1枚のウェハーには、数百から数千個のチップが並んでいます。これを1個ずつに切り分ける工程がダイシングです。

「切るだけ」の工程に見えますが、実際には切り方ひとつで取れるチップの数が変わり、切断面の状態が製品の信頼性を左右します。近年はウェハーが極端に薄くなり、そもそも刃を当てて切ること自体が難しくなっています。

この記事では、ダイシングの難しさ、切断方式の種類と進化、そして世界シェアと主要メーカーまでを解説します。

ダイシング装置とは

ダイシング装置は、回路が形成されたウェハーを個々のチップ(ダイ)に切り分ける装置です。英語では dicing saw、工程は dicing と呼ばれます。

後工程の中で、実質的な出発点にあたる工程です。正確には、その前にウェハーを薄く削るバックグラインドが行われます。後工程全体の流れは半導体の後工程装置とは?で解説しています。

なぜ「切る」ことが難しいのか

ダイシングには、単純な切断とは異なる要求があります。

チッピング|切断面の欠け

シリコンは硬く、そして脆い材料です。切断時には、切り口に微細な欠け(チッピング)が生じます。

この欠けが大きいと、チップの強度が低下し、後の工程や実際の使用中に割れる原因になります。見た目にはわからない微小な欠けが、製品寿命に影響するため、切断面の品質は厳しく管理されます。

カーフ幅|切り代が収益を左右する

切断には必ず「切り代」が必要です。この幅をカーフ幅と呼びます。

ここが重要な点です。カーフ幅が広いほど、ウェハーから取れるチップの数は減ります。1枚のウェハーの価格は決まっているため、取れるチップが1個でも増えれば、それは直接利益になります。

チップの間隔(スクライブライン)を狭くできれば、その分だけ多くのチップを配置できます。ダイシング装置の性能は、単に「速く切れるか」ではなく「どれだけ細く正確に切れるか」で評価されるのは、このためです。

薄いウェハーは割れる

チップの積層が一般化したことで、ウェハーは以前よりはるかに薄く削られるようになりました。薄い板に刃を当てれば、当然割れやすくなります。

この「薄くて脆いものを、狭い幅で、欠けを出さずに切る」という難題への回答が、切断方式の多様化につながっています。

切断方式の種類

方式 切り方 特徴
ブレードダイシング 回転する砥石で削り取る 最も一般的。実績が豊富
レーザーダイシング レーザーで表面を除去する 細く切れるが熱の影響がある
ステルスダイシング 内部に改質層を作り、割って分離する 切りくずが出ず、極薄材に適する
プラズマダイシング エッチングで溝を形成し分離する 形状の自由度が高い

ブレードダイシング

ダイヤモンド砥粒を含んだ極薄のブレードを高速回転させ、削りながら切断する方式です。長年の実績があり、現在も主流です。

切断時には摩擦熱と切りくずが発生するため、水をかけながら加工します。ブレードは消耗品で、切断を重ねるうちに摩耗します。

レーザーダイシング

レーザーを照射して材料を除去する方式です。物理的な刃を使わないため細い加工ができますが、熱の影響で切断面に変質層が生じる点に配慮が必要です。

ステルスダイシング|「切らずに割る」発想

この方式は、発想そのものが他と異なります。

レーザーの焦点をウェハーの内部に合わせ、表面ではなく中に改質層(脆くなった層)を作ります。表面には傷をつけません。その後、貼り付けたテープを引き伸ばすと、ウェハーは改質層に沿って自然に割れて分離します。

利点は明確です。削らないため切りくずが出ず、水も使いません。切り代もほとんど不要で、極めて薄いウェハーでも割れにくくなります。

「刃をどう改良するか」ではなく「切らずに分ける方法はないか」という問いから生まれた技術で、薄型化が進む製品で採用が広がっています。

プラズマダイシング

前工程で使われるドライエッチングの技術を応用し、チップの間をエッチングで除去して分離する方式です。四角形以外の形状にも対応でき、切断面の品質も高くなります。エッチング装置の技術が後工程に流入した例のひとつです。

工程の順序を変えるという発想|DBG

もう一つ、薄いウェハーへの対応として広く使われている手法があります。切ってから削るのではなく、先に溝を入れておいてから削るというものです。

手順は次のようになります。

  1. ウェハーが厚く丈夫なうちに、表面から途中まで溝を入れる(切り落とさない)
  2. 裏面を研削して薄くしていく
  3. 研削が溝の深さに達した時点で、チップが自然に分離する

薄くなった状態で刃を当てる工程が存在しないため、割れや欠けを大幅に減らせます。装置の性能ではなく、工程の順序を変えることで課題を解決した好例です。

ウェハーはどう保持されているのか|テープとフレーム

切断中も切断後も、チップがバラバラにならないようにする仕組みが必要です。そこで使われるのがダイシングテープです。

ウェハーは、金属製のリング(フレーム)に張られた粘着テープの上に貼り付けられた状態で切断されます。切り分けられた後も各チップはテープに保持されるため、位置関係を保ったまま次の工程へ運べます。

