ウェット洗浄で使う薬液の多くは、調合済みのものをタンクから供給できます。ところがSPM(硫酸過水)だけは違います。装置の中で、使う直前に混ぜなければなりません。

理由は、この薬液の主役がカロ酸(ペルオキソ一硫酸)という不安定な物質だからです。この記事では、カロ酸が何をしているのか、なぜ保存できないのか、そしてその性質が装置の設計をどう縛るのかを解説します。

SPMとは|硫酸と過酸化水素を混ぜた薬液

SPM(Sulfuric acid – hydrogen Peroxide Mixture)は、硫酸と過酸化水素水を混合した洗浄液です。硫酸過水、あるいはピラニア洗浄とも呼ばれます。

項目 内容
組成 硫酸 : 過酸化水素水 = 1 : 0.25〜1(容積比)
処理温度 130℃前後
処理時間 10〜20分(浸漬の場合)
主な用途 レジスト剥離、有機物汚染の除去

前工程では、リソグラフィで使ったレジストを何十回と剥がします。アッシングでプラズマ処理をしたあと、残った残渣を薬液で確実に落とす——この後半を担うのがSPMです。洗浄工程全体での位置づけは洗浄工程の流れで扱っています。

実際に働いているのは「カロ酸」

硫酸と過酸化水素を混ぜると、次の反応が起きます。

H2SO4 + H2O2 → H2SO5 + H2O

生成する H2SO5 がペルオキソ一硫酸、通称カロ酸です。強力な酸化剤で、有機物を分解する働きの主役はこの物質です。硫酸そのものではなく、混ぜた瞬間に生まれる別の化合物が仕事をしている——これがSPMを理解する鍵になります。

そして、すぐに壊れていく

問題はここからです。カロ酸は高温状態では分解が進み、酸素を放出して酸化剤としての力を失っていきます。反応は平衡で成り立っており、温度が高いほど分解側へ傾きます。

つまり「性能を出すために高温にする」ことと「高温だと壊れる」ことが同時に成り立つという、扱いにくい性質を持っています。作ってから使うまでの時間が長いほど、剥離力は落ちていきます。

この一点が、SPMを扱う装置の設計をほぼ決定づけます。

装置の中で薬液を作らなければならない

カロ酸が保存できない以上、選択肢はひとつしかありません。装置の中で、使う直前に混合することです。

SC-1やDHFのように調合済みの薬液を供給する方式とは、装置構成が根本的に変わります。SPM対応の装置には、次の機能が必要になります。

  • 混合ユニット——硫酸と過酸化水素を規定の比率で合流させる
  • 温度制御——混合による発熱を見込んだうえで、目標温度に収める
  • 短い流路——混合してからウェーハに届くまでの時間を最小にする
  • 耐薬品性の高い配管系——高温の濃硫酸に耐える材質で構成する

混ぜるだけで140℃まで上がる

硫酸と過酸化水素の混合は強い発熱を伴います。常温の薬液を混ぜただけで、混合液は140℃程度まで上昇することが知られています。

ここに設計上のジレンマがあります。

  • 加熱しすぎると沸騰する——液が飛散し、ウェーハに均一に供給できなくなる
  • 加熱が足りないと剥離できない——温度が低ければ反応が進まない
  • ゆっくり加熱すると間に合わない——昇温している間にカロ酸が分解してしまう

薬液を数リットル溜めて温めると昇温に数分かかりますが、その数分でカロ酸は分解し、ウェーハに届く頃には剥離力を失っている——この問題が、SPM装置における中心的な技術課題です。

そのため「少量を、必要なときに、急速に」温度を上げる方式が求められます。大きなタンクで温度を管理する発想とは、まったく逆の設計思想です。

枚葉とバッチで事情が変わる

バッチ式(複数枚を浸漬) 枚葉式(1枚ずつ処理)
薬液の扱い 槽に溜めて繰り返し使う ウェーハに供給して都度捨てる
カロ酸の劣化 使い続けるほど活性が落ちる。寿命管理が必要 常に新しい液を当てられる
薬液の消費量 少ない(循環できる) 多い(使い捨て)
課題 液の管理・交換タイミング 薬液コストと廃液量

