露光装置とは?仕組みと世界シェア|EUVと日本メーカーの現在地をわかりやすく解説
半導体製造装置の中で、最も高価で、最も微細化を左右する装置が露光装置です。回路のパターンをウェハーに描く工程を担い、その性能がそのまま「何ナノメートルの半導体を作れるか」を決めます。
この記事では、露光装置の仕組みを解像度の原理から解説し、光源の世代交代、EUVの特殊性、そしてかつて世界を支配した日本メーカーがなぜ逆転されたのか、キヤノンが挑む別の道までを扱います。
露光装置とは
露光装置は、回路パターンが描かれたマスク(レチクル)に光を当て、そのパターンをウェハー上の感光材(レジスト)に転写する装置です。英語では lithography equipment、装置そのものは scanner や stepper と呼ばれます。
原理は写真の引き伸ばし機に似ています。マスクのパターンをレンズで縮小し、ウェハーに焼き付ける。ただし扱う寸法はナノメートル単位で、しかも1枚のウェハー上で何十回も位置を変えながら、この転写を繰り返します。
装置の基本構成は次のとおりです。
- 光源:パターンを焼き付けるための光を発生させる
- 照明光学系:光を均一にマスクへ導く
- レチクル(マスク):転写する回路パターンの原版
- 投影光学系:パターンを縮小してウェハーに結像させる
- ウェハーステージ:ウェハーを高精度に位置決めし、移動させる
重要なのは、すでに作られた下の層に対して、正確に重ねて転写する必要があることです。このズレの精度をオーバーレイと呼び、解像度と並ぶ露光装置の性能指標になっています。
解像度を決める3つの要素
露光装置がどこまで細かいパターンを描けるかは、次の3つで決まります。この関係を押さえると、微細化の歴史がすべて理解できます。
| 要素 | 意味 | 微細化の方向 |
|---|---|---|
| 波長(λ) | 使う光の波長 | 短くする |
| 開口数(NA) | レンズがどれだけ広い角度の光を集められるか | 大きくする |
| プロセス係数(k1) | 装置以外の工夫で決まる係数 | 小さくする |
解像度は「波長 ÷ 開口数」に比例します。つまり、光の波長を短くするか、レンズの開口数を大きくするか、その他の工夫で係数を下げるか——微細化の手段はこの3つしかありません。
半導体の歴史は、この3つを順番に、そして限界まで攻めてきた歴史です。
光源の世代交代
最も直接的な手段が、波長を短くすることでした。
| 世代 | 光源 | 波長 |
|---|---|---|
| g線・i線 | 水銀ランプ | 436nm・365nm |
| KrF | エキシマレーザー | 248nm |
| ArF | エキシマレーザー | 193nm |
| ArF液浸 | エキシマレーザー+水 | 実効的に約134nm |
| EUV | スズプラズマ | 13.5nm |
注目すべきは、ArF(193nm)からEUV(13.5nm)まで、10年以上にわたって波長が変わらなかったことです。その間、微細化は別の手段で進められました。
液浸|レンズとウェハーの間を水で満たす
波長を短くできないなら、開口数を上げる。そのために考え出されたのが液浸です。
レンズとウェハーの間は通常は空気ですが、ここを水で満たすと、光が屈折して集光角度を大きくできます。結果として、193nmの光を実効的に約134nm相当として使えるようになりました。装置の外側ではなく、光の通り道の「媒質」を変えるという発想の転換でした。
マルチパターニング|1つのパターンを複数回に分けて描く
それでも足りない部分は、プロセス側の工夫で補いました。1回の露光では描けない細かいパターンを、複数回の露光と加工に分けて形成する手法です。
これにより微細化は継続できましたが、代償もありました。工程数が2倍、3倍と増え、露光だけでなくエッチングや成膜、洗浄の回数も増えます。製造コストと期間が膨らむため、「そろそろ短い波長の光がほしい」という圧力が高まっていきました。これがEUV実用化への強い動機となります。
EUV露光装置|なぜ特別なのか
EUV(極端紫外線)の波長13.5nmは、ArFの14分の1以下です。しかしこの光は、扱いが極端に難しいという問題を抱えています。
- 空気に吸収される:大気中をほとんど進めないため、装置内部を真空にする必要があります
- レンズが使えない:ガラスも透過しないため、屈折ではなく反射でパターンを導く光学系が必要です。特殊な多層膜ミラーを何枚も使います
- 光源が難しい:スズの液滴にレーザーを当ててプラズマ化し、その発光を利用するという複雑な方式が採られています
反射のたびに光は失われ、光源から出た光のごく一部しかウェハーに届きません。そのため強力な光源が必要になり、装置全体が巨大かつ高価になります。EUV露光装置は1台あたり数百億円規模とされ、輸送には航空機や大型トレーラーが複数必要になるほどの規模です。
さらに近年は、開口数を0.33から0.55へ高めたHigh-NA EUVが登場しています。波長を短くする手段が尽きた後、再び「開口数を上げる」方向へ戻ってきた形です。
なぜ日本メーカーは露光装置で逆転されたのか
意外に思われるかもしれませんが、露光装置はかつて日本メーカーが世界を主導していた分野です。1980年代から1990年代にかけて、ニコンとキヤノンは高いシェアを持っていました。
状況が変わった要因は複合的ですが、決定的だったのはEUVへの対応です。EUVの開発には、光源、ミラー、レーザーなど各分野の企業を巻き込んだ長期にわたる巨額投資が必要でした。ASMLは顧客である半導体メーカーからの出資も受けながら、この開発を継続します。
一方の日本勢は、EUVの領域で同等の投資を続けることができませんでした。結果として、現在EUV露光装置を供給できるのはASML1社のみという状況になっています。
現在のニコンの状況は、決算にも表れています。2026年3月期の精機事業(半導体・FPD露光装置)の売上収益は1,672億円で前期比17.2%減、営業損益は45億円の赤字でした。ArFドライ・液浸露光装置の販売台数が減少したことが要因とされています。
