半導体づくりに、最も大量に使われる材料は何か——答えは「水」です。それも、ただの水ではありません。あらゆる不純物を極限まで取り除いた超純水(UPW)です。

半導体工場は、1日に数万トンもの超純水を消費するといわれます。ウェハーを洗い、薬液を薄め、装置を清める。そのすべてに、この特別な水が使われています。

この記事では、超純水とは何か、普通の水と何が違うのか、どうやって作るのか、そして日本企業が世界を主導する主要メーカーまでを解説します。

超純水(UPW)とは

超純水は、Ultra Pure Water の頭文字からUPWと呼ばれます。水以外の成分を、可能な限りすべて取り除いた水です。

取り除く対象は、多岐にわたります。溶けている金属イオン、有機物、微粒子、溶存酸素などの気体、そして細菌まで。「H2O以外は何も含まない水」を目指して精製されたのが超純水です。

なぜ、そこまで純粋な水が必要なのか。理由は、半導体が微細な汚染に極めて弱いからです。ウェハーを洗浄する水に、わずかでも金属イオンや微粒子が含まれていれば、洗うどころか、逆に汚染してしまいます。超純水は、洗浄をはじめとする多くの工程で「汚さないための水」として不可欠なのです。洗浄工程については半導体洗浄装置とは?で解説しています。

純水と超純水の違い

「純水」と「超純水」は、よく似た言葉ですが、純度が大きく異なります。水の純度は、電気の通しにくさ(比抵抗)で表されます。不純物のイオンが少ないほど電気を通しにくく、比抵抗は高くなります。

種類 純度の目安(比抵抗) 主な用途
水道水 低い 生活用水
純水 中程度〜高い 一般工業、実験
超純水 理論的な限界に近い(約18.2 MΩ・cm) 半導体、液晶

超純水の比抵抗は、約18.2 MΩ・cmという値に達します。これは、純粋な水が理論上とりうるほぼ限界の純度です。半導体で使われる超純水は、この極限の水準まで精製されています。

ちなみに、「超純水は飲むと危険」という話を聞くことがあります。純粋すぎて体に必要なミネラルを奪う、という俗説ですが、少量飲んで健康を害するようなものではありません。ただ、あまりに何も含まないため、味気なく、飲料には向かないのは事実です。

半導体工場はどれだけ水を使うのか

超純水を語るうえで欠かせないのが、その使用量の膨大さです。

大規模な半導体工場では、1日に数万トンの超純水が使われるとされます。これは、数万人規模の都市が消費する水量に匹敵します。半導体は、電気だけでなく水も大量に消費する産業なのです。

この事実は、工場の立地を左右します。安定して大量の水を確保できることが、半導体工場を建てる条件のひとつになっています。近年、各地で半導体工場の誘致が進むなかで、水資源の確保が重要な論点になっているのは、このためです。

だからこそ、使った水をそのまま捨てるわけにはいきません。多くの工場では、使用後の水を回収して再生し、循環させて使う取り組みが進んでいます。超純水は「作る」だけでなく「回収して再利用する」までが、ひとつのシステムになっています。

超純水はどうやって作るのか

水道水や地下水から超純水を作るには、性質の異なる不純物を、段階的に取り除いていく必要があります。ひとつの方法ですべてを除去することはできないため、複数の技術を組み合わせます。

代表的な精製技術は次のとおりです。

技術 取り除くもの 仕組み
逆浸透(RO) 塩類、有機物、微粒子 半透膜に圧力をかけ、水分子だけを通す
イオン交換 溶けている金属イオンなど 樹脂でイオンを吸着・交換する
EDI(電気脱イオン) 残ったイオン 電気の力でイオンを連続除去する
UV照射 有機物、細菌 紫外線で分解・殺菌する
脱気 溶存酸素などの気体 膜や真空で気体を抜く
限外ろ過(UF) 微粒子 ごく細かい膜でろ過する仕上げ

これらを何段も直列につなぎ、粗い不純物から順に、最後は極微量の微粒子まで取り除いていきます。前半で大きな不純物を落とし、後半で仕上げの精製を行う、という流れです。工場では、この一連の設備が絶え間なく稼働し、24時間途切れずに超純水を供給し続けます。

そして重要なのは、作った超純水を、汚さずに装置まで届けることです。配管の材質や、水を流し続けて汚れの滞留を防ぐ設計まで含めて、超純水システムは成り立っています。せっかく極限まで精製しても、配管で汚れてしまえば意味がないからです。

超純水は「毎秒、品質を測り続ける」

超純水システムのもうひとつの重要な役割が、水質の常時監視です。

超純水は、一度作れば終わりではありません。配管を流れる間に、わずかでも汚れが混じれば品質が落ちます。もし基準を下回った水がウェハーに届けば、その工程は不良になります。工場は24時間動いているため、供給される水の純度を、常にリアルタイムで測り続ける必要があります。

そのため、超純水システムには比抵抗計や微粒子カウンターなど、多数のセンサーが組み込まれています。純度に少しでも異常があれば、即座に検知して対処します。「作る」「届ける」だけでなく「監視する」までが一体——ここに、水処理企業が長年培ってきたノウハウが詰まっています。単に水をきれいにする技術だけでなく、半導体工場の要求水準を知り尽くした運用力が、この分野の参入障壁を高くしています。

