露光装置は「光でパターンを焼き付ける」装置ですが、ではその光は誰が作っているのか——。答えの多くが、東京の光技術専業メーカーウシオ電機(東証プライム: 6925)です。露光用ランプで圧倒的な世界シェアを握り、チップレット時代の先端パッケージ露光でも存在感を高める、装置業界の「陰の主役」です。

本記事では、ニッパツ(ばね・温度制御部品)に続く「装置を支える企業」シリーズとして、ウシオ電機の事業と強み、半導体製造装置との深い関係、最新の業績と成長戦略を解説します。

ウシオ電機とはどんな会社?

項目 内容
社名 ウシオ電機株式会社
証券コード 6925(東証プライム)
創業 1964年。以来一貫して「光」の専業メーカー
主力 産業用ランプ・レーザーなどの光源、光を応用した装置(露光・洗浄・硬化)
2026年3月期実績 売上高1,792億円(+0.9%)、営業利益119.6億円(+35.5%)
2027年3月期予想 売上高2,100億円(+17.2%)、営業利益140億円

映画館のプロジェクター用ランプから医療用光源まで手がける「光のデパート」ですが、収益の柱は産業プロセス事業、なかでも半導体・電子部品の製造に使われる光です。直近決算でも、生成AI半導体関連の需要と設置済み装置の堅調な稼働が増収要因として挙げられています。

本業の王座: 露光用「超高圧水銀ランプ」

半導体の露光光源といえば最先端はEUVやArFエキシマレーザーですが、世の中の半導体の大半は、実は今も水銀ランプの紫外線で作られています。超高圧水銀ランプが放つ輝線のうち、g線(436nm)・h線(405nm)・i線(365nm)を使う露光装置は、パワー半導体・アナログ・センサー・化合物半導体など「最先端の微細化を必要としない」大多数のチップの主力製造手段です。

ウシオ電機はこの露光用超高圧水銀ランプで世界シェア9割前後とされる圧倒的な地位を数十年維持してきました。強さの理由は明快です。

  • 光源は装置の心臓で、かつ消耗品: ランプには寿命があり、定期交換が必須。世界中の露光装置が動き続ける限り、交換需要が発生し続けるストック型ビジネス
  • 置き換えリスクが低い: 露光は波長・照度分布・安定性のすべてがプロセス条件に直結し、実績のない光源への切り替えは歩留まりリスクが大きい
  • SiC・GaNの追い風: パワー半導体の増産は、そのままi線露光とランプ需要の増加につながる

露光光源の世代マップ — なぜ「古い光」が現役なのか

露光の解像度は光の波長が短いほど上がります。光源の世代を整理すると、ウシオの立ち位置がよくわかります。

光源 波長 主な担い手 主な用途
g線・h線・i線(水銀ランプ) 436/405/365nm ウシオ電機など パワー半導体・アナログ・センサー・先端パッケージ(RDL)
KrFエキシマレーザー 248nm ギガフォトン(小松系)、Cymer 成熟ロジック・メモリの一部工程
ArFエキシマレーザー 193nm ギガフォトン、Cymer 先端ロジックの多数の工程(液浸露光)
EUV 13.5nm Cymer(ASML傘下) 最先端ロジック・DRAMの微細層のみ

ポイントは、新しい光源が古い光源を「置き換えない」ことです。チップの中でも微細さが必要な層だけが短波長を使い、配線の上層やパッケージ工程は今も長波長で十分。しかも装置価格はEUVの数百億円に対し、i線露光機は桁違いに安い。「必要十分な光を、安く、安定して」という経済合理性が、水銀ランプを何十年も現役にとどめている理由です。

そして半導体の生産量が増えるほど、最先端層だけでなく成熟工程・パッケージ工程の露光回数も増えます。EUVの時代が進むほど、実はランプの出番も増える——この一見逆説的な構造が、ウシオのビジネスの安定性の正体です。

チップレット時代の伏兵: 先端パッケージ向け露光装置

ウシオはランプ供給にとどまらず、自ら露光装置も作っています。主戦場は最先端ロジックではなく、アドバンストパッケージ(AP)——チップレットを支える再配線層(RDL)やバンプ形成のための露光です。

2nm世代のGPUがどれほど微細でも、それらを束ねるパッケージ基板の配線はミクロン級で、ここでは水銀ランプ系の露光技術が主役です。チップどうしを高密度につなぐ需要が爆発するチップレット時代に、「パッケージ露光」という成長市場をランプと装置の両輪で取りにいけるのがウシオの独自ポジションです。会社側も中期計画でAP向け露光装置を成長の柱に位置づけています。パッケージ工程の全体像は「露光装置とは?」や後工程の各記事もあわせてどうぞ。

