半導体をつくる工程の多くは、ウェハーの上に何かを「積む」作業です。

ところが酸化だけは違います。ウェハー自身を変質させて膜をつくります。

この酸化には水蒸気を使う方法があり、その水蒸気の作り方に2つの流儀があります。水を温める(バブラー方式)か、燃やして作る(トーチ方式)か。

どちらでも同じ水蒸気ができそうに思えますが、膜厚のばらつきに差が出ます。この記事では、熱酸化の基本から両方式の違いまでを解説します。装置そのものは熱処理装置とは?で扱っています。

熱酸化とは|積むのではなく、変える

シリコンウェハーを高温にして酸素にさらすと、表面が酸素と結びついて二酸化ケイ素(SiO₂)の膜になります。これが熱酸化です。

ここが他の工程との決定的な違いです。

成膜(CVDなど) 熱酸化
膜の材料 外から持ち込む ウェハー自身
ウェハーの厚さ 膜の分だけ増える 表面が消費されて減る
界面の性質 境界ができる 連続的でなじみが良い

酸化膜は、もとのシリコン表面より下へ食い込みながら成長します。おおよそ、できた膜の厚さの4割強がもとのシリコンだった部分にあたります。

そして境目が化学的に連続しているため、電気的な性質が良い膜になります。積んだ膜では、この品質はなかなか得られません。成膜装置があるのに、わざわざ熱酸化を使う理由がここにあります。

ドライ酸化とウェット酸化

酸化に使うガスによって、2つの方法に分かれます。

ドライ酸化 ウェット酸化
使うもの 酸素(O₂) 水蒸気(H₂O)
成長の速さ 遅い 速い
膜の質 緻密で良い やや劣る
向く用途 薄くて高品質な膜 厚い膜、素子の分離

なぜ水蒸気のほうが速いのか

酸化が進む仕組みを考えると理由が見えてきます。

膜ができ始めると、その先で反応するには酸化する物質が膜の中を通り抜けてシリコン表面まで届く必要があります。膜が厚くなるほど、この移動に時間がかかります。

ここで差が出ます。水分子は酸素分子より、酸化膜の中を移動しやすく、膜に溶け込む量も多いのです。

結果として、同じ温度・同じ時間なら、ウェット酸化のほうがはるかに厚い膜ができます。数百ナノメートルの膜をドライ酸化だけで作ろうとすると、現実的でない時間がかかります。

そこで厚い膜が要る場面ではウェット酸化が選ばれます。となると、水蒸気をどう用意するかが問題になります。

水蒸気の作り方|2つの方式

ここからが本題です。炉に送り込む水蒸気の作り方には、大きく2つあります。

バブラー方式 トーチ方式
やり方 温めた純水に酸素を通す 水素と酸素を燃やす
水蒸気の量を決めるもの 水の温度 ガスの流量
別名 — パイロジェニック酸化

バブラー方式|水を温めて運ぶ

仕組みは直感的です。

  1. 純水を入れた容器を一定の温度に保つ
  2. そこへ酸素などのガスを吹き込む(ぶくぶくと泡立てる=バブリング)
  3. ガスが水蒸気を含んだ状態で出てくる
  4. そのまま炉へ送る

