工程です。TSVの穴は直径5μm程度に対して深さ50μm程度と、極端に細長い形状をしています。深さと直径の比(アスペクト比)は5〜20:1にもなります。

これほど深い穴を、まっすぐ垂直に掘るには特別な方法が要ります。そこで使われるのがDRIE(深掘り反応性イオンエッチング)、なかでもボッシュプロセスと呼ばれる手法です。

ボッシュプロセスの発想は独特です。「削る」と「守る」を高速で交互に繰り返します。

  1. ガスで下方向にシリコンを削る
  2. いったん止め、側壁に保護膜を貼る
  3. 再び削る(保護膜のない底だけが削れる)
  4. これを何百回も繰り返す

側壁を保護しながら底だけを掘り進めるため、横に広がらず垂直に深く掘れます。ただし、この繰り返しの痕跡が側壁にスキャロップ(帆立貝の殻のような波打ち)として残ります。波打ちが大きいと後の成膜やめっきに影響するため、いかに滑らかに仕上げるかが装置の性能を分けます。

エッチングの基礎はエッチング装置とは?ドライとウェットの違いで解説しています。

②絶縁膜形成|穴の奥まで均一に

掘った穴に、いきなり銅を入れることはできません。シリコンと銅が直接触れれば電気が漏れてしまうためです。まず穴の内壁全体を絶縁膜(酸化膜や窒化膜)で覆います。

ここで難しいのが、細く深い穴の奥まで、均一に膜をつけることです。入口だけ厚く、底は薄い——そんな状態では絶縁が保てません。

そのため、段差被覆性に優れたALD(原子層堆積)が活躍します。ALDは表面に吸着してから反応する性質上、どんな複雑な形状でも均一な膜を形成できます。成膜方式の違いは成膜装置とは?CVD・PVD・ALDの違いをご覧ください。

③バリア・シード形成|銅を閉じ込め、めっきの足場を作る

絶縁膜の上に、さらに2層を重ねます。

  • バリアメタル(タンタルなど):銅がシリコン側へ拡散するのを防ぐ壁。銅はシリコン中に入り込むと素子特性を劣化させるため、必ず封じ込める必要があります
  • シード層(薄い銅):次のめっきで電気を流すための下地。めっきは通電しないと始まらないため、あらかじめ薄い銅を張っておきます

これらはPVD(スパッタリング)で形成されます。ただしPVDは直進性が高く深い穴の底に届きにくいため、TSVでは特殊な工夫が求められる工程です。

④銅充填|「底から埋める」制御

いよいよ穴を銅で埋めます。使うのは電解めっきです。

ここに、TSV最大の難所があります。普通にめっきすると、入口が先に塞がってしまうのです。入口付近のほうが電流も薬液も届きやすいためで、こうなると内部に空洞(ボイド)が残り、不良になります。

そこで使われるのが、ボトムアップ充填という技術です。めっき液に複数の添加剤を配合し、

  • 入口付近では析出を抑える成分を働かせ
  • 穴の底では析出を促進する成分を働かせる

という制御を行います。結果として、銅は底から盛り上がるように成長し、空洞を作らずに埋まります。装置とめっき液(薬液)の組み合わせで初めて成立する、化学と装置の合わせ技です。

⑤余剰銅の除去|CMPの出番

めっきでは穴だけでなく、ウェハー表面にも銅が積もります。この余分な銅を削り取り、表面を平坦にするのがCMP(化学機械研磨)です。

この流れは、銅配線を作るダマシンプロセスとまったく同じ考え方です。銅はエッチングで削るのが難しいため、「埋めてから削る」しかない——TSVもこの原則に従っています。くわしくはCMP装置とは?研磨の仕組みと世界シェアをご覧ください。

⑥薄化・露出|裏面を削って貫通させる

ここまでの工程では、穴はまだウェハーを貫通していません。途中で止まった「行き止まりの穴」の状態です。

最後に、ウェハーの裏面を研削して薄くし、TSVの底を露出させます。50〜100μm程度まで削ることで、埋めた銅が裏面に顔を出し、初めて「貫通電極」になります。

この薄化にはグラインダが使われ、ディスコや東京精密が強い領域です。薄くなったウェハーは非常に割れやすく、その後の搬送や切断も難しくなります。ダイシング装置とは?でも触れた、薄いウェハーの扱いという課題がここでも現れます。

いつTSVを作るか|3つの流儀

意外に知られていないのが、TSVを製造工程のどの段階で作るかには選択肢がある、という点です。

方式 作るタイミング 特徴
Via-First トランジスタを作る前 後工程の熱に強いが、TSVが高温プロセスにさらされる
Via-Middle トランジスタの後、配線の前 現在の主流。バランスが良い
Via-Last 配線完了後(裏面から掘ることも) 既存の製造フローを変えずに済む

現在、HBMなどで広く使われているのはVia-Middleです。トランジスタ形成後なので高温工程の影響を受けにくく、かつ配線層と接続しやすいという利点があります。前述の「直径5μm・深さ50μm」という標準的な寸法も、この方式のものです。

いつ穴を開けるかで、必要な装置も工程順も変わる——TSVが単なる一工程ではなく、製造フロー全体の設計に関わる技術であることが分かります。

装置側から見た3つの難所

①深く掘るほど条件が変わる

穴が深くなるほど、底までガスが届きにくく、削れた生成物も排出されにくくなります。掘り進むにつれてエッチングの進み方が変わるため、途中で条件を変えながら掘る制御が必要です。高アスペクト比エッチングの難しさは、3D NANDと共通する課題でもあります。