薬液供給システム|水だけではない

半導体工場が供給するのは、水だけではありません。各種の薬液も、装置へ安定して届ける必要があります。

洗浄やエッチングでは、酸やアルカリ、過酸化水素などさまざまな薬液が使われます。これらを、必要な濃度に調整し、必要な量を、必要なタイミングで各装置へ供給するのが薬液供給システムの役割です。エッチングの薬液についてはエッチング装置とは?でも触れています。

薬液供給で難しいのは、薬液もまた汚染されてはいけないことです。供給の途中で微粒子や金属が混入すれば、その薬液を使う工程が不良になります。さらに、薬液は腐食性や危険性を持つものも多く、安全に扱う設計も欠かせません。超純水と薬液の供給は、「清浄なものを、清浄なまま、安全に届ける」という共通の課題を持つ、工場インフラの要です。

工場を支える設備が集まる階についてはサブファブとは?で解説しています。

世界シェアと主要メーカー|日本が圧倒的

ここまで見てきた前処理からサブシステムまでを一括で設計・建設・保守する装置が超純水製造装置です。個々の膜やポンプを買い集めれば作れるものではなく、水質・水量・安定性を工場の稼働に合わせて造り込むプラントであるため、供給できる企業は限られます。

半導体向けの超純水システムは、日本企業が世界を圧倒的に主導する分野です。

企業 国 位置づけ
栗田工業 日本 半導体向け超純水で世界シェア首位(約2割とされる)
オルガノ 日本 水処理の大手。超純水に強い
野村マイクロ・サイエンス 日本 超純水専業。近年急成長

この上位3社はいずれも日本企業で、世界市場の8割以上を占めるとされます。露光装置がオランダのASMLに独占される一方で、超純水という工場インフラでは、日本勢が他を寄せつけない強さを持っています。

野村マイクロ・サイエンスは超純水専業で、半導体工場の新設ラッシュを追い風に急成長しており、2025年3月期の売上高は963億円に達しました。日本企業の強みや分野ごとの立ち位置については日本の半導体製造装置メーカー一覧をご覧ください。

なぜ「総合力」が強みになるのか

首位の栗田工業を象徴するのが、総合力というキーワードです。

同社は、超純水を作る装置だけを売っているわけではありません。超純水の製造、使用後の排水処理、必要な薬品の供給、そして稼働後のメンテナンスまでを一貫して手がけます。

これは大きな意味を持ちます。半導体メーカーにとって、水まわりを丸ごと任せられる相手がいれば、運用の負担が大きく減ります。しかも、超純水システムは工場が動いている限り、保守や薬品供給の需要が続きます。装置を売って終わりではなく、工場の稼働とともに長く関係が続く——この構造が、水処理企業の強さを支えています。この点は、消耗品とセットで成り立つCMP装置などとも共通する、半導体インフラのビジネスの特徴です。

✍️ ひとこと

この記事を書いていて印象に残ったのは、超純水が「作って終わり」ではないところでした。24時間、誰も見ていないところでセンサーが水を測り続けている。その静かな仕事の上に、私たちの手元にある半導体が成り立っています。

もうひとつ心に残ったのが、水の循環の話です。半導体工場は大量の水を使いますが、だからこそ回収と再利用の技術が磨かれてきました。使う量の大きさが、そのまま技術の深さになっている——調べていくうちに、そんな見え方に変わっていきました。

蛇口をひねって出てくる水は、そのままでは半導体を作れない。そこから始まる世界です。次に半導体のニュースを見かけたとき、その裏側で水を支えている人たちがいることを、少し思い出してもらえたら嬉しいです。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

超純水と純水は何が違うのですか?

純度が違います。どちらも不純物を取り除いた水ですが、超純水はイオン、有機物、微粒子、気体、細菌まで極限まで除去した、最も純度の高い水です。比抵抗という指標で、超純水は理論限界に近い約18.2 MΩ・cmに達します。

なぜ半導体に超純水が必要なのですか?

半導体は微細な汚染に極めて弱いためです。洗浄に使う水に不純物があれば、洗うどころか逆に汚染してしまいます。設計が数ナノメートルの世界では、水に含まれるわずかな金属イオンや微粒子も不良の原因になります。

半導体工場はどれくらい水を使うのですか?

大規模な工場では1日に数万トンとされ、都市の水消費に匹敵します。そのため水資源の確保が工場立地の条件となり、多くの工場では使用後の水を回収・再生して循環利用しています。

超純水は半導体以外でも使われますか?

使われます。医薬品、電子部品、研究機関などで用いられますが、最も高い純度を要求するのが半導体です。要求される純度の水準が、他の産業と大きく異なります。

まとめ

  • 超純水(UPW)は、イオン・有機物・微粒子・気体・細菌まで極限まで除去した水
  • 純水との違いは純度で、超純水は比抵抗が理論限界に近い約18.2 MΩ・cmに達する
  • 半導体は微細な汚染に弱く、洗浄などで「汚さないための水」として不可欠
  • 工場は1日数万トンを消費し、水源の確保が立地条件、使用後は回収・循環される
  • 製造はRO・イオン交換・EDI・UV・脱気などを多段に組み合わせる
  • 薬液供給も「清浄なものを清浄なまま安全に届ける」工場インフラの要
  • 栗田工業・オルガノ・野村マイクロの日本3社で世界シェア8割超、栗田が首位

工場を支える他のインフラは半導体のクリーンルームとは?や半導体工場の搬送システム(AMHS)とは?、装置全体の位置づけは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説をご覧ください。

参考・出典