真空搬送ロボットとは?クラスタツールと装置内搬送の難しさを解説
エッチングや成膜の装置は、内部が真空です。そこへウェハーを運び込み、処理が終われば運び出す必要があります。
ところが真空という環境は、機械にとって過酷です。油は使えず、熱は逃げず、部品は簡単に交換できません。
それでも1日に何百枚ものウェハーを、傷ひとつ付けずに運び続けなければならない。この記事では、装置の中で働く真空搬送ロボットの制約と、それを乗り越える設計を解説します。
装置の入口までの搬送はEFEMとは?で扱っています。
装置の中には2種類のロボットがある
前工程装置の内部は、大気側と真空側に分かれています。
| 大気側 | 真空側 | |
|---|---|---|
| 担う部分 | EFEM | トランスファーチャンバー |
| 環境 | 大気圧、清浄な気流 | 真空 |
| 潤滑 | 通常のグリースが使える | 油が使えない |
| 放熱 | 空気が熱を運ぶ | 対流が存在しない |
| 保守 | 比較的容易 | 真空を破る必要がある |
両者を隔てるのがロードロックという中継室です。ここでウェハーは大気から真空へ、あるいはその逆へと受け渡されます。
クラスタツール|真空を保ったまま複数工程
現在の前工程装置の多くは、クラスタツールと呼ばれる形をとっています。
中央に搬送室(トランスファーチャンバー)を置き、その周囲に処理室(プロセスチャンバー)を放射状に配置する構造です。中心のロボットが、各処理室へウェハーを配ります。
この形にする利点は明確です。
- 複数の工程を、真空を破らずに連続して行える
- 同じ処理室を並列に置けば、処理能力を上げられる
- 設置面積あたりの効率が高い
たとえば「表面の酸化膜を除去してから、すぐ金属膜を積む」という工程では、途中で大気に触れれば再び酸化してしまいます。真空を保ったまま次へ進めることが、品質そのものを決める場面があるのです。
なぜ真空を破りたくないのか
真空を作り直すには、想像以上の手間がかかります。
大気圧は約101,300Pa。一方、プロセスによっては10⁻⁵Pa前後の高真空が求められます。両者の比を取ると次のようになります。
101,300 Pa ÷ 0.00001 Pa = 約100億倍
気体の量を100億分の1にまで減らすという作業です。しかも真空度が高くなるほど、残りわずかな分子を追い出すのは難しくなります。
さらに厄介なのが、壁面に吸着した水分です。一度大気にさらすと内壁が水分を吸い、真空に引いてもじわじわと放出され続けます。圧力計の数字が下がっても、中身がきれいとは限りません。
だから装置全体を大気に戻すのは、極力避けたい操作です。代わりに、小さなロードロック室だけを大気と真空の間で往復させます。容積が小さければ、引く時間も短くて済みます。真空を作る仕組みは半導体用真空ポンプとは?で解説しています。
制約①|油が使えない
ここから、真空ロボット固有の難しさを見ていきます。
機械の可動部には、通常グリースや潤滑油を使います。ところが真空中では、これらが蒸発します。
気圧が低いほど、液体は低い温度で気化します。潤滑油から出た成分は気体となってチャンバー内を漂い、ウェハー表面に付着します。これをアウトガスと呼びます。
せっかく清浄に保った真空空間を、ロボット自身が汚してしまうわけです。
対策は主に3つです。
- 真空用の潤滑剤を使う:蒸気圧の極めて低い専用グリースを用いる
- 駆動部を真空から隔てる:モータや軸受けを大気側に置き、シールを介して力だけを真空側へ伝える
- そもそも部品を減らす:ベルトや減速機を無くせば、摩耗する場所自体が減る
シンフォニアが真空搬送ロボットにダイレクトドライブモータを用い、タイミングベルトを介さない構成で高精度な位置決めと低振動を実現しているのは、この考え方に沿ったものです。ローツェも磁性流体シールによって、回転軸から粒子が漏れない構造を採っています。
制約②|熱が逃げない
2つ目の制約は、より根本的です。
熱の伝わり方には、伝導・対流・輻射の3つがあります。このうち対流は、気体や液体が動くことで熱を運ぶ現象です。
真空には、運ぶべき気体がありません。つまり対流が存在しません。
結果として、モータが発熱しても空気が冷やしてくれません。熱は金属を伝わって逃げるか、輻射として放出されるかのどちらかです。
これは設計上の大きな制約になります。大気中なら問題ない発熱量でも、真空中では熱がこもり、部品の寿命を縮めます。真空ロボットが大気用より高価になる理由の一つがここにあります。
高温ウェハーの冷却|T⁴という壁
熱の問題は、ウェハー自身にも当てはまります。
成膜や熱処理を終えたウェハーは高温です。そのまま容器へ戻せば、容器の樹脂を傷めます。次の工程にも影響します。どこかで冷やさなければなりません。
しかし真空中では、扇風機で冷やすことができません。頼れるのは輻射(放射)です。
実際に計算してみる
輻射による放熱量は、シュテファン・ボルツマンの法則で見積もれます。
P = εσA(T⁴ − T₀⁴)
直径300mmのウェハー(両面で約0.14m²)、放射率を0.7、周囲を20℃と仮定して計算します。
| ウェハーの温度 | 輻射による放熱量 |
|---|---|
| 400℃ | 約1,100 W |
| 100℃ | 約67 W |
注目してほしいのは、その差です。温度が400℃から100℃へ下がると、放熱量は16分の1以下になります。
絶対温度の4乗に比例するため、高温では勢いよく冷えるのに、温度が下がるほど急激に冷えにくくなるのです。