このテープには相反する性質が求められます。切断中はしっかり保持し、チップを取り上げるときには簡単に剥がれる必要があるのです。そのため、紫外線を当てると粘着力が下がるタイプなどが使い分けられています。

チップを持ち上げる工程も簡単ではありません。薄いチップを下から突き上げれば割れてしまうため、剥離の方法自体が技術になっています。「切る」だけでなく「保持する」「取り出す」までがダイシング工程の設計に含まれているわけです。

SiCなど化合物半導体という難題

近年、ダイシングの難易度を押し上げているのがSiC(炭化ケイ素)です。

SiCはパワー半導体の材料として採用が広がっていますが、非常に硬い材料です。シリコンと同じ感覚でブレードを当てれば、加工に時間がかかるうえ、ブレードの摩耗も激しくなります。消耗品のコストと交換頻度が跳ね上がります。

そこで有効になるのが、物理的な刃を使わないレーザー系の方式です。硬さの影響を受けにくく、加工速度と切断品質を両立しやすいためです。

電気自動車や再生可能エネルギー向けにSiCの需要が拡大するなか、「硬い材料をどう効率よく切るか」は装置メーカーにとって新しい競争軸になっています。パワー半導体で重要な工程としては、イオン注入装置も挙げられます。

装置と消耗品はセットのビジネス

ダイシング装置を理解するうえで欠かせないのが、ブレードが消耗品であるという点です。

ブレードは切断のたびに摩耗し、定期的な交換が必要です。しかも、切る対象の材料や求められる品質に応じて、適したブレードは変わります。装置とブレードは、組み合わせて初めて性能を発揮します。

そのため主要メーカーは、装置本体だけでなくブレードなどの消耗品も自社で供給しています。装置が稼働し続ける限り消耗品の需要が生まれるため、収益の安定にもつながる構造です。この点は、スラリーとパッドが不可欠なCMP装置と共通しています。

世界シェアと主要メーカー

ダイシング装置は、日本企業が世界を主導している分野です。

企業 国 位置づけ
ディスコ 日本 ダイシング・グラインダの世界的大手。消耗品も自社供給
東京精密 日本 ダイシング装置、グラインダ、計測機器

ディスコの2026年3月期の売上高は4,368億円で、前期比11.1%増と初めて4,000億円を超えました。この企業が砥石メーカーとして生まれた経緯と事業構造はディスコとは?で詳しく解説しています。営業利益は1,850億円で、6期連続の増収増益です。GPUやHBMといったAI関連の需要が業績を牽引しています。

東京精密の2026年3月期は、全社売上高1,668億円のうち半導体製造装置部門が1,278億円(前期比12.7%増)でした。AIパッケージング工程で使われるグラインダや、HBM向けのプローバが好調に推移しています。

切る・削るという精密加工の領域で、日本企業が長年築いた地位は依然として強固です。後工程全体でどの企業がどこを担うかは、後工程装置メーカー一覧をご覧ください。各社の売上規模の比較は半導体製造装置メーカー世界ランキング2026をご覧ください。

✍️ ひとこと

切る、という単純に見える工程に、これだけの工夫が詰まっているとは思いませんでした。

「切ってから削る」と順番を入れ替えるDBGの発想は鮮やかです。行き詰まったとき、手順そのものを疑ってみる。他の場面でも通じそうな考え方だと感じます。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

ダイシングは英語で何と言いますか?

dicing です。装置は dicing saw、ブレードは dicing blade と呼ばれます。切り代はカーフ(kerf)、切断面の欠けはチッピング(chipping)です。

なぜ水をかけながら切るのですか?

摩擦熱を冷却し、切りくずを洗い流すためです。ただし水を使わない方式もあり、ステルスダイシングのように削らない手法では不要になります。

1枚のウェハーを切るのにどれくらいかかりますか?

チップのサイズや切断方式によって大きく異なります。チップが小さいほど切断する線の総距離は長くなるため、時間もかかります。生産性を左右する要素のひとつです。

ダイシングの後はどうなりますか?

切り分けられたチップは、基板やリードフレームに固定され(ダイボンディング)、電極が接続されます。この工程についてはダイボンダーとワイヤボンダーの違いで解説しています。

まとめ

  • ダイシングは、ウェハーをチップに切り分ける後工程の入口となる工程
  • 切断面の欠け(チッピング)は製品の信頼性に、カーフ幅は取れるチップ数に直結する
  • 方式はブレード、レーザー、ステルス、プラズマと多様化している
  • ステルスダイシングは「切らずに割る」という発想で、極薄ウェハーに適する
  • DBGのように、工程の順序を変えることで課題を解決する手法もある
  • ブレードは消耗品であり、装置とセットのビジネスになっている
  • ディスコ、東京精密など日本企業が世界を主導する分野

参考・出典