トーカロと半導体製造装置|溶射で経常利益率25%を叩き出す”表面”の専門家
「加工の受託」と聞くと、薄利のビジネスを想像するかもしれません。ところが神戸に、経常利益率25%という半導体装置メーカー顔負けの収益力を誇る加工会社があります。溶射加工の国内最大手トーカロ(東証プライム: 3433)です。
本記事は「装置を支える企業」シリーズの第3弾として、溶射とは何か、半導体製造装置のどこで使われているのか、そしてなぜ受託加工で高収益を実現できるのかを解説します。温度のニッパツ、光のウシオに続く、今回は「表面」の専門家です。
トーカロとはどんな会社?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 社名 | トーカロ株式会社 |
| 証券コード | 3433(東証プライム) |
| 本社 | 神戸市 |
| 事業 | 溶射をはじめとする表面改質加工の受託(国内最大手) |
| 2026年3月期実績 | 売上高584億円・経常利益147億円(利益率25.2%)・純利益100億円(+25.0%)——いずれも過去最高 |
| 2027年3月期計画 | 売上高650億円、増収増益・増配見通し |
| 主要分野 | 半導体・FPD製造装置向けが主力。ほか産業機械・鉄鋼・エネルギー |
製品を売る会社ではなく、顧客から預かった部品に皮膜を施して返す「加工サービス業」です。それでこの利益率——秘密は後述します。
溶射とは何か — 粉を溶かして吹き付ける表面技術
溶射(ようしゃ)は、金属やセラミックスの粉末をプラズマや燃焼炎で瞬時に溶かし、部品表面に高速で吹き付けて皮膜を作る表面処理技術です。
- プラズマ溶射: 1万℃超のプラズマジェットで、融点の高いセラミックスも溶かして成膜できる主力方式
- 高速フレーム溶射(HVOF): 超音速の燃焼炎で緻密な金属系皮膜を作る方式
めっきや塗装と違うのは、「母材を選ばず」「厚い皮膜を」「セラミックスでも」作れることです。アルミの部品に、耐プラズマ性抜群のセラミックスの鎧を着せる——そんな芸当ができるのは溶射ならではです。
半導体製造装置の「どこ」で使われているのか
答えは、エッチング装置や成膜装置のチャンバー内部です。ここは半導体工場で最も過酷な環境です。
- 腐食性プラズマの嵐: エッチングではフッ素系・塩素系ガスのプラズマが渦巻き、アルミやステンレスの部品は裸のままでは急速に侵食される
- パーティクルとの戦い: 部品表面が削られて微粒子が飛べば、ウェハーに付着して即・不良になる。表面の状態が歩留まりに直結する
- 金属汚染の防止: 部品由来の金属がウェハーに移れば、デバイス特性を狂わせる
そこで、チャンバー内壁・シャワーヘッド・リング類などの部品に、イットリア(Y₂O₃)をはじめとする耐プラズマセラミックスを溶射してコーティングします。皮膜の緻密さ・密着力・表面状態の作り込みがパーティクル発生量を左右するため、溶射の品質=装置の性能の一部なのです。エッチング装置の仕組みは「エッチング装置とは?」で詳しく解説しています。
さらに重要なのが「再生」ビジネスです。皮膜は消耗品で、装置を動かすほど劣化します。使い込んだ部品の古い皮膜を剥がし、洗浄して溶射し直せば部品は蘇る——このメンテナンス・再生需要が、装置の稼働に連動して発生し続けます。ニッパツの温度制御部品(前々回の記事)にも「溶射付冷却板」がありましたが、あの「溶射付」の部分こそ、トーカロたちの領分です。
技術は今も進化中 — 「より緻密に、よりフッ素に強く」
溶射は枯れた技術に見えて、半導体向けでは今も進化の最前線にあります。方向性は大きく2つです。
- 材料の進化: 定番のイットリア(Y₂O₃)皮膜も、フッ素系プラズマに長時間さらされると表面が徐々にフッ化して変質し、パーティクルの源になり得ます。そこで、最初からフッ素と反応済みのフッ化イットリウム(YF₃)やオキシフッ化イットリウム(YOF)系の皮膜など、より変質しにくい材料への進化が進んでいます
- 皮膜の緻密化: 溶射皮膜には微細な気孔がつきものですが、気孔が少ないほどプラズマの侵入と粒子の脱落を抑えられます。微細な粉末を使う手法や成膜条件の高度化で、「焼結セラミックス部品に迫る緻密さを、溶射の自由度で」実現する競争が続いています