②ボイドは中を見ないと分からない

めっきの空洞(ボイド)は、表面からは見えません。埋まっているように見えて、内部に空隙があれば導通不良や信頼性低下を招きます。

そのため、X線検査などによる非破壊の内部確認が重要になります。検査についてはパッケージ検査とは?X線検査・ボンドプルテスト・気密性試験で解説しています。

③銅の膨張がトランジスタを狂わせる

見落とされがちですが重要な問題です。銅とシリコンでは熱膨張率が大きく異なります。温度が変化すると、TSVの銅が膨張・収縮し、周囲のシリコンに応力を与えます。

シリコンに応力がかかると、トランジスタの電気特性が変わってしまいます。そのため、TSVの周囲には素子を配置できない領域を設ける必要があります。これをKOZ(Keep Out Zone)と呼びます。

TSVは面積を消費するだけでなく、その周りにも「使えない土地」を生む——設計と製造が密接に絡み合う、TSVならではの制約です。

深い穴の形状をどう確認するかについては傾斜SEM(Tilt SEM)とは?をご覧ください。

主要メーカー|工程ごとに顔ぶれが変わる

TSVは複数工程の集合体であるため、関わる装置メーカーも多岐にわたります。

工程 主な装置メーカー
深掘りエッチング(DRIE) Lam Research、東京エレクトロン、SPTS、サムコ
絶縁膜(ALD/CVD) ASM International、東京エレクトロン、Applied Materials、KOKUSAI ELECTRIC
バリア・シード(PVD) Applied Materials、アルバック
電解めっき Applied Materials、Lam Research、荏原製作所、東京エレクトロン
CMP Applied Materials、荏原製作所
薄化(グラインダ) ディスコ、東京精密

注目したいのは荏原製作所です。同社はCMP装置で世界的な地位を持ちますが、めっき装置も手がけています。TSVでは「めっきで埋めて、CMPで削る」が連続するため、両方を持つ強みが生きる構造です。

各社の規模は半導体製造装置メーカー世界ランキング2026、工程別のシェアは工程別・世界シェアまとめをご覧ください。

深い穴の内部がどうなっているかを確かめる手法は断面SEMとは?で扱っています。

TSVは「中工程」を象徴する技術

ここまで見てきたとおり、TSV形成にはエッチング・ALD・PVD・めっき・CMP・研削が総動員されます。前半5工程は、すべて前工程で使われる装置です。

しかし目的はパッケージング、つまり後工程の領域にあります。回路を作るためではなく、チップとチップをつなぐための加工だからです。

前工程の技術を使いながら、後工程の目的を果たす——この中間領域を中工程(ミドルエンド)と呼びます。TSVは、その代表格です。

「前工程が主役で、後工程は仕上げ」という古い構図が崩れ、両者の技術が溶け合っていく。その変化を最も象徴しているのがTSVだといえます。後工程全体の変化は半導体の後工程装置とは?で解説しています。

✍️ ひとこと

穴を開けて、埋めて、削って、露出させる。文字にすれば数行ですが、その一つひとつに専用の装置と長い試行錯誤があります。

前工程でも後工程でもない「中工程」という言葉が生まれたこと自体が、技術の変化を物語っています。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

TSVは英語で何の略ですか?

Through-Silicon Via(スルーシリコンビア)の略です。「ビア(via)」は配線をつなぐ穴を指す用語で、TSVはそれがシリコンを貫通するものを意味します。

TSVの穴はどのくらいの大きさですか?

用途によりますが、HBMなどで使われるVia-Middle方式では直径5μm程度、深さ50μm程度が標準的とされます。髪の毛の太さの十数分の一の穴を、その10倍の深さまで垂直に掘ることになります。

なぜ銅を使うのですか?

電気抵抗が低く、めっきで埋めやすいためです。ただし銅はシリコンを汚染するため、バリアメタルで完全に封じ込める必要があります。この「銅は速いが扱いにくい」という性質は、前工程の銅配線と共通する課題です。

TSVとハイブリッドボンディングはどう違いますか?

役割が異なります。TSVはチップの中を貫通する縦の配線、ハイブリッドボンディングはチップとチップの接合面をつなぐ技術です。3D積層では両方が使われ、TSVで縦に信号を通し、接合面で上下のチップを結合します。

まとめ

  • TSVはチップを垂直に貫通する電極で、配線を最短にし接続本数を大幅に増やせる
  • 形成は6工程(DRIE→絶縁膜→バリア/シード→めっき→CMP→薄化)で、前工程装置が総動員される
  • DRIEのボッシュプロセスは「削る」と「守る」を繰り返し、側壁にスキャロップを残す
  • めっきは添加剤でボトムアップ充填し、ボイドを作らずに底から埋める
  • 作るタイミングにVia-First/Middle/Lastがあり、現在の主流はVia-Middle
  • 銅とシリコンの熱膨張差により応力が生じ、周囲にKOZという素子を置けない領域ができる
  • 荏原製作所のように、めっきとCMPの両方を持つ強みが生きる分野
  • TSVは前工程の技術で後工程の目的を果たす「中工程」の象徴

関連技術はハイブリッドボンディングとは?、装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説をご覧ください。

参考・出典