半導体の熱処理に使われる拡散炉には、横型と縦型があります。名前のとおり石英チューブの向きが違うだけに見えますが、この「向き」の差が、生産性・品質・工場の設計にまで及ぶ大きな違いを生みました。

現在の量産ラインで使われているのは、ほぼ縦型です。ではなぜ横型は主役の座を降りたのか。そして、この装置を成り立たせている石英という材料には、どんな役割があるのか。

この記事では、両者の違いを構造から比較し、置き換わった決定的な理由、主要メーカー、そして見落とされがちな石英部材までを解説します。熱処理工程の全体像は熱処理装置とは?縦型炉と枚葉式RTPの違いをご覧ください。

拡散炉とは

拡散炉は、石英チューブの中でウェハーを高温に加熱し、酸化・拡散・アニール・成膜といった処理を行う装置です。バッチ式と呼ばれ、数十枚から100枚以上のウェハーをまとめて処理できるのが最大の特徴です。

もともとは、不純物を高温で染み込ませる「拡散」に使われたことからこの名がついています。現在では拡散だけでなく、熱酸化膜の形成やLPCVD・ALDによる成膜、アニールにも使われるため、サーマルプロセス装置と総称されることも増えました。

炉で行う代表的な工程のひとつが熱酸化です。仕組みはトーチ酸化(パイロジェニック酸化)とは?で解説しています。

横型炉と縦型炉の違い【比較表】

比較項目 横型炉 縦型炉
石英チューブの向き 水平 垂直
ウェハーの姿勢 垂直に立てて並べる 水平に寝かせて積む
ウェハーの支持 下1点+左右2点の計3点 外周を面で支持
自重のかかり方 下の1点に集中 均等に分散
設置面積 大きい(横に長い) 小さい(上に伸びる)
搬送の自動化 難しい 容易
パーティクル 発生しやすい 抑えやすい
ウェハー回転 不可 可能(均一性が向上)
現在の位置づけ ほぼ引退(一部で現役) 主流

決定的だったのは「ウェハーの支え方」

両者を分けた最大の要因は、ウェハーをどう支えるかにありました。

横型炉|自重が1点に集中する

横型炉では、チューブが水平に置かれ、その中にウェハーを立てた状態で並べます。レコードを棚に立てて並べるイメージです。

このとき、ウェハーは石英ボートの下1点と、左右2点の計3点で支えられます。つまり、ウェハーの自重のほとんどが最下部の1点に集中します。

常温であれば問題ありません。しかし1,000℃を超える高温では、シリコンは柔らかくなります。自重が一点に集中したまま高温にさらされると、ウェハーが変形し、結晶に「スリップ転位」と呼ばれる欠陥が生じます。これは製品の不良に直結します。

ウェハーが大きく、重くなるほどこの問題は深刻になります。150mmから200mmへの大口径化が進む時期に、横型炉は限界を迎えました。

縦型炉|寝かせて均等に支える

縦型炉は、チューブを垂直に立て、ウェハーを水平に寝かせて積み重ねます。皿を重ねるイメージです。

この姿勢なら、ウェハーの重さは外周部で均等に受け止められます。一点に応力が集中しないため、高温でも変形しにくく、スリップ転位を抑えられます。

「立てるか、寝かせるか」——たったこれだけの違いが、大口径ウェハー時代の明暗を分けました。

縦型が主流になった4つの理由

支持方法以外にも、縦型には構造上の利点があります。半導体歴史館の資料でも、縦型化によってパーティクル発生の抑制、温度分布の均一化、設置面積の縮小、搬送の自動化、石英部品の負荷低減が達成されたと記録されています。

①パーティクルが落ちにくい

横型炉では、ウェハーが垂直に立っているため、チューブ上部で発生した微粒子がウェハーの表面に沿って落下します。回路が形成される面に、まともに降りかかる構造でした。

縦型では、ウェハーが水平に積まれているため、落下してくる異物は主に最上部のウェハーやダミーウェハーで受け止められます。下段のウェハーは上のウェハーに守られる形になります。