プロセスの微細化が進むほど、許されるパーティクルのサイズと数は厳しくなります。つまり半導体の進歩そのものが、表面処理への要求を毎年引き上げてくれる——加工サービス業でありながら技術開発型企業としての側面を持つのが、この分野の面白いところです。
なぜ受託加工で利益率25%を出せるのか
- 皮膜が性能の要なのに、コストの一部: 高価な装置部品の性能と寿命を皮膜が決める。顧客にとって溶射代は「ケチる場所」ではない
- プロセス実績という参入障壁: どの粉末を・どの条件で・どう吹くかは長年のノウハウの塊。歩留まりに関わる工程だけに、実績のない業者への切り替えリスクは大きい
- 稼働連動のリピート収益: 新規部品(装置メーカー向け)+再生・メンテ(デバイスメーカー向け)の両輪。装置が売れても動いても仕事が来る
- 国内で圧倒的な地位: 溶射受託でトーカロは国内最大手。半導体向けの高品質溶射は代替選択肢が限られる
「地味な工程ほど、押さえた者が強い」——本シリーズで繰り返し見てきた構図の、最も鮮やかな実例と言えます。
業績と今後 — AI装置投資の追い風
2026年3月期は、半導体・FPD分野が期中は踊り場だったものの第4四半期に巻き返し、産業機械分野の好調もあって売上・利益とも過去最高で着地しました。2027年3月期は売上650億円への拡大を計画しています。
追い風は明確です。AI需要で半導体製造装置の出荷が伸びれば新規部品のコーティングが増え、世界中の工場の稼働が上がれば再生需要が増える。エッチング・成膜装置の巨大化(3D NANDの高層化など)は処理部品の面積そのものを増やします。装置業界の成長を「表面処理」という切り口で総取りできるポジションです。装置業界全体の見取り図は「半導体製造装置メーカー世界ランキング」をどうぞ。
調べていて印象に残ったのは、「部品を預かって皮膜を施して返す」だけのビジネスが、装置メーカーに匹敵する利益率を叩き出しているという事実です。
ニッパツの温度、ウシオの光、そしてトーカロの表面——装置産業の強さの正体は、こうした一芸を数十年磨き続けた会社の分厚い層にあるのだと思います。
— semisouchi.com 編集室
よくある質問
Q. 溶射とめっきは何が違うのですか?
A. めっきは液中の化学反応で薄い金属膜を作る技術、溶射は溶かした粉末を吹き付けて厚い皮膜を作る技術です。溶射はセラミックスなど高融点材料を使え、母材の材質を選ばないのが強みで、耐プラズマ用途ではセラミック溶射がほぼ唯一の現実解です。
Q. なぜ半導体装置に溶射が不可欠なのですか?
A. エッチングや成膜のチャンバー内は腐食性プラズマに晒され、部品表面の劣化がそのままパーティクル(=ウェハー不良)につながるからです。イットリア等の耐プラズマ皮膜が部品を守り、歩留まりを支えています。
Q. トーカロの競合はいないのですか?
A. 溶射受託は国内外に同業がありますが、半導体向け高品質溶射でトーカロは国内最大手の地位を確立しています。装置・部品メーカーの内製やセラミックス部品メーカー(焼結品)との競合はあるものの、実績とプロセスノウハウの壁は高い領域です。
Q. 投資対象として見る場合の注意点は?
A. 業績は半導体装置の投資・稼働サイクルに連動します。過去最高益の一方、期中に「踊り場」があったように市況の波は受けます。稼働連動の再生需要が下支えになる収益構造をどう評価するかがポイントです(本記事は投資助言ではありません)。
まとめ
- トーカロは溶射受託の国内最大手。2026年3月期は売上584億円・経常利益率25.2%で過去最高を更新
- 溶射は粉末を溶かして吹き付ける表面技術。エッチング・成膜装置のチャンバー部品を腐食性プラズマから守る耐プラズマ皮膜(イットリア等)が半導体向けの主戦場
- 皮膜は歩留まりに直結する消耗品であり、新規+再生のストック型収益が高利益率の源泉
- AIによる装置投資・稼働拡大は、表面処理需要の総量増としてトーカロに波及する
出典: ログミーファイナンス「トーカロ、売上高・経常利益とも過去最高を更新 半導体・FPD分野が牽引し今期も売上高650億円へ」(2026年5月)/トーカロ決算資料