半導体の製造工程の中で、CMP装置は少し変わった立ち位置にあります。回路を描くわけでも、削って形をつくるわけでもなく、ひたすら表面を平らにするための装置だからです。

一見すると地味な工程ですが、CMPがなければ現在の多層配線も、銅を使った配線も成立しません。この記事では、CMPの仕組みと、なぜ平坦化がそれほど重要なのか、そして世界シェアと主要メーカーまでを解説します。

CMP装置とは

CMPは Chemical Mechanical Polishing の略で、日本語では化学機械研磨と呼ばれます。その名のとおり、化学的な作用と機械的な作用を組み合わせて、ウェハーの表面を削り、平坦にする技術です。

研磨と聞くと単純な作業に思えるかもしれませんが、対象はナノメートル単位の精度が要求される半導体です。ウェハー全面にわたって、削りすぎず、削り残さず、均一に仕上げる必要があります。

なぜ平坦化が必要なのか

前工程では、膜をつけ、パターンを描き、削るというサイクルを何十回も繰り返します。層を重ねるたびに、下の層の凹凸が上へと引き継がれ、表面の起伏はどんどん大きくなっていきます。

ここで問題になるのが露光工程です。露光装置は、レンズで焦点を合わせてパターンを転写しますが、ピントが合う範囲(焦点深度)は非常に狭いのが実情です。しかも微細化が進むほど、この範囲はさらに狭くなります。

表面に起伏があると、高い場所ではピントが合っても低い場所ではぼやける、という状態になります。これでは設計どおりのパターンを転写できません。

そこで各層を積むたびに、CMPで表面を平らに整えてから次の工程へ進みます。「積んでは均す」を繰り返すことで、何層もの配線を積み重ねられるようになったのです。多層配線を可能にした技術、といういい方もできます。

CMPがなければ銅配線は成立しない|ダマシンプロセス

CMPの重要性を語るうえで欠かせないのが、銅配線との関係です。

配線材料は、かつてアルミが主流でした。しかし微細化とともに電気抵抗の低い銅が求められるようになります。ところが銅には、製造上の大きな問題がありました。ドライエッチングで削るのが難しいのです。

エッチングは、ガスと反応させて揮発性の物質に変えることで材料を取り除きます。しかし銅は、この方法で扱いやすい生成物をつくりにくい性質を持っています。つまり、アルミのように「膜をつけてから削って配線の形にする」という手順が使えません。

そこで考えられたのが、発想を逆転させたダマシンプロセスです。

  1. まず絶縁膜に、配線となる溝を掘る
  2. その上から銅を全面に埋め込む
  3. 溝の外にはみ出した余分な銅を、CMPで削り取る

削り取った結果、溝の中にだけ銅が残り、配線が完成します。この工程はCMPなしには成立しません。

つまりCMPは、単に表面をきれいにする補助的な工程ではなく、銅配線をつくるための主役級の工程だといえます。「CMPが実用化されたから銅配線が可能になった」という関係にあるのです。

CMPの仕組み

CMP装置の基本構造は、次のような要素で成り立っています。

  • 研磨パッド:回転する円盤状のパッド。ウェハーはこの上で研磨されます
  • スラリー:研磨剤(砥粒)と薬液を混ぜた液体。パッド上に供給されます
  • キャリア(ヘッド):ウェハーを保持し、パッドに押し付けながら回転させます
  • コンディショナー:パッド表面を整える装置。目詰まりを防ぎます
  • 終点検出:どこまで削れたかを検知し、研磨を止めます

研磨が進む仕組みは、名前のとおり2つの作用の組み合わせです。

①化学的作用:スラリーの薬液が表面と反応し、削りやすい柔らかい層に変える
②機械的作用:砥粒とパッドが、その柔らかくなった層をこすり取る

化学的に弱くしてから物理的に削る、という順序が重要です。機械的な力だけで削ろうとすれば、傷が入ったり、必要な層まで壊したりします。この2つのバランス制御こそが、CMPの技術的な難しさです。

また、削る対象は絶縁膜だったり銅だったりタングステンだったりと、工程によって異なります。材料ごとに適したスラリーとパッド、条件の組み合わせが必要になります。

研削・ラッピングとの違い

ウェハーを削る技術には、CMP以外にもいくつかあります。混同されやすいので整理しておきます。

技術 目的 主に使う工程 削る量
CMP(化学機械研磨) 表面をナノレベルで平坦化する 前工程(層ごと) ごくわずか
研削(グラインディング) ウェハーを薄くする 後工程(裏面研削) 大きい
ラッピング・ポリッシング ウェハーの表面を鏡面に仕上げる ウェハー製造 比較的大きい

