モールド装置の処理シーケンスを完全解説|金線を1本も倒さずに樹脂を流し込む充填の科学
「装置の中のシーケンス」第5回はモールド装置——ワイヤボンドまで済んだチップを、エポキシ樹脂の鎧で封じる装置です。装置の全体像とTOWAの世界シェアの話はモールド装置の記事で解説済みなので、今回は型の中の動きを追います。
モールドを一言で言えば「金型に樹脂を流し込む」——プラモデルの射出成形と似て聞こえます。しかし相手は、直径十数μmの金線が何百本も張られた精密品。髪の毛より細い線を1本も倒さずに、溶けた樹脂で満たして固める。この矛盾との戦いが、モールドのシーケンスの正体です。
全体像 — 成形の前に「材料の目覚まし」から
樹脂タブレット解凍 → ワーク搬入・プリヒート → 金型クリーニング → → 型締め → 樹脂溶融・充填(ワイヤを倒さない流速で) → 型内キュア → → 離型 → 不要樹脂の除去 → ポストキュア(オーブン) → 検査
ステップ①: 材料の準備 — 樹脂は「生もの」である
主材料はEMC(エポキシ成形材料)をタブレット状に固めたもの。エポキシにシリカ粉などのフィラーを混ぜた熱硬化性樹脂で、実は「生もの」です。常温で放置すれば少しずつ硬化反応が進み、湿気も吸う。だから低温で保管し、使う分だけ取り出して常温に戻してから装置に投入します。
吸湿したタブレットをそのまま使うと、型の中で水分が気化してボイド(気泡)の原因に。シーケンスの最初の一歩は、装置の外の冷蔵庫から始まっているのです。
ステップ②: ワーク搬入とプリヒート — 型は175℃で待っている
ワイヤボンド(#4)を終えたリードフレームや基板が搬入されます。金型は175℃前後に加熱されて待ち構えており、冷たいワークをいきなり挟むと温度が乱れるため、ワーク側もプリヒートしてから型へ。温度は樹脂の粘度と硬化速度を支配する最重要パラメータで、型全体の温度均一性が作り込まれています。
ステップ③: 金型クリーニング — 型の「歯磨き」
成形を繰り返すと、金型表面には樹脂かすや離型剤の汚れが蓄積します。放置すれば製品の外観不良や離型不良に直結するため、一定ショットごとにクリーニング用の樹脂やシートで型面を掃除する工程が挟まれます。#3のブレードドレッシングと同じく、道具の手入れが生産シーケンスに組み込まれている好例です。
ステップ④: 型締めと充填 — 本記事の核心、ワイヤスイープとの戦い
ワークを挟んで型が閉じます。型締め力は樹脂の圧力に負けてバリ(隙間への樹脂漏れ)を出さないための力で、数十トン級。そしていよいよ充填——主流のトランスファー成形では、こう進みます。
- タブレットがポットと呼ばれる筒に投入され、型の熱で溶け始める
- プランジャ(押し棒)が溶けた樹脂をゆっくり押し出す
- 樹脂はランナー(通路)を流れ、ゲート(狭い入口)からキャビティ(チップのいる部屋)へ入る
- 樹脂がワイヤの森を縫って進み、空気を追い出しながら隅々まで満たす
最大の敵がワイヤスイープ——樹脂の流れが金線を押し倒す現象です。流速が速すぎれば線が流されて隣と短絡、遅すぎれば樹脂が固まり始めて未充填。プランジャの速度プロファイルは「速すぎず遅すぎず」のμm/秒単位の作り込みで、樹脂の粘度が刻々と変わる(温めるほどサラサラになり、やがて硬化が始まってドロドロになる)中での時間との勝負です。ボイド対策として、キャビティを真空引きしながら充填する方式も使われます。
ステップ⑤: キュア(硬化)と離型 — 焼き上がりを待って、そっと外す
充填後も型は閉じたまま。熱硬化反応が進んで樹脂が固まるまで型内で数十秒〜数分保持します(キュア)。固まったら型が開き、エジェクタピンが製品を突き出して離型。このとき同時に固まったランナー部分の樹脂(製品ではない「通路のかす」)を折り取って除去します。
ただし型から出た時点では、硬化はまだ「仮焼き」。オーブンで数時間かけて反応を完結させるポストモールドキュアを経て、樹脂は本来の強度と信頼性に到達します。ケーキの「粗熱を取って寝かせる」に似た、装置の外の仕上げ工程です。