同社は2027年3月期について、ArF装置の販売台数を27台から29台へ増やす計画を示し、精機事業の黒字化を見込んでいます。ASMLが年間に数十億ユーロ規模の売上を上げるなかで、台数を1桁単位で積み上げる規模感の違いが、現在の構図を物語っています。
ニコンは最先端領域での正面対決を避け、成熟世代や既存装置の活用に軸足を置く方針を示しています。撤退ではなく、戦う場所を選び直したという位置づけです。
なお、露光装置そのものは作らず前後の工程を押さえた企業もあります。東京エレクトロン(TEL)とは?をご覧ください。
キヤノンが挑む「光を使わない」別の道
もう一つの日本メーカーであるキヤノンは、まったく異なるアプローチを進めています。ナノインプリント(NIL)です。
ナノインプリントは、光でパターンを焼き付けるのではなく、回路パターンを刻んだ型をレジストに直接押し当てて転写する技術です。判子を押すイメージに近く、光学系による解像度の限界という制約から離れられます。
この方式の利点として、装置構成が比較的簡素で、EUVに比べて消費電力や装置コストを抑えられる点が挙げられています。
実用化も段階的に進んでいます。2024年には研究機関向けに装置の初出荷が行われました。2025年7月の学会では、キオクシアが線幅25nmの配線パターンをナノインプリントで形成し、電気的試験で100%の歩留まりを得たことが報告されています。キヤノンは2025年10月の決算発表で、大手半導体メーカーに出荷した装置でメモリやロジックへの適用評価が進んでいると説明しました。2027年にも量産に使われる可能性が指摘されています。
ただし、EUVを置き換えるものとしてではなく、EUVと組み合わせて使う形が想定されています。型の欠陥がそのまま転写される、型の作製そのものが難しいといった課題もあり、今後の評価が注目される段階です。
世界シェアと主要メーカー
| 企業 | 国 | 位置づけ |
|---|---|---|
| ASML | オランダ | EUVを供給できる唯一の企業。ArF液浸でも最大手 |
| ニコン | 日本 | ArFドライ・液浸、i線などを展開 |
| キヤノン | 日本 | i線・KrFに加え、ナノインプリントを推進 |
ASMLの2025年12月期の売上高は327億ユーロで、前年比15.6%増でした。2026年通期は340億〜390億ユーロを見込んでいます。
ここで押さえておきたいのは、露光装置市場は「最先端」と「成熟世代」で状況がまったく異なることです。EUVが必要なのは最先端のロジックやメモリだけで、車載やパワー半導体、アナログICなどの分野では、i線やKrF、ArFの装置が現役で使われ続けています。日本メーカーが事業を継続できているのは、この裾野の広さがあるためです。
各社の売上規模の比較は半導体製造装置メーカー世界ランキング2026をご覧ください。
露光装置で日本メーカーがトップだった時代があります。その座を明け渡していった経緯は、読み返すたびに考えさせられます。
それでも、まったく別の道を探す企業がある。負けたまま終わらないところに、ものづくりの粘りを感じます。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
露光装置は英語で何と言いますか?
lithography equipment、または exposure tool です。装置の形式によって stepper(ステッパー)、scanner(スキャナー)と呼び分けられます。工程そのものは photolithography です。
露光装置の値段はどのくらいですか?
世代によって大きく異なります。成熟世代向けの装置でも数億円規模、最先端のEUV露光装置になると1台あたり数百億円規模とされます。半導体工場の設備投資の中でも、露光装置は特に大きな比重を占めます。
なぜオランダの企業が独占しているのですか?
ASMLは装置のすべてを自社で作っているわけではありません。光学系はドイツのカール・ツァイス、光源やレーザーは米国やドイツの企業が担うなど、各分野の専門企業を束ねた国際的な体制で開発されています。顧客である半導体メーカーからの出資を受けて長期開発を進めた点も含め、1社の技術力というよりエコシステムを構築できたことが大きいと説明されます。
EUVがあれば他の露光装置は不要になりますか?
なりません。すべての層を最先端の解像度で描く必要はなく、粗いパターンで足りる層には安価で高速な装置が使われます。1つの製品を作るのに、複数世代の露光装置が使い分けられているのが実情です。
まとめ
- 露光装置は、マスクのパターンをウェハーに転写する装置で、微細化を直接左右する
- 解像度は「波長・開口数・プロセス係数」の3要素で決まる
- 波長が進化しない時期は、液浸とマルチパターニングで微細化を継続した
- EUVは真空・反射光学系・特殊光源を要し、供給できるのはASML1社のみ
- 日本勢はEUVで後れを取ったが、ニコンは成熟世代、キヤノンはナノインプリントという別の道を進む
- 成熟世代の露光装置には今も大きな市場があり、最先端だけが露光装置ではない
露光の前後に行われる工程については、エッチング装置、成膜装置、CMP装置の記事で解説しています。前工程全体の流れは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説をご覧ください。
参考・出典
キヤノンのi線シェアや先端パッケージング向け装置、ナノインプリントの詳細はキヤノンとは?i線シェア8割・先端パッケージ・ナノインプリントの3つの現在地で解説しています。
ニコンが今どこで戦っているのか、ArF液浸の製品ラインアップやASML製装置との互換性、マスクレス露光という次の一手についてはニコンとは?ArF液浸で粘る元王者とASML互換・マスクレスという次の一手で詳しく解説しています。