②ウェハーを回転できる

縦型炉では、ウェハーを載せたボート全体を回転させながら処理できます。

炉内のガスの流れや温度には、どうしてもわずかな偏りが生じます。静止したままではその偏りがウェハー面内のばらつきになりますが、回転させれば平均化され、面内均一性が大幅に向上します。横型では構造上、この回転が困難でした。

③工場の床面積を節約できる

横型炉は、チューブとウェハー搬入機構が横方向に伸びるため、大きな設置面積を必要とします。縦型は上方向に伸びるため、同じ処理能力でも占有面積が小さくなります。

クリーンルームの建設・運用コストは極めて高く、床面積1平方メートルの価値は大きいものです。この差は、そのまま工場の経済性に響きます。クリーンルームのコスト構造については半導体工場の搬送システム(AMHS)とは?でも触れています。

④自動搬送との相性が良い

縦型は、ウェハーを上から下ろす/持ち上げるという単純な動作で装填できます。ロボットによる自動移載がしやすく、無人化を進めやすい構造です。

横型では、水平方向に長いボートを押し込む必要があり、機構が複雑になります。工場全体の自動化が進むなかで、この差は決定的でした。

それでも横型炉が残っている場所

縦型が主流とはいえ、横型炉が完全に消えたわけではありません。

現在も横型が使われているのは、小口径ウェハーを扱う工程や、研究開発、少量多品種の生産などです。150mm以下のウェハーでは自重による問題が小さく、装置が比較的シンプルで安価という利点が生きます。

パワー半導体や化合物半導体、MEMSといった分野では、いまも小口径ウェハーが使われており、そうした現場では横型炉が現役です。「古い技術が消える」のではなく、「適した場所に残る」——装置産業ではよく見られる構図です。

主要メーカー

縦型拡散炉は、日本企業が世界を主導する分野です。

企業 国 位置づけ
KOKUSAI ELECTRIC 日本 縦型炉のパイオニア。バッチ式で世界トップクラス
東京エレクトロン 日本 拡散炉・バッチ成膜で世界1位(同社公表)
ASM International オランダ 縦型炉・ALDを展開
ジェイテクト 日本 縦型熱処理システムを手がける

KOKUSAI ELECTRIC|縦型炉のパイオニア

縦型炉の歴史を語るうえで欠かせないのが、KOKUSAI ELECTRIC(旧・国際電気)です。半導体歴史館の記録によれば、同社は1986年に縦型炉「VERTEX」シリーズの開発に成功しています。ウェハーの大口径化という業界の課題に、構造の転換で応えた形です。

同社は現在もバッチ式装置に強みを持ち、ALD技術とバッチ処理を融合した「バッチALD」により、難易度の高い薄膜形成と高い生産性の両立を掲げています。2026年3月期の売上収益は2,351億円でした。

東京エレクトロン

東京エレクトロンは自社サイトで製品別の世界順位を公表しており、拡散炉とバッチ成膜のいずれも世界1位としています。同社は縦型炉を成膜・酸化・アニールなど幅広い用途で展開しています。

各社の規模については半導体製造装置メーカー世界ランキング2026、日本勢の得意分野は日本の半導体製造装置メーカー一覧をご覧ください。

装置を支える石英部材

拡散炉を語るとき、装置本体と同じくらい重要なのが石英ガラス(クオーツ)です。チューブ、ウェハーを載せるボート、その他の治具まで、炉の内部は石英で構成されています。

なぜ石英でなければならないのか

石英が使われる理由は、次の4点に集約されます。

  • 超高純度:金属不純物が含まれていると、高温でウェハーに移り、素子の特性を狂わせます。半導体用の石英には極めて厳しい純度が要求されます
  • 高い耐熱性:1,000℃を超える環境で長時間使われても形状を保ちます
  • 熱膨張がきわめて小さい:急激な加熱・冷却でも割れにくく、繰り返しの熱サイクルに耐えます
  • シリコンとの相性:ウェハーと接しても汚染を起こしにくい材料です

