ダイボンダの処理シーケンスを完全解説|テープから剥がして±数μmに置くまでの攻防
「装置の中のシーケンス」第11回はダイボンダ——ダイシング済みのウェハからチップを1個ずつ拾い、基板に貼り付けていく装置です。装置の種類やメーカー勢力図はダイボンダ解説の記事で扱ったので、今回は1個のチップがテープから剥がされ、±数μmの精度で置かれるまでの攻防を追います。
「拾って、置く」。言葉にすれば幼児の積み木ですが、相手は紙より薄く、割れ物で、粘着テープに貼り付いているチップ。しかも1時間に何千個。単純作業に見える動きの一つひとつが、物理の工夫でできています。
全体像 — 良品マップを「実行」する装置
ウェハ(リング+テープ)ロード → 良品マップ照合 → エキスパンド → →【チップごとに繰り返し】位置認識 → 突き上げ → ピック(コレット吸着) → → 搭載先へ移動 → 接合材の上にプレース(荷重・時間制御) → ボンド後検査
#1のウェハテストで生まれた良品マップは、この装置で初めて「実行」されます。良品だけを拾い、不良は素通りする——マップは座標のリストとして装置に読み込まれ、拾う順路が組まれます。
ステップ①: ロードとエキスパンド — まず「間合い」を広げる
#3のダイシングを終えたウェハは、切れてはいるもののチップ同士がほぼ密着したまま。隣と数十μmの隙間では、拾うときに隣を傷つけかねません。そこでエキスパンド——リングごとテープを放射状に引き伸ばし、チップの間隔を広げます。粘着テープの伸びを利用した、シンプルながら効果絶大な下ごしらえです。
ステップ②: 突き上げ — 本記事の核心、「剥がす」の物理
ダイボンダ最大の難所は、実は「置く」ではなく「テープから剥がす」です。チップは粘着剤にしっかり貼り付いており、真上から吸うだけでは剥がれない。そこでテープの裏からニードル(突き上げピン)がチップを押し上げ、縁からテープを剥離させます。上からはコレットと呼ばれる吸着ツールが同時に吸い付き、剥がれた瞬間を捕まえる——下から押し、上から吸う、両面からの連携プレーです。
問題は薄チップ。バックグラインドで数十μmまで薄くなったチップを針で突けば、そこから割れます。そこで進化したのが「突かない突き上げ」。
- 多段突き上げ: 複数のピンやブロックを段階的に動かし、点でなく面で支えながら縁から徐々に剥がす
- スライド式(ニードルレス): ブロックを水平に滑らせてテープだけを引き剥がし、チップには何も刺さらない
チップの薄型化の歴史は、そのまま突き上げ機構の針が「消えていく」歴史でもあります。
ステップ③: ピック&プレース — コレットの旅
チップを吸着したコレットは、ボンドヘッドに載って搭載先へ飛びます。コレットはゴムやセラミック製の消耗品で、先端の吸着面がチップサイズごとに作り分けられます——#4のキャピラリ、#3のブレードに続く「先端工具」の系譜です。移動中もカメラがチップの持ち姿勢を確認し、吸着ズレがあれば搭載位置を補正。装置は常に「自分が何をどう持っているか」を疑い続けます。
ステップ④: 接合材 — 何の上に置くかで3つの流儀
チップは裸の基板に置かれるのではなく、接合材の上に置かれます。その用意の仕方が流儀の分かれ目です。
- 銀ペースト: 搭載直前に基板側へディスペンサーがペーストを塗る。塗布量と形状(はみ出し=フィレットの出来)が品質を左右。搭載後にオーブンで硬化
- DAF(ダイアタッチフィルム): あらかじめウェハ裏面に貼られたフィルム状接着剤を、ダイシングでチップと一緒に切っておく方式。チップが接着剤を「着て」やってくるので塗布工程が不要で、厚みも均一。積層メモリの多段重ねはDAFなしには成立しない
- はんだ・焼結銀: パワー半導体など放熱重視の用途。熱をよく通す金属接合で、加熱・荷重の管理が本格化する