とくに研削(グラインディング)とCMPは目的がまったく違います。研削は、チップを薄くするために裏面を大きく削る加工で、後工程で行われます。この分野で強いのはディスコなどのメーカーです。一方CMPは、前工程で各層の表面をわずかに整える工程です。

「削る装置」とひとくくりにすると混乱しますが、どの工程で、何のために、どれだけ削るのかで区別すると分かりやすくなります。

CMPの難しさ|削りすぎと削り残し

CMPで起きる代表的な問題には、次のようなものがあります。

  • ディッシング:配線幅の広い部分が余計に削れ、皿のようにくぼんでしまう
  • エロージョン:配線が密集した領域が周囲より深く削れてしまう
  • スクラッチ:砥粒や異物によって表面に傷が入る
  • 面内のばらつき:ウェハーの中心と外周で削れ方が変わる

いずれも配線の抵抗値や信頼性に影響します。パターンの粗密によって削れ方が変わるため、単に「一定時間削る」という制御では通用しません。設計と製造が密接に関わる工程でもあります。

CMPとクリーン度|「最も汚す工程」をどう管理するか

前工程は、目に見えないほど微細なゴミすら不良につながるため、極めて清浄度の高いクリーンルームで運用されます。その中で、研磨剤を大量に流しながらウェハーを削るCMPは、明らかに異質な工程です。

実際CMPは、前工程の中で最大級の汚染源になりえます。だからこそ、装置と工場の側で徹底した封じ込めが行われています。

研磨後には専用の洗浄が欠かせない

CMPを終えたウェハーの表面には、研磨剤の粒子や削りかすが大量に残っています。そのまま次の工程へ進めば、確実に不良の原因になります。

そのため、CMPの後にはポストCMP洗浄と呼ばれる専用の洗浄工程が続きます。ブラシで物理的にこすり洗いするスピンスクラバーが使われるのは、この工程の代表例です。洗浄工程については半導体洗浄装置とは?仕組み・種類と世界シェアで解説しています。

装置の中で完結させる(dry-in/dry-out)

CMP装置は、研磨するだけの装置ではありません。研磨部に加えて洗浄部と乾燥部を内部に持ち、ウェハーは乾いた状態で装置に入り、乾いた状態で出てくる構成が一般的です。これをdry-in/dry-outと呼びます。

濡れたまま、スラリーが付着したままウェハーを装置の外へ出せば、搬送系やクリーンルーム全体を汚染してしまいます。汚れを装置の外に持ち出さないという設計思想が、CMP装置の基本にあります。

銅汚染はラインを分けて防ぐ

クリーン度の管理で特に神経を使うのが銅です。銅はシリコン中に入り込むと素子の特性を劣化させるため、トランジスタを形成する工程にとっては持ち込んではならない物質です。

ところがダマシンプロセスでは、CMPで大量の銅を削り取ります。そのため多くの工場では、銅を扱う工程とそうでない工程で、装置・治具・搬送経路を分離します。パーティクルのような「異物」だけでなく、原子レベルの金属汚染まで動線で管理するのが、この工程のクリーン度対策の特徴です。

スラリーそのもののクリーン度

意外に思われるかもしれませんが、研磨剤であるスラリー自体もクリーン度の管理対象です。

スラリーの粒子は、保管や配管の中で互いにくっついて大きな塊になることがあります。この凝集した粒子が研磨面に入り込むと、表面を引っかいてスクラッチを生みます。せっかく平坦化しても、深い傷が入れば不良です。

そのため、スラリーは供給配管の途中や使用する直前で濾過され、粒子の状態が管理されます。研磨パッドの表面を整えるコンディショナーや、パッド自体の摩耗も発塵源となるため、消耗品の交換時期の管理も欠かせません。

CMP装置に求められるのは、「いかに正確に削るか」と「いかに汚さないか」の両立です。研磨性能だけでなく、洗浄・乾燥・汚染管理までを含めた総合力が、装置の実力を決めています。

世界シェアと主要メーカー

CMP装置の市場は、上位2社に集中している点が特徴です。

企業 国 位置づけ
Applied Materials 米国 CMP装置の最大手
荏原製作所 日本 CMP装置で世界2位とされる。2025年12月期のCMP装置売上は2,126億円
ACM Research 米国・中国 洗浄装置を主力としつつCMP分野にも参入