金属では高温に耐えられず、汚染源にもなります。セラミックスや石英でなければ成立しないのが、この工程の特性です。

石英は「消耗品」である

ここが見落とされがちな点です。石英部材は、一度入れれば永久に使えるわけではありません。

高温で長時間使い続けると、透明だった石英ガラスが白く濁ってくることがあります。これは失透(しっとう)と呼ばれる現象で、非晶質だったガラスが結晶化することで起こります。一般に1,150℃以上で発生し、表面に不純物が付着していると1,000℃以下でも起こるとされます。

失透が進むと、その部分から割れやすくなり、パーティクルの発生源にもなります。そのため石英部材は、定期的に洗浄・再生され、いずれ交換されます。

この点は、ブレードが消耗するダイシング装置や、スラリーとパッドを要するCMP装置と同じ構造です。装置ビジネスは本体だけで完結せず、消耗品とセットで成り立っています。縦型化によって「石英部品の負荷が低減した」ことが利点として挙げられるのは、この交換コストが無視できないためです。

石英の物性やSiCセラミックスとの使い分けは石英・セラミック部材とは?で詳しく扱っています。

石英部材の主要メーカー

高純度石英ガラスもまた、日本企業が強い分野です。

企業 特徴
信越石英 信越化学グループ。石英ガラスの専業メーカー
東ソー・クォーツ 東ソーグループ。素材から加工品まで手がける
クアーズテック 石英・セラミックス部材を展開
Heraeus(ヘレウス) ドイツ。石英ガラスの世界的大手

石英ガラスには、天然の水晶を溶かした天然石英と、化学的に合成した合成石英があります。合成石英のほうが純度は高く、より厳しい用途に使われます。用途に応じて使い分けられており、装置メーカーではなく材料メーカーが担う領域です。

装置・部品・材料という三層構造は、日本の半導体産業の強みそのものです。この構造については日本の半導体製造装置メーカー一覧で解説しています。

✍️ ひとこと

縦にするか、横にするか。たったそれだけの違いが、これほど多くのことを変えるとは思いませんでした。

主流から外れた横型炉が今も使われ続けている、という事実も含めて、技術の選択に唯一の正解はないのだと感じます。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

拡散炉は英語で何と言いますか?

diffusion furnace です。縦型炉は vertical furnace、横型炉は horizontal furnace と表記されます。バッチ処理は batch process、石英ガラスは quartz glass(fused silica)です。

一度に何枚のウェハーを処理できますか?

装置や工程によりますが、縦型炉では数十枚から100枚以上をまとめて処理できます。この処理枚数の多さが、1枚あたりのコストを下げるバッチ式最大の利点です。

縦型炉と枚葉式(RTP)はどちらが優れていますか?

目的が異なります。縦型炉は生産性に優れ、枚葉式は熱の総量を抑えられます。微細化では熱履歴(サーマルバジェット)の管理が重要になるため、短時間で処理したい工程には枚葉式が使われます。くわしくは熱処理装置とは?縦型炉と枚葉式RTPの違いをご覧ください。

石英以外の材料は使われないのですか?

より高温が必要な工程や、金属汚染をさらに厳しく管理したい場合には、SiC(炭化ケイ素)製の部材が使われることがあります。石英より高温に強く、変形しにくい特性があります。ただし高価なため、要求水準に応じた使い分けがなされます。

まとめ

  • 横型炉はウェハーを立てて並べるため、自重が下1点に集中し、高温でスリップ転位が生じやすい
  • 縦型炉は水平に寝かせて積むため応力が分散し、大口径化に対応できた
  • 縦型の利点は他に、パーティクルが落ちにくい・ウェハー回転で均一性向上・省スペース・自動化しやすい
  • 横型は小口径や研究開発、少量多品種の現場で今も使われている
  • 1986年にKOKUSAI ELECTRICが縦型炉VERTEXを開発。現在も同社と東京エレクトロンが世界を主導
  • 炉内は石英ガラスで構成され、超高純度・耐熱性・低熱膨張が求められる
  • 石英は失透により劣化する消耗品で、装置ビジネスは材料とセットで成り立つ

熱処理工程の全体像は熱処理装置とは?、成膜との関係は成膜装置とは?CVD・PVD・ALDの違い、装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説をご覧ください。

参考・出典