ステップ⑤: プレース — 押し付ける力と時間まで決まっている
搭載はカメラで基板側のマークを認識し、位置・回転を合わせてチップを降ろします。着地後も一瞬で終わりではなく、規定の荷重を規定の時間かけて接合材に馴染ませる。強すぎればペーストが飛び散り薄チップが割れ、弱ければボイド(隙間)が残って放熱不良の火種になります。精度は一般品で±10μm前後、先端品では±数μm、HBMのTCB(熱圧着)やハイブリッドボンディングの世界ではサブμmへ——ここまで来ると「置く」というより「原子レベルで合わせる」領域です。
ステップ⑥: ボンド後検査と、速度との永遠のトレードオフ
置いたチップはカメラで検査されます。位置ずれ・回転・傾き、ペーストのフィレット形状、チップ欠け——不良があれば即座に警告。そして全体を貫くのが精度と速度のトレードオフです。丁寧に置けば遅くなり、速く置けば精度が揺らぐ。装置の実力は「毎時何個(UPH)を、何μmで置けるか」の掛け算で語られ、量産用の高速機と積層用の高精度機が使い分けられます。DRAM積層用でファスフォードテクノロジ(新川と同じヤマハ系)が高シェアを握る話はダイボンダ解説で詳しく。
調べていて印象に残ったのは、突き上げ機構の進化です。「薄いチップを割らずに剥がすには、突かなければいい」——針を増やし、寝かせ、最後は無くしてしまう。制約が道具の形を変えていく過程は、見ていて飽きません。
下から剥がし、上で捕まえ、荷重と時間で馴染ませる。積み木のような仕事の中に、これだけの物理が詰まっています。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
Q. DAFとは何ですか?
A. ダイアタッチフィルムの略で、ウェハ裏面に貼るフィルム状の接着剤です。ダイシング時にチップと一緒に切断されるため、チップが自分の接着剤を持った状態で供給されます。塗布ムラがなく厚みが均一で、チップを何段も重ねる積層メモリでは必須の材料です。
Q. 突き上げでチップが割れることはないのですか?
A. あります。特に薄チップでは突き上げ起因のクラックが代表的な不良モードで、ピン先端の形状・突き上げ量・速度が細かく管理されます。多段突き上げやスライド式イジェクタは、まさにこの割れを防ぐために生まれた機構です。
Q. ダイボンダとフリップチップボンダは何が違うのですか?
A. ダイボンダはチップの裏面を下にして接着剤で貼るのに対し、フリップチップボンダはチップを反転させ、表面のバンプ(電極)を基板に直接接合します。配線を兼ねた接合になるため位置精度と荷重・温度管理がさらに厳しく、装置も別カテゴリになります(ボンダの種類の記事参照)。
Q. UPHとはどういう指標ですか?
A. Units Per Hour——1時間に処理できるチップ数です。量産用ダイボンダでは毎時数千〜1万個超に達します。ただしUPHと搭載精度はトレードオフの関係にあり、「速くて正確」を両立させる機構(軽量ヘッド・振動抑制・高速画像処理)が装置メーカーの競争軸になっています。
まとめ
- ダイボンダは良品マップの実行者。良品だけを拾い、不良を素通りする順路で動く
- 最大の難所は「剥がす」——下から突き、上から吸う連携と、薄チップ時代の針が消えていく突き上げ機構の進化
- 接合材は銀ペースト・DAF・はんだ/焼結銀の3流儀。DAFは「チップが接着剤を着てくる」発明
- プレースは位置±数μm+荷重×時間の作り込み。ボイドとフィレットが品質の見どころ
- 全体を貫くのは精度と速度(UPH)のトレードオフ。高速量産機と高精度積層機が使い分けられる
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