「あと少し冷やす」のに、いちばん時間がかかる。この性質が、冷却ステーションの設計を難しくします。
そこで、冷却板に接触させて熱を逃がしたり、ウェハーの裏側にわずかにガスを入れて熱の通り道を作ったりする工夫が使われます。真空中でありながら、局所的に気体を使って熱を伝えるわけです。
※放射率や面積は条件によって変わるため、上の数値は傾向を掴むための試算です。
同じ「真空では熱が伝わらない」問題は、ウェハーを載せる台にも及びます。静電チャックとは?をご覧ください。
制約③|パーティクルと振動
3つ目は、大気側と共通しつつ、より厳しい制約です。
真空中で発生した粒子は、空気の流れがないため押し流されません。大気側なら上から下への気流で下方へ運べますが、真空中ではその手が使えません。
いったん舞い上がった粒子は、重力に従ってゆっくり落ちるか、そのまま漂います。発生させないこと自体が、唯一に近い対策になります。
だから動きの設計が重要になります。急に加速・減速すれば振動が生じ、粒子が舞います。ローツェが挙げるS字加減速制御のように、滑らかに動かすことがそのまま清浄さにつながります。
速く運びたい、しかし急には動かせない——この緊張関係が、真空搬送の技術を規定しています。
スループットはどこで決まるか
クラスタツールの処理能力は、最も遅い部分で決まります。
候補は3つあります。
- 処理室:成膜やエッチングにかかる時間
- ロードロック:真空引きと大気開放にかかる時間
- 搬送ロボット:受け渡しにかかる時間
処理時間が長い工程では、処理室がボトルネックです。この場合は同じ処理室を増やせば改善します。
ところが処理が速い工程では、搬送のほうが追いつかなくなります。ロボットが1枚運ぶ間に、処理室が空いて待っている状態です。
そこで採られるのが、2本のアームを持つデュアルアームという構成です。片方で処理済みのウェハーを取り出し、もう片方で未処理のものを入れる。1回の動作で交換が完了するため、待ち時間が大きく減ります。
搬送は「工程」ではありませんが、装置の生産性を直接左右します。
主要メーカー
真空搬送は、大気側と同じ企業群が担っています。
| 企業 | 国 | 特徴 |
|---|---|---|
| シンフォニアテクノロジー | 日本 | 真空プラットフォーム、真空ロボット。ダイレクトドライブモータを自社で持つ |
| ローツェ | 日本 | 真空用搬送ロボット、真空プラットフォーム。大気ロボットの技術を応用 |
| Azenta(旧Brooks) | 米国 | 真空搬送、自動化ソリューション |
共通しているのは、大気側の搬送で実績を積んでから真空側へ進んでいることです。ローツェとは?では、この企業の構造と高い収益性を解説しています。ローツェも「大気ロボットで培ってきた技術を応用した」と説明しています。
清浄に、正確に、繰り返し動かす。その基礎ができていなければ、より過酷な真空側は成立しません。装置メーカーの全体像は半導体製造装置とは?をご覧ください。
計算してみて印象に残ったのは、400℃では1,100Wも放熱するのに、100℃では67Wしか出ないという落差でした。熱いうちはどんどん冷えるのに、ぬるくなると途端に進まなくなる。
4乗という式が、現場の待ち時間になって表れている。物理の性質が、そのまま装置の形を決めている——そのつながりが見えた瞬間が面白かったです。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
クラスタツールとは何ですか?
中央の搬送室の周囲に複数の処理室を配置した装置構成です。真空を破らずに複数の工程を連続して行えるため、酸化を避けたい工程などで有効です。
なぜ真空中では潤滑油が使えないのですか?
気圧が低いと液体は蒸発しやすくなり、気化した成分がウェハーを汚染するためです。専用の低蒸気圧グリースを使う、駆動部を大気側に置く、部品数を減らすといった対策がとられます。
真空ロボットは大気用より高価ですか?
一般に高価になります。潤滑や放熱の制約が厳しく、真空に耐える構造やシールが必要になるためです。保守の際に真空を破る必要があることも、要求される信頼性を押し上げます。
ウェハーはどのように冷やされるのですか?
真空中は対流が使えないため、輻射に加えて冷却板への接触や裏面へのガス導入などで熱を逃がします。温度が下がるほど輻射だけでは効率が落ちるため、接触による冷却が併用されます。
まとめ
- 装置内部は大気側と真空側に分かれ、ロードロックを境に2種類のロボットが働く
- クラスタツールは中央の搬送室に処理室を並べた構成で、真空を破らずに連続処理できることが最大の価値
- 大気圧と高真空の差は約100億倍。壁面の吸着水分もあり、真空の作り直しは避けたい操作
- 真空中では潤滑油が蒸発してアウトガスになる。専用グリース、駆動部の隔離、ベルトレス構造で対処する
- 対流が存在しないため熱が逃げない。これが真空ロボットを高価にする一因
- 輻射は絶対温度の4乗に比例するため、400℃で約1,100W、100℃では約67Wと冷却効率が急落する
- 粒子は気流で流せないため、発生させないことが対策の中心。滑らかな動作が清浄さに直結する
- 処理が速い工程では搬送がボトルネックになり、デュアルアーム構成で交換時間を短縮する
装置の入口側はEFEMとは?、真空をつくる仕組みは半導体用真空ポンプとは?、真空を使う工程はエッチング装置や成膜装置で解説しています。