日本の荏原製作所は、もともとポンプで知られる企業ですが、半導体分野ではCMP装置とドライ真空ポンプを手がけています。

2025年12月期の決算では、連結の売上収益9,582億円、営業利益1,138億円といずれも過去最高を更新しました。このうち半導体関連を含む精密・電子事業は3,422億円で、連結売上の約36%を占めます。CMP装置の売上は前期の1,573億円から2,126億円へと35%超の伸びを示しました。

さらに2026年12月期は、CMP装置の売上を2,670億円(前期比25.6%増)と見込んでいます。AI向け半導体では配線の層数が増え、先端ロジックへの投資も拡大しているため、CMPの需要はそれに連動して伸びる構造にあります。

装置メーカー各社の規模の比較は半導体製造装置メーカー世界ランキング2026をご覧ください。

先端パッケージで広がるCMPの役割

近年、CMPには新しい活躍の場が生まれています。チップどうしを直接貼り合わせるハイブリッドボンディングです。

従来のように金属の細線でつなぐのではなく、銅の電極と絶縁膜を同時に接合するこの技術では、接合面がナノレベルで平坦であることが前提になります。わずかな凹凸があれば、そこは接合されず空隙になり、不良につながります。

つまり、接合の成否はCMPの仕上がりに大きく左右されます。AI向け半導体でチップの積層が一般化するほど、前工程だけでなくパッケージの領域でもCMPが重要になるという流れが生まれています。「平坦にする技術」の価値は、微細化が鈍化した現在でもむしろ高まっているといえます。この接合技術についてはハイブリッドボンディングとは?で解説しています。

装置と消耗品はセットのビジネス

CMPを理解するうえでもうひとつ重要なのが、スラリーと研磨パッドという消耗品の存在です。これらは研磨のたびに消費されるため、装置が稼働している限り需要が続きます。

スラリーやパッドは材料メーカーが供給しており、装置メーカーとは別の企業が担っています。くわしくはCMPスラリーと研磨パッドとは?をご覧ください。CMPの性能は装置だけで決まるものではなく、装置・スラリー・パッド・条件の組み合わせで決まるという点が、この分野の特徴です。

✍️ ひとこと

「平らにする」だけの工程が、これほど重視されるとは意外に思われるかもしれません。でも上へ積み上げていく以上、土台が傾いていればいつか破綻します。

最も汚す工程が、同時に最も清浄さを求められる。この矛盾と向き合い続けてきた積み重ねが、いまの技術を支えています。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

CMPは英語で何と言いますか?

Chemical Mechanical Polishing(化学機械研磨)の略で、Chemical Mechanical Planarization(化学機械平坦化)と表記されることもあります。装置は CMP tool、CMP system などと呼ばれます。

CMPは1枚のウェハーに何回行われますか?

製品によりますが、多層配線では層の数だけ平坦化が必要になるため、複数回行われます。配線層が増えるほどCMPの回数も増える関係にあります。

スラリーとは何ですか?

研磨剤の粒子を薬液に分散させた液体です。粒子の大きさや薬液の成分によって研磨の特性が変わるため、削る材料ごとに専用のスラリーが使われます。

CMPは後工程でも使われますか?

先端パッケージの分野では、チップを積層する際の平坦化などにCMPが使われる場面があります。ただし主戦場は前工程です。前工程と後工程の違いについては半導体の前工程と後工程の違いをご覧ください。

まとめ

  • CMPは化学的作用と機械的作用を組み合わせて表面を平坦化する技術
  • 露光の焦点深度が狭いため、層を積むたびに平坦化が必要になる
  • 銅はエッチングで削りにくく、埋めてから削るダマシンプロセスが使われる。CMPは銅配線に不可欠
  • 研削(ウェハーを薄くする)やラッピングとは目的も工程も異なる
  • CMP後にはスラリー残留を除去する専用の洗浄が必要
  • クリーンルーム内で「最も汚す工程」であるため、dry-in/dry-outの装置設計や銅汚染のライン分離といった封じ込めが徹底されている
  • 市場はApplied Materialsと荏原製作所の2社に集中。荏原のCMP装置売上は2025年12月期に2,126億円へ拡大

前工程全体の流れは半導体製造装置とは?種類と役割を工程順にわかりやすく解説、CMPの前後で行われる成膜については成膜装置とは?CVD・PVD・ALDの違いと世界シェアで解説しています。

参考・出典

CMP装置で世界シェア2位の荏原製作所については荏原製作所とは?ポンプ会社がCMP装置で世界2位になった構造で解説しています。