ステップ⑥: 検査 — 見えない中身を「音」で見る
封止後の検査で厄介なのは、不良が樹脂の中に隠れていることです。外観・印字は画像検査で済みますが、内部のボイドや剥離は、超音波(SAT)やX線で透視して探します。ボイドは吸湿→リフロー時の水蒸気爆発(パッケージクラック)の火種になるため、見えないからこそ厳しく管理されます。合格した基板は個片化・最終テスト(後工程の流れ)へ進みます。
方式の進化と勢力図
トランスファー成形に加え、近年はコンプレッション成形が台頭しています。キャビティに樹脂(粉や液状)を先に撒き、ワークを押し当てて成形する方式で、樹脂が長い通路を流れないためワイヤスイープが起きにくく、大判・ウェハレベルの封止に向くのが強み。先端パッケージの大面積化を支える技術です。装置はTOWAが世界シェア約6割とされ、アピックヤマダらが続きます(詳細はモールド装置の記事)。
調べていて印象に残ったのは、樹脂の粘度が「温めるとサラサラ→やがて硬化でドロドロ」と一方通行で変わり続けることです。充填に使える時間は、樹脂が最もよく流れる短い窓だけ。プランジャの速度プロファイルは、その窓に合わせた振り付けでした。
金線の森に、固まりかけの液体を、倒さず・泡を残さず流し込む。モールドは「流体のさじ加減」を極めた装置だと思います。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
Q. なぜ樹脂タブレットを冷やして保管するのですか?
A. EMCは熱硬化性樹脂で、常温でも硬化反応が少しずつ進んでしまうためです。低温保管で反応を眠らせ、使用前に常温へ戻してから使います。戻しが不十分だと結露で水分を抱え、ボイドの原因になります。
Q. ワイヤスイープはどれくらいまで許されるのですか?
A. ワイヤ間隔に対する変形量で管理され、隣のワイヤとの短絡や断線に至らない範囲に抑えます。X線検査で封止後のワイヤ変形を確認でき、流速プロファイルやゲート設計、ワイヤのループ形状(#4参照)との合わせ技で対策されます。
Q. ボイドがあるとなぜ危険なのですか?
A. 空隙は吸湿の溜まり場になり、基板実装時のリフロー加熱で水分が一気に気化して内部圧力が上がり、パッケージクラック(いわゆるポップコーン現象)を起こすためです。信頼性不良の代表的な火種として、超音波検査などで厳しく監視されます。
Q. トランスファー成形とコンプレッション成形はどう使い分けるのですか?
A. リードフレーム品などワイヤ主体の量産にはトランスファーの実績が厚く、大判パネルやウェハレベルの大面積封止、チップを浅く覆う用途にはコンプレッションが向きます。流路を流さないコンプレッションはワイヤスイープと樹脂ロスが少ない一方、材料の撒き方の均一性が勝負になります。
まとめ
- モールドのシーケンスは「生もの」の樹脂タブレット管理から始まり、175℃の金型・プリヒート・型クリーニングと段取りが続く
- 核心は充填——粘度が刻々変わる樹脂を、ワイヤを倒さない速度プロファイルで押し込むワイヤスイープとの戦い。真空充填も武器
- 型内キュアは仮焼き、オーブンのポストキュアで硬化を完結させる二段構え
- 内部のボイドは超音波・X線で透視して検出。リフロー時のパッケージクラックの火種を見逃さない
- 大面積化でコンプレッション成形が台頭。装置はTOWAが世界シェア約6割の王者
装置の中のシーケンス: #1 ウェハテスト(プローバ)/#2 コータデベロッパ/#3 ダイシング/#4 ワイヤボンダ/#5 モールド(本記事)/#6 枚葉洗浄/#7 CMP/#8 イオン注入機/#9 スパッタ/#10 縦型炉/#11 ダイボンダ/#12 アッシング/#13 露光装置/#14 ドライエッチャー/#15 バッチ洗浄機/#16 ウェハ検査機/#17 CD-SEM/#18 搬送系/#19 めっき装置/#20 OCD/#21 ウェハソーター/#22 レーザーマーカー — まとめ読みは全集ガイドへ
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