AI向け半導体の需要拡大は、製造装置の市場を押し上げています。2026年の世界販売額は前年比23.2%増の1,659億ドルと、過去最高になる見込みです。

ただし、この恩恵はすべての装置に均等に及んでいるわけではありません。大きく伸びている領域と、そうでない領域がはっきり分かれています。

この記事では、AI・HBM需要がどの工程の装置を押し上げているのかを、各社の決算データをもとに具体的に見ていきます。

まず結論|伸びているのは「積む」「調べる」工程

2025年の実績を工程別に見ると、伸び率の差は明確です。

区分 2025年の伸び率
ウェーハプロセス用処理装置(前工程) 12%増
その他の前工程装置 13%増
組立・パッケージング装置 21%増
テスト装置 55%増

金額では前工程装置が全体の約87%を占めますが、伸び率ではテスト装置が突出しています。組立・パッケージング装置も前工程を上回りました。

つまり成長の主役は、回路を作る工程から、チップを積み重ね、組み合わせ、検証する工程へと移りつつあります。

なぜAI半導体は装置需要を変えたのか

理由は、AI向け半導体の作り方そのものにあります。

従来、性能向上は微細化によって実現されてきました。トランジスタを小さくすれば、速く、多く詰め込めるからです。

しかしAI処理では、計算能力だけでなくメモリとの間でどれだけ大量のデータをやり取りできるかが性能を決めます。演算チップがいくら速くても、データが届かなければ待つことになるためです。

この課題への回答が、HBM(広帯域メモリ)です。DRAMを何段も積み重ね、チップの近くに配置して、太い経路でつなぐ。その製造工程はHBMはどう作られる?積層・薄化・接合を装置視点で解説をご覧ください。「小さくする」のではなく「積んで、束ねて、近づける」という発想の転換でした。

この作り方は、必要な装置を大きく変えます。

HBMを作るために必要な装置

HBMの製造工程を追うと、どの装置が必要になるかが見えてきます。

工程 やること 使う装置
①TSV形成 チップを貫通する電極の穴を掘り、金属を埋める エッチング装置、成膜装置
②薄化 積み重ねられるようウェハーを極薄に削る グラインダ
③個片化 薄いチップを欠けさせずに切り分ける ダイシング装置
④検査 積む前に良品であることを確定させる テスタ、プローバ
⑤積層・接合 チップを正確に重ねて接合する ボンディング装置
⑥平坦化 直接接合のため接合面を平らにする CMP装置
⑦封止 積層した構造を樹脂で固める モールド装置
⑧最終テスト 完成品として動作を確認する テスタ、ハンドラ

注目すべきは、①のTSV形成で前工程の装置が使われている点です。エッチングや成膜といった前工程の技術が、パッケージのための加工に投入されています。前工程と後工程の境界が曖昧になり、中工程(ミドルエンド)と呼ばれる領域が生まれたのはこのためです。

データで見る|どの企業が伸びたか

実際の決算に、この構造は表れています。

企業 主力装置 直近通期 前年比
アドバンテスト テスタ 1兆1,286億円 +44.7%
ディスコ ダイシング・グラインダ 4,368億円 +11.1%
荏原製作所(CMP装置) CMP 2,126億円 +35%超
東京エレクトロン 前工程中心 2兆4,435億円 +0.5%
SCREENホールディングス 洗浄 6,057億円 △3.1%

この並びが、AI需要の効き方を端的に示しています。

テスト、研削・切断、平坦化は大きく伸び、前工程の総合メーカーは横ばい、洗浄は減収。同じ「半導体製造装置業界」でありながら、業績の方向が分かれました。

アドバンテストが初の1兆円超え、ディスコが初の4,000億円超えという節目を同時期に迎えたのは偶然ではありません。テスト専業で1兆円に届いた構造はアドバンテストとは?で解説しています。切る・削るを担うもう一方についてはディスコとは?をご覧ください。いずれもHBMの製造に直結する装置だからです。

荏原製作所のCMP装置が35%超伸びたのも、配線層の増加に加え、チップを直接接合する際の平坦化需要が背景にあります。

「積む前に良品を確定させる」という要求

テスト装置が55%も伸びた理由は、単にチップが複雑になったからだけではありません。検査の位置づけそのものが変わったためです。

HBMは、DRAMを何段も積み重ねます。ここで問題になるのが、1つでも不良チップが混じると、積み上げた製品全体が不良になることです。

しかも巻き添えになるのは、正常だった他のチップです。高価なチップを何枚も無駄にすることになります。

そのため、積層する前の段階で「このチップは確実に良品である」と保証する必要が生まれました。これがKGD(Known Good Die)という考え方です。

従来の「完成後に不良を取り除く」から、「組み合わせる前に良品を確定させる」への転換。これがテスト需要を構造的に押し上げています。くわしくは半導体検査装置とは?種類と世界シェアで解説しています。

積む前の選別では、長時間ストレスをかけて弱い個体を除く工程も関わります。詳しくはバーンイン装置とは?をご覧ください。

次の焦点|HBM4とハイブリッドボンディング

HBMは世代を重ねており、2026年は次世代のHBM4が量産段階に入る年とされています。積層数はさらに増え、データをやり取りする経路も大幅に広げられます。

ここで技術的な課題になるのが、チップをどう接合するかです。

現在の主流は、熱と圧力で1個ずつ接合するTCB(熱圧着ボンディング)です。確実性は高いものの、積層数が増えるほど処理時間と熱の影響が課題になります。

そこで次の選択肢とされているのが、ハイブリッドボンディングです。突起電極を介さず、銅の電極と絶縁膜を直接接合する方式で、接続をさらに高密度にできます。

この方式が広がれば、装置需要はさらに動きます。接合面をナノレベルで平坦にする必要があるため、CMPの重要性が一段と高まるためです。後工程でありながら、前工程の装置がさらに必要になるという構図です。