枚葉式では常に新鮮な液を使えますが、硫酸を大量に消費します。硫酸は薬液そのものが高価なうえ、廃液処理のコストも大きいため、使用量の削減と再生(リサイクル)が重要なテーマになっています。装置ごとの動作の違いは枚葉洗浄装置のシーケンスで解説しています。

材質という制約

130℃の濃硫酸を流し続けるという条件は、装置の材料選定を厳しく縛ります。

  • 配管・バルブ——高温の強酸に侵されない樹脂やフッ素系材料が使われる(半導体用バルブ・継手)
  • 槽・部材——耐熱性と耐薬品性を両立する石英・セラミック部材
  • ポンプ・センサー——液に触れる部分すべてに同じ制約がかかる

「薬液に触れる部分から金属イオンが溶け出さないこと」も重要な要件です。洗浄するための装置が汚染源になっては本末転倒になります。仕上げのすすぎに使う超純水まで含めて、清浄度を保つ設計が求められます。

SPMが減っている理由と、残る理由

SPMは強力ですが、使いどころは慎重に選ばれるようになっています。

  1. 薬液・廃液コスト——硫酸の使用量が多く、処理費用も大きい
  2. 環境負荷——硫酸廃液の削減が求められる
  3. 材料へのダメージ——強い酸化力は、扱う膜や構造によっては使えない
  4. 代替手段の発達——アッシングやオゾン水など、より穏やかな方法が併用される

それでもイオン注入後の硬化したレジストなど、他の方法では落ちにくい相手にはSPMが使われ続けています。強い薬液を「必要な場面だけに絞って使う」——現在の位置づけはこう表現できます。

✍️ ひとこと

調べていて印象に残ったのは、保存できない薬液だからこそ、装置の中で作るしかないという割り切りです。主役のカロ酸の不安定さが、混ぜる位置も温度制御も材質も、装置の設計を決めていました。

化学の性質が、そのまま装置の形になる。半世紀使われてきた薬液にも、まだ装置屋の工夫が詰まっています。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

Q. SPMとピラニア溶液は同じものですか?

ほぼ同じものを指します。半導体の製造現場では「SPM」「硫酸過水」、研究室では「ピラニア溶液」と呼ばれることが多く、呼び方の違いと考えて差し支えありません。

Q. なぜ薬液を作り置きできないのですか?

洗浄力の主役であるカロ酸が不安定で、時間とともに分解するためです。特に高温では分解が速く進みます。そのため装置内で使用直前に混合します。

Q. 混合するとなぜ熱くなるのですか?

硫酸と過酸化水素の混合では強い発熱が起きます。常温の薬液を混ぜただけで140℃程度まで上がるため、装置側では加熱よりむしろ温度の制御が課題になります。

Q. アッシングがあるのに、なぜ薬液も必要なのですか?

プラズマによるアッシングだけでは残渣が残ることがあるためです。特にイオン注入で硬化したレジストは落ちにくく、薬液による仕上げが必要になります。両者は競合ではなく組み合わせて使うものです。

Q. 装置を選ぶとき、SPM対応で何を見ればよいですか?

ポイントは混合から供給までの時間をどう短くしているか、温度をどう制御しているか、そして硫酸の使用量をどれだけ抑えられるかです。カロ酸の性質を踏まえると、この3点が性能とコストを左右します。

まとめ

  • SPM(硫酸過水)は硫酸と過酸化水素の混合液で、130℃前後・レジスト剥離に使う
  • 洗浄力の主役は混合で生まれるカロ酸(ペルオキソ一硫酸 H2SO5)
  • カロ酸は高温ほど分解が進むため保存できず、装置内で使用直前に混合するしかない
  • 混合だけで140℃まで自己発熱する。沸騰させず、かつ分解前に届ける温度制御が最大の技術課題
  • 枚葉式は常に新鮮な液を使える反面硫酸を大量に消費し、コストと廃液が課題になる
  • 強い酸化力ゆえに材質の制約が厳しく、金属汚染を出さない設計が要る

装置全体の中での位置づけは半導体洗浄装置とはをご覧ください。

参考・出典