エキシマ光とEUV — 「特殊な光」の引き出しの多さ

  • エキシマランプ(172nm): 真空紫外光でウェハーや基板表面の有機物を分解・除去する、洗浄・表面改質の定番光源
  • UV硬化・アニール用光源: 樹脂硬化や膜質改善など、製造工程の随所で使われる紫外線プロセスを支える
  • EUV関連: EUVリソグラフィ本体の光源はASML傘下Cymer方式ですが、ウシオはEUVマスク検査向けの光源開発で知られ、最先端領域でも「検査の光」で関与しています

「露光の光・洗う光・固める光・検査の光」と、半導体工場の光の需要を面で押さえているのがウシオの全体像です。

成長戦略 — ams OSRAMのランプ事業買収

2027年3月期の売上+17.2%計画の柱のひとつが、独ams OSRAMからのランプ事業買収(2026年3月クロージング予定)です。産業用ランプの世界的ブランドを取り込むことで、光源事業の規模と顧客基盤をさらに拡大します。ランプという成熟市場では「最後まで残る一社」に注文が集中する集約の力学が働くため、シェアを買い増す戦略は理にかなっています。

装置業界における位置づけ — ニッパツと同じ「見えない層」

露光装置メーカー(キヤノン・ニコン・ASML)の華やかな競争の下には、光源・ステージ・温調部品・搬送系といった要素技術サプライヤーの層があります(ニッパツの記事で解説した構図と同じです)。ウシオはこの層の「光」担当の最大手であり、しかも消耗品比率が高いため、装置の新規販売が止まっても稼働があれば売上が立つ、景気耐性のあるビジネスモデルを持っています。装置業界全体の見取り図は「半導体製造装置メーカー世界ランキング」をご覧ください。

✍️ ひとこと

調べていて印象に残ったのは、最先端のEUVが話題を独占する陰で、世界の半導体の大半が今も「ランプの光」で作られているという事実です。

60年間「光」だけを磨き続けた会社が、チップレットという最新トレンドの真ん中に再び現れる——技術の蓄積とはこういうことか、と唸らされます。

— semisouchi.com 編集室

よくある質問

Q. ランプはLEDやレーザーに置き換えられないのですか?

A. 一部の硬化・照明用途ではLED化が進んでいますが、露光用は波長構成・出力・光の質の要求が厳しく、置き換えは容易ではありません。またウシオ自身がLED・レーザー光源も手がけており、置き換えが起きる場合も自社内で受け皿を持っています。

Q. EUV露光装置にもウシオのランプが使われていますか?

A. いいえ。EUV露光の光源はスズのプラズマから発生させる特殊な方式(ASML傘下のCymerが担当)で、ランプとは別物です。ウシオのEUVへの関わりは、マスク検査用光源など周辺領域が中心です。

Q. なぜ装置メーカーではなく光源メーカーが「圧倒的シェア」を取れるのですか?

A. 光源はプロセス条件に直結する一方、装置全体から見れば専門性の高い「部品」であり、装置メーカーは信頼できる専業に任せる方が合理的だからです。参入障壁が高く、実績がものを言う消耗品市場では、先行者への集中が進みやすい構造があります。

Q. 投資対象として見る場合の注意点は?

A. 半導体関連の中では装置稼働(消耗品)連動型で業績が比較的安定する一方、シネマ・一般産業向けなど成熟事業も抱えます。買収(ams OSRAMランプ事業)の統合効果と、AP露光装置の受注動向が当面の注目点です(本記事は投資助言ではありません)。

まとめ

  • ウシオ電機は1964年から「光」一筋の専業メーカー。露光用超高圧水銀ランプで世界シェア9割前後とされる圧倒的地位を持つ
  • 世界の半導体の大半は今もg線・i線=ランプの光で製造されており、SiC・GaNなどパワー半導体の増産がそのまま追い風になる
  • チップレット時代の先端パッケージ露光では、光源と装置の両輪で成長市場を攻める
  • 2026年3月期は営業利益+35.5%、2027年3月期はams OSRAMランプ事業買収も寄与し売上2,100億円(+17.2%)計画
  • 消耗品中心のストック型収益という、装置業界では珍しい景気耐性が魅力

出典: 日本経済新聞「ウシオ電の2027年3月期、純利益31.3%増」/ウシオ電機 決算資料・会社概要ファクトシート(2026年1月)/各種報道