接合技術の詳細はダイボンダーとワイヤボンダーの違いとは?をご覧ください。

ウェハーテストを支える部材の動向はプローブカードとは?で扱っています。

もう一つの追い風|先端ロジックとCoWoS

HBMと並んで装置需要を押し上げているのが、演算チップ側の実装技術です。

AI向けの半導体は、演算を担うチップとHBMを1つのパッケージに載せて使います。両者を近くに配置し、太い経路でつなぐためです。この実装にはCoWoSに代表される2.5D実装が用いられます。

仕組みとしては、チップを直接基板に載せるのではなく、インターポーザと呼ばれる中間基板の上に並べて配置します。この中間基板には微細な配線が形成されるため、製造には前工程と同等の技術が必要です。

ここでも装置の出番が増えます。

  • インターポーザの配線形成に、露光・成膜・エッチング・CMP
  • 大型パッケージの封止に、モールド装置
  • 複数チップを高精度に並べる工程に、ボンディング装置

特に負荷が大きいのがパッケージの大型化です。演算チップに複数のHBMを組み合わせるため、パッケージの面積は従来より大幅に広くなります。大きくなるほど反りは出やすく、封止も難しくなります。モールド装置に高い制御能力が求められるのはこのためです。

AI半導体の性能は、演算チップ単体ではなくパッケージ全体の設計と製造で決まる——この変化が、後工程装置への投資を押し上げています。

装置メーカーの「受注」に表れる先行指標

AI関連の需要を読むうえで有効なのが、受注高です。売上は過去の実績ですが、受注は今後の生産を示します。

封止装置のTOWAは、2026年3月期の営業利益が前期比22.1%減となりました。数字だけを見れば厳しく映ります。

しかし同期の受注高は595億円で前期比25.6%増、過去2番目の水準に達しました。期末の受注残高も301億円と高く、AI・データセンター向けを中心に受注が加速している状況です。

ボンディング装置のBesiも、2025年下期の受注がHBM4向けの早期発注により大きく伸びたと報告しています。

当期の利益が落ち込んでいても、受注が積み上がっていれば先行きは明るい——装置メーカーを見るときは、この視点が欠かせません。

注意点|AI需要と連動しない領域もある

最後に、見落としてはいけない点に触れます。

装置業界すべてがAIで潤っているわけではありません。たとえばイオン注入装置大手のAxcelisは、2025年12月期の売上高が8億3,900万ドルと、前年の10億1,790万ドルから減収となりました。同社の出荷は55%がパワーデバイス向けで、AI向けとは異なる市場に軸足があります。

洗浄装置のSCREENホールディングスが減収だったことも同様です。AI需要は特定の工程に集中しており、業界全体を一様に押し上げているわけではありません。

また、半導体産業には好不況の波があります。装置は設備投資であるため、その振れ幅は半導体本体より大きくなります。実際、2023年には装置市場が前年を下回りました。市場の推移は半導体製造装置の市場規模と今後の予測で解説しています。

✍️ ひとこと

ニュースでは「AIで半導体が伸びる」と大づかみに語られますが、実際に効いている工程はかなり偏っています。

決算の数字を追うと、その偏りがはっきり見えてきます。全体の話より、どこがどう動いたかを見るほうが、次を読むうえで役に立つと感じました。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

HBMとは何ですか?

High Bandwidth Memory(広帯域メモリ)の略で、DRAMを積層して広いデータ経路を確保したメモリです。AI向けの演算チップとセットで使われ、大量のデータを高速にやり取りする役割を担います。

なぜテスト装置がこれほど伸びているのですか?

チップが複雑になり検査時間が伸びていることに加え、積層前に良品を確定させる必要が生じたためです。1個の不良が製品全体を不良にするため、検査の重要性が構造的に高まりました。

前工程装置はもう伸びないのですか?

そうではありません。金額では依然として全体の約87%を占め、2026年も23.1%増の予測です。伸び率で後工程やテストが上回っているという相対的な話であり、前工程が縮小しているわけではありません。

この流れはいつまで続きますか?

SEMIは2028年まで5年連続の成長を見込んでいますが、予測は状況に応じて修正されます。半導体産業には波があるため、定期的な確認が必要です。

まとめ

  • 2025年の伸び率はテスト装置55%増、組立・パッケージング21%増と、後工程側が突出
  • AI半導体は「小さくする」より「積んで、束ねて、近づける」方向へ進んだ
  • HBM製造にはTSV形成、薄化、切断、検査、接合、平坦化、封止と幅広い装置が関わる
  • アドバンテストは初の1兆円超え、ディスコは初の4,000億円超えを達成
  • 一方で前工程の総合メーカーは横ばい、洗浄装置は減収と、恩恵は均等ではない
  • 次の焦点はHBM4とハイブリッドボンディングで、CMPの重要性がさらに高まる

装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説、後工程の詳細は半導体の後工程装置とは?をご覧ください。

参考・出典