装置が単純で、水素を扱わないため安全面のハードルも低い方式です。

弱点①|水温1℃で約4%変わる

この方式の泣きどころは、水蒸気の量が水の温度で決まってしまうことです。

水の飽和蒸気圧は、温度によって次のように変わります。

水温 飽和蒸気圧
95℃ 約84.5 kPa
96℃ 約87.7 kPa

(87.7 − 84.5)÷ 84.5 = 約3.7%

たった1℃の違いで、水蒸気の量が4%近く変わります。

膜厚は水蒸気の濃度に影響されます。つまり水槽の温度が1℃ずれただけで、できあがる膜の厚さが変わってしまうわけです。

しかも温度は容器全体で均一とは限りません。ガスを吹き込めば水は冷やされ、使い続ければ水位も下がります。安定させ続けるのは簡単ではありません。

弱点②|水に溶けているもの

もうひとつの問題は純度です。

いくら超純水を使っても、液体の水には気体が溶け込みます。容器や配管から、わずかに不純物が移ることもあります。

水を蒸発させれば、それらの一部は水蒸気とともに炉へ運ばれます。ウェハーに触れる気体としては、避けたい経路です。

トーチ方式|燃やしてその場で作る

そこで生まれたのが、まったく別の発想です。

水を蒸発させるのではなく、水素と酸素を燃やして水蒸気そのものを合成します。

2H₂ + O₂ → 2H₂O

炉の入口手前に燃焼部(トーチ)を置き、そこで反応させます。生まれたばかりの水蒸気が、そのまま炉へ入っていきます。

この方式がパイロジェニック酸化です。「パイロ」は火や熱を意味します。

利点①|液体を経由しない

原料は高純度のガスです。水に溶けた不純物という経路が最初から存在しません。

液体を挟まないという一点で、純度の管理がずっと楽になります。

利点②|流量で制御できる

より大きいのは制御性です。

バブラー方式では水温が水蒸気の量を決めていました。トーチ方式では送り込むガスの流量が決めます。

ガスの流量はマスフローコントローラで精密に測って送れます。水槽の温度を均一に保つより、はるかに正確です。

さらに、水素と酸素の比率を変えれば水蒸気の濃度を自在に調整できます。バブラー方式では、水温という遅い応答の量を動かすしかありませんでした。

なぜ酸素を多めに流すのか

ここに、この方式ならではの設計があります。

反応式のとおり、水素2に対して酸素1で過不足なく反応します。ところが実際の運転では、酸素を化学量論比より多めに流します。

理由は安全です。

もし水素が余れば、未反応の水素が炉の中や排気系に流れ込みます。水素は空気と混ざると非常に広い濃度範囲で燃える気体です。少量の漏れでも危険につながります。

酸素を過剰にしておけば、水素は確実に消費されます。余らせるなら、危険でないほうを余らせる——単純ですが重要な考え方です。

失火は最も怖い

トーチ方式で最も警戒されるのが、燃焼が止まってしまうこと(失火)です。

気づかずに水素を送り続ければ、未燃の水素が溜まります。そのため装置には次のような備えがあります。

  • 燃焼しているかを常時監視する
  • 異常を検知したら水素の供給を即座に遮断する
  • 点火に失敗したら水素を流さない

ガスの供給を確実に止める役割は、バルブが担っています。安全は装置の思想であると同時に、部品の信頼性の問題でもあります。

両方式の比較

項目 バブラー方式 トーチ方式(パイロジェニック)
水蒸気の作り方 純水を蒸発させる 水素と酸素を燃焼させる
量を決めるもの 水温(1℃で約4%変動) ガス流量(精密に制御可)
純度 液体経由の不純物リスク ガスのみで高純度
濃度の調整 しにくい H₂とO₂の比で自在
安全性 水素を使わない 水素の管理が必須
装置 単純 燃焼部と安全機構が要る

まとめると、トーチ方式は手間と引き換えに、純度と制御性を手に入れた方式といえます。膜厚のばらつきが素子の性能を左右する用途ほど、この差が効いてきます。

どんな装置で使われるのか

熱酸化は、縦型の拡散炉で行われるのが一般的です。石英のチューブにウェハーを縦に並べ、まとめて処理します。

KOKUSAI ELECTRICは、バッチ式の装置について数十枚以上のウェハーを一度に処理でき、生産性が高いことを特徴として挙げています。同社は成膜と膜質改善の分野に強みを持ち、酸化や窒化に対応する装置も手がけています。

炉の中で高温にさらされる部材には、石英ガラスが使われます。1,000℃前後の環境で、なお不純物を出さない材料が必要になるためです。

✍️ ひとこと

面白かったのは、水を温めるより、燃やして作るほうが正確だったという逆転でした。手間のかかるほうが精度が高い。

そして「余らせるなら酸素のほう」という設計思想。失敗したときにどちらへ倒れるかまで含めて考えられている——安全とはそういうことなのだと感じました。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

熱酸化と成膜は何が違いますか?

熱酸化はウェハー自身のシリコンが酸素と結びついて膜になるのに対し、成膜は外から材料を持ち込んで積み上げます。熱酸化では表面が消費されるため、ウェハーは薄くなります。

パイロジェニック酸化とは何ですか?

水素と酸素を燃焼させて水蒸気を作り、それでウェハーを酸化する方法です。燃焼部をトーチと呼ぶため、トーチ酸化とも呼ばれます。

なぜバブラー方式では膜厚がばらつくのですか?

水蒸気の量が水温で決まるためです。水の飽和蒸気圧は95℃で約84.5kPa、96℃で約87.7kPaと、1℃の差で約3.7%変わります。温度を一定に保つことが難しく、それがそのまま膜厚のばらつきになります。

トーチ方式で酸素を多めに流すのはなぜですか?

水素を余らせないためです。未反応の水素が残ると、広い濃度範囲で燃えるため危険になります。安全側に倒す設計として、酸素を過剰にします。

まとめ

  • 熱酸化はウェハー自身を酸化させて膜をつくる工程で、積む成膜とは根本的に違う
  • できた膜の厚さの4割強は、もとのシリコンだった部分にあたる
  • ドライ酸化は膜質が良いが遅く、ウェット酸化は速い。水分子のほうが酸化膜中を移動しやすいためである
  • ウェット酸化の水蒸気は、バブラー方式(水を温める)かトーチ方式(燃やす)で作る
  • バブラー方式は水温1℃の違いで水蒸気量が約3.7%変わり、膜厚のばらつきにつながる
  • トーチ方式(パイロジェニック酸化)は水素と酸素を燃焼させ、液体を経由しないため高純度。ガス流量で精密に制御できる
  • 運転では酸素を化学量論比より多めに流す。水素を余らせないための安全設計である
  • 失火時に水素を即座に遮断する仕組みが不可欠で、バルブの信頼性が安全に直結する

熱処理装置の全体像は熱処理装置とは?、炉の構造は縦型拡散炉と横型拡散炉の違いで解説しています。

参考・出典